第57話 集結!!


 宿屋を出たあと、直ぐに自分の番が回ってきた俺は、



   【4のカード】



を使うことで、4マス先のBOSSマスに向かった。


 BOSSマスに到着してみると、マス目全体に大理石っぽいのが敷かれているだけで特に工作物等もない。


 まるで闘技場の上に立っているようだ。


 ここにいるだけで今すぐにでも戦闘が始まりそうな予感を感じる。


 だが、ボスは現れない。


 多分、マップ中央に立った瞬間現れるのだろう、今までのバトルマスと同じように。



「ステータスもカンストしているし、余裕っしょ」



 宿屋で超絶パワーアップし、心身ともにスッキリした俺は軽い感じでその歩みを進める。


 どんなボスが現れるかはわからないが、このステータスと装備なら恐れるものなどない。


 むしろこれで負けるようなら、それはそれで潔く散るだけさ。



 そんな感じでマス中央まで来たわけなんだが……



「あれ? おかしいな。何も出てこないぞ?」



 普通のバトルマスならば、もうこの時点でモンスターが現れて、ステータスボードも自動で開かれる。


 だがどういうことか、BOSSマスの中央に到着しても何も変化はない。


 もしかしたらBOSSと戦うために、何か前提クエストでもあったのだろうか?


 それともキーアイテムを持っていないとかだろうか?



 そんな事を考えながら一応マスの隅々まで歩いて確認してみるも、やはり何も起きない。



「ダメだこりゃ、バグってんなこれ……ん? あれは!?」



 ふと見上げた空。


 そこにあるのは、このマップに到着してからずっと存在する巨大掲示板。


 気付けば掲示板に表示されている文字が変わっていた。



 プレイヤー:サクセスがBOSSマスに到着しました。


 他のプレイヤーは急いでBOSSマスに向かって下さい。


   残りターン数:25



「なるほど。誰かがBOSSマスに到着すると、ターン制限が掛かる仕組みか。てことは、BOSSは全員で戦うのか?」



 掲示板の内容を見て、状況を察する。


 どうやらここは一人で到着しても、ボスとは戦えないらしい。


 それを知り、俺は少しだけ安堵する。


 あのまま宿屋に寄らないで早くリタイヤするべくここを訪れていたら、最悪な状況になるところだった。


 多分クソザコな俺は仲間の足を引っ張るだろう。


 ちょっと前までの俺はあそこを硬くすることしかできなかったからな……


 普通のボス戦で役に立てることなど何もない。


 そしてその結果俺のせいでボスに負けたら、ここまで頑張ってきたみんなに申し訳なさ過ぎる。


 考えてみればパーティ入場なのだから、一人だけリタイヤなんてありえないだろう。


 そんな事に気づけない程、宿屋に行く前の俺は精神的に追い詰められていたということなんだが……。



「とりあえずここでゆっくりみんなを待つ事にするか。いや、ただ待っているのもあれだな。ステータスも大分上がってるし、まずは体を馴染ませる為に鍛錬しよう」



 仲間達があとどの位で到着するかはわからない。


 俺より大分後方にいたっぽいし、何より25ターンもある。


 宿屋で寝て元気が有り余っているのもあり、俺は模擬戦闘を意識しながら剣の素振りを始めた。



「さて、どうやって剣を振るうのが一番効率的だろうか……」



 俺は剣を握りしめ、その重さを感じながら、一つ一つの動きを確認していく。


 剣の振り方、足の置き方、体の動かし方……。


 全てが新鮮で、全てが楽しい。


 そして、その中で俺は自分自身を見つめ直す。


 これまでの自分は、ただただ自分のステータスに任せて目の前の敵を倒すことだけを考えていた。


 しかし、それではダメだ。


 宿屋でパワーアップした今であっても、現実世界における俺のステータスには遠く及ばない。


 であればこそ、この世界ではより自分自身を高め、仲間と協力し、集の力で戦うことが必要だ。


 その為には、先ずは己を知ること。


 俺は剣を振る。


 だが、ただ振るだけではない。


 自分自身を高めるための、真剣な剣の振り方だ。


 その剣の振り方は、まるでダンスのように美しい。


 カリーの剣のように滑らかに……

 イモコの刀のように力強く……


 それは、まるで生まれ変わったかのような、新たな俺の剣の振り方だった。



「いい……いいぞ! 集中しろ、俺!」



 25ターンという時間は長いようで短い。


 故に俺は、仲間が来るまでの間、ひたすらに剣を振り続けるのだった。




 ※  ※  ※



「おっしゃ! ようやくゴールだぜ。んで、サクセスはどこだ?」



 俺が到着してから21ターン後、2番目にBOSSマスに到着したのはカリーだった。


 どうやら仲間達は俺よりも大分後ろにいたようで、結構ギリギリな残ターンでのゴールである。


 俺はさっそくカリーが到着したのを見て近づいていくのだが、カリーは全く俺に気付かない。



「あれ? おかしいな。既にサクセスはいるはずなんだが……」


「おーい! カリー! ここだよ、ここ!!」



 辺りを見回すカリーに俺は声を掛ける。


 というか、何度も目が合っているはずなんだが……



「お? どこだ、サクセス!」


「だからここだって、つうか目の前にいるだろ?」



 カリーに手が届く距離まで来てみたのだが、カリーにはまだ俺が見えてないようだ。



「ん? んんーー、うわ! お前、なんだよそれ?」



 ようやく俺に気付いたカリー。



「なんだよって、何が?」


「何がじゃねぇよ。全身モザイクになってんじゃねぇか。風景と同化してんぞ」


「あっ」



 そういえばそうだった。


 今の俺は全身モザイク人間。


 唯一モザイクのかかっていない剣もまた、少し透明な白の剣であるため、知覚するのが難しいみたいだ。



「いやさ、色々あってね。って、カリーは随分装備が派手になってんな」



 俺もそうだが、カリーの装備も大分変わっている。


 背負っている斧も巨大化しているし、服はなんというか金の刺繍がほどこされた漆黒のコートで、落ち着いた雰囲気の中にも高級感を感じる装備だ。


 前回会った時はチンピラ風であったが、今は海賊のキャプテンといった感じ。



「なんかよ、この職業さ、すげえお宝見つけてくれるんだよな。戦闘も多かったけど、宝箱ゲットするチャンスの方が多かったな。こういうのも新鮮で楽しいぜ」



 ふむ。


 俺が絶望を味わい、心身共にボロボロになりながら進んでいる間、カリーは順風満帆にこのすごろく世界を満喫していたと……



 許すまじ……リア充め



「楽しそうで良かったな。俺は最悪だった……いや、何も語るまい」



 色々言いたいことはあるが、今ここでこの怒りをカリーにぶつけたところで意味がない。


 そんなことくらいはわかっている。


 だからこそ、俺はここまでの自分の話については誰にも話さないと決めた。



「あん? なんだよ、話せよ」


「いや話すことなんて何もないさ、それよりも来たみたいだぜ」



 カリーが到着して次のターン、早速二人目の仲間がゴールする。



「おまたせぇーー! ごめんねぇ、待った?」


「お、お、おっふ。待ってないでけろ」



 そこに現れたのは宿屋でお世話になった一人、リーチュンだ。


 煽情的なお色気装備はパワーアップされており、スラっと美しい脚線美が俺の息子を刺激する。


 少し前に大分妄想でお世話になったせいか、リーチュンの姿を直視できない。



「あれ? サクセスの声は聞こえるけど……いないね」



 リーチュンもまた、カリーと同じように俺が見えていないようだ。



 今ならお尻を触る事も可能では……っと、そっと後ろに近づこうとする俺。




 リアルな感触……リアルな感触が欲しい……



 しかし残念なことに、サササっとリーチュンの背後に移動しようとした矢先に、カリーに肩をガシっと掴まれてしまった。



「サクセスならここにいるぜ。よく目を凝らして見てみるんだな」




 くっ! 余計な事を! このリア充め!




「あっ! ほんとだ! サクセスの目がある……って、あはは!! 何それ! ウケるんだけど」



 モザイク人間の姿になった俺を見て爆笑するリーチュン。


 くそ、見てろよ。


 後で絶対お仕置きして……おっと、我慢だ。


 次の宿屋まで我慢するんだ俺!


 そこで思いっきりこのシチュエーションで妄想してやるからな!


 

  そうこうしている間に、イーゼとシロマも無事BOSSマスに辿り着く。


 二人とも俺が最初に見た時とそこまで装備は変わっていなさそうだ。


 だけどシロマの様子が少しおかしい。



「ふふふ、我が右手に眠りし漆黒の宝玉。この力を解き放つ時は近い……」



 そうブツブツと呟きながら手のひらで小さなサイコロをジャラジャラと転がすシロマ。


 その姿……全身黒装束に包んでいるからなのかわからないが、纏う雰囲気がかなり陰鬱である。


 闇落ちした天才ギャンブラーっといった感じだ。


 一体彼女の身に何があったのだろう……いや、聞くまい。


 人には言いたくないことだってあるさ、そう、俺のようにな。


 まぁそんな感じで全員揃ったようだし、いよいよこのマスにも変化が訪れるだろう。



 そう思った瞬間、全員のステータスボードが浮かび上がると、そこにはデカデカと



 ボスバトル:第一階層守護者  


   凶星のミノタン



と表示されていた。


 

 そして視線を上げると、マス目中央に光の粒子が集まっていき、何かを形作ろうとしている。



「いよいよか……」


「腕が鳴るな!」



 俺が光の粒子に目を向けながらそう呟くと、いつの間にか隣に来ていたカリーが答えた。


 気付けば俺達は一直線に横並びになっている。


 どうやらボス戦は強制的に横隊となるらしい。


 それはともかくとして、今回俺にとってここに来てから初めてのパーティ戦だ。


 いや、もっといえば初めてのまともな戦いとも言える。


 今まで多くの敵と戦ってきたが、この高揚する気持ちは久しぶりだ。


 勝てるかどうかもわからない相手に、仲間と共に挑む。


 そう考えるだけで、気持ちが高ぶってきた。



「おっしゃ!! みんなやるぞ!!」


「おぉ!!」



 俺の掛け声に全員が応えると、遂にマス目中央にBOSSが現れるのだった。


 

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