第76話 打倒 妲己
翌日、まだ日が昇らない早朝、俺とセイメイはトビタティンティンにある卑弥呼のいる建物の前に来ていた。
一応安全を期す為に、ここに来る間は絶えずミラージュを使って移動していたので、誰かに気付かれた形跡はない。というよりも、そもそも深夜に移動を開始していたので外で誰かを見る事もなかった。
「着いたぞ、セイメイ。」
「ここ……でございますか? 見たところ入口などがありませんが……。」
俺には普通に民家が建っていて玄関扉も見えるのだが、どういう訳かセイメイには見えていないらしい。
これが卑弥呼が言っていた結界の影響だろうか?
セイメイにはどういう風に映っているのか気になるが、できるだけ会話は避けた方がいいだろう。周りから俺達の姿は見えなくなっているが、声は普通に聞こえてしまうからな。
ということで困惑するセイメイをそのままに、俺は扉のドアノブに手を掛ける。
すると鍵は掛かっていなかったようで、普通に扉が開いたのでセイメイの手を引いて中に入った。
「卑弥呼さん、来たぞ。」
俺はミラージュを解いて中に入ると、奥から卑弥呼がその姿を現す。
「遠路はるばる申し訳ないのう。おぉ、セイメイ……」
卑弥呼は俺にそう言った後、セイメイに気付いて声を掛けようとするが、その途中でセイメイが卑弥呼に飛びついた。
「卑弥呼様! 心配しておりました。本当に……本当に……」
いつも冷静沈着なセイメイからは考えられないその姿。
それはまるで行方不明になっていた家族と再会したようであった。
「これこれ、泣くでない。心配をかけてしまったのう。ほれ、美人が台無しじゃぞ。セイメイはワシに似て美人じゃからのう。」
泣き崩れるセイメイを優しくあやす卑弥呼。
正に感動的なシーンであるが、一つだけ引っかかった。
確かに今のセイメイは美人と言えるが男だ。というか変装しているのに、普通にセイメイだとわかった事も不思議である。
(二人はどういう関係なんだろうか? 普通の家来にしては親密だよなぁ。)
「取り乱して申し訳ございません。では、卑弥呼様。お話をお聞かせください。」
セイメイは卑弥呼の胸から顔を離すと、直ぐにいつものセイメイに戻る。
「そうじゃの。立ち話もなんじゃ。その部屋に入って待っているのじゃ。お茶を用意するけぇ。」
「そ、そのような雑事は私めに!」
「いいから座っておれ。ここまで疲れたじゃろう。朝早くすまないのう。」
卑弥呼からそう言われるも、セイメイは立ち止まっている。
まぁどういう間柄かはわからないが、この大陸一偉い人にお茶を入れさせるというのは、セイメイからしたら絶対許せない事なのだろう。
とはいえ卑弥呼自身がそう言っているのだから、ここはそれに従った方がいい。
人の思いやりは素直に受け取るべきだからな。
「セイメイ。ここは言う通りにして座って待つとしようぜ。」
「……サクセス様がおっしゃるならば。」
俺がそう言ってセイメイの背中を押すと、しぶしぶセイメイは一緒に和室に入るものの一向に座ろうとしない。
「落ち着かないから座ってくれ。」
「し、しかし……卑弥呼様がお座りになる前に座る訳には……。」
「ワシもすぐ行くけぇ、サクセス殿の言う通り座って待っておれ。」
卑弥呼のその言葉が聞こえると、セイメイはようやく座布団の上に正座をする。
再会した時は、まるで卑弥呼とセイメイが家族の様に見えていたのだが、どうやら勘違いみたいだ。
今のセイメイを見れば、主君に従う家臣にしか見えない。もしかしたら卑弥呼直属の家来だったのかもな。
そんな事を思案していると、卑弥呼がお茶を持って和室に入ってきた。
「粗茶じゃが、お飲みくだされ。」
そう言ってお茶を俺の前に置く卑弥呼。
それをソワソワしながら見守るセイメイ。
そして、昨日見た卑弥呼の裸を思い出して気まずい俺。
まぁ昨日の事を思い出しながらお茶を飲んだら吐き出しそうなので、必死に記憶から抹消する。
「ありがとう。んで、まぁ色々聞きたい事があるけど、それはセイメイに任せる。」
「かしこまりました。それでは卑弥呼様。今、サムスピジャポンで何が起きているのか、そしてオーブという物について知っている事があれば教えていただけませんか?」
セイメイがそう聞くと卑弥呼はゆっくり瞼を閉じ、そして語り始める。
「そうじゃの。それでは早速話をするかのう。長くなるけぇ、茶でもしばきながら聞いとくれ。」
※ ※ ※
「かなり厳しい状況でありますが、全身全霊を賭けてやり遂げさせていただきます。」
卑弥呼からの話を聞いたセイメイは、決意を込めてそう言い放つ。
今回卑弥呼から話を聞いて分かった事は多いが、一番の収穫はオーブについてだろう。
やはり卑弥呼の捜索を優先したのは間違っていなかった。
卑弥呼からの話で分かった事を簡潔に説明すると。
・セイメイは卑弥呼の直属の家来であり、数年前に卑弥呼の予言を元にこれまで行動してきた。
その予言では、この大陸を襲う魔の存在に対抗する者に尽くす事で救われるという事であり、その者を見つける為にイモコと共に俺達のいた大陸に来ていたようだ。
もうわかると思うが、どうやらその者こそが俺らしい。
なぜ俺だとわかるかについては詳しく話していなかったが、それは間違いないとのことだった。
・次に現状についてだが、俺達がサムスピジャポンに到着する数ヵ月前に、突如妲己と呼ばれる者が邪魔大国に現れた。
当初妲己は芸者という事であったが、いつの間にか周りの者全てが操られてしまい、今では卑弥呼の娘として君臨している。当然卑弥呼はそれに対抗しようとしたが、卑弥呼の力をもってしても妲己の術を破る事ができず、隠し通路から逃げ延びて今に至るらしい。
・そしてオーブについてだが、邪魔大国の北側の火山にそれはあるとのことだった。
しかし、それはウロボロスを封印するのに使っている為、持ち去る事はウロボロスの封印を解く事に繋がる。
つまりオーブを手に入れるには、ウロボロスをどうにかしなければならない。その方法についてだが、一つはオーブに代わる物で封印を施す、もう一つはウロボロスを倒す。この二つに一つだ。
封印を解くという事は、一歩間違えればこの大陸が滅亡する事に繋がる為、いくら俺がオーブが欲しいといっても簡単に封印を解く訳にはいかない。とはいえオーブの力は既に大分弱まっており、どの道数年で封印は解かれてしまうのだから、やはり倒せるならば倒すのが一番だろう。
だがウロボロスという存在は、神々と近い存在である故、普通に倒す事は不可能に近いらしい。だからこそ、卑弥呼は復活までの間にオーブに代わる物を探していたのだが、その前に国が妲己に乗っ取られてしまった。
そして妲己に乗っ取られて以降、オーブの力が急激に弱まっており、ウロボロスの復活まで猶予は短いとのこと。
妲己の狙いは最初からオーブ……いやウロボロスの復活だと卑弥呼は推測している。
妲己が各国に呪いの玉を持って行っている事とウロボロスの封印は関係があるのだろう。ちなみに卑弥呼にはオーブの力がどの程度あるか感じる事ができる故に、これはわかった事であるが。
・最後に妲己が卑弥呼を探している理由についてだが、それはウロボロスの封印された火山に入る為には卑弥呼の力が必要だからである。
妲己はウロボロスを制御するために、卑弥呼が必要だと考えているかもしれないと言っていた。
実際には卑弥呼にそんな力はないのだが、再度封印を施す事ができるのだからその力をなんらかの形で利用するつもりなのだろう。
ここまでが現在のサムスピジャポンの状況である。
そして今後どうするべきかについてだが、一つだけ大きな問題がある。
それは
火山へ向かう道にある関所に強力な封印が施されている事
それを解くには「魔法のカギ」が必要であり、それは本来卑弥呼が管理していたものであるが、残念ながら今は妲己に奪われて手元にはない。
城に忍び込んで探すのも一つの手であるが、そんな大事な物を妲己がどこかに保管するとは考えられない。
つまり、常に妲己が持っている可能性が高いのだ。
それなら妲己を殺せばいいとも思うが、妲己の力がどんなものかわからない内には直接戦闘は避けるよう卑弥呼に釘をさされた。
人を操る能力について対抗策がない内は危険すぎるとのこと。
それではどうすればいよいか?
その答えは結構殺伐としたものだった。
「妲己の懐刀であるサイトウを殺し、それに成り代わるのじゃ」
サイトウは殺されてもいい……いや生きていてはいけない程の悪人である為、殺す事にためらいはない。しかし、問題はどうやってサイトウを見つけるか。そしてその後どうやってサイトウに成り代わるかだ。
これについて、先ずサイトウの動向についてはハンゾウを利用するのが一番だと決まった。
そしてサイトウに成り代わる事についてもハンゾウならば可能だとのこと。
つまり、今まで以上にハンゾウの協力が必須と言う事である。その交渉については全てセイメイが請け負うという事なので、俺としては言われた事をやればいい。
サイトウに成り代わる事が成功すれば、封印もそうだが、妲己の事も少しわかるかもしれない。
その結果、妲己を倒すことができれば、魔法のカギも手に入れる事ができるので一石二鳥だろう。
しかし、まだ一番の問題について答えは見つかっていなかった。
それはウロボロスをどうするかについてだ。
卑弥呼の占いでは、俺の力があればウロボロスに対抗できるという話だが、倒せるかについてはわからないらしい。
つまり再度封印する事も一つの手段として欠かす事はできないのだ。
とはいえ、今それを考えたところでそもそもウロボロスが封印された火山には行けない現状、まずは妲己をどうするかが第一優先である。
という事でやる事が決まった今、俺達は一度拠点に戻り、ハンゾウと接触するつもりだ。
そして今後進展があれば、またここには俺とセイメイで報告しに来ることになった。
卑弥呼を連れていない事をセイメイは残念がっていたが、今は仕方がない。
「うし、やるぞセイメイ。」
「はい。それでは卑弥呼様。お体にお気をつけて下さい。必ず吉報をお届けに参ります。」
こうして俺達は再び拠点に戻るのであった。
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