第67話 十六夜の月
「どういうことですか、サクセスさん」
「んとね、ゲームマスターと話をしてて思ったんだけど、ゲームマスターは多分このゲームを誰かにクリアしてもらいたいと思ってると感じたんだ。それと仲間と協力したり話し合う事について凄く感心していたんだよね。それであれば、初見殺しで二度とクリアできなくさせるような事、本当にするかな? まして、第五ステージまである中で第三ステージでだ。」
「非常に興味深いですわ。是非、そう考える理由についてお話してもらってもよろしいでしょうか?」
イーゼも何か思うところがあるのか、俺に聞いてくる。
けど、よろしいもなにもない気はするけど、まぁいい。
「えっとさ、第三ステージは丁度折り返しの地点だよね。第二ステージまででも、貰えるアイテムの内、現実世界に換金できるものもあるので、プレイヤーとしては第二ステージや、クリアできない第三ステージをプレイするメリットはある。」
「確かにそんな事を皆様仰っていましたね。聞き込みした人たちもみんなクリアできなくてもこのゲームを続けていますから」
「うん。でも、それって製作者的にはどうなのかな?」
「といいますと?」
「俺がもしもゲームを作るようなことがあるならば、できればクリアして欲しいし、同じところを何回も作業的にやられてもつまらない。なので、そもそも誰もが第三ステージで躓くような設定はしないんだけど、もしかしたらそれには何か深い意味があるのかも」
ゲームマスターの中でどうしても譲れない何か。
でもクリアはしてほしい。
そういう相反する何かによって、ゲームマスターは俺達に介入しているのかもしれない。
まぁ全て予想の域をでない話ではあるが。
「なるほどですわ。流石サクセス様です」
俺の話を真剣な面持ちで聞き入り、頷くイーゼ。
今回ばかりはただ俺を持ち上げているという感じではなさそうだ。
まぁイーゼ的には常にそういうつもりはないのだろうけど……
「えー? でもさ、第二ステージを通過した人達は何度やってもクリアできないんでしょ? それならやっぱおかしくない? 」
リーチュンが言うように確かにおかしい。
何年、いや、何十年もチャレンジしている人ですらクリアできないっていうのはね。
でも逆に言えば、それが初見で失敗したから無理という事にはならない。
実際、ゲームマスターもヒントをくれたように、第三ステージには取返しのつかない要素があるのは確かだ。
だけど一回しかチャレンジできないとは言っていないし、何なら2回あると言っている。
それを考えれば、クリアできないでいる人達がそういう状態に陥ったのが、2回目だったり、3回目でそうなってしまった可能性もあるはずだ。
そもそも第二ステージですら10回近くチャレンジしないとクリアできないパーティがほとんどなわけだから、それを考えれば初見殺しと断定するには些か(いささか)乱暴な考えだったのではないだろうか。
「リーチュンが言ってる事もその通りなんだけどさ、別に一回目でなく、それが二回目、三回目のミスで永久にクリアできなくなるという事もあり得るんじゃないかな。もし最低でも二回はチャンスがあるならば、仲間達と相談し合う機会が設けられるじゃん。それなら大分難易度変わってくるよね」
ゲームマスターは仲間達との協力が大切と言っていた……様な気がする。
記憶力には自信がないからはっきりそう言ったかは微妙だけど。
でもそんな感じの事は言っていたはずだし、それを考えれば、多分だが二回目のチャレンジはあるはずだ。
そして第三ステージから何かしらのイベントがあるのだろうが、そのイベントすらも初回で発生させられないパーティもあったかもしれないので、実際には数回の猶予はあると見てもいい。
といっても何となくだが、そのイベントは俺達は初回で遭遇しそうだけどね。
「サクセスさんの言う通りかもしれません。しかし、それでもやはり、最初に考えた三つは実行しましょう。その上で、もし二回目があれば話し合えばいいかと思います」
「あぁ、シロマちゃんの言う通りだな。とりあえず常に絶対失敗できないつもりでやった方が良いのには変わらないだろ?」
シロマとカリーの言う通り。
なんにせよ、初回でクリアする気持ちで臨むのがベスト。
「うん、そうだね。とりあえず明日はもしも失敗しても一回しかチャレンジするつもりはない。だから明日の昼までゆっくりしよう。このゲームは思っていたよりも精神的疲労が大きいので、クリアする為にも十分な休息が必要だ」
俺がそう纏めることで、今回の会議は終了した。
ただその後もなぜか俺は頭の中がモヤモヤし続けている。
なぜ第三ステージに限って、そんな厳しい設定をしたのだろうか?
そしてゲームマスターは何の意図があって、こんなゲームを用意したんだろう?
もう色々考えると、頭がパンクしそうになるよ。
※ ※ ※
……そして、その日の夜、やはり俺は寝付けなくなっていた。
「みんなグッスリ寝られてるかな? うん、ゲロゲロは熟睡だね」
布団から起き上がると、俺の上でスピーっという音を立てて寝ているゲロゲロ。
俺はゲロゲロを起こさないようにゆっくり布団から体を抜くと、部屋の外へと出た。
「そういえば、この宿にはテラスがあったな」
まだ一度も行った事はないが、ダンゴムシ君からそんな話を聞いていた俺は、折角なので夜風でも浴びようとそこへ向かうことにする。
「あら、こんな夜更けにどうなさいましたか? ムラムラして眠れませんか?」
テラスに出た俺は、そこで思いがけない人と遭遇した。
当然会ったそばから俺にそんな言葉をかけてくる者といえば、イーゼの他にはこの人しかいない。
「あっ、支配人さん。って、違いますから!」
「うふふ、冗談ですわ。でもよろしければお口で……」
「いや、だから違うっつうの! おっとすみません」
「いえ、素で話して頂けた方が嬉しいですから」
なんだろう……話している内容はエロいんだけど、この人を見ているとなんとなく胸が切なくなるというか、儚さを凄く感じるんだよなぁ。
「ところでなんでここにいるんで……いるの?」
「ふふ……本当に素直で良い子ですね。そうですね、私、月を見るのが好きなんです。満月の日なんかは夜な夜な森の奥まで行ったりするんですよ」
そう言われて俺は空を見上げた。
今日の月は満月ではないが、こうやって静かな夜に目を向けるとうっかり見入ってしまう。
夜に見上げる月ってなんでこんなに綺麗なのかな。
「綺麗ですね、俺も月は好きです」
「また敬語に戻ってますよ。でも、そうですか。サクセスさんも月が好きなんですね。今日の月は十六夜(いざよい)と呼ばれ、満月になって少し欠けた状態なんです」
十六夜って聞いた事はあったけど、こういう月の事を言うんだ。
今度誰かとデートする時、それっぽく使わせてもらおう。
十六夜が照らす君は一段と綺麗だね……てきな。
「へぇー詳しいんだね」
「えぇ、私もあの月のように、大切な人を照らす事ができたらと……いえ、なんでもありません」
た、大切な人いるんだ。
残念とは、うん、少ししか思わないけど、それ以前にそういう人がいるのに俺に対する下ネタ発言はないんじゃ……
そんな事を考えていると、ふと視線に気づく。
なぜか支配人さんが俺の顔をじぃーっと見つめていた。
「あなたは眩しい……本当に。少し私にも分けてもらいたいです」
突然何を言い出すのだろうか。
ちょっと言ってる意味がわからない。
「眩しい? 俺が?」
まだハゲてはいないと思うけど……って、流石にそんな意味じゃないよな。
「はい、とても……それこそ世界を照らせそうなほど。その光は、私の願いも叶えてくれるのでしょうか?」
「え?」
支配人さんは真剣な眼差しで俺を見つめながらそう口にしている。
その様子を見る限り、俺をからかっている感じではないけど、何が言いたいのかさっぱりわからん。
と困った俺が無言になっていると、口もと手で押さえながらフフフと笑う支配人さん。
やっぱりからかっていたのかな?
「なんでもございません。そういえば明日は第三ステージに挑戦するそうですね。イーゼさんから聞きました」
おっと、やっとまともな話題に戻ったな。
つかイーゼは今日もこの人と話していたのか。
仲良いのね。あのイーゼにしては珍しいわ。
「えぇ、それで色々考えていたら寝れなくなっちゃって。あれ? 支配人さんもスゴロクやったことがあるんですか?」
「……いえ、私には入る資格がありませんので……」
そういえばあの会員証はほとんどエルフ、しかも上流階級っぽい人しか持っていないんだっけ?
一部の豪商的な人族は手に入れていたみたいだけど。
「あぁ、会員証って中々手に入らないみたいですしね」
「えぇ……はい。だから私は……」
「ん?」
おっと、なんか急に沈んだ声というか、めっちゃ残念そうだわ。
地雷踏んだか? そりゃあんだけ楽しいところなら行ってみたいよね。
「いえ、なんでもありません。サクセスさんが心配する必要はありませんよ。あなたは必ず彼のもとへ辿り着きます」
彼のもとって、誰?
まじで会話がかみ合わん。
「それ、どういう意味?」
「あ、ごめんなさい。気にしないで下さい。私は占いが得意でして、イーゼさんに言われて占った結果を伝えただけです」
なるほど、そう言う事か。
って、いきなり結果を言われてもねぇ。
俺は別に占ってもらってないし……。
本当にこの人は不思議ちゃんだわ。
でも占い……占いかぁ~。
マネアさんの占いも凄かったけど、この人も魔女ってくらいだから相当な腕前なんだろうな。
であれば、俺は俺の考えられるベストを尽くせばクリアできるって事だよな?
あれ? もしかしてじゃないけど、明日、上手くいくんじゃね?
「そういうことだったか。なんか不思議と自信が沸いてきた気がする。よくわかんないけど!」
「ふふ……そのイキです」
「なんかその発音卑猥じゃね?」
「卑猥に言ってますから」
もう、本当にこの人の距離感、意味不明過ぎる。
でも結構好きかも、こういうタイプも
……おっと、いかんいかん!
「ほんと面白いよね支配人さん。でもまぁ、よくわからないけどスッキリしたから、お蔭で寝れそうだよ」
「あら、もっとスッキリさせてあげてもいいんですよ?」
そう言いながら、またしても手を口元に持っていって前、後ろと卑猥に動かす支配人さん。
違う意味で寝れなくなるからやめて欲しい。
「それにはすんごい興味あるけど、支配人さんの大事な人と俺の仲間に殺されそうだから遠慮します。では、部屋に戻りますね」
「はい、良いおやすみを」
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