第59話 ゲームマスターって何者!?
「初めまして……と言っておこうか。サクセス君」
「え? 俺の事を知っているんですか?」
目の前に立つエルフの男は、まるで以前から俺の事を知っていた的な感じで話かけてきた。
何者だ、こいつ?
もしかしたら女王の側近……いや、まさか!? 女王の夫で俺に嫉妬をして、ってそれならイーゼがわかるはずだ。
特に何も言わず黙っているところを見るに、イーゼも知っている人ではないのかもしれない。
「もちろん知っている。なぜならば、君……いや君たちの名前はルーレットに表示されていたからな」
普通にすごろくを見て俺の名前を知っていただけだった。
おもわずズッコケそうになったわ!
そういえばすごろくって、どこからか観戦することができるとか言ってたっけ?
じゃあこの人はただの観客? いや、それにしてはおかしい。
「あ、そうっすか……それであなたは誰っというか、こういう言い回しは失礼かもしれませんが、何者ですか?」
もしただの観客なら、ゴールした先の部屋にいるはずがない。
それともやっぱり頭のおかしい観戦者かな?
だとしたら無視した方が良かったかもだけど、何者ですかとか聞いちゃってるし……。
ーーすると、突然目の前のエルフが笑い始めた。
「何者……ふ、ふははははっ!」
「え? なんすか? 何が面白いんですか? つかもう怖いんで、先行きますね」
不審者の不気味な様子に俺は逃げ出すことを決めた。
だが、横を抜けようとした瞬間、肩をガシっと掴まれてしまう。
「待ちたまえ。こんなチャンスは滅多にないぞ? 本当に良いのか?」
チャンス? この人は一体何を言っているのだろう。
自分だけ理解しているっぽいけど、俺には全く伝わりませんよ?
なんて思っていると、俺の肩を掴んだ不審者の手を、イーゼが叩き落とす。
「無礼者!! サクセス様に触れてよいのはわたくしだけですわ!!」
いや、イーゼさん。
気持ちは嬉しいけど、いつそんな事決まったんですかね?
「ふむ、女王の子か。そうか、お前は一族の掟に逆らい、この人族を愛しているようだな」
ん? 今なんて?
「あれ? なんで知ってるんですか? って俺が言うのはおかしいけど。てか、イーゼ。この人お前のこと知ってるっぽいけど知り合い?」
どうやらこの不審者はエルフの王族の掟や、イーゼの事を知っているらしい。
であればやっぱりイーゼの親戚かなんかかな?
「知りませんわ、こんな不気味な男」
知らない人らしい。じゃあまじでこの人何なの?
つうかそもそも何しにきたんだろ。
「ふっ……そうだろうな。まぁこんな話をしに現れた訳ではないのだがな、少し話がそれた。今回のチュートリアルでの出来事は真に面白かった。故に、褒美として何か一つ質問に答えてやろうと思っただけである」
「え? 見てたんですか? 全部?」
その言葉を聞いて、途端に恥ずかしくなった。
だって、宿屋であんなことやこんなこと……それ以前にあの恥ずかしくも情けない戦いも全て?
あれ? まさか観客もあれを全部見てたのか?
やばい、これはやばいぞ!!
この後、どんな顔してこの国を歩けばいいのかわからん!!
「全部だ。我は全てを見る事ができる。だが安心しろ。観客が見られるのはごく一部だけだ。それも宿屋等の屋内の状況を見ることはできぬ。安心せよ」
あんれ~? この人、心が読めるのか?
てかその話が事実ならこの人は……
「その通りだサクセス君。私がゲームマスターだ。この中で起こることや思考は常に我は把握できる」
まさかのゲームマスターさんでした。
なんとなくそんな気はしてたけど、それでもゲームマスターは女王だと思っていた。
いずれにせよ、このゲームについて聞きたい事は山ほどある。
一つとか言ってたけど、勢いで色々聞いちゃえ!!
「では聞きたい事があるので聞いてもいいでしょうか?」
「ふむ、君には楽しませてもらったからな。答えてあげよう……と言いたいところではあるが……」
「おねしゃす!!」
なんか断られそうというか、勿体つけた言い方になっていたので、勢いではぐらかそうとする俺。
ーーしかし
「最初に言ったとおり、教えられるのは一つだけだ。そして既に観客がゲーム内の状況を見られるかどうかという事について教えているため、もう教えることはできぬ」
「えぇーー! そんな!」
「ふっ。そんながっかりするでない。我はお主を気に入っている。故に第二ステージをクリアできたならば、その時、また一つ答えてしんぜよう。ではさらばだ」
その言葉を残し、ゲームマスターは一瞬でその姿を消してしまった。
同時に俺達の場所も、変な円筒型のポータルの中へと移動している。
「ここは……」
突然移動させられた俺達は、周囲の状況が変わったことで若干困惑した。
さっきのゲームマスターの事もそうだけど、本当にここでは何が起きたのか理解できない内に全てが始まってしまう。
そして円筒型のポータルの先にある部屋には、透明のガラスケースに覆われたビリヤード台みたいなものが多数置かれており、その周りをお金持ちらしきエルフ達がワインを片手に眺めていた。
「ここどこなんだろうね? サクセス」
「いや、俺に聞かれても……」
「見ろよ、サクセス。あれ、もしかしたら俺達がさっきまでやっていたゲームの中なんじゃねぇか?」
そう言って一番近くにある縦長の台を指すカリー。
確かに言われてみれば、台の中には見覚えのあるマス目が沢山ある。
でも俺達がいた場所はめちゃくちゃ広かったし、あんな台に収まるわけもないんだが……
と疑問に思っていると……
「チュートリアル突破、おめでとうなのじゃ。ダーリン」
「ぬおっ!! じょ、女王様!?」
「ふふふ、全部見ていたのじゃ。流石は我が夫……いや、ダーリンじゃのう」
そう言いながら俺の腕に抱き着こうとする女王様。
しかし、咄嗟に割って入ったイーゼに阻まれる。
「母上!」
「ちっ……まぁよい。なんにせよおめでとうなのじゃ」
「ありがとうございます。ところで、ここはどこなんですか?」
せっかくすごろくに詳しい女王様が現れてくれたので、今度こそ色々聞いてみようと思う。
「ここは第一ステージ通過者だけが行くことができる観戦場じゃよ。初めてすごろくのステージに入る者は強制的にチュートリアルステージと呼ばれる第一ステージに飛ばされるが、第一ステージをクリアしている者であれば、次回からカードを機械にかざす時に観戦場が選択できるようになっておる」
「なるほど……じゃあ次は第二ステージかこの観戦場に……って閃いた!!」
「どうしたのじゃ?」
「いや観戦場に行けるようになったなら、他のプレイヤーが第二ステージや第三ステージをやっているのを見てから俺達もやればいいやって!」
天才か俺! それなら色々学べることも多いし、失敗の数を減らす事ができそうだ!
ーーだが……
「残念じゃが、それは無理じゃ。ここは第一ステージ観戦場であって、第二ステージ以降は観戦できないのじゃ。第二ステージ以降もクリアした者だけが第二ステージ観戦場へと入ることができるのじゃ」
女王の説明を聞いて、がっくりと肩が下がる俺。
まぁ、そりゃそうよね。
「サクセス様。お気を落とさずに。では母上、第一ステージをもう一度周回してレベル上げ等はできるのでしょうか?」
「ふむ、それも出来ぬ。同じステージを挑戦するには、そのステージをクリアしていない事が絶対条件である故」
なるほどね、しっかり対策はとられているってわけか。
「あ、そういえば第一ステージをクリアした後、ゲームマスターとかいう不審者が現れたんですが、お知り合いですか?」
それとなくさっきの人物について聞いてみた俺だが、その質問をした瞬間、女王様が驚愕する。
「ゲームマスター……じゃと!? それはまことか?」
「はい。真っ白な部屋に飛んだと思ったら、男性っぽいエルフの人がいてそう自分で言ってましたが……どうしたんですか?」
「どうしたもこうしたも……いえ、まさか……まだこの世界に顕現なさる事があるだなんて……」
「あの……知り合いじゃないんですか?」
「知り合い等と口にするには恐れ多い存在じゃ」
女王様が恐れ多いなんていうエルフが存在するの!?
何者なんだあの人は……
「てっきりこのゲームは女王様が作っていると思っていたんですがね、あの人が女王の知り合いでないとなると……」
「ダーリン。いえ、サクセス殿。その話は他言無用で頼むのじゃ。それとあの方については何も話すことはできぬ。ただ一ついうなれば、すごろくというゲームについてはあの方が作られたものということじゃ。故に、妾も分からぬことが多い」
「女王様でもわからないって……ちなみに女王様はどこのステージまで行っているのですか?」
「妾は第三ステージじゃな。それもクリアはできておらぬのじゃが。過去に第三ステージを突破したものはおらぬ」
ここに来て初めて知る絶望的な情報。
すごろくは第五ステージまで存在し、そこまでいかないとゴールドオーブは手に入らない。
エルフの寿命は長い為、相当の期間をこのすごろくに費やしている者もいるはず。
それにも関わらず第三ステージすら突破できてないって
……絶望的じゃないか!
「サクセスさん、大丈夫ですよ。私達ならきっとクリアできます」
「そうだぜ、サクセス」
「うんうん! アタイも張り切っちゃうもんね」
「サクセス様に不可能はございませんわ」
俺が顔を青褪めさせていると、仲間達から心強い言葉を贈られる。
そうか……そうだよな。
今までだって不可能を可能にしてきたんだ、今回だってみんなで力を合わせれば!!
「女王様。俺達は必ず第五ステージを突破してみせます。そして必ずゴールドオーブを手に入れてみせる!」
「流石じゃ! それでこそ妾のダーリン。妾もできる限り力になろうぞ」
「ありがとうございます。ではすごろくについて、もう少し詳しく教えて下さい」
「もちろんじゃ。では、一度妾の部屋まで……」
「母上!! 話なら全員で聞きますわ」
「わ、わかっておるのじゃ。ではここで立ち話もなんじゃから、食事でもしながら話すかのう」
ということで、その後俺達は一度秘密クラブから出て、城の客間で食事をとりながら女王から話を聞いた。
ところどころ解決しなかった疑問もあったが、おおまかには理解できた。
職業は本当にランダムで、特に決まっていないということ。
スキルも千差万別で記録するのもあほらしいほどあるみたい。
あと最後に観戦についてだが、ステータスボードに表示されるような細かいことは観戦者にはわからないらしく、更には俺の行動に至っては色々文字が伏せられていたり、見えないことが多かったようだ。
まぁモザイク人間だし……色々18禁だし……
って卑屈になっても仕方がない。
むしろ見られていなかった事に安心したわ。
いずれにせよ、どんどんステージを進めてみるしかないな。
それに第二ステージをクリアすればまた一つだけゲームマスターに聞けるらしいし。
それまでに聞いておきたい事をしっかり吟味しておこう。
ゴールドオーブが本当にもらえるかとかね。
一つだけと限定されると、中々決まりそうもないが、それもみんなと相談だ。
しかしほんと、ゲームマスターって何者なんだろうか……
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