第111話 謎の赤蛙 前編

【サクセス視点】


※時はサクセス達が崖に落ちていった頃に戻る



「シロマ、一旦ここは諦めて別のルートから戻ろう。ここで無駄に時間を消費しても敵の思うつぼだ。」


「はい。私もそう伝えようと思っていたところです。とりあえずあまり下に降りずに、ゲートが使える場所を探します。」



 現在俺達はハンゾウ……いや、妲己の罠にはまり、仲間達とはぐれて穴の下にいた。

 当初はゲロゲロに乗って上昇しようとしたが、それは妲己が張った結界に阻まれてしまう。

 その為結界を破ろうとしたり、シロマの空間移動で仲間達のところに戻ろうとするが、どれも失敗に終わった。


 それ故に一度直接戻ることは諦めて、時間はかかるかもしれないが他の場所から戻った方が良いと思ったのだが、どうやらシロマも同じ考えだったようである。



 そしてゲロゲロがゆっくりと下降していくと、シロマは空間探知スキルを使って移動可能な場所を探し始めた。



「繋がりました! とりあえず先に進めそうな空間があります。そこでいいですか?」



 さっきシロマが上方にゲートを展開しようとした時、なんらかの理由で移動先の空間と繋がらなかったらしい。

 しかし今回は、無事移動先とつながったようだ。


 シロマが「先に進めそうな空間」と表現したのだから、移動先に地面がなかったり、その先の道がないというような場所ではないのだろう。


 まぁ実際そこが俺達が通ってきた道とは違う場所かもしれないが、その先に道が繋がっているのであれば戻れないという事はないはず。それなら迷う必要はない。



「あぁ、頼んだぞシロマ」


「はい。任されました。【ゲート】」



 シロマが魔法を唱えると、空中に黒い空間の狭間が現れる。



「よし、ゲロゲロ。くぐってくれ!」


「ゲロ!(あい!)」



 ゲロゲロは元気に返事をすると、そのまま勢いよくゲートの中へ飛び込んだ。

 するとゲートを出た先は、比較的大きな広間となっており、その前方には通路ができている。

 そこが火山のどの場所にあたるのかわからないが、見た感じこれまで歩いてきた道と同じようだ。


 祭壇の間に到着するまで幾つか分岐点があったが、多分ここはその内のどこかだろう。

 正直俺の記憶力ではこの場所が通った場所なのか、それとも通った事がない場所なのかは判別つかない。



ーーだがシロマなら……。



「なぁ、シロマ……」


「はい。ここは行きには通って来なかった場所ですね。」


「……あ、あぁ。うん。」



 質問する前に答えるシロマ。


 流石シロマと言いたい。

 俺には全部同じような道に見えるけど、シロマにはわかるようだ。

 凄いなシロマ。



「それでサクセスさん。残念ですが、この場所から祭壇の間までの道についてはわかりません。ただ、サクセスさんとゲロちゃんなら壁を壊して進む方法もありますが……。」



 シロマはそう言って提案しておいて、あまりお勧めではないと言った表情をしている。

 実際俺もそれには同感だ。

 それはあまりに危険すぎる。



「うーん……。ただそれをやるのは最終手段だよな。岩盤が崩落したら流石に俺達でもヤバイし……とりあえず行けるところまで最大速度で進んでみよう。」


「……そうですよね。運が良ければ一発で行けるかもしれませんし。」



 シロマも他に良案が無かったようで、反対はないようだ。

 まぁ運が良ければって事なら問題ないだろう。

 だって俺の運の数値は無駄に半端ないし!

 できれば久々のラッキースケベもお願いしやす!


 俺がこんな時にも関わらず神に邪な願いを祈っていると、突然ゲロゲロの下から子供のような声が聞こえてきた。



「待つでごじゃる。」



 ごじゃる? まさか、この声は……



「ハンゾウかっ!?」


 

 姿は見ていないが、その語尾はハンゾウと同じ。

 ハンゾウはイモコに殺されたはずだが……

 少しだけ不安を胸に俺はその声が聞こえた方を確認した。



ーーすると、そこには自分と同じ位背丈の赤い顔の蛙人間がいた。



 それを見て更に困惑する。

 もしもハンゾウならば、わざわざ中途半端に姿を変えるだろうか?

 騙すつもりなら、全く違う姿にした方がよっぽどいい。

 であれば……だめだ、わからない。


 こいつはハンゾウなのか?

 それとも……


 結局見ただけでは、目の前のそいつが何者なのかわかるはずもない。

 ただ言えることは、ハンゾウだろうと別人だろうと、これだけタイミング良く現れたのだから敵の可能性の方が高いだろう。

 

 故に俺は最大限の警戒をしつつ、次の行動を考えた。



 逃げるか? 

 話すか?

 それとも倒すか?



 いくつかの選択肢が俺の頭の中で浮かび上がる。

 とはいえ時間が無い今、こいつに構っている暇はないので、逃げるという選択肢が最善だ。

 しかしどういう訳か、俺の第六感がこいつと話せといっている。

 中途半端が一番危険という事なのだろうか?



「サクセスさん……」



 俺がしばし黙って考えていると、シロマが心配そうに声をかけてくる。

 シロマもかなり警戒しているな。

 そりゃそうだよな、誰だっていきなりこんなところに怪しい奴が現れれば警戒するさ。

 こいつが何者かわからないけど、シロマには指一本触れさせないぜ。



「大丈夫、少しだけ話してみるわ。俺に任せてくれ。」



 俺がゲロゲロの背中から降りると、シロマは不安そうな顔を浮かべながらも引き留めはしなかった。

 そしてその蛙面と向かい合った瞬間、そいつは俺に手を伸ばしてくる。

 あまりに突然の行動だったので、俺は一瞬で後方にバックステップして距離を取った。



「うぉっ! 何すんだよ? やんのかてめぇ?」


「違うでごじゃる。覚えてないでごじゃるか? それとボックンはハンゾウではないでごじゃる。」



 覚えてない?

 なんだこいつは、まじで意味がわからな……あっ!



 俺はそいつが出してきた手……いや親指に彫られた数字を見て思い出す。

 邪魔大国に到着した時にセイメイに言われていた事を。



 あの時セイメイは言った。



「ハンゾウの手の者であれば握手を求めてくる」

「そしてそいつが本物であれば、親指に小さく八と数字が彫られている」



 確かこんな感じだったような……。



 ハンゾウに似た蛙面は、確かに俺に会ってまず手を差し出してきた。

 ぶっちゃけ攻撃してくるのかと思って身構えたが、どうやらこれは握手のつもりらしい。

 そしてそいつの親指付近には、八という数字が見えた。 


 俺は指の入れ墨を確認すると、とりあえずその蛙面の手を握って握手してみる。

 するとそいつはニィっと蛙面のまま笑った表情をした。

 


 まじ気味悪いわ……



 同じ蛙面でもハンゾウは一切表情に変化がなかったが、こいつは一応それっぽい表情をしている。


 そこで今度はハンゾウの言葉も思い出した。



「一応僕チンに何かあった場合は、サスケが僕チンの代わりに動くからサスケの指示に従って欲しいでごじゃる」

 


 確かにハンゾウは俺にそう言っていた。



 という事は、こいつがそのサスケなのだろうか?

 しかし、仮にそうだとしてもハンゾウと妲己がグルならこいつも敵では?



 時間はないが、一応確認だけはしておくか。

 後ろからなんかされても困るし……。



 最悪こいつはここで殺すしかない。

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