第46話 燃え上がれ……種火を風に
俺はひとしきりベッドの中で泣いた。
それはもう情けない位に……。
自分が悪いのはわかっている。
でも簡単に受け入れられるほど軽いものではなかったのだ。
そして俺は枕を抱きしめて、もう一度寝ようとしたところ、枕の下に何かがある事に気付いた。
「て、手紙……? まさか……。」
俺が寝ているベッドの枕には手紙がしのばされていた。
俺はそれに気づくと、急いで封を切る。
だが……それを読むには勇気が必要だった。
何が書いてあるか見るのが怖かったのだ。
俺への罵倒か?
それとも、何か言い訳でも書いてあるのか?
怖い……読むのが怖い。
ゲロロン(大丈夫、僕も一緒にいるから)
するとまた、ゲロゲロの声が聞こえてきた。
二度目にもなると、幻聴ではない気がする。
だが、やはり周りを見てもゲロゲロはいない。
どういうことだろうか?
多分、俺の記憶がゲロゲロに言ってもらいたい言葉を再生しているのかもな。
そう自分を納得させると、俺はそれに勇気をもらい、読むことを決める。
その時、胸の中でゲロゲロの魔石が淡く光っていた事に、俺は気づいていなかった。
そして、手紙の差出人はやはり、シロマ達だった。
~拝啓 サクセス様~
まず初めに、サクセスさんがこの手紙を読んでいるという事は、無事に意識を取り戻してくれたのですね?
もしも、ずっと起きなかったらどうしようかと、みんな心配していました。
この手紙はリーチュンとイーゼさんを含めた私達の気持ちを、私シロマが代表で書いています。
最初に謝らなければいけませんね。
サクセスさんが目を覚ました時、一緒にいることができずすいませんでした。
しかし、私達にはどうしてもやらなければならない事があったのです。
実はサクセスさんには黙っていたのですが、転職の時、女神様に言われたのです。
天空職という、最上位の職業に転職ができるという事を。
その天空職になる事ができれば、今の何倍にも強くなれると言われました。
しかし、その職業に転職するには、一人で異世界に行って試練を乗り越えないといけなかったのです。
それも、早くても半年か一年、長ければ死ぬまで戻ってこれないとのことです。
私達三人は、絶望しました。
大好きなサクセスさんと別れたくなかったのです。
それに今のままでも、サクセスさんは強いですし、そこまで力が必要だとも思いませんでした。
本当にダメですよね。
サクセスさんに頼りっきりで、甘えているだけで……本当に自分が嫌になります。
ですが、今回、ゲロちゃんが死んでしまって、そして、サクセスさんも倒れてしまいました。
その時、自分達が今までどれだけ甘えてきたのかを痛感したのです。
そして、大好きな人が苦しんでいる時に、何も力になれない自分が悔しくて……許せなくて……。
このまま、サクセスさんと一緒にいても、足を引っ張るだけ……いえ、それだけではなく、むしろ私達を庇うことでサクセスさんがまた危険な目に遭うかもしれない。
そう思うと、私達は怖くなりました。
だから、決めたのです。
強くなろうと。
サクセスさんに会えないのはとても辛いです。
ですが、サクセスさんの力になれずに、また同じ悲しみを味わうのはもっと怖い。
だから、みんなで決めました。
試練を受けることを。
本当は、サクセスさんが目覚めた時に、しっかり話して行きたかったのですが、多分サクセスさんは私達を止めたでしょう。
そんな帰れるかもわからない、危険なところにサクセスさんが私達を行かせるはずがありません。
そして、私達はそれに甘えるわけにはいかないのです。
だから……待っていて下さいとは言いません。
もしかしたら一生会えないかもしれませんし、それならば、私達の事は忘れて下さい。
私達の事を引きずって、サクセスさんが自分の人生を楽しめなくなることが一番辛いです。
私達はみんな、サクセスさんの笑顔や優しさが大好きです。
恥ずかしいですが、手紙なので言いますね。
愛してます。
だから、私達は絶対生きて戻りたいとは思ってます。
必ず、サクセスさんの隣に立てるようになって、戻ります。
ですが、正直、そんな事を軽はずみに約束なんてできませんよね。
私達はサクセスさんを絶対忘れないですが、サクセスさんは忘れてもいいですってちょっと! リーチュンが絶対忘れるなと叫んでいますが、無視してください。
イーゼです。
シロマさんばかりが書いてて、ズルいと思ったので手紙を奪い取りましたわ。
サクセス様、わたくしはどこにいても、たとえ死んでも、サクセス様と共にいます。
もしも、帰ってこれたら、一緒に大人の階段を上りましょう。
わたくしは、それを想えば、きっと死なずに戻ってこれると思いますので。
ですから……
リーチュンだよ!
イーゼが変な事書いてたから、奪ってやったわ。
サクセスさ、今泣いてるでしょ?
えっへへー。
どうだ! アタイがいなくて寂しいでしょ?
少しはアタイのありがたみがわかったかな?
って、あれ? 泣いてるのはアタイだったみたい。
寂しいよ、サクセス。
会えなくなるのは凄い寂しい。
でもアタイ頑張るね!
絶対サクセスより強くなって戻ってくるんだから!
だから……戻ったらまたキスしようね!
シロマです。
みなさん、私に任せると言っておきながら勝手ですよね!
本当に困った人たちです。
でもやっぱりみんなサクセスさんの事が大好きなんですよ。
ここだけの話、みんなよりも早く戻ってきて、サクセスさんを独り占めにしようと計画を立ててます。
だから、忘れてくださいって言いましたけど、やっぱり忘れないで下さい。
絶対戻ってきますから!
だから、それまで、絶対無理をしないで下さい。
もし戻ってこれたのに、サクセスさんがいなければ、私達は生きている意味を失います。
なので、これだけは約束してください。
絶対死なない事!
作戦は、サクセスさんがいつも言ってる通り
【いのちだいじに】
です。
長くなってしまいましたが、これで最後とします。
どうか、サクセスさんに女神の加護がありますように。
シロマ リーチュン イーゼ
「みんな……馬鹿野郎……。泣くなっていっても無理……じゃないか……。くそ、俺は本当に泣き虫だな。」
手紙を読み終えた俺は、出し切ったはずの涙がまた溢れ出してきた。
「そうか……呆れたわけでも、見捨てられたわけでもなかったんだな……。くそ、俺はなんて……幸せな奴なんだよ。そうか、そうだよな。みんなも悔しかったのか……。おし! 俺も負けられない。一人でも構わない、みんなが戻ってくるまで寂しいけど、頑張るよ! ありがとう! みんな!」
そして俺はやっと立ち直った。
そこでやっと気づく。
俺の胸の中に入れていたゲロゲロの魔石が光っている事に。
「ゲロゲロ? お前……ゲロゲロなのか?」
げろお(そうだよ。ずっと一緒にいたよ。)
なんと、魔石から意思が伝わってきていたのだった。
「ゲロゲロ! げろげろぉぉ!!」
俺はその魔石をもう一度取り出すと抱きしめた。
げろぉ ゲロゲロ(僕ね、死んじゃったけど、サクセスとずっと一緒!)
「そうだな! ずっと一緒だな! そうか、俺は一人じゃないんだな! こんなに嬉しい事はないよ!」
げろろん(役に立てなくてごめんね)
「何言ってるんだよ! イーゼを救ってくれたじゃないか! 謝るのは俺の方だ! ゲロゲロ、俺、絶対ゲロゲロを生き返らせてみるから。だから、それまで俺の中にいてくれ。頼む!」
げろろん(うん! ずっと一緒! サクセス大好き)
実はこれ、サクセスが転職した職業【魔心】のスキルによるものであった。
心を通わせた魔物は、魔石になっても、心が通じ合うことができる。
転職したことは無駄ではなかったのだ。
「よし、じゃあオーブの在処もそうだし、ゲロゲロを蘇らせる事、そして強くなる事……やる事は沢山あるけど、とりあえず女神に会ってくるよ。そこで何か有益な情報をもらえないか、聞いてみることにする。」
げろろん(僕の事はいいよ。頑張って。)
「馬鹿! お前が一番大事なんだ! 早く復活させてやるから、そしたらまた触らせてくれよな?」
ゲロォ(うん、サクセスに撫でられるの好き!)
仲間達は俺の為に命を懸けて頑張っている。
そして、ゲロゲロもまた、俺の中で生きている。
俺は一人じゃない!
だから……俺は自分自身を必ず超えていく。
叶わないとか、無理だなんて言葉は絶対に吐かない!
「さぁ……いくぞ!!」
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