第110話 夢は終わらない
「お願いカリー……教えて。おじい様は……おじい様はどこにいるの? それに私……確かにあの時死んだはず……。」
ロゼが近づいてそう質問するも、カリーは涙を流したまま黙っている。
その姿はもはや放心状態に近い。
大切な者を二度……いや三度失った。
そのショックの大きさは想像を絶する。
一人目はローズ
彼女はカリーが愛した大切な人だった
二人目はフェイル
彼は兄と慕った尊敬する男だった
そして今度は……シルク
彼は唯一心を許せる親友だった
誰一人とっても、カリーにはかけがえのない存在。
これまで、ローズとフェイルの死という絶望の悲しみを乗り越え、今のカリーがある。
その過去があるからこそ、もう二度と大切な者を失わないと誓い、その為に血の滲む様な努力を続けてきた。
それにもかかわらず、今度はやっと再会する事ができた親友を目の前で失ってしまった。
それがカリーにとってどれほど辛い事かは説明するまでもない。
例えその死が、ロゼやセイメイを助ける為であったとしてもだ。
ロゼ達が生き返った事は心の底から嬉しく思う。
だけど……それでも……ずっと共に歩み続けてきた親友の死は、簡単に受け入れられるものではなかった。
そんなカリーに対して、今の状況を聞いたところで答えられるはずもない。
すると黙って涙を流すカリーを見て、ロゼはカリーの顔をその胸に抱き寄せた。
「ごめんなさい。何も言わなくていいよ。私……分かったから。カリーは頑張ってくれた。精一杯頑張ってくれた……だからこれ以上自分を責めないで。お願い。カリー。」
ロゼは涙声を精一杯振り絞って、カリーを強く抱きしめながら言った。
そのぬくもりに……カリーは胸が張り裂けるような痛みを感じる。
ロゼはおじいちゃんっ子だった。
その最愛の祖父が死んでなお、この子は自分の気持ちを押し殺して、慰めようと必死になっている。
このままじゃだめだ。
まだ終わっていない
シルクの死を無駄にしないためにも、いつまでも泣いている訳にはいかない。
それに気づいたカリーは、ようやくロゼの胸から顔を離して向き合った。
「すまない。シルクは……死んだ。そう死んだんだ。俺にロゼ達を託して……。だから終わらせよう。いや、終わらせなければならないんだ。」
カリーはまるで自分に言い聞かせるようにそう口にすると、シルクがいた場所にゆっくり歩き大鉾を拾い上げる。
「なぁ、シルク……お前……幸せだったか?」
カリーがそう呟いた瞬間、辺り一面に広がっていた蒼き光がカリーの持つ大鉾に集まってきた。
ーーすると、カリーの心に声が聞こえる。
「あぁ、幸せだったでがんす。俺っちは十分生きた。だから俺っちの事を気にせず、カリーは自分の夢を叶えるでがんす。まだ俺っちも……ローズも……そしてカリーの夢も終わってないでがんすよ。だから俺っちもカリーの夢に乗せて連れていってほしいでがんす。そして最後に……ロゼを頼むでがんす。」
シルクの魂が……シルクの残滓がカリーに語り掛ける。
「馬鹿野郎……!! 兄妹揃って俺に託しやがって……。あぁ……やってやるよ、やってやるさ! 必ずお前たちも一緒に俺の夢の先へ連れて行ってやるからな!」
カリーはシルクの大鉾を空高く掲げると誓った。
その声は静まり返った広間に響き渡る。
「カリー? おじい様は何と言っていたのですか?」
その様子を見ていたロゼはカリーに聞いた。
そして答える。
「あぁ、情けない面してんじゃねぇって怒られたよ。そしてロゼを絶対守れってな。」
「そうですか……おじい様は……う……うぅ……。」
それを聞いたロゼは我慢していた涙が溢れ出す。
そんなロゼをカリーは強く抱きしめた。
「お前は……俺が命に代えても守る。だから好きなだけ泣いていい。」
「うわぁぁぁぁん!! あぁぁぁぁ……!」
今度はロゼがカリーの腕の中で泣き叫ぶ。
カリーはそんなロゼを見て改めて誓った。
この腕の中にいる温もりを、今度こそ必ず守り切ると。
だが次の瞬間、突然卑弥呼が叫ぶ。
「いかん!! 直ぐにこの場から逃げるのじゃ!」
その手は広間の祭壇を指していた。
その声を聞き、カリーは卑弥呼が差す方へ目を向ける。
ーーすると、黒い霧のようなものが封印核にどんどんと吸い込まれ始めていた。
その黒い霧はゲルマが死んだ場所から湧き上がっている。
なんとゲルマは死ぬ直前に、その魂をウロボロスに捧げていたのであった。
「卑弥呼! 封印は間に合うか!?」
「無理ですじゃ! あれはもう間に合わぬ! ……ウロボロスは復活する。とにかくこの場所から逃げるのじゃ!」
「ちっ!」
カリーは小さく舌打ちをする。
やっと最大の脅威が消え、これからというところで……なんと最後の最期にゲルマにやられてしまった。
早く気付いたところでどうにかなったかは不明だが、いずれにせよ卑弥呼が断言するならもう間に合わないのだろう。
未だ悲しみが晴れるはずもないカリーだが、それでもやるべき事だけは間違えない。
仲間達を安全な場所へ連れていく……もうこれ以上誰も死なせない。
早急に逃げる事を決めたカリーであるが、そこに丁度イモコが戻ってきた。
「カリー殿!! すまないでござる!! 某が……」
「いい! そんな事はいい! お前が生きていれば十分だ! それよりも早くここから逃げるぞ!」
駆け寄ってきたイモコを見て、カリーは少しだけ胸の痛みが和らぐ。
シルクは亡くなってしまったが、それでもシルクのお蔭で全員が無事だったのだ。
それがわかっただけでも、カリーにとっては大きな救いとなる。
そしてイモコに続いて、逆側……そう、ライトプリズンの中からサクセス達も現れた。
「カリー!! 遅れてすまない! みんな無事か?」
サクセスはシロマとゲロゲロ……そしてハンゾウそっくりの蛙面の者を連れている。
そいつが誰なのか気にはなるが、今はそんな悠長な事を考えている暇はない。
「無事だったか! サクセス! すまない、妲己は死んだがウロボロスが復活しちまった。一旦急いでここを出るぞ!」
「クソッ! 間に合わなかったか! だけどみんなが無事でよかった。わかった、直ぐに脱出しよう!」
サクセスがそういうと、今度は隣にいる蛙面が口を開く。
「サクセス殿。ぼっくんが飛び蛙を召喚するでごじゃる。なので向こうの壁をぶち抜いて欲しいでごじゃる。」
二人の会話を聞いて、その蛙面は提案してきた。
カリーとしては初めて会うそいつを信じるのは危険だと思うが、サクセスが連れてきたのであれば今は信じるしかない。それにもしも裏切るような素振りがあるなら、自分が殺せばいいだけ。今度は油断しない。
カリーはその蛙面を最大限警戒しながらも、サクセスの決定に従う事にした。
そして当のサクセスはそいつの提案を聞き入れる。
「よくわかんないけど、わかった。お前を信じるぜ、サスケ。とにかく急いで脱出したい。ウロボロスをどうにかするのはそれからだ。」
「信じてくれて助かるでごじゃる。ではサクセス殿が穴を開けたら、みんなこの蛙の背中に乗るでごじゃるよ!」
サスケはそう言うと巻物を取り出し、そこから巨大な蛙を三匹召喚する。
それと同時に剣を構えるサクセス。
「行くぜ! 【スターストリーム】」
サクセスは光を纏った剣を突き出すと、螺旋状の光が火山の岩壁を貫通させた。
そこに出来上がったのは、丁度3メートルくらいの円形の穴。
その先には青い空が見える。
「ではみんな急いで乗るでごじゃる。」
サスケの言葉と同時に、全員が巨大なガマ蛙の背に乗っかった。
誰もがその蛙の体を見て、背中に乗ったところでヌメヌメして滑ってしまうのではないかと不安に思う。
しかしながら実際に乗ってみたところ、ヌメヌメしたのは事実だが滑るという事はなく、むしろ体がピタッと蛙肌に張り付いて離れない。
「きもっ! いや、すごっ! なんだこれ? 体がくっついたんだけど、ちゃんと離れるんだろうな?」
おもわず本音が漏れるサクセス。
実際巨大な蛙の背中に乗るというのは正直気持ち悪いし、こんな状況で無ければ乗りたくなかった。
「問題ないでごじゃる。自分の意思以外では離れなくなっているだけでごじゃるよ。それよりも全員乗ったでごじゃるか?」
「……あぁ。全員乗ったぜ。」
サスケの質問にはカリーは少しだけ悲しそうに答えた。
本当ならハンゾウ……そしてシルクもいるはずだが、それについては口にしなかった。
今はまだそれを伝える時ではないと判断したからだ。
その言葉を聞いたサスケはカリーの返事に違和感を感じたが、それについてはあえて口にしない。
今は何よりもこの場所から離脱するのが第一優先だったからだ。
「では脱出するでごじゃるよ! 行くでごじゃる!」
その言葉を合図に、三匹の巨大な蛙は穴からピョーンと飛び跳ね、全員が火山から脱出するのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます