第81話 ルール

 今回の勝負のルールについて、セイメイが俺達に説明する。


 これは、サムスピジャポンで一番有名なルールで【オールフォール】と呼ばれるもの。


 1から15まで数字が付された色違いの玉。

 それを数字の若い順に、ビリヤード台四隅にある穴の中に落とす。

 キューで突いていい球は、数字の入っていない白球のみ。


 飛ばした白球は他のどの玉にあてても良い。

 番号順に落としていくが、うまく目的の番号の玉を落としても、連続で打つことはできない。

 白球を打つのは、必ず交互である。

 落とせても、落とせなくても、次は相手のターン。


 しかし、決められた番号以外の玉が落ちた場合は、ペナルティとして次のターンを飛ばされる。

 更に言えば、決められた数字以外の玉が落ちた数だけペナルティが付される。

 つまり、4番を落とさなければいけないのに、5番6番7番の3つの玉が穴に落ちてしまえば、その後3回分打つ順番が休みとなるのだ。


 それと、4番を落とせても、他の球も一緒に落ちた場合は、成功にはならない代わりに、ペナルティもない。

 元の位置に戻されるだけである。


 得点については、落とした数字を足した分が点数となり、落とした玉の数が多い者には、更に30点が付される。


 1から15まで足した数字は120。

 1から8までの8個を落とすと、36点+ボーナス30点で66点

 9から15までの7個を落とすと、84点(7個なのでボーナスはなし)


 そして、この勝負は3回勝負であり、3回の合計得点で勝敗が決まる。


 長くなったが、以上が今回のビリヤードのルールである。



「それでは、説明は以上です。カリー殿、サクセス様、何か質問はありますか?」


 

 ルール説明を終えたセイメイは、俺達に確認する。

 セイメイの説明はわかりやすく、このルールを初めて聞いた俺でも理解できた。

 よって、俺からの質問はない。

 だが、カリーは違った。



「いくつかわからない事がある。聞いてもいいか?」


「はい、どうぞお願いします。」


「まず最初のブレイクについてだ。これはブレイクした方が確実に不利。3回勝負なら、2回やる方が不利になるが、これはどうやって決めるんだ?」



 あっ!

 そうか、確かにそうだ。


 ブレイクで、他の球が落ちる確率は高いし、ブレイクで確実に1番を入れるのは容易ではない。

 ちなみにブレイクとは、最初に固まって並べられた玉を崩す1発目の事を言っている。


 くそっ! 見落としたぜ。


 こういうところが、俺とカリーの違いだ。

 俺はもっとよく考えないといけない。 



「はい、おっしゃる通りです。ブレイクについては立会人がやる事になっています。お二人が打つのは、ブレイク後の状態からです。ちなみにブレイク後の順番ですが、これはブレイク後にビリヤード台の中心から左右に分けて、数が多い方が最初となります。今回で言えば、左がカリー殿。右がサクセス様でございます。」


「なるほどな。わかった。じゃあもう一つ聞きたいが、いいか?」


「はい、どうぞ。」


「ペナルティ後に打つ場合、白球の置ける場所は選べるのか?」


「選べません。白球の配置は、どんな時でも自由になることはありません。白球が落ちた場合のみ、ブレイク時に配置される場所に戻るだけです。」


「わかった。俺からの質問は以上だ。」


「サクセス様の方は何かありませんか?」



 カリーの質問が終わると、セイメイは俺にも確認する。

 だが、俺はカリーと違って、疑問自体が浮かばない。

 正直に、「無い」と言ってもいいのだが、もう少しだけ考えてから答えよう。



 何かないか?

 自分の運命を決める勝負だぞ。

 よく考えるんだ、俺!


 そして一つだけ疑問に気付いた俺は、セイメイに確認する。



「そうだな、じゃあ俺からも一つだけいいかな?」 

  

「はい、どうぞ。」


「ジャンプボールは有のルールか?」



 そう、俺が聞いたのは白球を台に滑らさずに、浮かせて飛ばす打法。

 この技術はセイメイから教わったのだが、その時に注意されたのだ。

 ジャンプボールについては、邪法とされて、使うとペナルティになる場合があると。 



 俺の質問を聞いて、セイメイの顔が優しい笑顔に変わった。

 どうやら、自分が教えていた事をちゃんと覚えていて、嬉しかったらしい。



「はい。ジャンプボールは邪法ですが、今回のルールでは可能となっています。ペナルティはありません。」


「わかった。とりあえず俺からの質問はそれだけだ。いや、後一つあるな。」



 俺がそう言うと、カリーが驚いた顔をした。

 まさか、俺がそんなに注意深く質問をするとは思わなかったようだ。

 


「はい、どうぞ。なんでも聞いて下さい。」


「それじゃあ、これが最後になるが、プレイ中に気付いた事や疑問があった場合、それを質問することは可能か?」



 俺は今の段階で疑問に思う事は見つからなかった。

 しかし、プレイを始めたら何かに気付くかもしれない。

 だが、審判であるセイメイが、プレイ後に答えてくれるかは別だ。

 これは、遊びでも練習でもない。

 試合だからな。



「……それについては、できかねます。試合開始後の質問は、基本的に全てお答えしません。対局が終了しましたら、説明は可能ですが。そして、審判である私の決定は、この試合においては絶対です。異議は認めませんし、審判に対する非礼は即失格となります。これは、紳士淑女の球技ですので。」



 セイメイの説明に、カリーが反応する。



「はっ! じゃあ、あれだな。サクセスに有利にされたとしても文句は言えないという事か。まぁ、そのくらいのハンデは構わないけどな。」



 カリーは今の説明を受けて、俺がズルをすると疑っているようだ。

 まぁ、普通に考えれば無謀な勝負な訳で、危惧するのは当然だな。

 

 

 だが、それは間違ってるぞカリー!



「何を勘違いしてるかわからないが、俺はガチだ。卑怯な手は使わないし、セイメイはフェアにやる。」



 カリーの言葉に俺は、少しイラっとしてしまった。



「そうじゃねぇよ。俺が言いたいのは逆だ。卑怯な手を使ってでも勝つためには何でもしろって事だ。今サクセスがそんな質問をしなければ、もっとうまく俺を騙せただろ?」



 !?


 こいつ……そうか。

 そういうことか。

 ここでもカリーは……。



「そうだな。その通りだ。俺は負ければ死ぬかもしれない。だからこそ、絶対勝たなければならない。故に、その為ならば、卑怯な手を使う事も必要かもな。だけど、それは今じゃない。俺は負けても死なないし、必ず生きて海を渡る。どんなことをしてもだ。そして、この勝負は俺にとってガチで勝つことに意味がある。だからこそ、卑怯な手を使う選択肢なんかは、そもそも存在しない。カリー……俺を見くびるなよ。」


「ふん。そうか。そうだな、今回は、俺の方がお前を見くびっていたな。」



 俺の言葉をカリーが素直に肯定した。

 少しだけだが、カリーの顔が嬉しそうに見えるのは気のせいだろうか。

 いや多分、気のせいではないだろう。

 

 ここでもカリーは、俺を成長させようとしているんだ。

 それが、今の俺ならわかる。

 前なら直ぐに挑発に乗ってカッとしてしまったかもしれないが。



「それでは、質問はもう無いようですので、これより試合を開始します。両者握手をしてください。」



 セイメイのその言葉で、俺はカリーと向き合う。

 そしてお互いが手を出し、その手を握った。



「俺は負けない。カリーに俺の成長を見せてみせる。」


「望むところだ。お前の本気を見せてみろよ。」



 こうして、遂に二人の戦いの火蓋が切って落とされるのであった。

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