第65話 とりあえず、土下座
「よし、みんな集まったな」
現在、俺達は第二ステージのボスマスに集まっている。
今回は前回と違って神殿に寄る必要がなかった為、10ターンも残して全員がボスマスに到着できた。
だが本番は正にこれからだ、油断はしない。
第一ステージのボスはかなり手強かった。
といっても俺のステータスがずば抜けていた為、ワンターンで倒せてしまったが、仲間達は結構ギリギリだったと思う。
そう、チュートリアルである第一ステージでそうなのだ。
そして第二ステージからはバトルマスで戦う雑魚すらもかなり強敵になっている。
それを考えれば、第二ステージのボスの討伐難易度がどれほど高いかは窺い知れるだろう。
はたして俺達は初見で倒せるのだろうか……
そんな不安を胸に戦い始めたんだけどね。
まさかこんなことになるだなんて……。
「……みんな、ごめん。ほんと、ごめん」
灰になって消えゆくボスモンスターを前に、俺はみんなに謝罪していた。
第二ステージのボスは、
凶悪な苔コッコー
という、全身苔だらけの巨大なニワトリ。
そのボスが飛ばしてくる苔に当たると、防御力が下がったり、毒に侵されるといったデバフを受けたりする。
その他にも飛んで急降下してくる攻撃は地味に大ダメージをくらうし、何よりも敵が二回行動なのがかなりキツイ。
つまりは、予想通り強敵だったということだ。
しかしそれでも防御力や生命力が上がったみんなは、十分張り合える程強くなっているが、それでも倒せるかどうかはわからない。
だからこそ、それぞれが今ある力を全力で出し切るつもりであり、同時に、今の自分達の力がボス相手にどこまで通用するか知りたかった。
ここは現実と違ってゲームの中。
その大きな違いは、死というリスクがないというところだろう。
だからこそ、必死ながらも楽しむことができる。
楽しむことができるからこそ、ギリギリの戦いに高揚感も感じていた。
つまりですね、簡単に言うとですね、みんなボス戦めっちゃ楽しみにしてたって話なんすよ。
それは近くにいるだけで、みんなからヒシヒシ感じていました。
シロマは最初から虎の子である悪魔召喚(発動まで二ターン必要)を使っていたし、リーチュンやカリーも新必殺技である接続技を使おうとしていたし。
もう最初から全員が
【がんがんいこうぜ】
だったのだ。
ちなみに接続技とは1ターン目に前提スキルを使う事で、二ターン目に強力なスキルを使える技。
俺の持っているスキルでいうところの、オナスラッシュだ。
俺の場合、エレクトという前提スキルを使う事で、次のターンにはオナスラッシュが使える。
ただ違うところがあるとすれば、俺のエレクトはそれ自体が攻撃スキルにはなっていないが、他の人の前提スキルはしっかりと効果があるというところだ。
カリーの使う前提スキルの大地烈斬は、ちゃんとそれ単体でも敵にダメージを与えるし、リーチュンの前提スキルであるパッションダンスも全員の力をアップさせるバフを与えてくれる。
そんなスキルと比べると、俺のエレクトは見劣りどころか同じ土俵にも立てていないスキルなんだが、それでも俺はこれを使うしかない。
みんなが輝かしい戦闘を繰り広げている中、俺の1ターン目は無修正でボスの弱点を筒抜けにしつつ、こっそりエレクトを使いながら自分の鞘をシコシコとするだけで……。
でもしょうがないじゃん。
これが俺の戦い方なんだもん……
といったところで早速2ターン目に入ると、やはり素早さのステータスから、最初に動けるのは俺だった。
ーーそして
【オナスラッシュ】
サクセスは オナスラッシュを 放った。
苔コッコーに 1919 のダメージを与えた。
苔コッコーは たおれた。
はい、そういうことです。
俺も今のステータスでオナスラッシュを放つのは初めてであり、まさかこれほどの威力になるとは思いもしなかった。
そしてその結果、仲間達の見せ場を全て奪ってしまう事となり、高揚感溢れんばかりの勇ましい顔つきだった仲間達は、一斉に呆気にとられた顔へと変貌する。
そりゃそうだよな。
これから自分達の限界というか、今まで強くなった成果を発揮するぞって時に、目の前で一撃をもってボスが葬られてしまったのだ。
振り上げた拳の落としどころがわからないというか……まぁきっとそんな感じだろう。
いやぁ、ほんと、まじでやっちまった。
ってなわけで、みんなに謝っているところナウ。
「ま、まぁ、サクセスだしな……」
「そ、そうですね。我……いえ、私もわかってましたよ」
あまりの衝撃に厨二病を患っていたシロマすら、素に戻してしまうこの状況。
逆に俺もそんな反応を見せる二人にどう接していいかわからないって思っていると……
「サクセス! ちょっとアタイに殴らせて! これじゃ色々たまっちゃうよ!!」
かなり際どい服装になったリーチュンが俺に近づいてくる。
俺は正座をしているため、近づいてくるリーチュンを下から眺める感じだ。
「ごめん、好きにしていいよ」
俺はそう口にしながらも、近づいてくる見えそうで見えない何かを真剣な眼差しで凝視していると、リーチュンは俺の前に仁王立ちする。
おっふ、最高のトライアングル……
リーチュンの際どい下衣を、真下から真上に覗き込む俺。
もうこのまま殴られても全然構わない……そんな風に思っていると、リーチュンは
「もう、サクセスなんかこうしてやるんだから!」
と言いながら、その足で俺の正座している太ももと太ももの間をグリグリし始めた。
あ、ちょ……あ、あぁ、すん……ごい。
下から見える素敵な眺めと、未体験の快楽。
これは本当に罰なのだろうか?
どう考えてもご褒美なんだが……
と何故か突然のハプニングによって快楽に身を任せていたところ、そこにイーゼが割って入ってきた。
というより、
「何をしてるんですの、この野蛮人!!」
と言いながらイーゼがリーチュンを突き飛ばした。
「大丈夫ですかサクセス様。サクセス様は悪くなどありませんわ。むしろ先ほどの技、最高でしたわ」
と目をトロンとさせながら俺に抱き着いてくる。
うーむ、なんとなくイーゼはリーチュンの行動に腹を立てたというより、普通にこうしたかっただけのような……
と思いつつ、どっちにせよ嬉しい俺は特に拒否もしないんだけど、当然リーチュンは黙っていない。
「何すんのよイーゼ! サクセスには御仕置が必要なの! だってアタイの見せ場奪ったんだからね!」
(サーセン)
「だまらっしゃい! あなたはサクセス様に悪戯をしたいだけですわ! そんなのは許せませんわよ! わたくしがしますわ!」
(受けてたとう)
「あんたはいつもやってるんだから、たまにはアタイに譲りなさいよ! アタイだってサクセスを色々いじりたいんだからね!」
(もの扱い!? それも悪くない)
という感じで、いつものいがみ合いが始まる中、いつのまにかカリーが一人で宝箱を勝手に開けていた。
「お、すげぇの入ってるぞ!」
宝箱の中から何かを取り出したカリー。
「あ、カリー! ずるいぞ、勝手に開けるの!」
「すまねぇな。なんかそっちで勝手に盛り上がってるからよ。まぁそれより今回は当たり、いや、大当たりだぜ」
そう言って、手にしたアイテムである5枚のカードを俺達に見えるように見せると、一枚づつ俺達にカードをシュシュッと配った。
俺は早速手に入れたカードの内容をステボで確認する。
【フィーバーカード】
ルーレットを二度回す事ができ、二回目に回して出た数字は倍数となる。
ん? これはどっちだ?
なんとなくこうじゃないかというのがわかる説明だが、上手く把握できない。
「ちょっとわかりづらいな。シロマはこれの意味がわかるか?」
理解できない時は、やはりシロマ先生の出番です。
シロマなら俺でもわかるように上手く説明してくれる。
「はい。つまり二回ルーレットを回す内、一回目が6で二回目が5なら、6の5倍進めるようになるということだと思います」
なるほど、そういう意味か……いや、わかってたし!!
「最大で一気に36マスも一気に進めるってことだな」
「はい。ですので、使いどころを間違えないようにしたいですね。大切なイベントマスがあった場合、それを使う事で通り過ぎてしまう可能性もあります」
確かに!! でも基本的に遠くのマスに何があるとかわからないんだよなぁ。
二回目とかなら使い所もありそうだけど、初見ではちょっとね。
いずれにせよ、素晴らしいアイテムではあるが、考えなしに使うのは危険といったところだろう。
「次は今のところ誰もクリアできていない第三ステージだしな。もしかしたら、このアイテム自体が第三ステージにおける罠の可能性もあるね」
「サクセス様。わたくしも同じことを危惧していましたわ」
「えぇー、よくわかんないけど、アタイは速攻使いたいな! だっていつもサクセスに置いてきぼりにされるんだもん。たまにはアタイの方が前に進みたい!」
イーゼは当然このアイテムの重要性や危険性を理解していたが、リーチュンだけはちょっと危ないな。
第二ステージまでやってみて分かった事だけど、このゲームは早く進む事も大事だけど、それ以上にどのマスに止まるか、というのもかなり重要だった。
第二ステージで俺より早く進もうと張り合っていたリーチュンは、意味もなく高速カード(ルーレットの数字の2倍進む)を使ったりしてたっけ。
二回目のチャレンジだったから今回はそれでもよかったけど、初回でそれをやられると取返しのつかない要素をスルーしてしまうかもしれない。
流石に理解はしているとは思うけど、宿に戻ったら一度リーチュンとは話し合っておいた方がいいな。
「リーチュンには少し話し合う必要がありそうだけど、今はそれよりもまずゴールだな」
「はい。リーチュンには私からちゃんと話しておくので大丈夫ですよ」
「わたくしからもキッチリ指導させていただきますわ」
「えぇーー! なんでそんな話になってんのさ。アタイなんかした?」
「いや、なんかした訳じゃないけど、と、とりあえずここで立ち話もあれだから先に進むな」
リーチュンがふくれっつらになって少し不機嫌になってしまったので、有無を言わさず先に歩き始める俺。
シロマやイーゼが話すって言ってるし、アイテム関係の使い方とかは二人に任せることにしよう。
そして俺から先にボスマス奥にあるゲートに入って行くと、予想通り、前回と同じ白い部屋へとたどり着く。
だが前回と違うのは、俺の後に入ったであろう仲間達が来ていないことだ。
どうやら今回は俺だけが呼ばれたようだな。
まぁ事前に何を質問するか決めてたんで問題ないんだけどね。
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