第84話 モチベーション

 守護魔獣を無事倒した俺達は、再び火山の中を進んでいる。



「しっかし、この山大きすぎないか? 中に入って大分経つけどまだ着かないのかよ。」


「まだまだでごじゃる。この火山はこの国で一番大きな山でごじゃる。それがダンジョンのようになっているでごじゃるから広いのは当然でごじゃる。」



 俺の質問に淡々と答えるハンゾウ。そういえばハンゾウは質問には答えてくれるがあまり雑談には応じてこない。そして卑弥呼と深い関係があると思っていたのだが、久しぶりに再会したにも関わらず二人で会話をすることもなかった。二人は一体どういう関係なのだろうか?


 ふと疑問に思った俺は、チラッと卑弥呼の方を見ると目が合ってしまった。なぜか婆さん……いや、卑弥呼はポッと頬を染めている。うえぇ~。



「ワシをそんなに見つめんでおくれ。照れるのじゃぞ」


「ふっざけんな! 誰が見つめるかよ。目が合っただけだろが」


「そう照れるでない。ワシとお主の仲じゃろうて」


 

 そう言いながら手を握りに来る卑弥呼だったが、それをパチンと弾いた。いくら女日照りが続いているからと言って老婆に手を出す俺ではない。だが、その会話を聞いたシロマが俺に白い目を向けてきた。



「そういう趣味もあるんですね、サクセスさん」


「なわけあるか! 卑弥呼も誤解を招くような事言うんじゃねぇよ。ちょっと婆さんの体力が心配になっただけだわ!」


「ほっほっほ。そんなに優しくされると惚れてしまうのじゃ」



 両手を頬に添えてイヤンイヤンと首を振る卑弥呼……まじで、これがこの国のトップだと思うと心配になってくるぜ。



「やかましいわ! 行くぞ!」


「あぁん、いけず」



 とりあえず馬鹿な事をいうババァは放っておいて俺は先へと進んで行く。


 この火山は奥に進めば進む程、現れる魔獣は強くなると聞いていたが、実際にはそう感じることはなかった。


 確かにここの魔獣は、地味に戦闘に参加しているロゼッタの魔術で倒しきるのは難しい。


 しかしカリーとイモコは別だ。


 敵が現れると、ほとんどノータイムで駆逐している。


 シルクもいいところを見せようと戦おうとするが、それよりも前にカリーに倒されてしまって肩を落としていた。


 素早さのステータスが違い過ぎるのだから当然である。


 そして今も突然襲い掛かってきた溶岩イーグル3羽を、一瞬でカリーが氷の矢で撃ち落としていた。



「カリー! 今のは俺っちの事を狙っていたでがす。俺っちの獲物でガンスよ!」


「馬鹿。お前の所まで行かれたらロゼッタが危ないだろが。こんな場所だ、危険は少ない方が良い」



 やる気満々のシルクは獲物を取られて地団駄を踏んでいるが、カリーは気にも留めない。


 確かにカリーが言うとおり、ここは道幅こそ広くなっているものの、下には溶岩が流れている。


 そんな場所であれば余計なリスクを負うのは危険だ。カリーの言う事はごもっともである。



「そうですよ、おじい様。今は遊んでいる場合ではありません。皆さまが強すぎるお蔭で危険は少ないですが、油断は禁物です。」



 そういって祖父を戒めるロゼッタ。旅に出てからは祖父の事をシルクさんと呼ぶようにしていた彼女だが、流石にこの場所で人に会うことはないと考え、ここでは普段通りおじい様と呼んでいる。そして注意を受けたシルクは俯いてショボンとしていた。もはや城主……いや祖父としての威厳は感じられない。



「ロゼよ。それでも……おじいちゃんは孫にいいところを見せたいんじゃ……」


「おじい様……。そんなものを見なくても、私にとっては最高のおじい様です。だからカリーに迷惑をかけないで下さい。」



 優しく宥めるロゼッタだが、最後の言葉の語気は強かった。多分最後のが本音だな。



「……ぐ。善処するで……がんす。」



 うーん、それにしてもロゼッタはやっぱりいい子だな。そしてカリーとお似合いだとも思う。


 あれから二人の関係がどうなったかのかはわからないが、できるならくっついて欲しい。……いや、見せつけられるのは嫌だから、くっついても隠していてもらった方がいいか。うーん、でも気になるな。



 そんな事を考えていると、俺の袖が誰かに引っ張られる。



「サクセスさん。二人の事はそっとしておく約束ですよ。なんか余計な事を考えていませんか?」


「そ、そんな事ないって。わかってるよ。だから何も言ってないだろ。」


「ふ~ん。そうですか。てっきりサクセスさんはロゼッタちゃんも狙っているのかと思いました。」


「馬鹿言うなよ、そんな訳ないだろ。俺にはシロマやイーゼ達もいるんだから!」


「イーゼ達……ですか。早く会いたいですね。リーチュンの元気な声を聞けないのは寂しいです。」



 そういって寂しそうに話すシロマ。自分がいるのに他の女を……という感じではなさそうだ。俺も長い事二人に会っていなくて、やはり寂しい。シロマもきっと俺と同じ思いなんだろう。



「確かにな。まぁオーブを手に入れて向こうに戻ったら直ぐ会えるだろ。今ごろどっかで暴れまくって、魔物の軍勢を無双してるかもよ。ストレスはっさーーんっとか言ってな。」


「ふふっ。なんだか想像できちゃいますね。二人の為にも早くオーブ手に入れましょうね。」


「あぁ、そうだな。っと、なんか見えてきたぞ。」



 シロマとそんな話をしながら歩いていると、再び目の前にさっき守護魔獣を倒した場所のように開けた広間が見えてきた。それを見て、先頭を歩くシルクが立ち止まる。



「次は俺っちの出番でガンス。」


「いや、お前の職業はタンク職だろ。いいからちゃんとロゼッタ達を守ってろよ。」


 

 シルクのやる気発言に対してカリーが早々にツッコミを入れた。だがそれよりも、やはりあそこに守護魔獣がいるのは間違いなさそうだ。さて、今度は骨のある魔獣だといいんだが。



「おし、みんな止まってくれ。まだ広間までは距離もあるし、ここで少し準備をしておこう。油断は禁物だからな。それとシルク。次の守護魔獣はどんな奴なんだ?」


「次はマグマ将軍でがんす。溶岩でできた人型の魔獣で、炎の大剣を装備しているでがす。炎の大剣を使った攻撃は攻撃範囲が広く威力が高いから危険でがんす。以前はあいつ一匹に3パーティがやられたでがんすよ。」



 人型の魔獣かぁ。そういえば、人型は初めてだな。対人戦っぽく攻めればいいか。



「へぇ、そいつは期待できるかもなサクセス。」



 シルクの話を聞いても余裕そうに話すカリー。だがその言葉を聞いてシルクが異議を唱えた。



「ちょっと待つでがんす! 今回は俺っちにも戦わせるでがんす。卑弥呼様の守りならサクセスがいれば十分でがんすよ。」


「おじい様!」



 どうやらシルクはどうしても戦いたいらしい。まぁここに来るまで碌に戦闘ができていなかったんだから、勘を取り戻すためにも、シルクに戦わせるのもありかもしれない。それに俺もシルクの実力は知っておきたいというのもある。もしもピンチになるようなら俺が出ればいいし、ここは戦わせてみせるとするか。



「わかった。じゃあ今回はカリー、イモコ、シルクの3人でパーティを組んでくれ。俺とゲロゲロは不測の事態に備えて後方で待機している。」


「いいのですか、サクセス様?」


「あぁ、セイメイも戦いたいか?」


「いえ、私は遠慮しておきます。私は卑弥呼様の護衛に専念する所存です」



 セイメイは俺が選んだパーティに不満そうに聞き返してきた。ぶっちゃけカリーとイモコがいれば負けるような敵はいないだろうし、それはセイメイも分かっているはず。それ故にセイメイも戦いたいのかなぁっと思ったけど違ったようだ。



「ワシの事は気にするでない、セイメイ。これでもまだ現役じゃて。自分の身くらい自分で守れるのじゃ」



 妲己にその座を奪われて、逃げて隠れていたけどねっとは言わないであげよう。実際妲己がどれくらい強いのか俺にはわからないしな。



「いいえ、そういう訳にはいきません。卑弥呼様のお力を疑う訳ではございませんが、それでも卑弥呼様をお守りするのが私の使命でございます」



 相変わらずセイメイは卑弥呼の身を一番に案じているな。良かった、卑弥呼の力もみたいから戦ってくれとか言わないで。だって見てみたいじゃん、俺達の大陸にはない力らしいし。この国にいた唯一の上級職の力。気にならない方が嘘だ。だがそれを口にすればセイメイが大反対するとわかっていたから言わなかったけど。



「俺はサクセスがそういうなら問題ねぇぜ。それにシルクの力は俺が一番わかっているからな。頼りにしてるぜ、相棒。」


「昔の俺っちと一緒にされては困るでがんす。カリーのド肝を抜いてやるでがんすよ。」



 そう言いながら、マッスルポーズを組んでアピールするシルク。確かにその筋肉は強そうだ。



「ははっ。そりゃ楽しみだ。イモコもそれでいいな?」


「某は問題ないでござる。精々、師匠が出張るような事態にならないよう全力を尽くすでござる。」



 ふむ。三人ともやる気十分みたいだ。俺も三人の連携を見て学ばせてもらうとしようか。



「よし、じゃあ戦闘開始だ。俺達は見える位置で待機してるから、三人は思う存分暴れてくれ。」



 その言葉を機に、三人は大広間に向けて走り出す。


 こうして遂に最後の守護魔獣との戦いが始まるのであった。

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