第113話 復活のウロボロス

 まさに危機一髪だった。

 俺達が火山から飛び出すと同時に、岩盤は一気に崩れ落ちる。

 危うく全員が生き埋めになるところだったが、どうにか全員が無事に脱出できた。


 その後、巨大ガマガエルに飛び乗った俺達は、火山の外へ無事に着地すると卑弥呼が叫んだ。



「ここは危険ですじゃ! もっと遠くに逃げるのじゃ。」



 その瞬間、火山が轟音を響かせながら噴火する。

 そして同時に空から黒い塊が降り注いできた。

 それはまるで夜空に流れる流星群のように、火山から噴き出した岩たちは地上に落下していく。



「シロマ、ゲートだ! できるだけ離れた場所に繋いでくれ。」


「わかりました。【ゲート】皆さん早く入って下さい。」



 次々とゲートを潜っていく仲間達。


 俺は一応降ってくる岩から仲間を守る為に最後まで残る。

 そして全員がゲートを潜ったのを見計らって俺も避難した。


 ゲートを抜けた先は、あの火山から概ね10キロ位離れた地点。

 流石にここまで岩は飛んでこないようだ。

 辺りが平野になっているので、火山への見通しもいいしナイスな場所だぜ。



「あっぶねぇ。なんだったんだありゃ?」


「あれは火山噴火による落石でございます。高温に熱せられ、勢いよく飛び出したあの岩に当たると……普通なら即死でございました。シロマさん、サクセス様、素早い指示と行動をありがとうございます。」



 セイメイはそう言って頭を下げた。

 だが、なんかいつもと違う。

 なんというか……暗いというか……元気がないというか……。



 俺がセイメイの雰囲気を気にしていると、今度はカリーが卑弥呼に尋ねる。



「それよりも卑弥呼さんよ、ウロボロスってのは本当に復活しちまったのか?」


「……残念ながら、間違いないですじゃ。あの噴火は間違いなくウロボロスの復活による影響。ここからですじゃ……本当の意味で人類が存亡できるかは……。」



 カリーの質問に、卑弥呼は不安を隠す事なく答えた。

 どうやらまじでウロボロスの封印には失敗してしまったらしい。

 しかもそれどころか、復活までしてしまうとは……。



 それ自体もかなり最悪な事だけど、俺としてはシルバーオーブがどうなったのかも心配だ。



「まぁ復活しちまったもんはしょうがない、やるしかないだろ。な、シルク? ん? シルクどこだ?」



 いつもなら「そうでがんす。やるでがす」とか言ってくれそうなシルクが見当たらない。

 何となく不安に駆られた俺は、カリーの方に目を向ける。



「あぁ、シルクなら平気だ。ちょっとばかり色々あってな、先に逃げてもらった。あいつには……やる事が残っているからよ。」



 やる事? 逃げるっていったって、あの状況じゃ流石にやばいだろ。

 カリーは不安じゃないのか?



 俺はカリーの目をじっと見つめてみるも、カリーはさも問題ないといった様子である。

 その表情から不安は窺えない。


 シルクの事はカリーが一番わかっているし、もしもシルクが危ないならこうも平然とはしていないはず。

 それならば、どうやったかはわからないけどシルクは安全って事でいいかな?



「そうなのか。ん~まぁシルクなら単独でも平気かな。あの岩も流石にシルクの盾は貫通できないだろうし。」


「そうだな。あいつなら大丈夫だ。それよりも卑弥呼。俺達はウロボロスに勝てるのか? もう俺達の力はわかるだろうし、実際どうなんだ?」



 それは俺も気になる。

 相当ヤバイとは聞いているけど、実際どんなものかは戦ってみないとわからないからな。


 

 だがその質問に対して、卑弥呼の答えは何とも微妙なものだった。



「……わからないですじゃ。実際ワシも見た事がない故。しかし、サクセス殿ならば……」



 流石に大昔の事であれば卑弥呼もその強さなんてわからないのだろう。

 それでも俺に期待してくれるのであれば、どうにかやっつけてしまいたい。

 それで無理ならば、卑弥呼には悪いが一度逃げよう。

 最悪、ウロボロスが移動した後にシルバーオーブだけは回収するつもりだが。



 そんな事を話していると、突然火山が爆発した。

 距離がかなり離れているにも関わらず、この爆音はヤバイ。

 音を聞くだけで本能が恐怖している。


 俺達全員は耳を塞ぎながらも火山に向けて目を凝らした。


 すると割れた火山の間から、何やら黒くて巨大なものがヌルっと這い出てくるのが見える。



「……あれですじゃ。あれこそが伝承にあるウロボロスですじゃ。」



 遠目からでもそれはよく見えた。

 その見た目は一言で言うと……黒いイソギンチャク。


 割れた火山が体であるならば、その間から無数の黒いミミズみたいなものがウネウネと這い出ている。

 どことなくだけど、災禍の渦潮に似ている感じだ。



「ここから見てあの大きさだと、アレはあの馬鹿でかい火山より大きいそうだな。だけど……あれ、移動できるのか?」



 確かに馬鹿でかいのはわかるが、あんなウネウネした奴が移動したり、大陸を滅ぼして回るのは想像できない。

 動かない敵ならば、そこまで急ぐ必要もないような……。



 しかし次の卑弥呼の言葉を聞き、俺の考えが間違っていたとわかる。



「まだ本体は火山の中から出ていないですじゃ。ウロボロスの本体は人の顔をしていると伝えられていますじゃ。」



 え? 人の顔?

 冗談だろ?



「うげえ~。それは見たくないな。ということは、あの黒いウネウネは髪かよ!」



 どうやら黒いウネウネの正体は化け物の髪っぽい。

 本体が人の顔とかなんのホラーだよ!

 できるなら、火山から出てくる前にやっつけておきたいな。

 まじで見たくない。



「んじゃとりあえず俺が行ってくるよ。あれだけ大きい敵なら一人の方がやりやすい。」


「ダメだ、サクセス。俺とシロマちゃんも連れていけ。ゲロゲロに3人は乗れるだろ?」


「そうですよ、サクセスさん。一人はダメです! 私がいれば何かあった時に退避もできますし、回復もできます」



 うーん。確かにシロマの言う事は一理ある。

 何が起こるかわからない状況だし、シロマはいた方がいいか。

 となると、その護衛でカリーもいた方がいい。



ーーすると今度は……



「師匠……某も連れていってはもらえぬでござらぬか?」


「イモコ……。しかしイモコまでここを離れると、卑弥呼さんたちの護衛がいなくなっちゃうぞ」


「頼むでござる! 師匠! 某は……某は奴と戦わねばならぬでござるよ!」



 俺がイモコの同道を渋っていると、イモコはその場で土下座をし始めた。


 流石にそれを見てダメとは言いづらい……んだけど、シルクがいない今、卑弥呼達を守る者がいないのは……。



 そこに今まで黙っていたサスケが割って入る。



「サクセス殿。ボックンからもお願いするでごじゃる。どうか大野将軍を連れていって欲しいでごじゃる。こっちの守りなら、ボックンの持っている魔除けの札とサクセス殿の魔法があれば平気でごじゃるよ。」



 何言ってんだこいつ?

 俺としてはむしろこいつがいるから不安というのもあるんだけど。

 俺はまだサスケを完全に信用していない。

 これまでの行動を見ていれば敵でないと思いたいところだが、ハンゾウの件もあるしな。 



「サクセス殿。大丈夫ですじゃ。こやつは信用できる。操られていないのは既に確認済みですじゃ。」



 あれ? なんで卑弥呼はわかったんだろう。

 そんなに俺の態度はわかりやすかったかな?



「え? いつの間に? つか、俺顔に出てた?」


「はいですじゃ。サクセス殿がサスケを信用できないのは当然ですじゃ。」


「ん? なんでこいつがサスケって知ってるの? 紹介したっけ?」


「ワシは知っていて当然ですじゃ。これでもワシはこの大陸の事なら大体は把握しているのですじゃぞ。それにこのサスケは赤子の頃から知っておる。のぅ、サスケ?」


「ははっ! 卑弥呼様には良くしていただいたでごじゃる。」



 卑弥呼はまるで子供を可愛がるようにサスケの頭をなでなでしている。

 その様子からも二人が親密な事はわかった。

 そして魅了とかの状態でないのならば……


 ってあれ? なんでわかるんだ? 

 ハンゾウはわからなかったのに……。


 んまぁでも、よくわからないけど卑弥呼がそう言うなら信じてみるか。


 そしてそれならイモコを連れていかない理由は……まだ一つあったな。



「わかった。でもその前に、ゲロゲロ。四人乗せられるか?」


「ゲロロン!(余裕だよ!)」


 

 うん。余裕らしい。

 流石ゲロゲロだな。



「よし、ゲロゲロも大丈夫って言ってるしいいぞ、イモコ。一緒に奴を倒すぞ!」



 俺の言葉に再びイモコは頭を下げる。

 そして……その覚悟からなのか少しだけ体が震えて見えた。



「かたじけないでござる。散っていった皆の為、某は命を懸けて奴と戦うでござる。」



 そう言葉にするイモコからは、鬼気迫る感じがヒシヒシと伝わってくる。



 だけど、それはダメだ。

 イモコは自分の命を軽く見過ぎている。

 流石にそんな状態じゃ連れていけないな。

 


「イモコ! その気概は構わないが、自分の命を投げうとうとするなら俺はお前を連れていかない。俺は生きて帰る気持ちがある奴としか一緒に戦う気はないぞ。」



 俺がそう述べると、イモコは一度目を閉じ、少しだけ間をおき口を開いた。

 その姿に、俺の言葉に対して真剣に向き合ってくれているのがわかる。



「……師匠。わかったでござる。この命、寿命で尽きるまでは国と仲間達の為に戦うでござる。それ故に……必ず生きて戻るでござるよ。」


「それならいいぜ。絶対に自分を犠牲にだけはすんなよ。んじゃいくべ。」



 俺はイモコの返事を聞いて、ニィっと笑った。

 そうだよ、死ぬのを前提に戦うなんて絶対に許せないさ。

 俺は仲間達全員と生きて戻ってくる!



 こうして、遂にサムスピジャポン最後の戦いが幕を開こうするのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る