第47話 女神のしるべ

 立ち直った俺は、早速女神のいるマーダ神殿に向かった。

 すると女神像の前でマネアが祈りを捧げている。

 

 マネアはマーダ神殿にいるとは聞いていたが、一体どれだけ祈りを捧げているんだ?

 

 そんな事を考えていると、どうやら丁度お祈りが終わったようで、立ち上がると俺の方に振り返る。


「あら、サクセス様。目が覚めたのですね? お祈りに来られたのですか?」


「あぁ、ちょっと色々聞きたいことがあるんでな。そういうマネアも女神から何か聞いたのか?」


「……え? 女神様とお話ですか? 私の方は女神様からご神託を賜りたくて、このように毎日祈りを捧げております。」


 ん?

 どういう意味だ?

 普通に祈れば話せるんじゃないのか?


「御神託? よくわからないが、女神様から何か話を聞いたってことかな?」


「はい。オーブを集めるようにと、御神託がありました。ですが、それだけです。まだ、祈りが足りないようですね。」


「ん? 普通に話せばいいんじゃないのか?」


「いえ、女神さまと話す事はできませんよ? 私達の祈りの大きさに対して、御神託を授けて頂く程度です。それですら、中々授かることはできませんから……。もしかしてサクセス様は女神様と話す事ができるのですか?」


「え? そうなのか……。前に一度来た時、女神を名乗る者と話せたから、誰でも話せるのかと思ってたよ。」


 俺の言葉にマネアは目を見開いた。


「そういえば、以前ビビアン様も同じ様な事をおっしゃられていましたね。何か特別な力を持った方は、女神様と直接話ができるのかもしれませんね……。では、もしよろしければ、魔物化した者を元に戻す方法について聞いていただけないでしょうか?」


 マネアは縋るような目つきで俺に言ってきた。

 隠しているようだが、マネアも大分参っているな。

 目に隈が出来てる。


「元より聞くつもりさ。だが、期待はしないでくれ。また話せるかどうかは、俺にもわからないからな。」


「はい、もちろんでございます。それではそれまでの間、外で待っております。」


 そう言ってマネアは女神の間から出て行った。

 俺が一人の方が成功率が上がるとでも思っているのであろうか?

 まぁいい、とりあえずやってみるか。


 俺は女神像の前まで行くと、以前と同じように祈りを捧げてみる。


「女神様……私の声が届くでしょうか?」



 …………。



 女神からの声が降りてこない。

 もう一度祈る。


「女神様? 少しお話できないでしょうか?」



 …………。



 やはり、女神様からの返事はなかった。

 前回が偶々だっただけなのだろうか?


「はぁ……使えねぇな……ターニャたん……」



「なんですって!? もう一度言ってみなさいよ! 呪うわよ!」


「うお!! 聞いてたのかよ。 つか、何で返事してくれなかったんですか?」


「女神にも色々あるのよ。というか、本来私と話すなんてことはできないんですからね。あなたはとんずらから、勇者の魂を授かっているから話せるだけで……。あ、そうだ。とんずら。いるんでしょ? もう騙されないわよ。出てきなさい。」


 ん? どういうことだ?

 とんずらがいる?


「やぁ、ターニャ。元気そうだっぺ。相変わらず可愛いべなぁ……まぁ俺、今装備にだから目はないけど。」


「やっと姿を見せたわね! なるほどね、全て納得が言ったわ。そう言う事ね。だから職業が二つも……。」



 え? 何?

 この女神にはとんずらが見えているの!?

 いや、それよりも……


「とんずら、話せるの? どういうこと?」


「あぁ、すまないねぇサクセス。前回は君の中に隠れさせてもらったっぺ。なんつうの? ここ精神世界的なやつなんよ。だからね、まぁ、あれだべ。俺、話せるわ。めんご!」


 衝撃の事実だった。

 

 まじかよ。

 じゃあ童貞の呪いについて、話してもらおうかって、今はそれどころじゃねぇ。

 先に要件を済ませるか。


 と思ったら、とんずら達が勝手に話し始めていた。


「ねぇとんずら、なんで前回出てきてくれなかったの?」


「いやさ、なんつかあれだべ。久しぶり過ぎて何話せばいいかわからないっぺよ。しかも、俺は今装備だっぺなぁ……偉そうな事言っても、俺、何もできないべ? だから会わせる顔がなかったっぺよ。」


「そんな事はどうでもいいのよ! 私は久しぶりに会う事が出来て嬉しかったんだから! だから、もうそういうことはやめてね?」


「あぁ、わかったっぺ。それよりもサクセスが話があるんだべ。ちょっと相談のってけれ!」


 二人が勝手に話し始めたせいで、聞きたい事が聞けない。

 しかし、凄い訛りだなとんずら……。

 相手がターニャだからか?

 だが、意外にもとんずらは空気が読めるのか、ちゃんと話を戻してくれた。


「前回みたいに途中で話が終わると困るので、率直にいくつか聞きたいことがあります。まず初めに、俺達に何が起こったかは知っていますか?」


「はい、知っていますよ。私の声は普通の人には届かないのですが、相手からの祈りの声は聞こえています。ですので、話は既に伺っています。困った事になりましたね……まさか大魔王までビビアンに魂を送り込んでいたとは……。」


 いきなり、ターニャは女神風に話し始めた……。

 俺がとんずらではないと理解したからなのか……。

 まぁいずれにしても、今頃遅いわ!


「では、魔王化したビビアンを救う方法、それと魔物化した賢者を元に戻す方法はわかりますか?」


「それについては、私の方でも色々調べました。率直にお伝えします。オーブの力だけでは無理です。魔物化の解除はできますが、魔王化は不可能です。ですが魔王を倒し、そして、魔王化するために使われたアイテムを破壊すれば、もしかしたら……。」


 まじかよ……。

 オーブの願いでもダメか……。

 しかも願いが一つであれば、ビビアンとシャナクは同時には救えない。


「他に方法はないのですか? せめて魔物化を解除するだけでも。」


「魔物化の解除については、その者に埋め込まれた魔の魂を破壊すれば可能です。」


「え? 本当ですか? それはどうやればいいんですか?」



 …………。


 

 え? ちょ、なんでそこで黙るわけ?



「……それはわかりません。ですが、過去にそういう事ができたという話は聞いた事があります。ですので、何かしら方法はあるのでしょう。もしかしたら、そういった事ができる天空職があるのかもしれません。ですが、天空職になった者から話を聞きませんと詳しくはわかりません。」


「え? じゃあ聞いてくださいよ? 女神様ならできるんですよね?」


「できません! 私を便利な猫型ロボットと一緒にしないでください!」


 女神が何を言ってるか、意味がわからない。

 でも、一つわかるのは……女神の仮面、剥がれてるぞ!

 まぁ今更だけど……。


「まぁじゃあこういう事か、オーブを集めるのと、天空職の者の話を聞く、若しくは、天空職の者を探す。これであってるか?」


「そうですね。ですが、天空職の者はこの世界の住人には現在一人もおりません。」


「じゃあダメじゃん!!」


「いえ、もしかしたら異世界から来訪している者もいるかもわかりませんので、この世界にいない……とは言っていないのです。あなたの運が良ければ、もしかしたら……。」


「また運頼みか……。まぁいいや。とりあえず、聞ける事は聞いたしな……。ところで、俺はここに来ればいつでも女神様と話ができるのですか?」


「いえ、私と話せるのは満月の日だけです。その日だけは、短い間ですが、直接このように話をできます。」


「随分、複雑な設定ですね……。」


「設定じゃありません! そういう仕組みなんです! あ、設定と仕組みって同じかしら?」


 やっぱ、この女神はアホだ……。


「ところで、まだ時間はありますか?」


「いえ、間もなく時間ですわね。とんずら、ちょっといいかしら?」


「お? なんか呼んだべか?」


「ちょっと! あなた聞いてなかったの? 私の女神プレイ!?」


 おい、この駄女神……

 自分で女神プレイとか言っちゃってますけど!

 あぁ……なるほど。

 それで、口調変えてたのか……。


「聞いてたっぺよ。んだば、難しくてオラ眠くなったべな。んで、どうしたんだべ?」


「はぁ……相変わらずね。まぁいいわ、とんずら、あなたに女神の導(しるべ)を授けますわ。サクセスさんは、その導に従って旅をしてください。そうすれば、必ずオーブに辿り着くはずです。大魔王の力が強くなりつつありますので、できるだけ急いでいただきたいのです。あ、あと……満月の日以外だって会いに来てもいいわよ! べ、別にアンタ達に会いたいわけじゃないんだからね!」


 なんで最後はツンデレ?

 まぁ、ここで一人は寂しいよな……。

 たまには、とんずらに会わせてやるか。


 って、ああ!!


「ちょ、ちょっとまった。とんずら! 童貞の呪いについて詳しく……」



 ヒュン……



 なんか、急に意識がはっきりしてきた。

 どうやら、女神とのリンクが切れたようである。


 間に合わなかった……。

 畜生……!

 思い出すのが遅かった。

 仕方ない、それはまた次回だな。


 俺は目を開けて、ふと自分の盾を見ると、そこに見たことがない赤色の丸い球が埋め込まれていた。


「ん? これが導ってやつか? なるほどね。まぁ、後はこれに従えってことね。やるじゃねぇか駄女神。」


 でも、これどうやって使うんだ?

 肝心な事、教えてねぇよ!

 えせ女神様!!


「まぁ考えても仕方ないか。とりあえずマネアに話してあげるかな。」


 俺はそのまま女神の間を出ると、扉の外にはやはりマネアが立って待っていた。


「どうでしたか? サクセス様。」


「あぁ、話せたよ。どうやら満月の日だけ、俺は話せるらしい。それよりも聞いた事を話すよ。」


 俺は女神から聞いた魔物化を解除する方法をマネアに伝える。


「なるほど。そうでしたか……わかりました。それでは天空職の者については、私が水晶を使って探してみます。それに一人だけ心当たりもありますし。それでは、サクセス様はその女神様から与えられた導に従ってオーブを探すのですね?」


「あぁ、とりあえずそうしようと思う。俺はマーダ神殿をキマイラの翼に登録するから、1ヵ月毎にこの町で情報交換するっていうのはどうだ?」


「はい、わかりました。私の方も何か他の方法がないか探したいと思います。」


「そうか、じゃあここでお別れだな。あとすまないが、ミーニャに……伝えて欲しい。当たってしまってすまなかった、とな……。」


「……はい。大丈夫ですよ、お互い様ですから。それでは伝えておきますね。あなたに女神の加護があらんことを。」


 そう言って、マネアは俺の前から立ち去っていった。

 女神の加護ねぇ……。

 なんか、あまり効果がなさそうなのは気のせいかな。


 まぁいい。

 ここから、また俺は再出発だ。

 一人になっちまったけどな……



 ゲロロォ(僕を忘れないで!!)



「おっと、そうだったなゲロゲロ。じゃあ二人で新たなる旅にでますか!」



 ゲロロ(イエーーイ!)



 こうして、俺のマーダ神殿までの旅は終わりを告げた。

 悲しい事も嬉しい事も沢山あったが、俺の旅はまだまだ終わっていない。

 必ず大魔王を倒し、そしてビビアンを救ってみせる!

 その為には、まずはオーブ探しだ。


 みんなの為にも、俺はもっと強くなってみせるぞ!!





 第二部 勇者と魔王 完



 なのですが、この後、イーゼ編、シロマ編、リーチュン編、ビビアン編が続きます。

 各編は、そこまで長くはありません。

 それが終わり次第、第三部開始です。


 第二部はいかがでしたでしょうか?

 遂にハーレム童貞にジョブチェンジしたかと思えば、まさかのソロ展開。

 第三部からは、男キャラメインになっていくつもりです。

 是非お楽しみ下さい。


 それと毎度のお願いで恐縮ではございますが、もし少しでも面白いと感じていただけたならば、星をつけていただけるとむせび泣けます。


 そして、いつかレビューを書いていただけることを夢に願っております。

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