第140話 絆
翌朝、目が覚め部屋から出ると、隣の部屋の扉も同じタイミングで開く。
「サクセス……。」
隣の部屋から出てきたのはカリーだった。
見るとカリーの目には大きな隈ができている。
どうやら殆ど寝れなかったらしい。
そんなカリーを見て俺は頭を下げた。
「おはようカリー。それと……昨日、いや、ずっと迷惑かけてばかりでごめん。」
突然の謝罪を受けて、目を大きく見開くカリー。
「いや、なんでサクセスが謝るんだよ。悪いのは俺だろ?」
カリーは驚きながらも、そう言って目を伏せた。
多分だが朝まで俺に対する罪悪感を感じて過ごしていたのだろう。
そしてカリーにそうさせてしまったのは俺だ。
俺のせいでいつまでもそんな思いをさせる訳にはいかない!
「違う! 悪いのは俺だ。俺が子供だから……情けないからカリーはつきたくもない嘘をついたんだ。俺さ、仲間が死ぬっていう事が怖くて仕方なかったんだ。だから……」
俺は必死で訴えた。
カリーは悪くない……と。
するとカリーは顔を上げて俺の目を見る。
「それが普通だ。仲間の死程辛いものはねぇよ。」
ーーその目は悲しみに溢れていた。
今ならその悲しみの深さが少しだけ分かる。
だって……あの時……俺も同じだったから……
「あぁそうだ。カリーが死んだと思った時、俺は気が狂う程の喪失感を味わった。カリーはこういう気持ちを何度も味わってきたんだろ? その度に心を壊してきたはずなんだ。」
「……サクセス。お前……。」
その言葉を聞いて、再び驚いた顔をするカリー。
「その上更に、やっと出会えた親友が死んだんだ。どれ程辛いか、今の俺なら少しだけは理解できる。だからごめん。辛いのは俺だけじゃないってやっと気づいたんだ。だから俺はもう目を背けない。辛い事にも、辛い思いを抱く仲間にも。」
俺はこれまでどれ程カリーに気を遣わせていたのだろうか?
どれだけカリーに守られてきたのだろうか?
いや、カリーだけじゃない。
他の仲間達にもだ。
みんなが俺の気持ちを気にしていてくれた。
だけど、俺はそんな事に全く気付かず、自分の想いばかり。
そんな自分が本当に情けないよ。
ーーするとカリーはそんな俺を見て、ボソッと呟く。
「サクセス。お前は強いな……」
強い? 俺が?
いいや、俺は弱い。
本当に強い奴っていうのは、相手の弱さに気付ける奴だ。
そして自分の心を殺してでも、相手の弱さに寄り添う。
そう。カリーのように……
だけど、もし今のカリーに俺の心が強く見えたなら……
きっとそれは……仲間がいるからだ!
「強くないよ。だけど、俺には大切な仲間がいる。その仲間のお蔭で俺は立ち上がれたんだ。カリー、お前もその一人だよ。」
「そうか……大切な仲間か……ははっ。そうか。」
俺の言葉にカリーが笑みを漏らした。
「なんだよ、笑うところかよ? 俺は真剣だぜ。」
「悪りぃ。違うんだ。なんか嬉しくてな。そうかそうか。そうだよな。なんだかなぁ。サクセスの事は弟みたいに思ってたんだが、いつの間にかお前の方が兄貴に見えてきたよ。」
カリーの顔に元気が戻ったのをみて、俺の心も少しだけ晴れた。
そしてそのの笑顔につられて俺もつい笑ってしまう。
「なんだよ、それ。あ、それよりもカリー。ロゼとのチューについて色々聞かせてもらうからな。」
俺はそう言いながら、カリーの首に腕を回した。
「馬鹿。言わねぇよ、んなもん。」
「いいから教えろよー! ずるいだろ。人が必死に戦ってたってのに。」
「俺だって必死だったさ。そんな事もよりも、お前こそシロマちゃんとずっとイチャイチャしてたじゃねぇかよ。」
「そりゃそうだろ。だって俺達は恋人同士だしな!」
そんな馬鹿なやり取りをしていると、そこにシロマが現れる
「朝っぱらから二人して何をしているんですか!」
いつもシロマは気配を消して現れるな。
その呆れ呆けた顔も嫌いじゃないぜ。
「あ、ハニー。おはよう。」
「ハニーおはようじゃないですよ。でも……まぁ良かったです。」
呆れた顔をしていたシロマだったが、俺達を姿を見てフッと笑う。
「ほら、サクセス。恋人さんに笑われてるぞ。いい加減離せよ。」
「いやいや、カリーもだからね。」
俺達はいつの間にか二人して掴みあっていた。
そんな姿がシロマには面白く……いや嬉しく見えたのだろう。
「もういいですから、それよりも朝ご飯にしましょう。ゲロちゃんもお腹空かせていますよ。」
「ゲロ(サクセスお腹空いた)」
見るとゲロゲロは俺の足元でお腹を見せてゴロゴロしている。
その姿は甘えている訳ではなく、腹を空かせてのたうち回っている姿のようだ。
って、ゲロゲロ、昨日俺と一緒に謝るとか言ってなかったっけ?
まぁ、可愛いから許す。
「え、シロマ? なんでわかるの?」
「これだけ長く一緒にいればわかりますよ。とりあえず食堂がありますから、そこまでみんなで行きましょう。多分ですが、セイメイさんが既に用意しているはずです。」
確かにそう言われてみれば、少しだけいい匂いが漂ってきた気がする。
セイメイは先を読んで行動する奴だから、ありえるな。
「じゃあいくか、みんな。」
こうして俺達は食堂に行くと、予想通りセイメイが食事を作って待っていたのだった。
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「それでサクセスさま。この後はいかがなさるおつもりですか?」
食事が終わると、早速セイメイが俺に尋ねてくる。
まぁ予定といわれても、シルバーオーブも手に入った事だし、後は元の大陸に戻るだけなんだが。
とはいえ、船の手配とかも考えなきゃいけないか……。
「そうだな。早いところ次のオーブを探しに旅立つつもりだ。だけど……」
そう言いながら、俺はカリーとロゼに目を向ける。
なぜならば、シルクの葬式もあるだろうし、そしてロゼも皮肥に帰さなければならないからだ。
元の大陸に戻るにしても、それだけはやらなければならない。
「サクセスさん。ロゼちゃんの事なら問題ないですよ。」
するとシロマが口を開いた。
「問題ないって?」
「皮肥までは、何回かゲートを繋いで行けば比較的早く戻れます。一度通った道ですから、問題はありません。」
ほうほう。流石シロマだ。
既に考えてあったか。
でも本当に大丈夫なのかな?
主に精神力的に……
「それ、シロマの体は持つのか?」
「はい。何回か休憩をはさんだり、アイテムを使えば可能です。」
できるらしい。
無理じゃないならいいんだが……。
「まぁシロマがそう言うなら、大丈夫なんだろうな。じゃあ一度みんなで一度戻るか?」
俺がそう提案すると、カリーがそれを拒否する。
「ダメだ。サクセス。お前にそんな時間はないだろ?」
「いや、だってシルクを弔ったりもしなきゃだし。それに……」
そう問題はロゼだけではない。
シルクの事だって俺には大事なんだ。
それにカリーとしても、本心では絶対シルクを丁重に弔いたいはず。
ーーだが
「あいつはそんな事をお前に求めちゃいねぇよ。それに、あいつの魂は俺が預かってる。気持ちは嬉しいが、もしあいつがここにいたら、多分怒るぜ?」
カリーは拒否した。
その様子から見ても、気を遣って言っているようには思えない。
すると今度はイモコを口を開く。
「そうでござるな。シロマ殿の考えは悪くないでござるが、皮肥からだと船は出せないでござる。その点、邪魔大国からなら船で大陸を渡れるでござるよ。」
確かにイモコが言うように、皮肥に行くならかなり時間的ロスはあるだろう。
だけど、それでも……。
「ではサクセス様。こういうのはどうでしょうか? 一度邪魔大国に戻り、そこで船の手配とシルク殿の葬儀を行います。その後、ロゼ殿は私が責任をもって皮肥に送り届けるというのはいかがでしょう?」
なるほど。
それなら確かにその方がいいかもしれない。
ーーしかし、それに異を唱える者がいた。
そう。ロゼだ。
「待って! 皮肥には帰らないわ! 私はカリーについて行くから!」
なんとここにきて、当の本人が拒否をしてしまった。
だがロゼは一国の姫であり、連れて行く訳にはいかないだろう。
それをわかっているからか、カリーはロゼを叱った。
「ダメだ。ロゼは帰るんだ。俺はシルクにおまえを無事に帰すように頼まれている。だから……」
カリーがロゼを説得しようとするが、ロゼの意思は固い。
「嫌よ! もう私はカリーとは離れたくないわ!」
「いい加減にしろ、ロゼ!」
「何よ! 私がどうしようと勝手でしょ!?」
なんとカリーとロゼが言い合いになってしまった。
しかしながら、俺にはこの状況を上手く仲裁する自信はない。
すると、俺の代わりにシロマが二人の間に入る。
「カリーさん。少しロゼさんと二人で話してきてもらっていいですか?」
冷静に二人にそう言い放つシロマ。
なんとなくだが、その表情が少しだけ怖い。
「……わかった。じゃあ少しだけ待っててくれ。ロゼ、ちょっと外で話すぞ」
「別に私はここでだっていいけど……って、待ってよカリー。」
その場から離れようと歩くカリーを追うロゼ。
まぁ俺としてはロゼが一緒についてきても構わないけど、それは本人とカリーに任せる。
……であれば、後はあいつだけだな。
「……行ったな。んで、イモコ。お前はどうするよ?」
カリー達がいなくなったところで、俺はイモコに向き合って聞いた。
イモコは元々この国の大将軍であり、ウロボロスの為に俺達の大陸に来ていただけである。
つまりウロボロスが倒された今、俺と一緒にいる理由はない。
「某は……師匠に多大なる恩義があるでござる。これを返すまでは師匠から離れる気は毛頭ないでござるよ。」
イモコは俺についてくるらしい。
だけど……
「いや、だってお前はこの大陸の大将軍だろ? 卑弥呼がいなくなった今、これからお前がやるべき事は多いはずだ。違うか?」
「その通りでござる。しかしながら、その中で一番やるべき事は師匠に恩義に報いる事。師匠さえよければ、某を連れて行ってはもらないでござるか?」
うーん、どうしたもんかな。
正直、今のイモコは戦力としても、人間としても、一緒に来てもらった方がありがたい。
それに、何と言ってもイモコは俺にとって大事な仲間だ。
これからも一緒にいたいとは思うけど、俺に義理立てするというだけならば、やはりここに残ってもらった方がいいのかもしれない。
「イモコ。気持ちは嬉しいけど……」
俺はそう言ってイモコを連れて行かないと言葉を続けようとした時、セイメイが口を挟む。
「サクセス様。私からもお願いします。どうかイモコ殿を連れて行ってください。こちらの事は私の方でなんとかしますので。」
「いや、でも……。」
「サクセスさん。正直になってください。イモコさんに一緒にいて欲しいんですよね?」
ドキっ!
ってまぁ、シロマならわかるよな。
俺の本心が。
「そりゃ、当然だろ。だってイモコは俺の仲間……いや友達だからな!」
「その言葉だけでもうれしいでござる。師匠。某のような者を友と呼んでいただけるとは……」
「何言ってんだよ! 俺とお前は友を越えた……そう戦友! 師匠と師弟ではあるけど、それでもお前は戦友だ!」
「師匠!!」
感極まったイモコが俺に抱き着いてくる。
少しむさくるしいが、なんかこういうのも悪くはない。
両刀になったわけじゃないからね!
「では、サクセス様。イモコ殿をよろしくお願いします。」
「お、おう。って本当にいいのか?」
「当然でござる。これからも師匠の下で学ばせてもらうでござるよ。」
「え? 俺に教えられる事なんてないんだけど……まぁいっか。じゃあこれからもよろしくな、イモコ。」
「御意!」
なし崩し的にも感じるが、イモコはこれからも俺と一緒に旅を続ける事になった。
俺としてはやはりイモコがいてくれると色々安心するし、やはり別れたくはなかったので、正直に言って嬉しい。
あとはカリー達だけだな……
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