第83話 守護魔獣
「暑ちぃ~。まじでヤバイなここ。封印の間までどれくらいあるんだ?」
「そうじゃのぅ。ワシも久しぶりにここに来たが、これはちと年寄りには堪えるのう。ちなみに3時間はかかるじゃろうて。」
「はっは! 卑弥呼様も衰えたでがすなぁ! このくらいの暑さ、俺っちには余裕でがんす。」
現在、下に溶岩が流れる岩場を歩いている俺達。
一応全員が炎耐性のある術を受けて進んでいるところであるが、それをもってしてもここは暑すぎた。
俺はさっきから流れ落ちる汗を拭きつつ弱音を零しているわけだが、隣を歩く卑弥呼は俺以上に辛そうにしている。なぜか上半身裸のシルクは涼しそうにしているが……。
ハンゾウとの最終会議の後、俺はセイメイを連れて卑弥呼に報告をしに行った。
すると卑弥呼は全てわかっていたかのように黙って頷き、俺達と一緒にウロボロスの再封印に行くと言う。当然最後の最後までセイメイは卑弥呼に考え直してもらおうと説得を続けたが、卑弥呼の意思は固く最終的にセイメイが折れた感じだ。
まぁそんなわけで、俺達は火山に行く前に妲己対策のミサンガを揃えたり、やれる事を全てやった後、サイトウに化けたハンゾウと一緒に関所を無事潜り抜け、魔法の鍵で扉の封印を解き、今まさに火山内を進んでいるところである。
※ ※ ※
ここは火山なだけあって、炎系統の魔獣が沢山現れる。
全身炎に包まれた狼、ファイヤーガルムを筆頭に、ファイヤーマン、溶岩魔獣等かなり強めの魔獣が多い。
とはいえ、俺達のパーティはこの世界トップの力を有しているのだから、そこらへんの魔獣に遅れをとることはなく、敵は氷属性を付与したカリーの攻撃やイモコによって一撃で仕留められていく。
セイメイが言うには、ここに現れる魔物はレベル60以上のパーティでやっと倒せる程の強さみたいだが、俺達からすれば雑魚だな。
そんな訳でドンドン奥へ進んで行くのだが、ふと俺は疑問が沸いたのでハンゾウに確認した。
「なぁ、ハンゾウ。ここの敵、かなり多く感じるんだけど、サイトウはどうやって進んでいたんだ?」
そう。確かに俺達にとって、ここの魔獣など何の障害にも感じられないが、この大陸に住む者達にとっては違うはずだ。定期的にサイトウはここに入っていたみたいだが、この溢れかえる敵の中では厳しいに違いない。
そんなちょっとどうでもいいような事が頭に浮かんだので聞いてみたのだが、返ってきた答えは呆気ない程簡単な話だった。
「サイトウは魔獣化した護衛を連れていたでごじゃるから、ここの魔獣は寄ってこないでごじゃるよ。」
既にサイトウの姿ではなく、蛙面に戻ったハンゾウが軽く答える。
そういえば、どういう訳か魔獣同士は争わないんだっけか? イモコから聞いた気がする。
俺達のいた大陸の魔物は普通に縄張り争いとかしていたけどな。これもカルチャーギャップというやつだろうか。
そんなくだらない質問をするくらい余裕綽綽で進んでいる俺達だが、そこでハンゾウが俺に警告をした。
「それよりも間もなく大広間に着くでごじゃる。そこには守護魔獣がいるから気を付けるでごじゃる。」
ハンゾウがそう告げると、俺達の進む先に大きく広がった場所が目に映った。
事前に聞いていたことだが、この火山の中ではウロボロスの影響を受けた凶悪な魔獣が2匹程いるらしい。
どちらもかなり手ごわい魔獣らしく、卑弥呼が以前来た時には国の精鋭パーティを5部隊を揃えて戦ったそうだ。
余談だがシルクは、当時その部隊のリーダーをやっていたらしい。
「そうでがんす。あの時はかなり苦戦したでがんす。しかしあれより大分時が経っているので、あの時より魔獣は強くなっている可能性があるでがす。気を引き締めるでがすよ!」
天狗お面を被っているから表情はわからないが、少しだけシルクの声に緊張の色が窺える。それだけ待ち構えている魔獣は他の魔獣より強いのかもしれない。
「まじかぁ。そう言われるとちょっと楽しみだな。確か、魔獣ケルベロスだっけか? 三つの顔がある狼なんだろ?」
「そうでがんす。まぁサクセスの強さなら強敵ではないかもしれないでがすが……見えてきたでがんす。」
シルクとそんな話をしながら進んで行くと、奥の通路を塞ぐように巨大な黒い塊が見えた。
そしてその黒い塊は俺達の気配に気づくと、ゆっくりと4足で立ち上がる。
その大きさは、シルクから聞いていたよりも大きい。3メートル位と聞いていたが、どう見てもその倍はあるな。やはりウロボロスの出す瘴気を吸収して強くなっているのかもしれない。
俺はその魔獣を視認した段階で、即座に全員に指示を飛ばす。
「卑弥呼、ハンゾウ、ロゼッタ、セイメイはここで待機。護衛としてシルクとシロマは一緒に待機しててくれ。一応結界は張っておくから平気だとは思うがな。」
俺は戦闘メンバー以外を下げてライトプリズンを使った。
「オオオォォォォーーン!!」
するとそれを見たケロべロスは、俺達を完全に敵と見なして威嚇の咆哮を放つ。
その耳をつんざくような声量には耳を塞ぎたくなったが、そんな暇はない。なぜならば敵は既にこちらに突撃してきたからだ。
「散開!」
俺の号令と同時に、カリー、イモコが左右に散るとゲロゲロは上空に飛んだ。
そして俺はケルベロスに突撃されると結界にぶち当たりそうだったので、そのまま正面に走ると盾を構える。
その瞬間、轟音と共に盾に強い衝撃を受けるが、なんと盾に突撃したケルベロスがノックバックした。
俺より圧倒的に大きな魔獣ではあったが、俺の防御力の方が圧倒的に勝っていたらしい。三つある頭の内、一つの頭がグワングワン揺れている。いわゆるピヨピヨ状態だ。
「サクセスはおかしいでがんす。」
「流石はサクセス様ですわぁ。」
「ワシが後60歳若ければのぅ。」
その信じられない光景を見て、結界の中にいるメンバーは驚く同時に言葉を漏らす。最後の卑弥呼の言葉だけは聞こえなかったことにしよう。
「ナイスだサクセス! イモコ、右の頭を頼む!」
「わかったでござる!」
そしてノックバックした隙に、ケルベロスの左右に避けていたカリーとイモコが間髪を入れずに攻撃を開始した。
「ブリザードスパイク」
「天封剣・剛」
カリーが先端が凍った槍を投擲して顔面に突き刺すと、イモコは縮地のような動きで接近し、その首を一撃で斬り落とした。
「ゲロ! (僕も!!)」
一瞬で二つの首が消えると、今度は上空に上がっていたゲロゲロが急降下する。
ちなみにゲロゲロは古龍狼姿ではなく、もふもふの姿のまま翼だけが生えている姿だ。どうやらゲロゲロは本能的に目の前の魔獣は古龍狼に変身するまでもない敵だと判断したらしい。
実際ゲロゲロは戦闘形態にならずとも、そのステータスはカリーよりも高いのだが、その姿で翼を生やせるとは知らなかった。その白い小さな翼はモフモフしていて、そんな姿のゲロゲロもまた可愛い。
そしてケルベロスに接敵したゲロゲロは、爪を光らせてディバインクローを放つと、残ったケルベロスの頭ごと、その体を一刀両断する。
「ゲロゲロ、強っ!! その姿でその強さは反則だわ。」
俺が驚愕の声をあげると同時にゲロゲロが地面に着地すると、ケルベロスに背を向けながら俺のところに歩いて戻ってきた。
その顔は褒めて欲しいと言わんばかりのドヤ顔である。動物がドヤ顔っていうのも変な話だが、少なくとも俺にはそう映った。
「よしよし、よくやったぞゲロゲロ! 偉い偉い!」
「ゲロロン!(僕が倒した!)」
俺は足元に来たゲロゲロを抱きかかえると、その頭をワシャワシャして褒め倒す。
そして絶命したケルベロスはそのまま塵となって消えていった。
哀れ、ケルベロス。かなりの強敵と言われていた番犬であったが、どうやら俺達の前ではそこらへんの雑魚と変わらなかったようだ。正に瞬殺劇である。
そしてそれを後方で見ていた卑弥呼とシルクは面白い顔をしていた。
今目の前で起こった事が未だに信じられないようで、二人ともあんぐりと口を開いたまま呆気に取られている。
そういえばシルクは俺達が戦っているところをちゃんと見た事が無かったっけか。そして卑弥呼もまた、俺だけでなく、他の面々の強さにも驚いているようだ。ちなみにハンゾウは蛙面なのでよくわからない。
「なんか手応えなかったな。これ、本当に守護魔獣だったのか?」
今回俺は攻撃はしておらず、ただ敵の突進をガードしただけなのだが、あまりの呆気なさに本当に聞いていた守護獣なのか疑う。
ウロボロスの瘴気を吸っていると聞いていたので、皮肥を出た後に戦った巨大魔獣レベルを想像していたからだ。
まぁそんな相手を前に、盾で突進を止めようと思った俺もどうかとは思うが……。
しかし、シルクは俺の質問に対して少し動揺しながらも首を縦に振る。
「ま、間違いないでがんす。というか、カリー強くなってないでがすか?」
「あぁ、まぁな。伊達にサクセスと一緒に化け物達と戦ってねぇからな。あの頃よりかなりレベルは上がってるぜ。」
カリーとシルクは別の世界でパーティを組んでいたのだから、カリーの強さをシルクは知っているはずだ。
それ故に今の強さに驚いているのだろうけど、天空職なんだからレベルが上がればそりゃあ強くはなるわ。カリーは俺と出会った頃より大分レベルが上がってるしな。
しかし、そんな事よりもイモコだよ。あのすり足っぽい移動もそうだけど、今使った攻撃スキルもかなりの破壊力だった。あの試練以降、イモコの成長がヤバイ。
「そういえばイモコも聞いた事ない技使ってたな。 あれ何? ちょっとまじで格好良かったんだけど。」
「師匠にそう言われると照れるでござる。あれは色んなスキルと技の応用でござるよ。天封剣は本来斬撃を飛ばす技でござるが、それを直接叩き斬る事で威力特化にしたものでござる。」
どうやら咄嗟の応用で使った技のようだ。凄すぎるぜイモコ。流石はこの大陸一の大将軍。
「すげぇなぁ。本当にイモコは強くなったな。俺も鼻が高いよ。」
「否。某の力は未だ師匠の足元にも及ばないでござる。これからも研鑽する所存でござる。」
俺がイモコの成長に感動していると、イモコはそう言って自分を戒めている。決して天狗にならないのは、本当にイモコの良さだな。近くにカリーの強さにショックを受けて、プルプルしている天狗面もいるが。
「さてと、じゃあ進むか。まだ一匹守護魔獣がいるんだよな?」
「いるでがんす……が、この分だと警戒する必要もなさそうでがんす。」
そう答えるプルプル天狗の顔の声は少しだけ悲しそうだった。
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