第二部 聖戦士と勇者

第二部 第1話 新たなる旅立ち(前編)

 八天魔王カイザーレオンを倒した俺達は、ちびうさとの別れの後、謁見の間を出ようとする。

 その時、謁見の間に偉そうな服を着た白髪のお爺様が入ってきた。


「こ、これは……一体何が起きたんじゃ……? ん? そこにおるのは!?」

「おう、じぃ。久しぶりだな、まだ生きていたか。」


「ま、まさか……ぼっちゃん? ボウサムぼっちゃん! 生きておられたか!」

「まぁな。だがその話は後だ。それよりも、大臣はどこにいる? 時間がないんだ教えてくれ。」


「一応ワシが今の大臣ですじゃ。先代の王の頃から名前だけは残されておりますじゃ。」

「そうか、なら話が早え。俺の親父……先代の王はお前じゃないほうの大臣、つまり今の王に殺されたんだ。そしてそいつは八天魔王カイザーレオンという恐ろしい奴だ。」


「なんと! やはりそうじゃったか……。それで王……いやその魔王は?」

「安心しな。ここにいるこの男が既に倒した。こいつは国の英雄……サクセスだ。」


 どうやら謁見の間に現れたのは、この国の大臣でボッサンの知り合いらしい。

 とりあえず紹介されたからには、一言くらいは話しておくか。


「サクセスです。偽の王は倒したので安心してください。それでは、私達は時間がないので行きますね。」


 謁見の間を出ようとすると、イリムに引き留められる。

 

「お待ちください! 私は名前だけですが、この国の大臣イリムと申します。この国を救っていただいた事を、国の代表としてお礼申し上げる。」


 イリムは深々と俺に頭を下げた。


「おう、じい。それよりか、俺はこれから王になってこの世界を救うぞ、俺が王でいいか?」

「それはもちろんですじゃ! それではすぐにこの事を国中に発表し、戴冠式(たいかんしき)を執り行いましょうぞ。」


「待て、それは後だ、じぃ。サクセスも言っていたが時間がねぇ。今マーダ神殿が魔王軍に襲われようとしている、だから先にサクセス達に役立つものを渡してやりてぇ。後、足の良い馬車もだ。」

「さようでございますか……わかったですじゃ。しかし、出発するならば明日の朝にしたほうがいいですじゃ。準備に時間もかかります故、今夜だけでも城に泊っていただければよろしいかと。」


 ボッサンは俺達に何かを渡そうとしてくれるみたいだった。

 馬車も貰えるならば、もうレンタルしないで済むからありがたい。


「サクセス様、私もイリムさんの意見に賛成でございます。急いでいるからこそ、今日はしっかりと準備をした方が良いかと……。」


 確かにイーゼの言う通りだ。

 マーダ神殿に向かうまでに、色々買っておかないといけない物も多い。


「わかった。ちょっと焦り過ぎていた。それに、マモルたちのお墓も建ててやらないとな……。」


「うん! 沢山綺麗な花を飾ってあげよう。あ! うさがいつも橋の下に置いていた花がいいわね。」


 リーチュンは大分元気を取り戻したみたいである。

 俺がお墓の話をすると、直ぐに何をお供えするか考え始めた。


「そうですね、ではまずはマモルさん達の骨を集め、そしてお墓の場所を決めましょう。準備はそれからです。」


「おう、なら城にでっかい墓を建てるぜ。あいつらも国の英雄だ。そうだな、城の裏に墓場がある。そこに作るとするか。」


 シロマの言葉にボッサンが返した。


「じゃあ墓の事はボッサンに頼んだ。骨は牢獄の一番奥の牢屋だ。モンスターはもういないと思うが、一応強い兵士を連れて行ってくれ。俺達は旅の支度をしに町に買い出しに行ってくる。」


「おう、わかったぜ。サクセス……ありがとな。」


 ボッサンの目には涙が浮かんでいた。

 俺はその姿を見て、こいつならいい王になれると感じた。

 大変な事も多いだろうが、きっとこいつなら大丈夫だろう……。


「それではワシは、早急に国にこの事を宣言した後、サクセス様の部屋等の準備をさせてもらいますじゃ。」


 イリムはそういうと、早速魔法の拡声器を使って宣言するため、城の屋上に向かう。

 そして俺達は、買い出しの為に外へ出ると、早々にリーチュンが俺に話す。


「アタイ……うさの花を探してくるわ。みんなは先に買い出しに行ってて。」


「いや、俺達も一緒に探すよ。一人だけだと中々見つからないかもしれないだろ?」


「ううん、一人で探したいの。ダメかな?」


 やっぱりリーチュンは、まだちびうさの事を引きずっているようだ。

 少し一人にさせた方がいいのだろうか……?


「いや……それは構わないけど……。」


 俺が少し考え込む……するとシロマがリーチュンに聞いた。


「私も一緒に行ってはダメですか?」


「シロマ……そうね、じゃあ一緒に来てくれる?」


「はい。私はちびうさちゃんの最後に会えませんでしたから……私もその花、探したいです!」


 シロマは少し悲し気な顔をしながら言うと、リーチュンは笑顔になった。


「うん、じゃあ一緒に探そう! サクセス、お墓で集合ね!」


 リーチュンは笑顔でそう言うと、シロマを連れて川岸に向かって歩いて行った。

 二人がいなくなると、突然イーゼは俺の腕をとり始める。


「邪魔者達もいなくなったことですし、私達も行きましょう。」


 ゲロゲロオオ!(僕もいるぞ!!)


「ははは、わかってるよゲロゲロ。まぁ今日だけは腕組みも許すことにするか。」


「絡めるのは腕だけでなくてもいいのですわよ。」


「白昼堂々、街中でどこを絡める気だよ!」


 俺はイーゼの頭に軽くチョップする。


「あん。痛いです……。」


 そんなに痛くないはずなのにイーゼは涙を浮かべている。

 その涙の意味を聞く程、俺は野暮ではない。

 

「それでどこから行く?」


「そうですわね、食料品は最後でいいかと。それよりも、確かサクセス様はコインをカジノに預けているんですよね? 次にいつこれるかわかりませんし、折角だから交換に行きましょう。」


 !?


 忘れていた!

 そうだ、バニースーツ!

 五万コインはボッサンに渡してしまっている。

 しかし、闘技場や劇場の合間にやったスロットで稼いだコインがまだあったはずだ。


「すっかり忘れてた! ナイスだイーゼ!!」


 こうして俺は、旅立ち前に最強装備を交換するため、カジノに向かうのであった。



※戴冠式とは……王への就任を宣言する儀式

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