第64話 夢と浪漫と理想郷
「遂に来たな……相棒」
(ようやく……だな、相棒)
通算二度目となる第二ステージ。
今、俺は……いや俺達は念願の宿屋の前で勃って、じゃなくて、宿屋の前に立っている!!
苦節100ターン。
ようやくお楽しみの場所まで辿り着くことができたのだが、ここに辿り着くまでにどれ程の誘惑に耐えたことか……
第二ステージに存在する宿屋は三カ所で、フェイクを入れると四カ所ある。
一度フェイクに引っかかっている俺は、フェイク宿屋の前にある宿屋も、実はフェイクなのではないかと疑心暗鬼になり、それであれば、序盤にある宿屋マスに止まろうかどうかで随分悩んだ。
しかし結局は踏みとどまる。
なぜならば序盤の宿屋ということは、仲間達もまだ近くにいるという事なのだ。
それが意味することは、同じターンにもしも宿屋マスに止まれば、一緒に御泊りとなって落ち着けない可能性があるということ。
特に今回好調に進んでいるリーチュンは、常に近くにいたのだ。
その為、悩みに悩んだ結果、数字カードを使わずに進み続けてしまったとうい訳である。
んで、そういうもどかしい展開が続いた結果、最後の宿屋まで引っ張ってしまったのだが、今にして思えばそれでよかった。
というのも、今回はルーレットの数字が5で止まる事も多く、青マスやら黄色マス等にも止まることができたので、余裕を持って数字カードを使ってここに来ることができたからである。
その上で俺は再認識する。
「俺の運、マジやばくね?」
とね。
(あぁ、気持ち悪いくらいな! 運キモだ、運キモ!)
うんきもってなんやねん!
てまぁ、でもそうなんです。
5や6しか出ないだけでなく、赤マスに一度も止まらないんですわ。
更に紫マスに止まれば、バフが掛かって毎ターン生命力が100回復するようになったり、青マスに止まれば、
【カード複数購入権】
なるレアアイテムが手に入ったりと、もう色んな意味で無双状態である。
ちなみに黄色マスに止まるとお店でアイテムが買えるのだが、基本的に買えるのは一つだけ。
しかし!!
【カード複数購入権】を所持していると、一度に三つまで購入できるのだ。
しかも、このアイテムは消費されない!
なんというレア! なんというチート!
これのお蔭で俺は数字カードを各2枚づつ揃えることができた。
しかし数字カードも決して安い物ではないので、通常はそんなに買えない。
だが俺の場合は一周目で散々戦いまくってた為、お金に余裕があったので問題なく揃えることができたってわけさ。
まぁそんなこんなでようやく宿屋で落ち着ける俺は、前回と同じようにエルフの店員さんに挨拶しつつ、一目散に部屋へと駆け込んだ。
(はやく、はやくぅ~)
「落ち着けトンズラ、時間はある。まずは体を清めてからだ」
(えぇーー! 俺っちには関係ねぇし! 焦らすなよぉ~)
俺としても直ぐにでもパワーアップの儀式に取り掛かりたいのは山々だ。
だがやはり紳士としての嗜みを忘れちゃいけねぇ。
ということで、俺は逸る(はやる)気持ちを抑えつつ、まずは一風呂(ひとっぷろ)浴びることにするのだった。
※ ※ ※
「ふぅ~落ち着くな。疲れが取れるぜ。そういえばみんなも宿屋は使ってるのかな?」
(…………。)
俺が風呂にゆっくり浸かり始めると、さっきまでうるさかったトンズラが急に静かになる。
うるさいのも面倒くさいが、こう、急に黙られても気になってしまうぜ。
「なんだよ、トンズラ。拗ねてんのか?」
(……違うっぺ。ちょっと気になる事があって、それを考えてたんだべ)
あれ?
てっきり俺がさっさとおっぱじめないことに怒っているかと思ったのだが、違ったようだ。
一体何をそんなに真剣に考えているのだろうか。
「気になる事って何?」
(相棒も気づいてると思うけど、あっちの世界だとよぉ……)
「うん? あっちって、あぁ想像の世界ね。うんうんそれで?」
(……アソコだけモザイク掛かってるべな?)
「ぶっ!」
突然何を言い出すかと思えば、まさかあのこととは。
思わず吹き出してしまった。
「なんだよ急に。いや、まぁ確かにそうだけどさ。それがどうし……」
(あれ、無修正で消せるんじゃね?)
…………。
「お前……天才か?」
言われて初めて気づく、究極の発想。
正直、前回の段階では無修正というスキルは持っていなかったものの、モザイクがあっても十分すぎる程に刺激的だった。
故にその素晴らしい発想に気付くどころか、考えることもなかった。
だがこれは世紀の発見……いや、性器の発見かもしれん!!
ナニ上手いこと言ってんねん! というセルフノリツッコミはともかくとして、それだけの発見を口にしているにもかかわらず、なぜかトンズラの声には抑揚がないというか、浮かない様子が感じられる。
一体どうしたというのか?
何か問題でもあるのだろうか?
(なぁ、相棒。いや、サクセス。)
「何だよ急に。そんなあらたまって」
今度は一体何を言い出すのだろう、もしやあれだけの最高の提案をしてきて、やっぱりやめたとか言うつもりなのかな?
しかし、何を悩んでいるのかさっぱりわからん。
普通に使えばよくね?
と俺は思うのだが、続くトンズラの言葉にハッとさせられた。
(……見えないからこそ、そこに夢やロマンがあると思わねっぺか?)
言われて初めて気づく事。
そういうのってあるよね。
見たい!
というのは、見えないからこそ興奮するわけで……。
なるほど、トンズラのくせに深いな。
「言いたい事はわかる、確かにそうだ」
(だよな。じゃあ……)
「うん、それにみんなのプライバシーの為にも使うのはやめた方が……」
ーーと言いかけたところ
(……ガンガン無修正使うっぺよ! んで、色んななまんちょ見ようぜヤフーー!)
!?
「はい?」
さっきまでの話はどこいった?
つか、いきなりテン上げされると戸惑うわ!
(いいや、今考えたんだけど夢とかロマンとかクソくらえだわ! そんなもん、スライムにでも食わせとけ!!」
「……いや、お前が言い出したんじゃ。って、どう考えても今のはやっぱり見ない流れだよね? それにそんな事したら、これから仲間にどんな顔をして会えばいいんだよ? ダメだってば」
「いやいやいや、それこそ今更じゃね? いいのか? 本当にお前はそれでいいのか相棒! 素直になれよ!!」
その言葉は俺の胸の奥にある魂まで響いてきた。
今更ナニを恐れる必要がある。
誰に格好つける必要がある!?
自分に……自分に正直になろうぜ!!
「お、俺は……俺はぁぁぁ!! 見たい! 見たいぞなまんちょ! 強がってごめん! 本当はずっと見たかった!」
(だよな! わかるぜ相棒! じゃあ早く理想郷を見にいこうぜ!)
「おうよ!!」
(正直ムーブ……イエェェェーー!!)
「偽善者ムーブ……イエェェェア!」
そして謎に二人とも超ハイテンションとなった俺達は、その後……
※ ※ ※
「はぁはぁはぁ……もう無理……」
(俺っちも限界だぜ……)
無事ステータス上昇に成功した俺。
ーーだが
「残念だったな。なんでダメだったんだろ?」
そう。例の無修正計画だけは失敗に終わってしまったのだ。
何度試そうとも、あの厄介なモザイクを消す事だけは叶わなかった。
むしろそれを意識してしまったせいか、前回より興奮値は下がっている。
こんなことなら、気付かなければ良かった……。
(やっぱあれじゃね? なまんちょ見た事ないからじゃね?)
「いや、俺は一度だけイーゼのを……あれ? おかしいな。確かに一瞬見たはずなんだけど……お、おぼえてねぇぇ!」
(興奮し過ぎてたんじゃね?)
「うわぁぁ! もっとマジマジみて脳内に焼き付けておくんだったぁぁ!」
思い出そうと思えば思う程、靄(モヤ)が掛かったように、全く思い出せない貴重な記憶。
頭を両手で抱えながら必死に思い出そうとするも無理だった。
(まぁいいっぺさ。でも一つわかったべ。無修正は現実世界の人物に関してはダメだってな。逆にこの世界のものなら使える。なら、この世界の女を見つけようぜ!)
「お前……今日冴えまくってんじゃんかよ!」
(てやんでい!)
「よっ! この歩くエロボード!!」
と色々終わった後も盛り上がる俺達。
それはそうと、やる事はやりまくったので、ステータスの方もバッチリだ。
そして毎度お馴染みの使用済みシコッティで武器防具の強化もした。
その結果だが……
(まさかここまでとはな。俺っちも驚きだっぺ)
そう、今の俺のステータスはトンズラも驚くレベル。
二次転職によって上限が解放されたのだが、それによってかなり現実世界における俺のステータスに近づいていた。
サクセス レベル41
狂人(童貞を拗らせた男)
生命力 700
精神力 700
ちから 500
みのまもり 500
すばやさ 500
うん 500
ちりょく 500
そうぞうりょく 200
ぼっきりょく 200
装備
せいなるつるぎ(狂) 攻撃力95
せいなるよろい(狂) 防御力60
せいなるかぶと(狂) 防御力45
せいなるたて (狂) 防御力40
1次スキル
・エレクト
・自家発電
・イメトレ
・武器創造
2次スキル
・狂人の友達
・無修正
・暴走
・オナスラッシュ
(やっぱ、俺っちのお蔭だべ)
「なんでやねん! 普通にステータスくれた方が良かったし!」
(ちっちっち。普通には振れない状態だったからこそ、機転を利かせたんだべな)
「どゆこと?」
(あの時、この世界に来てシステムとかいうものに触れた時、即座に理解できたんだべな。こうするのが一番いいってな。伊達にサクセスの装備に転生してねぇってやつだっぺ)
※ ※ ※
実際、トンズラがステータスやスキルに手を加えなければ今のサクセスの能力はあり得なかった。
それはルールの穴をつくような、反則技とも言える。
トンズラは現実世界でも意思を持った装備として、サクセスのステータスやスキルに関与していた。
だからこそ、この世界のシステムに組み込まれた際に、感覚的に理解できていたのである。
この世界では、魂の強さがそのまま職業やステータスに影響する。
故に、サクセスのように二つの強い魂、そしてトンズラ自身の魂も含めると三つの魂だが、これはシステム的には想定外であり、個の能力に反映させるには完全にキャパオーバーだった。
仮にそのまま反映させたとしても、精々初期ステータスが上限のオール200になるだけで、成長レベルも他のプレイヤーと変わらない。
それは本来の魂値による伸びしろを切り捨ててしまうことと同義。
そうならないため、トンズラは無意識にも本能で手を加えた。
そしてそれはサクセスの今後にとって間違いなく大きなプラスとなる。
もちろんそんな事はサクセスが知ることもなければ、トンズラ自身も実はよく理解していないが……
※ ※ ※
「ごめん、ちょっと意味わかんない」
(まぁわからんちんでええで。どうでもいいことだっぺな)
「なんだよそれ。でも、まぁ、お蔭でムフフが楽しめるから許す!!」
(だろ? 俺っちは最高の相棒だべ?)
「あぁ、ズットモだぜ!!」
こうして俺は更なる快楽と共に、計り知れない程の力を手に入れることができた。
後は、他のメンバーが無事にボスマスに到着する事を祈るだけである。
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