第60話 支配人がクソエロい件

 女王様との座談会の後、俺達は宿屋へと帰る。



「あら、おかえりなさいサクちゃん。みんなも早かったのね」



 部屋に戻ると俺達に気付いた母さんが声を掛けてきた。


 その手には俺が秘密クラブで交換したポータブルゲーム機がある。


 多分俺達が戻って来る間、ずっとそれで楽しんでくれていたのだろう。


 それは俺達が秘密クラブにいる間、母さんが暇を持て余すだろうと思って交換したものなので、ちゃんと楽しんでくれているみたいで安心した。


 ちなみにこのゲーム機の中にはいくつかのゲームが内蔵されていて、暇を潰すにはもってこい。


 ちなみに母さんが好んでやっているゲームは【あつもり】と呼ばれるゲームで、正式名称は【もっと熱くなれよ、森の民よ!】というタイトルなのだが、これがまた結構面白そうだった。


 森の中で色んな動植物を採取し、そして採取した動植物を育てて敵と戦うゲームだ。


 ゲロゲロもそのゲームが気になるようで、俺か母さんがそれをやっている間は隣でおとなしく見ている。


 ちなみにゲロゲロには自動で動くネズミのオモチャを交換したのだが、その日の内に破壊されたので、今は無残な姿となって部屋の端っこに置かれている。



「あぁ、ただいま母さん、それとゲロゲロ。とりあえず第一ステージをクリアできたから、その後女王様に色々すごろくの話を聞いて戻ってきたんだ」


「あらあら、さすがね。これなら直ぐにゴールドオーブを手に入れられそうね」



 俺の報告に嬉しそうに頷く母さんだが、俺の顔は少しだけ浮かない。


 母さんが言うほど楽観視できるような状況ではないからだ。


 といっても心配はさせたくないので、そんな事を口にはしないけど。



「……ならいいんだけどね。それより、これからちょっとみんなと会議するけどいい?」


「もちろんよ! 母さんもみんなの話を聞きたいわ」



 母親の了承を得たことで、早速俺達は部屋の中で今日のすごろくで経験したことをそれぞれ話し始める。


 正直、話したくない事も俺は多いのでいくつか割愛させてもらったが、やはり突然強くなった俺に対してはみんなから結構な追及があり、はぐらかすのに苦労した。 


 特にシロマの追求は執拗かつ鋭く、思わず墓穴を掘りそうになって冷や冷やしたぜ。


 流石にシロマ達をオカズに強くなったとは言えないし、なんならシロマが一番興奮したなんて口が裂けても言えねぇ。



  君、本日のヌキヌキポンではMVPよ?



 まぁそんなこんなで色々話も出尽くしたところで、本題へと入る。



「んじゃみんな、さっき少し話にあがったゲームマスターへの質問についてなんだけど……」



 俺がそう切り出すと、早速イーゼが発言をする。



「先ほどサクセス様がおっしゃったとおり、ゴールドオーブについて聞くのが一番良いと思いますわ」



 まぁそうなんだけどねぇ……


 だけど、俺としてはどうにもそれがベストとは思えないんだよな。


 うまく言えないけど、今俺達にはもっと必要な情報があると思う。


 そう考えていると、次にシロマが発言をする。



「私も半分賛成です。しかし、女王様が第三ステージで躓いた事を考えると、第三ステージでのヒント等を聞く方がよいのではないでしょうか? もしかしたら第三ステージをクリアした時にも、ゲームマスターは質問に答えてくれるかもしれませんし」



 イーゼは俺の意見にそのまま賛成といった感じだが、シロマは違う。


 第五ステージクリアという先の話よりも、その前に必要な事を聞く方が良いと言っている。


 その発言を聞き、ようやく俺のもやもやが何であるかわかった。


 まさに今シロマが言ったことだ。


 第三ステージを誰も突破できていないということが、ずっと俺の中でひっかかっていたのである。


 とはいえ、他にもまだ何かあるかもしれないから、全員の意見を聞いてみよう。


「カリーはどう思う?」


「うーん、難しい問題だが、俺はシロマちゃんの意見に賛成かな。先を見据えるのもいいが、先ばかり見ていてもそこに行けなければ意味がない。具体的には第三ステージの何に気を付けるべきか、もしくは、攻略のヒントとかな」



 ふむふむ、ヒントか……


 確かに答えまでは教えてくれないだろうからな。



「えー、でもさ、それなら第三ステージで失敗している人達に聞けばよくないかな? アタイは悔しいけど、イーゼの意見に賛成ね」



 なるほど、その手がって無理だな。


 失敗した人に聞いたところで……


 って、それ以前にそれは……


 とりあえずこれで全員の意見が出揃った。


 カリーはシロマ、リーチュンはイーゼの意見に賛成。


 うまい事割れちまったな。


 だけど……



「リーチュン、それは無理だよ。女王様も言っていたけど、すごろくのステージに関する具体的な情報は制約があって話すことができないらしい。その言葉通り、話そうと思ってもグループメンバー以外には言葉にすることができないみたいだ」


「そっかぁ、じゃあぶっつけ本番ね!!」



 なんでそうなる!?



「いや……待ってくれ。俺からゴールドオーブについて聞くって提案しておいてなんだけど、今はシロマやカリーの考え寄りなんだ。すごろくの回数券も無限ではないし」


「サクセス様が決めたのであれば、わたくしはなんであっても従いますわ」


「ありがとうイーゼ。これは俺の予感でしかないんだけどさ、何となく第三ステージは初見殺しだと思ってる。そして最初にそれを失敗すると二度とクリアすることができない仕様なんじゃないかなってね」



 エルフが何十年もやってきてクリアできないステージ。


 俺は女王の話を聞いてから何度も考えた。


 純粋にプレイヤーのレベルが足りていないという可能性も考えたが、それはおかしい。


 クリアできなかった場合は再挑戦ができる仕様だし、それであればステータス的に突破できないとは考えづらいんだ。


 もちろんレベルやステータスが足りなくてクリアできないグループもあるだろうが、中にはステータスや能力に秀でたパーティがあってもおかしくはない。


 それら全ての者が第三ステージを突破できていないということ、そして諦めてしまっていること。


 これには必ず何かあるはずだ。


 そして考えられるのは、一番最初のトライ。


 ここで失敗したらきっとクリアが不可能なのだと俺は思う。


 だからこそ、やっぱり聞くべきはヒントか、注意するべき事なのだろう。



「サクセスさん。私もそれを思いました。間違いなく第三ステージには罠があります。それも絶対に間違えてはいけない罠が。それがどんなものかまでは教えてもらえないでしょうが、ヒントくらいはもらえるはずです」


「そうだな。つかよ、サクセス。第二ステージの話はいいのかよ?」


「第二ステージは結構クリアできているパーティが多いって聞いてるから、致命的なものはないと思うよ。転職システムが第二ステージからあるって女王様が言ってたから、そこについては気になるところだけど」



 ステージについて話せること、話せないことがある。


 先ほど俺が行った通り、制約という呪いのようなもので、ステージを攻略するにあたって具体的な内容は口から出せなくなっている。


 なので転職システムがあるとは伝えられるけど、どうやって転職するのか、何が必要なのか、等は話せないらしい。



「逆に言えば、その程度の事であれば他のプレイヤーに話すことができるということですわね。であれば、意味があるかはわかりませんが、第二ステージをクリアした後、観戦場にいる方から第三ステージについて少しは聞けるかもしれませんね」


「あぁ、確かにな。よし、とりあえずまだ第二ステージをクリアした訳じゃないけど、もし第二ステージをクリアしたら第三ステージのヒントを質問するってことでいいかな?」



 俺がそう聞くと全員がそれに賛同してくれた。


 非常に有意義な会議であったと思う。


 とりあえず会議も終わったので、俺達はそれぞれ風呂に入ったりして明日へと備えるのだが、風呂から上がった後、俺は偶然にもある人と出くわした。




 ※  ※  ※



「こんばんは、サクセス様」



 風呂から上がって自室に戻ろうとしたところ、後ろから声を掛けられる。


 俺の名前を呼んだということは俺の事を知っている者。


 だがおかしい。


 俺の名前を知っているのは、仲間以外でここの従業員以外はありえない。


 そしてその従業員は性別不明のダンゴムシであり、かつ、女性っぽい声を出している者はいなかった。


 であれば他の宿泊客かとも思ったが、それだと俺の名前を知っているはずもない訳で、一体誰なんだろうと思いながら振り返ると……



「……え? 誰?」



 知らない女性がそこにいた。


 黒い色のフードを深く被り、ダークブラウン色のコートを羽織ったその女性。


 女性と言ったのは、フードの中に見える顔が女の子っぽい顔立ちだからだ。


 そして驚く事に、その顔は人族の顔。


 秘密クラブにも数名の人族はいたが、そこ意外で人族を見たことがない。


 そんな訳で驚きを隠せない俺に、彼女は自己紹介をする。



「私は当宿【子種搾取処】の支配人をしている者です。どうぞお見知りおきを」



 あっ、この人が例の魔女か。


 魔女っていうから、すんごい婆さんをイメージしていたんだが、想像以上に若いな、つか可愛い。


 年のころは俺とそんなに変わらないのでは?


 いや待てよ、それはおかしい。


 イーゼがこの国を出て相当の年月が経っているはず。


 であれば、間違いなく老婆……



「どうかされましたか?」



 俺がマジマジとその顔を見ながら考え込んでいると、優し気な声を掛けてくる魔女。


 正直に言って良いかわからないけど、とりあえず聞いてみるか。



「いえ、想像以上に若くて綺麗だったので驚いてしまいました」



 俺がそう口にすると、少し照れたのか頬を軽く赤く染める。



「まぁ、お口がうまいのですね。私もお口の使い方なら負けませんわ。搾取は得意ですの」



 そう言いながら、舌を少し出して立てた人差し指をいやらしく舐める魔女。

 

 清純な女性っぽい感じがしたけど、勘違いだったわ。


 流石はイーゼの知り合い。


 初対面でいきなり下ネタをぶっこんできやがった。



「あははは……そ、そうですか。ところでなぜ俺に声を掛けたのですか?」


「いえ、たまたまそこにいらしたので、イーゼさんの想い人がどんな方か話してみたかっただけですわ」


「そうだったんですね。この宿はとても良いところで、紹介してくれたイーゼに感謝しています」


「あら、人族の方にそう褒められると嬉しいですわ。ところで、何か困った事などありませんか? できる限りお力になりますわ」



 おっと、変態かもしれないけど凄く親切な人だな。


 ただそう言われても特に困っていることは無いんだよなぁ。


 ダンゴムシ君達は見た目はあんなだけど、凄い気が利くし、お願いすればなんでもやってくれるし。



「ありがとうございます。しかし、今のところ困った事はありませんので」


「あら、そうですの? 前回は上手くいかなかったようですが、しっかり搾精できるように色々便宜を図りますわよ?」



 やっぱり知ってたんかい! あの時のことを!


 こいつは……共犯者だ!!



「い、いえ、そういうのは結構ですのでお気になさらず」



 アブねぇ、この人。


 またイーゼと一緒になって何かしてくるかもしれん。


 警戒しなきゃ。



「ふふっ、まぁよいですわ。必要があればお申し付け下さいね。私自らがそのたまりにたまったものを搾取してもかまい……あっ、ちょっと!」



 これ以上はヤバイと感じた俺はその場から逃げ出した。


 だが今までにないタイプの女性で、ぶっちゃけ普通に可愛い。


 勿体ない気持ちが無い訳ではないが、今はそんな事を……いや、これもすごろくでおかずに……



「ふぅ、なんだったんだあの人。そう言えば名前を聞いてなかったな」


「お、どうしたサクセス?」



 部屋に戻った俺にカリーが声を掛ける。



「いや、ちょっとここの支配人と偶然会ってね。やっぱり人族だったんだよ」


「ほう、珍しいな。それで何をそんなに考え込んでるんだ?」


「いや、女性だったんだけど凄く若くてさ。とてもイーゼの古い知り合いとは思えなかったんだ」



 俺がそう口にすると、カリーは疑いの眼差しを向ける。



「あぁん? なんだお前。また他の女に手を出そうとしてるのかよ」


「いやいやなんでそんな話になんのさ。違うってば。ただ気になっただけで」


「ふーん、まぁ嬢ちゃん達にばれないようにな」


「いや、だから違うってば! もう!」



 カリーは俺の弁明を全く信用していない。


 日頃の行いと言われればそうかもしれないけどって、別に俺は誰かれ構わず手を出そうとなんて……してるな。


 はい、ダウト。


 自分でダウトしちゃったよ、俺。


 まぁ実際、おかずにして俺のステータスにしようなどと、邪な(よこしまな)考えもあるけどさ、って、あーもういいや。



 考えても無駄だし、今日は明日に備えてもう寝る!!



 ※  ※  ※



 サクセスが眠りについたその夜……


 静寂が広がる夜空に、満月が優雅に浮かび上がる。


 その光は、闇を斬り裂き、地上を銀色へと輝かせた。


 それは周囲の森を幻想的に彩り、夜の生き物達はこの明るさを頼りに活動する。


 耳を澄ませば、遠くから夜鳥の囀る(さえずる)歌が聞こえ、夜の静寂を優しく包み込む。


 満月の夜は、神秘的でありながらも、悠久とも思える安らぎと平和を感じさせていた。


 そんな月明りの下、一人の少女が物憂げな顔でその月を見上げていた。


 彼女の胸には紅く輝く宝石の入ったブローチがあり、それが月明りに照らされ輝いている。


 それを両手で優しく包み込んだ彼女は、そっと小さな声で夜空を照らす光に願った。



 「世界の光よ……願わくば、彼に救いを……」



 彼女が口にした彼とは一体誰のことなのだろうか?


 サクセスか……はたまた別の誰かであろうか……


 その答えは、月夜に輝く光のみぞ知る……




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