第112話 謎の赤蛙 後編
「……お前、サスケか?」
俺は一応俺の記憶のとおりの名前を言ってみた。
よく考えたら相手に名乗らせた方が確実だったが、言ってしまってから気付いても遅い。
どちらにせよ、そう聞かれたらそうだというだろうが……。
「その通りでごじゃる。それとそんな殺気を出さなくてもいいでごじゃるよ。理由はボックンもわかっているでごじゃるが。」
だよね! そういうよね。わかってた。
しかし……ふむ、よくわからん!
敵なのか? 味方なのか?
まぁよくわからないなら、やはり気絶させ……
俺がそう結論付けようとすると、サスケは言葉を続けた。
「頭……ハンゾウは妲己を殺そうとして逆に操られてしまったでごじゃる。故にボックンはハンゾウとは別行動で動きながら、ハンゾウの行動を監視していたでごじゃるよ。だからボックンは敵ではないでごじゃる。」
そいつが言っている事が嘘か本当か区別はつかないが、話している感じは本当っぽい。
といっても、俺はすぐ騙されるから当てにならんが。
「それをどうやって信じろと? 悪いが敵でないというなら、放っておいて欲しい。俺は……お前を信用できない。」
「それが当然でごじゃるな。でも放っておけないでごじゃる。なぜなら妲己に対抗できるのは、サクセス殿だけでごじゃる故。」
こいつは何が言いたいんだろうか?
それならこのまま行かせてくれればいいだけなはず。
何を企んでいるんだ……。
「だから急ぐんだろ。悪いけど先に行かせてもらう。第一、この場所に都合よく現れる事自体が不自然だろ。お前が妲己の刺客として監視していると思うのが普通だ。」
俺はそうサスケに告げると、ゲロゲロに飛び乗ってそのままサスケをスルーして移動を開始した。
このスピードなら流石にサスケは追いつけないだろう。
「サクセスさん。私もサクセスさんの判断に賛成です。」
「ありがとうシロマ。まぁあんなタイミングで現れたら怪しいのは当然だよな。」
「はい。もしかしたら、また罠にかけようとしていたのかもしれませんね。」
俺達はそんな会話をしながらも、どんどん火山の中を進んで行く。
途中幾つかの分岐があったが、ゲロゲロは俺に聞かずにドンドン勝手に道を選んで進んでいった。
最初はゲロゲロに注意しようと思ったのだが、一度も行き止まりにぶち当たったりすることがなかったので、とりあえずそのまま走らせてみることにする。
するとようやく俺にも見覚えがある場所に辿りついた。
ここはマグマ将軍がいた大広間だ!
「ゲロゲロ、ナイスだぜ!」
「はい、この道であってましたね。これなら思ったよりも早く着きそ……キャっ!!」
突然ゲロゲロが見えない何かにぶつかると、その衝撃でシロマがゲロゲロから落ちそうになる。
しかし俺がちゃんとシロマのある場所を掴んで……揉んだから……セーフだった。
ふぅ……危なかったぜ。
ちなみに、俺が掴んだのは……二つのパパイヤだ!
「危なかったなシロマ。」
「サクセスさん……どこを触って言っているんですか?」
俺はさも今気づいたかのように、大袈裟な素振りをして手をパパイヤから離した。
惜しい……もう少し触りたかった……お豆ちゃん。
「そ、それよりゲロゲロ! 一体どうしたんだ!」
シロマからキツイ目を向けられて追及されそうになったので、俺は話の矛先をむりやり先ほどの事に向ける。
この鬼気迫るといった感じがナイスだろ~?
「ゲロォ~(また何かにぶつかった……)」
「まじかよ! また結界かよ! ふざけんなよ!」
最初は演技だったが、またしても結界に阻まれたと聞いて怒りが沸き上がる。
今も仲間達は戦っているはずだ。
何かあってからでは遅い……だからこそ、早く戻りたいのに……
(クソッ! 妲己の野郎!!)
だがその時突然、またしても聞こえるはずのない者の声が聞こえてきた。
ーー俺の後ろから……
「落ち着くでごじゃる。ボックンがいれば通れるようになるでごじゃるよ。」
俺はその声に驚きながらも振り返ると、そこには振り切ったはずのサスケがいた。
おかしい。
どう考えてもおかしい。
今まで後ろには全く気配がなかった。
しかも普通にゲロゲロに騎乗しているし……。
そこでふと、ある仮定が浮かび上がる。
もしかしたらこの結界もこいつがやったんじゃないだろうか?
そう疑問に思うと、あたかもそれが真実のように思い込んでしまい、俺はサスケに剣を向けた。
「お前……やっぱり敵だったか!」
俺は剣を抜いて突きつけるも、サスケは逃げようともしなければ全く動じていない。
むしろ、なんでそんな事を言われるのか不思議だくらいの感じである。
「何度も言うが違うでごじゃる。ボックンはサクセス殿を助けるために、この狼の影に忍ばせてもらい付いてきたでごじゃるよ。」
俺はサスケの言葉に怒りを覚えつつも、少し嫌な汗をかいた。
今の言葉が事実なら、一歩間違えれば俺やシロマの命が危険に晒されていたという事に他ならない。
引き離したと思っていたにも関わらず、こいつはずっと俺たちに気付かれずにここにいた。
それは言い換えれば、いつでも俺たちの命を狙える場所にいたということである。
あれだけ警戒していたのに、この体たらく。
自分の危機感知能力の低さへの苛立ちは、自然とサスケへと向けられる。
「忍ばせて……という事はあの場所からずっと俺たちの近くにいたって事かよ! ますます怪しいじゃねぇか。何が助ける為だ! そんな嘘誰が信じるか!」
「落ち着くでごじゃる。何度も言うでごじゃるが、ボックンは敵ではないでごじゃる。もし危害を加えるつもりならいつでもできたでごじゃるよ。」
確かにそれは事実かもしれない。
こいつはいつでも俺達に何かを仕掛ける事ができたはずだ。
仮に俺たちを殺せないにせよ、仲間達の所に向かわせない為の妨害はできたのではないか?
だが現実、俺たちは迷う事なくここまで……
---まさか!?
「気づいたようでごじゃるな。そうでごじゃる。ボックンはその狼に術をかけていたでごじゃるよ。」
「なんだとっ!? やっぱりお前は俺たちを……」
俺が詰め寄ると、サスケは俺の言葉を遮って言葉を続ける。
「サクセス殿は不思議に思わなかったでごじゃるか? ここまで運だけで一度も間違えずに進める訳がないでこじゃる。」
サスケが言う事は正しい。
確かにゲロゲロはここまで不自然なほど迷いなく進んでいた。
普段なら分岐する道があれば、一応俺に聞いてくる。
にも関わらず、今回は俺に一度も尋ねる事なくゲロゲロは走り続けていた。
そしてここまで来るのに最低でも20回以上は分岐があったし、場所によっては五叉路もあった。
それを一度も間違えずに進むのなど、まず不可能。
「……ゲロゲロに何をした?」
俺はサスケを睨みつける。
仮にここまでサスケの術によってストレートに来れたとしても、何も言わずにゲロゲロに術を掛けたのは許せない。
それが本当に安全な事なのかもわからないからな。
「怖いでごじゃるよ。ボックンがかけたのは大した術ではないでごじゃる。ただ、正しい分岐先以外の道を見えないようにしていただけでごじゃる。危険な術でも無ければ、害も無いでごじゃる」
「それが本当だと誰が信じられる? もし……仲間に危害を加える気なら……俺はお前を許さない」
俺が殺気をかなり込めてそれを言葉にすると、心なしかサスケが震えているように見えた。
「ほ、本当に危害を加える気は無いでごじゃる。信じて欲しいでごじゃる!」
若干サスケが慌てている。どうやら本気の殺気はかなり怖かったようだ。
「サクセスさん。とりあえずここは信じましょう。今ゲロちゃんを確認しましたが、異常はありませんでした。多分ですが、ここまでは本当のことを言っています」
俺とサスケの間にシロマが入ってきた。
俺たちの会話を聞いて、直ぐにゲロゲロの体調を確認してくれたらしい。
そしてそのシロマが言うなら、少しは信用してもいいだろう。
俺は突きつけていた剣を下ろした。
「……ふぅ。わかった。とりあえず少しはお前を信じる。だけど……もし俺たちを裏切ったり、仲間に危害を加えようとしたならば……」
「だ、大丈夫でござる! そんな事はしないでごじゃるよ! とりあえず時間がないでごじゃるから、見ていて欲しいでごじゃる。」
サスケはそう言うとゲロゲロから降り、懐から札を取り出して地面に張った。
その後サスケはゲロゲロの前を普通に通り抜けていく。
「なっ! マジか。そんな事できるなら最初の場所でやってくれたら直ぐ上行けたんじゃないか?」
「その通りでごじゃる。しかし、サクセス殿はボックンを置いて進もうとしてしまったでごじゃる。」
あぁ、クソ。
こんな事なら……いや、タラレバの話をしても仕方ない。
あのタイミングで現れて信じるなんて無理だ。
後悔するより先に俺たちにはやるべき事がある。
「これで通れるでごじゃるから進むでごじゃるよ。時間がないでごじゃる。」
「そうだな。先に俺が通ってみる。」
俺はそう言うと、ゲロゲロの前を歩いてみるが、特に問題なく進む事ができた。
その様子を見て、シロマとゲロゲロを同じように歩いてくる。
どうやら問題なく全員通れたようだ。
もしもサスケの目的が俺たちの妨害ならば、これはおかしい。
むしろサスケが最初から言う通り、俺たちの力になる為にここにいるという事の方がしっくりくる。
色々とツッコミたいところはあるが、とりあえず信じてもいいかな。
「サクセスさん。多分ですが、ある程度信用していいかもしれません。あくまである程度ですが……。」
「そうだな。完全には信用出来ないけど、ここまで助けられたのは事実だ。疑って悪かった。」
「気にしないでいいでごじゃる。ハンゾウがした事を考えれば疑うのは当然でごじゃるよ。それより、ボックンも乗ってもいいでごじゃるか?」
今度はちゃんと俺に確認を取ってきた。
それであれば断る理由はない。
「あぁ、構わない。そして、力を貸してくれサスケ」
俺はそう言うと改めてサスケに手を差し出す。
「当然でごじゃる。むしろ力を貸してもらうのはボックン達の方でごじゃるよ。」
サスケは俺が差し出した手を握り、握手を返した。
「よし、じゃあ急ぐぞみんな!」
その後サスケを乗せた俺達は、最初に行った時とは比べ物にならない程全力のスピード進んでいく。
そして遂に、俺が張ったライトプリズンの先でカリー達と合流するのであった。
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