第58話 ボスバトル!
遂にその姿を現した第一階層守護者
凶星のミノタン
その禍々しい二つ名からも、他の雑魚モンスターとは比べ物にならない程強いことが窺い知れる。
俺に至ってはボスどころか、まともな戦闘が初めてなのもあり、かなり緊張しているのだが、きっと仲間達も同じだろう……って思っていたんだけどね。
「なぁ、サクセス。こいつはどんなお宝くれっかな?」
「わ~! あれに乗ったら面白そうじゃない? ねぇサクセス、試してもいい?」
と緊張どころかワクワクしかしていないカリーやリーチュンを筆頭に……
「遂にこの呪われし暗黒の玉(サイコロ)を使う時が……くっ、右手がうずく……」
と謎の厨二キャラに変貌したシロマ……そして……
「サクセス様との時間を邪魔する愚物は消し炭にしてくれますわ!」
と気合が半端ないイーゼ。
うん。誰も緊張していないね。
まぁ……気持ちはわかるけどさ。
仲間達が緊張していない理由は、もちろんここに来るまでに相当強くなった自信もあるのだろうが、多分それだけではない。
こいつだよ……この凶星なんて大層な二つ名持ちのボスモンスター。
現れる前まではみんな若干緊張感を漂わせていたのだが、その姿を見た瞬間、全員の気が緩んだのだ。
なぜならばこいつの姿は、禍々しいどころか、むしろメルヘン……いや、ギャグに近い。
当初はミノタンという名前から、筋骨隆々なミノタウロス系モンスターを想像していたが、現実はその斜め上をいっている。
というのも、まずこいつの目がやばい。
何がヤバイって、目の中にキラキラした☆が描かれているのだよ。
まさかとは思うが、あれが凶星の由来じゃないだろうな?
まぁそれはいい。それよりもその姿だ。
……完全に牛だよな?
うん、まちがいない、乳牛だ。
実家の近くに住む叔母さんが酪農業を営んでいたんだけど、そこにいたホルスタイン種と呼ばれる白黒の牛にそっくり、というかまんまそれ。
ただ違いがあるとすれば、普通の牛より三倍位は大きいというところだろうか。
そんな牛さんの頭には、パーティ帽と呼ばれる円錐型の帽子が被さっている。
もう意味不明だ。
どの路線を目指しているのかさっぱりわからない。
まぁそんなわけで、あれを目にすれば誰だって緊張感もなくなる。
とはいえ、ボスはボスであるし、あの巨体で体当たりされればかなりのダメージを受けるのは間違いない。
油断だけはしないつもりだ。
「おっ、俺のターンからか」
戦闘の開始は体の硬直からわかるのだが、その硬直が解けた時が自分のターン。
素早さのステータスがカンストしているからか、俺が一番最初に動けるようだ。
とはいえ俺の持ち得る攻撃スキルはエレクトだけ。
しかし、こいつ相手に使えるはずがない……ないよね?
いや使えたとしても使う気はない。
そう、今の俺には普通以上に戦えるだけのステータスもあれば、強い剣もあるのだ!
さっきの訓練で最適化された俺の一撃をこいつにくらわしてやる!
俺は流れるような自然な動きでミノタンに近づくと、胴体目掛けて大きく剣を振り抜く。
「ム……ムモーーー!!!」
ミノタンが苦悶の叫びをあげた。
俺も今の一撃に剣を通じて確かな手ごたえを感じている。
これは結構なダメージが入ったのではないだろうか?
少しワクワクしながらステボ(ステータスボード)を見てみると……
サクセスは 凶星のミノタン を 攻撃した。
ミノタンに 198のダメージ を 与えた。
ん? 198?
思ったよりもダメージが入ってないな。
っと俺は思っていたのだが、同じくステボに目を向けていた仲間達は……
「通常攻撃で198だと!? サクセス、お前……」
「流石はサクセス様ですわ」
「えぇぇーー! なんでそんなに強くなってるの!?」
「やりますね、サクセスさん。しかし、私……我だって……」
どうやらこの198という数字はかなり高いらしい。
俺としては、これまで拷問のような戦闘で4545とかいうダメージしか与えてこなかったので、それに比べると198はかなりショボいと思っていたのだが、そもそも4桁ダメージの方がおかしかったのだ。
そんな中、次のターンが回って来る。
今度はリーチュンだ。
「やった! 二番手はアタイだよ! アタイもやっちゃうよぉ!!」
【闘舞】
リーチュンはスキル名を口にすると、舞うような動きでミノタンに接近し……殴った。
パンチパンチ……キックキック……パンチキック……
舞うようにミノタンをボコスカと攻撃するリーチュン。
なんというかこれさ……普通にいつものリーチュンの攻撃だよね?
闘舞という格好いいスキル名ではあるが、ようは攻撃の連打だ。
そしてその肝心のダメージはというと
……56ダメージ。
あれだけの連打を浴びせられているにも関わらず、思った以上にダメージが少ない。
だが自分の立ち位置に戻ってきたリーチュンが納得しているようなので、これが普通なのだろう。
そしてリーチュンが戻った事で次の攻撃が始まる。
「ようやく俺の番か。サクセスには負けないぜ」
そう言いながら、カリーは担いでいた巨大な斧を振り上げて上段に構えると、それを一気に振り落とす。
【大切断ダイナミック】
大地を割る勢いで振り落とされた巨斧は、ミノタンに深々と刺さった。
だが……
「83か……、まぁ俺の最大火力技だからな」
と何故か自慢気な表情を浮かべている。
どうやら83というダメージにかなりご満悦なようだ。
確かにリーチュンのスキルよりは強いけど……って、そう考えると俺の198ってまじで強かったんだな。
そんな事を考えている間も戦闘は続き、次はなんとミノタンのターンだった。
「みんな来るぞ!! いつでも避けられるようにしておいてくれ!!」
俺がそう口にすると、全員の表情に緊張が走る。
弱そうな見た目ではあるが、相手はボス。
その攻撃が弱いはずがない。
一体どんな攻撃がくるのだろうか。
突進であればワンチャン素早さが高いメンバーは避けられる可能性もあるが、あの巨体でブツかってこられたらかなり痛そうである。
そう考えながら硬直が解けた時に備えて身構えていると、なんとミノタンは上体を上げて前足で乳っぽいのを絞り始めた。
そして次の瞬間、白い液体が仲間達に向けて発射される。
ミノタンは 凶乳 を発射した。
カリーは 39ダメージ を うけた。
リーチュンは 41ダメージ を うけた。
シロマは 38ダメージ を うけた。
イーゼは 39ダメージ を うけた。
「うわっ!!」
「いたぁぁ!!」
「くっ!!」
「あぁぁっ!!」
仲間達が痛そうな声をあげている。
しかしおかしい。
なぜだ、なぜ俺には飛んでこないのか?
モザイクだからか? 俺がモザイク人間だからなのか!?
って、いやそんなことよりも……
「みんな大丈夫か!?」
「あぁ、まだ3分の2はある。問題ないぜ」
「アタイは結構ヤバイかも。生命値半分持ってかれた!!」
「わたくしも次もらったら終わりですわね」
「私は……瀕死です」
まじか。今の攻撃そんなに強いの!?
俺の生命値は300あるから、40前後ならそこまでやばくはないと思っていたが、第一ステージのステータスだと普通はそこまで高くないみたいだ。
戦士職のカリーですら今ので3分の1削られたってことは、前衛職でも120前後。
シロマやイーゼは後衛職だろうから、もしかしたら50くらいしかないのかもしれない。
そう考えると、このボスは見た目以上にかなり手強い存在である。
伊達にボスモンスターではないわけだ。
今の攻撃を受けて、仲間達の表情がかなり強張ってきている……かと思いきや、なぜか問題なさ気な顔だ。
なぜ?
と疑問に思っていると、いつの間にかイーゼが行動していた。
【ウィンドヒール】
緑魔導士のイーゼが全体回復魔法を唱えたことで、仲間達の生命値が30前後回復する。
「サンキュー、イーゼ!」
「助かりました、イーゼさん」
「やっぱ回復がいると楽だな」
なるほど、仲間を信頼していたからか。
そうだよな、これこそが俺達の戦い。
一人じゃない、全員の力で戦うんだ!
「それでは私の……いえ、我の番が来た。震えるがいい」
おっとシロマ。キャラがブレてますよ。
シロマは右手に持ったサイコロを宙へと放つ。
そしてそのサイコロの出目は
……2
「くっ……これも闇の力を求めたものの犠牲……」
え? 何? 2ってヤバイの?
と思った瞬間、俺の頭上にタライが落ちてくる。
「痛っ!! シロマ!!」
サクセスは 5 のダメージをうけた。
「……すみません」
どうやらサイコロの出目は外れだったらしい。
まぁ一番生命値の低いシロマにタライが落ちてこなかっただけ良しとするか。
シュンとするシロマを見て一瞬で許した俺だが、そこである異変に気付いた。
「あれ? なんだこれ? 体が熱い……」
なぜか体の中から熱いものが湧き上がってくるのを感じる俺。
これは……そう、怒りだ。
シロマに対して別に怒っていないはずなのだが、なぜか沸々と怒りの感情が湧き上がってくる。
するとステボには……
サクセスが 怒り状態 となった。
我を忘れて 攻撃をする。
「うおっ! ちょ、まっ! 体が勝手に!!」
なぜか急に体のコントロールが効かなくなった俺は、ミノタンに向かって駆け出すと、思いっきり剣を2回振り抜いた。
「ブ……ぶもぉぉぉぉぉ!!」
サクセスは ミノタンに 攻撃した。
ミノタンに 201 の ダメージを与える。
続けてサクセスは ミノタンに 攻撃した。
ミノタンに 176 の ダメージを与える。
ミノタン が 倒れた。
「……倒しちゃった? え? 終わり? マジ?」
「ふっ……これが我の闇の力」
さっき普通に謝っていたシロマが、厨ニに戻ってふんふんと頷く。
どうやらあのタライはダメージを受ける代わりに対象を怒り状態にし、制御不能になった対象は敵に二回通常攻撃をするようだ。
それは俺みたいに通常攻撃しかできないプレイヤーには恩恵が大きいが、魔導士とかの場合はむしろデメリットしかなさそうである。
そんなこんなではあるが……
「ちっ、結局サクセスに美味しいところ持ってかれるんだよな」
「アタイももっと戦いたかったぁぁ!」
「流石はサクセス様ですわ」
ちょっと思い描いていたボス戦とは違ったが、それでもみんなの力で勝ったというのは俺の気持ちを高揚させた。
リーチュンとカリーだけは消化不良っぽいけど、なんにせよ勝てて良かった。
するとミノタンがいた場所に宝箱が現れた。
「おっ! 待ってました!」
宝箱を見た瞬間、カリーのテンションが上がる。
当然俺もワクワクしている。
一体中にはどんなお宝が入っているのだろうか。
「カリーが開けていいよ、なんかその方が良いものがでそうな気がするから」
「まじ?」
「あぁ、みんなもいいだろ?」
「アタイも開けたいけど、サクセスがそういうなら譲るよ」
「わたくしはサクセス様の御心のままに」
「私……我も許可しよう」
それまだ続くの? シロマ……
「ということで、カリー開けてくれ」
みんなの許可も出たところでカリーは宝箱を開けた。
すると中には……
「なんだこれ? 5本あるな」
カリーが取り出したのは白い液体が入った瓶が5本。
とりあえず全員1本づつもらって、アイテムボックスに入れると……
ミノタンの乳:
飲むと生命値が90回復する。
「しょぼっ!!」
思わず叫んでしまった。
ボス戦でゲットしたアイテムにしては、かなりしょぼい。
普通、アクセサリーや装備品じゃないの?
「いや、これは助かるぜ。薬草だと運が良くても30位しか回復しないからな。ボス戦はイーゼさんがいるからいいが、そこに行くまでの戦闘で使える回復アイテムは貴重だ」
「そうよサクセス、めっちゃありがたいよこれ!」
そう口にするカリーにリーチュンが同意する。
確かに言われてみれば、回復アイテムってあんま手に入らないんだよな。
次のステージの事を考えると、割りと有用かもしれない。
「まぁみんな喜んでいるならいいんだけど、それよりあそこにゲートっぽいのが現れてるね」
ここに来た時は行き止まりだったマス目の奥に、いつの間にかゲートが現れている。
どうやらあそこが第一ステージのゴールのようだ。
「うし、んじゃいくか」
俺達はそのままゲートの中を潜ると、壁一面が真っ白な空間に辿り着く。
「よくぞチュートリアルをクリアした」
するとそこには、今まで出会った事がないエルフの男が待ち構えていたのであった。
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