第122話 ドラゴンヘッド
【カリー視点】
「卑弥呼様……。」
カリー達がライトプリズンから出て少しすると、吹き荒れていた黒き暴風が次第に止んでいった。
そして、その後に現れたウロボロスを見て、セイメイが呟く。
「セイメイ、余計な事は考えるなよ? あれはもう卑弥呼じゃない。倒すべき敵だ。」
戸惑いの表情を隠せないセイメイを見て、カリーが忠告した。
「わかっております。大丈夫でございます。私は私の使命を果たすだけ……」
そう答えるセイメイではあるが、どうみてもその様子は大丈夫ではない。
実はセイメイにとって、卑弥呼は母親同然の存在。
その大切な者が、あれほど悍ましい姿で現れれば、動揺するのは当然だった。
それでもやるべき事の為に、その歩みを止めないセイメイ。
その覚悟を感じ、カリーはそれ以上何も言わない。
「大丈夫でござるよ、カリー殿。セイメイの事は某が良くわかっているでござる。ただセイメイよ。ここより前には出るなでござる。」
さりげなくセイメイをフォローするイモコだが、ウロボロス本体まで後半分と言ったところで警告した。
3人の目に、上空から飛来してくる何かが目に映る。
「はい、その通りにします。皆さま……きます!!」
セイメイがそう声を上げた瞬間、複数の蛇のように長い黒龍の頭が急速接近してきた。
「イモコ! お前は走れ! 俺がこいつらを捌きながら援護する。セイメイは任せろ。」
「御意!!」
瞬時にカリーはイモコに指示を出すと、セイメイを片手に抱きながら回避行動をするカリー。
黒龍の頭達はカリー達目掛けて突撃すると、まるで砲弾の様に轟音を響かせながら地面に着弾していった。
そう、地面に……である。
今回襲い掛かってきたのは10匹程度。
その全ての突撃をカリーとイモコは紙一重で躱した事で、その突撃の威力は地面が吸う事になった。
「セイメイ! 俺がお前を守る。その間にいけるか?」
次の襲撃に少しだけ時間があるとみると、カリーは確認した。
当然四聖獣召喚についてである。
「はい、既に準備は整っております。しばらくよろしくお願いします。」
セイメイがそう答えると、カリーは次々と襲い掛かってくる龍頭を捌きながら守る事に集中した。
【ブリザードスパイク】
カリーは地面に槍を突き立てると、特大の氷山が地面から伸びて龍頭を串刺しにする。
しかしそれでも多勢に無勢。
遠目から見ても、卑弥呼の頭……いやウロボロスの髪の部分には、数万を超えるであろう龍頭が存在するのがわかる。つまり、ここで1匹2匹を倒したところでこの攻撃が止む事はない。
しかしながら、カリー達がやるべきは龍頭を倒す事ではなく、イモコが本体に近づくのを援護する事。
そしてセイメイの四聖獣さえ召喚できれば、進むイモコを囲むように守らせ、作戦を完遂させられる。
つまり、セイメイを守る事がこの作戦の第一関門。
ここを……セイメイを死守しなければ、カリー達に未来はない。
「サンダースマッシュ!! フレアボム!!」
カリーは額から流れる汗をそのままに、氷山を抜けてきた一匹の龍頭を大斧で一刀両断すると、次の瞬間には空中に爆弾をばら撒いた。
すると、抜けてきた龍頭に続いて近づいてくる龍頭達の動きを一時的に止める。
ーーこの間、数秒。
刹那ともいえる時間の中で、カリーは最善の行動を選択して動いている。
その結果、上手く凌げているようにも思えるが、実際はそうではない。
なぜなら、まだたったの数秒しか経過していないのだ。
そしてセイメイが四聖獣召喚に掛かる時間は数分を要する。
これが如何に厳しい状況であるか、カリーも分かっていた。
(数が多すぎる……)
上空が黒く塗りつぶされている状況を見て、カリーの背筋が凍る。
それらすべてが、黒龍の頭であるとわかったからだ。
しかしやるしかない。守る切るしかない。
再びカリーは空から襲い掛かってくる龍頭に目を凝らすが、その時、何か嫌な予感を感じる。
さっきまで一辺倒に突っ込んできた龍頭達が、突然空中で止まると、後続で向かってくる龍頭を待ち始めたのだ。
ヤバイと感じるや否や、カリーは武器を弓に持ち変える。
【雷撃の矢 乱れ撃ち】
瞬時に雷属性を付与した矢を連続で放つカリー。
龍頭達が固まって集結していた事が功を奏し、命中した矢が次々と放電すると、多くの龍頭にまとめて大ダメージを与えた……のだが……
「まずい!! セイメイ! 詠唱を中断できるか!?」
カリーの焦るその声に、セイメイからの言葉は返ってこない。
既にセイメイは召喚の詠唱に集中しており、その言葉は届かなかったのである。
カリーの攻撃は間違いなくあの場面で一番適したものであった。
しかしながら、敵の集まる速度が速すぎた。
しびれて動きを止めた龍頭もあるが、それでもまだ動ける龍頭は百匹以上いる。
それらが一斉にカリーではなく、セイメイ目掛けて襲い掛かってきた!
もしもここにシルクがいれば、それでもどうにかできたかもしれないが、彼はもういない。
そんな事が一瞬脳裏に過りながらも、カリーはセイメイの前に立ち、敵の攻撃を受ける構えをする。
「クソ……シルク、力を貸してくれ。」
目の前に迫る、無慈悲な暴力を前にカリーは祈るように言葉を洩らす。
既に眼前は巨大な龍頭達で覆い尽くされている。
どうやっても直撃は免れない。
大斧を横にし、盾代わりとしてみるが多分防ぐことは不可能だろう。
そしてそれを一斉にくらえば、いくら防御をしようとも、カリーに命はない。
それだけの威力が、あれにはあった。
しかしそれでも、ダメージの殆どを自分が受けることで、少しでもセイメイの生存率を上げる。
そしてセイメイさえ生き残り、四聖獣さえ召喚できれば勝機はある。
覚悟を決めたカリーは、全身の力を大斧に為、防御に集中した。
そして次の瞬間、
……大斧に身を隠すカリーに衝撃が届く事はなかった。
代わりに、上空から黒い液体……そう、龍頭の血がピチャピチャと降り注いでくる。
「あれほど無茶するなっていっただろ? カリー。」
その声を聞き体を隠していた大斧から視線をずらすと、そこに立っていたのは
ーーーサクセスだった。
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