第25話 愛の戦士 ブライアン

【マーダ神殿近郊の戦場】



「みんな頑張ってぇ!」



 現在ミーニャは、血走った目で戦う男達に黄色い声援を送りながら鼓舞している。


 そしてその戦場には、その声援に応えて一際活躍する一人の魔法戦士がいた。



 彼の名は


   ブライアン



 今回、マーダ神殿の危機を知ったライブハットの王が派遣した軍隊の指揮官である。


 ライブハットの兵は冒険者上がりの者が多く、ブライアンもまたその一人であった。


 若い頃は戦士として剣術を鍛え、20代後半になると魔法使いに転職をし、30代に差し掛かると上位職業である



  【魔法戦士】



へと転職を果たす。



 そして魔法戦士になった時、国の武術大会で優勝すると、ベンリー王に気に入られて王国戦士長へと昇任した。



 そして、その強さは他国にも知れ渡っている。



 ライブハットにブライアンあり



と。



 だがしかし、そんな彼にも一つだけ大きな悩みがあった。



 妻が……妻が怖い……。



 若い頃は、ブライアンを甲斐甲斐しく支えてくれた妻。


 しかしブライアンが出世をしていくにつれて生活が変わると、その性格を豹変させていく。


 

 昔は美しく優しかった妻。


 しかし今ではその見る影もなく、鬼の皮を被った恐妻だ。



 ブライアンの悩みは深刻である。



 このまま、妻と添い遂げねばならないのだろうか……。


 しかし、辛かった時に支えてもらったのも事実。


 だが、もう直ぐ子供は成人を迎える。


 もう……いいのでは?



 この戦が始まった頃、ブライアンはそんな悩みを抱えながら戦っていた。



 しかし、彼は出会った! 

 出会ってしまった!



 この絶望的な戦場で、一際まぶしい光を放つ女神に。



 彼女は美しく、見ているだけで自分を幸せにしてくれた。


 そしてそれだけでなく、体の内側から滾るような力を与えてくれる。


 こんな女性は初めてだった。


 そして忘れかけていた熱い気持ちに気付く。



 これは……恋でござる!



 正に一目惚れだった。


 そして、今までの悩みなど無かったかの様に、女神との新婚生活まで夢想してしまうブライアン。



 37歳になる自分だが、まだまだ現役だ。


 何不自由なく生活するだけの金を稼ぐ自信はある。



 決めたでござる!

 吾輩はこの女神と添い遂げる!



 ブライアンは戦いながらも、ミーニャの方に何度も振り向いた。


 それは自分の活躍を見てくれと言わんばかりの、まるで思春期の少年の様。



 するとそれに気づいてくれたのか、それとも自分だけを見ていてくれているのか、ミーニャは常に自分に熱い視線を送ってくれていた(妄想有)



「うおおお、やるぞぉ! 一番は吾輩じゃあぁ、ご褒美は吾輩のものでござる!」



 火炎斬り! 

 稲妻斬り!

 ブリザック斬り!

 マグマグ!



 その姿はまさに猛々しい戦鬼そのもの。



 ブライアンは雄叫びを上げながら、並み居るモンスター達をバッタバッタとなぎ倒す。



 正に一騎当千の活躍だった。



 その姿に触発されて、周りの男たちのギアも更に上がる。



「オッサンに負けてたまるかよぉ!」


「ご褒美は僕ちんのだ!」


「ぱふぱふーー!」



 周りの男達も目の色を変えてモンスターを駆逐していく。


 

 ぱふぱふダンス 恐るべし……。



 その踊りは、そこにいた全ての男達を、痛みも疲れも知らぬバーサーカーに変えてしまった。



「うふ、みんな頑張ってねぇん。ふふふ、チョロいもんよ男なんて……。後は倒した魔石を頂けば一石二鳥ね。」



 ミーニャはその光景を見て、不敵な笑みを浮かべるも、周りの男達がそれに気づく余裕はない。


 誰もが一匹でも多く倒して、ご褒美を貰おうと必死である。


 そしてしばらくして、マーダ神殿の周りにいた大量のモンスター達がいなくなると、今度はバーサーカー同士の醜い争いが始まった。



「この魔石はオラが倒した奴だけろ!」


「いいや、俺の方がダメージを与えたから俺のだ!」


「やんのかこら?」


「あぁん? 上等だこら!」



 その状況を見て、やり過ぎてしまったとばかりに、額に手を当てるミーニャ。



「不味いわね、ちょっとやり過ぎたかしら……」


 

 確かにそれらの姿は醜いが、そもそもの原因はミーニャである。


 少しばかりの責任を感じるミーニャは、この場を収めるべく、別の踊りを披露する事に決めた。



「みんなぁ、お疲れ様! よく頑張ったわね。まずはお礼に私の踊りを見せるわ! あ、落ちてる魔石はちゃんと拾ってくるのヨォ。」



 ミーニャはそう言うと、今度は歌いながら舞を披露し始める。



 その踊りはさっきの様なエキゾチックな踊りではなく、見る者全てに安心感を与える様な静かで奥ゆかしいものだった。


 今回ミーニャが踊ったのは、



【聖女の舞】 



 と呼ばれる状態異常回復の舞。


 それを目にした者は、混乱、幻惑及び弱体等の状態を回復させる。



 するとバーサーカー達は醜い争いをやめて、ミーニャに釘付けとなった。


 しばらくすると、男達はミーニャに言われた通り、下に落ちている魔石を拾い続けながら、ふらふらした足取りでミーニャに近づいていく。


 そしてミーニャの近くまで来ると、持っていた魔石全てをミーニャの足下に捧げた後、自然とミーニャの前に横並びに整列を始めた。



 その様子は、さながらアイドルステージの前に並ぶオタク達。



「女神様だ……。女神様がいらした。」


「あれ? なんで俺はここに……いや、そんな事はどうでもいい!」


「女神タン、萌ぇぇ。」



 さっきまで争っていた男達は、目の前で舞を披露するミーニャに夢中になると、一部の兵士達は一糸乱れぬ見事な動きでオタ芸を始めた。



「あ~ よっしゃ~ 行くぞ~」


「タイガー ファイヤー サイバー ファイバー」



 さっきまでいがみ合っていた男達の心が……今、一つになる!



 しばらくしてミーニャの歌と舞が終わると、その場にアンコールの声が鳴り響いた。


 しかし、ミーニャはそれには応えずに、そこにいるオタク共に向けて口上を述べる。



「みんなぁ~今日は私の為に戦ってくれてありがとぉー。アンコールは嬉しいけど、今は時間がないのぉ。ごめんねぇ。あとぉ、この中で一番はまだ決められないのぉ。魔石を換金して一番が決まったら、家まで行くから待っててねぇん。」


 

 そう言いながらウィンクをするミーニャ。



 そしてどこからともなく大きな袋を取り出すと、周りの取り巻き達が一斉にその中へ魔石を詰め始めた。



 こうなると、正直誰が持ってきた魔石かなどわかるはずもない。


 しかし、そんな事に気づかないくらい周りの男達は興奮していたのである。



「お、俺……今日新しいパンツ買わなきゃ!」


「馬鹿、来るのはオラんとこだ。オラが長年とっておいた勝負ステテコを使う時が遂に来たべ!」


「も、もれの所だぎゃ……人間スターダストだぎゃ!」


 

 一部訳の分からない言語を話しながらも、ざわつく有象無象の男たち。 


 その隙に、ミーニャはコソッとビビアン達の下に歩き始める……が、その手をある男が掴んで止める。



 その者は、今回の戦場で一際輝く強さを示した男……



 ブライアンだった。



 ヤバいわね、バレたかしら?

 この男結構強かったわね……。

 まっずいわぁ……。



 焦るミーニャ。


 真剣な眼差しで見つめてくるブライアンに、額から汗が滴り落ちてくる。


 しかしブライアンから発せられたのは、意外な言葉だった。



「吾輩はライブハット国、王国戦士長ブライアンである。名を……名を教えていただけぬか?」


「へ? あ、はい。ミーニャです。」



 その言葉に呆気に取られるミーニャ。



「そうですか、いい名でござる。引き留めて申し訳なかった。また会いましょうぞ!」



 それだけ言うと、ブライアンは立ち去っていってしまう。



「ふぅ……危なかったわ。う~ん、渋い男も嫌いじゃないけどねぇ……。今は若い男の気分なのよねぇ。まぁキープしていて損はないかしら。」



 不敵な笑みを浮かべながら、ミーニャは呟いた。



 こうして魔石と量産型オタックを大量に手に入れたミーニャは、満面の笑みでビビアン達と合流するのであった。




現在のパーティ


ビビアン 勇者      レベル47

シャナク 賢者      レベル51

マネア  僧侶      レベル45

ミーニャ スーパースター レベル39


(パーティ外)

ブライアン 魔法戦士   レベル53

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