第66話 ヒント

「ふむ。まさか必要最低回数で第二ステージをクリアしてしまうとはな。やはり主はおもしろい。」



 気付けば、いつの間にか目の前にいるゲームマスター。


 ここに着いた時にはいなかったはずなのに、毎回突然現れて突然消えるんだよな、この人は。


 つか必要最低回数ってことは、やっぱり第二ステージは転職必須のステージで、最低でも二回挑戦する仕様だったみたいだ。



「ありがとうございます。仲間達の知恵と力のお蔭です」


「仲間達……か。ふむ。仲間は大事にするが良い」



 なぜかちょっと感慨深い感じでそう口にするゲームマスター。


 なにか仲間というものに思うところがあったのかもしれないけど、今はそんな事をうっかり聞く訳にもいかない。


 なんせ質問は一回だけだし、前回の二の舞にはならないぞ。



「ふっ……わかっておる。もしそのような事を質問されても、我に関する事については答えぬから安心せよ」



 おっと、そういえば考えている事が筒抜けだったっけ。



「はは……えっと、では今回も質問に答えてもらえるのでしょうか?」


「そう我は約束したからな。我は人族と違って約束は破らぬ」



 人族と違って……なんか含みがある言い方だけど、まぁ今はそれより……



「では教えて下さい。次の第三ステージをクリアするにあたって、取返しのつかない要素について」



 俺がそう質問すると、ゲームマスターは顎に手をやり、何かを考え込んでいる。



「ほぅ、なるほど。よく質問の内容を練ってきたようであるな。そして可能な限り、我以外からもできる範囲で情報収集と予測を立てている……か。なるほど、我は少し感動したぞ」



 お、なんか嬉しそうだな。


 やっぱり自分が作ったゲームに対して、真剣に向き合っているのが嬉しいのかな?



「その通りだ、人の子よ。ではその質問に答えよう」




 真実はその目に映るものだけとは限らぬ。


 そのものの本質を見極めよ。


 チャンスは二度ある。


 それを逃せば、二度と先には進めぬ



「ちょ、も、もう一度!!」


「二度は言わぬ。どうせそのステボに我の言葉は記録されておるであろう。そのステボには何やら特別な魂が入り込んでいるようだからな」



 あ、やっぱり知っているんだ。


 というか、今の言い方だと俺のステボ関係の事はゲームマスターは関知していないっぽい感じだな。



「ふむ、我もソレについては予想外でな。何やらそのステボに宿る魂からは何か懐かしいもの感じるが……まぁよい。質問には答えた。主らが無事第三ステージを乗り越え、我のところまで辿り着くのを期待している。さらばだ」


「えっ、あ、ちょっと今のどういう意味で……」



 と聞き返そうとした瞬間、気付けば俺はみんなが待つ第二ステージ観戦場に転送されていた。



 今のどういう意味だったんだろう。


 我のところまで……って、つまり第五ステージの最期にはゲームマスターがいるってことか?


 まぁ今考えてもわからないことだし、とりあえずそれも含めてみんなと相談だ。



「あ、サクセス!! どうだった?」


「サクセス様! 無事で何よりですわ!」



 転送と同時にリーチュンとイーゼが飛びかかりながら抱きついてきた。



「ちょっ! 大丈夫、大丈夫だから!」



 悪い気はしないが、今はそれよりも忘れない内に色々と話しておきたい。


 ということで、二人をそっと引き離すと、今度はシロマがそばに来て質問する。



「それでサクセスさん、会えたのでしょうか?」


 

 非常に短い質問だ。


 しかしそれだけで俺には十分伝わるし、女王から言われていた他言無用の約束も守られる。


 ゲームマスターに関する事は口外してはいかない。


 それはきっとこちらの不注意で周りに聞かれてしまう事も含むだろう。


 そういう意味で、シロマの質問は完璧だった。



「あぁ、バッチリな。とりあえず忘れない内に話したいからすぐに宿に戻ろう。そこで話すよ」


「わかりました。ではみなさん行きましょう」



  秘密クラブから宿屋に戻った俺たちは、また俺の部屋に集まる事になるのだが、今は俺一人しかいない。


 今日は二回チャレンジしていたのもあって、夜も遅くなってしまったことから、先に食事と風呂を済ませようという話になったのだ。


 俺としては忘れない内に、さっさとゲームマスターが言っていた事を相談しようとしていたのだが、そこである問題に直面する。



 やべ、ゲームマスターが言ってた言葉、思い出せないんだけど……



 そう、俺の記憶力が救いようがないほど悪いという問題だ。



 しかしそれでも思い出せた事もある。


 あの時、ゲームマスターは俺のステボが記録していると言っていた。


 それであれば問題ないや、って思ったのも束の間、



  ここ、ゲーム内じゃないやん



 そうです。


 ステボありませんでした。


 つまり確認不可能。


 

 こいつはこまった。


 あれだけ話したい事あるとか言っておきながら、



   忘れましたエヘヘ



はちょっと頭おかしいでしょ。


 ってな訳で、今、時間稼ぎがてら、みんなには先に風呂なり飯なりとってもらっている訳なんです。


 

「んで、トンズラさん。ぶっちゃけ覚えてる?」



 誰もいない部屋で、俺は自分の装備に意識を向けて尋ねてみた。


 こっちの世界ではトンズラと話すことはほとんどない。


 しかしできない訳ではないというのを思い出した俺は、一か八かにかけてみた。



ーーすると



「覚えてるっぺ。」



 おぉ! やっぱ話せるじゃん!


 しかも覚えてるとか、ナイス!



「んじゃメモるから教えてくれ」 



 俺がそう聞くと、普通にトンズラはゲームマスターから言われた言葉を再度口にしてくれた。


 ゲーム内の事はしっかり記憶に残っているらしい。


 ただ、やはり現実世界では俺と念話をするのが、かなりしんどいらしいので、あまり長くは話せなかった。


 まぁゲームに入ればいくらでも話せるので、今はゲームマスターの言葉を聞けただけで儲けものと思っておこう。




「真実はその目に映るものだけとは限らぬ。そのものの本質を見極めよ。チャンスは二度ある。それを逃せば、二度と先には進めぬ……ですか。いくつか推察はできそうな内容ですね」



 みんなが俺の部屋に集まったところで、早速メモをしたゲームマスターの言葉を伝えた。


 するとシロマは俺が伝えた言葉を反芻しながら、その小さな顎先に指を当て思考を巡らせていた。


 そして同じように智者であるイーゼもまた、目を閉じて熟考している。



「……シロマさんの言う通り、推察できることはありますわね。例えば、二股に分かれた道があって、その場から見る限り、片方の道は先が行き止まり。もう片方の道は続いている。でも、実際には行き止まりに見えた道の方が正解……とかですわね」



 なるほど、確かにそういう可能性もありそう。


 咄嗟にそういう可能性が思い浮かぶ当たり、やはりイーゼは秀才だ。


 しかしその意見を、まさかのリーチュンが論破する。



「えー、じゃあ分かれて行けばよくない? とりあえずサクセスが先行すれば、逆に行けばいいだけだし」



 た、確かに。


 最悪道を間違えたとしても、第二ステージのボス撃破でもらったあのアイテムを使えば、距離は挽回できる可能性が高い。


 そう考えると、あのアイテムはかなり重要だったのかもしれない、と一人納得をしていると、今度はシロマがイーゼの話を補填する。



「リーチュン、今のは例えばの話ですよ。イーゼさんが言う通り、そういう可能性もありますが……そんな簡単な話ならば、どこかのグループはクリアできているはずです」


「だよな。クリアできた者がいないってことは、そんな単純な話ではないはずだし、もっとみんなで意見を出していこうか」



 みんなが意見を出し合い、俺はそれを纏めていく。


 今回、ちょうどメモ用紙もあるので、今日の俺は司会兼書記だな。


 字は汚いけど、俺が読めればいいので勘弁してもらおう。


 

 その後、しばらく意見を出し合った結果、三つの対処法が決まった。



一つ

 道の分岐においては、見えるものに捉われることなく、必ず分かれて進むということ。


二つ

 見た目が魔物であっても、実は重要なキャラである可能性も考慮し、戦闘になった時、戦う以外の選択肢がないか確認すること。


三つ

 キーアイテムやキークエスト等を発見した場合は、声が届く範囲でみんなに伝えて共有すること。



 主に決まった事はそれくらいだ。


 というかできる事なんてその位しかない。


 可能性の話をするともう少し沢山出ていたのだが、そのいずれも全員で相談し合うという対応が必要なので、ゲーム内では不可能に近い。


 そんな訳で一通り話し合いが終わったところで、そろそろ解散しようかと思っていたのだが、そこでふとある事を思い出してしまった。



「そういえばさ、ゲームマスターが最後に無事第三ステージをクリアし、我のところまで来い的な事を言ってたんだよね。それって、ラスボスとして現れるってことかな? それとも最後の報酬で会えるよってことかな?」



 ちょっと攻略とは関係ないけど、気になったので話してみる。


 別にだからどうって話ではあるんだけどね。



「どうでしょう。普通に考えれば報酬……ゴールドオーブを渡す時に会えるという事だと思いますが……」


「どっちでも構いませんわ」



 OH,やっぱどうでもいい話過ぎるせいか、反応薄いね。


 特にイーゼ。


 イーゼの場合、何かわからんけどゲームマスターに嫌悪感を抱いてる感じがするから、そのせいの気もするが。



「俺はよくわかんねぇけど、なんとなくゲームマスターには深い闇を感じたな。なんというか、サクセスと真逆なオーラというか。だから、ラスボスで現れても驚きはしない」



 闇……か。


 確かに陰キャっぽい感じはしたけど、悪い人とは俺は感じなかった。


 まぁ人それぞれ感じ方は違うからな。


 いずれにしてもどうでもいい話だったわ。



「くだらないこと話してごめん。とりあえず明日が一番の正念場だし、今日はゆっくり休んで、明日の昼からチャレンジにしようか。チャンスは2回かもしれないけど……あっ!」


 

 そこまで話して、一つ大きな間違い……


 いや、もう一つの可能性に気付いてしまった。


 

「どうした、サクセス?」


「いや、あのさ。第三ステージは初回でクリアできなかったら二度とクリアできないっていう先入観をもってたけど、実は違うんじゃないかと思って」



 なぜ俺達は、第三ステージは一回でクリアしないとダメだと思い始めてしまったのか。


 当然今でもその可能性は否定できないものの、今更ながらその考え方に違和感を覚えている。



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