第85話 開戦 マグマ将軍大隊 前編

 目の前に広がるは、凡そ前回守護魔獣と戦った場所の10倍はあるほどの大広間。それがどの位の大きさかというと、以前俺とイモコが訓練として戦った闘技場の約百倍……そう、小さな村ならすっぽりと入る大きさだ。なぜこんな火山の中にこれ程広い場所が存在するのか疑問にも思うが、それは眼前に映る光景を見て納得する。



「……これは予想外だな。みんなはここから前には出るなよ。」



 俺はライトプリズンを通路から広間に出た先で展開する。これにより、もしも想定以上の危険が訪れたとしても、広間の敵はライトプリズンに阻まれて通路に逃げることができる。なぜここまで安全に期しているかというと、前回の守護魔獣戦と違い、今回は仲間達にも危険が及ぶ可能性があったからだ。



「サクセス様。本当にアレを三人だけに任せてよろしかったのでしょうか? せめてゲロゲロ殿だけでも向かわせた方がよろしいのでは?」



 目の前の状況を見てセイメイが具申してくる。



 しかし、答えは却下だ。



「あぁ、確かにゲロゲロがいれば安心だろうな。でも大丈夫だ。あいつらなら、あの大軍を相手にでも勝ってくれるさ。もしやばそうなら俺が行くから任せておけ。」


「サクセス様がそうおっしゃるならば……」



 渋々と言った感じで引き下がるセイメイ。実際アレを見て心配するなという方が無理な話なのはわかる。なにせ今回の敵は一匹ではなく、複数……いや複数というよりも大軍というのが正確だからだ。


 大きく広がる広間の後方。そこには先に進める通路が小さく見えるが、その前を漆黒の鎧を纏った巨人が立ち塞がっている。遠目だと正確な大きさはわからないが、概ね3メートルから4メートルはあるのではないだろうか。成人男性2,3人分位の高さだと思う。


 そしてそれがわかる理由は比較対象が近くにいるからだ。マグマ将軍の周りには、多分俺達と変わらないサイズの人型の魔獣が存在する。それと比べれば、如何にマグマ将軍が大きいかは見て取れた。


 今回の守護魔獣は「マグマ将軍」という名前であったが、その名前の由来は人型だからというだけではない。


 なんとマグマ将軍の前には、王国の正規兵のように規律正しく立ち並んでいる兵士達がいるのだ。その数……1000人。それも少なく見積もって。


 というのも、距離があり過ぎて兵士型の魔獣の列がどれほどあるのか正確にはわからないのである。


 一応事前に卑弥呼やシルクから、「マグマ将軍は兵を率いて戦う」とは聞いていたので、マグマ将軍以外の魔獣がいるのはわかっていたが、その数は精々10匹位だったはず。しかし、今目の前にいる敵は10匹どころの騒ぎではない、想定の100倍以上だ。これには俺も正直驚いた。


 多分であるがウロボロスの封印が弱まり、大きく漏れ出た瘴気によって数が増えたのであろう。ここに来る間に襲ってきた魔獣も、シルクが言うには以前と比べ物にならない程多いと言っていた。封印が解けるのは、もしかしたら俺達の想定よりも早いのかもしれない。


 そんな中、この状況に一番驚いているのは、今もその大軍に向かって進んでいるシルクだろう。今頃顔を引きつらせているのが見えなくても想像がつく。あれだけ威勢よく吠えていたシルクの姿が心なしか小さく見えた。その顔を天狗の仮面が隠していて見れないのがちょっと残念だ。


 と冷静にそんな事を考えている俺であるが、実際に俺は目の前の大軍を見てもこれっぽっちも心配していない。むしろ余裕さえある。理由は簡単だ。これまで俺は幾度となく魔物の大群を相手に戦ってきた。陸の上でも、海の上でも……それを考えれば、雑魚魔獣千匹程度一瞬で塵に変えられる自信がある。


 俺やゲロゲロには強力な範囲攻撃手段があるからな。


 つまりこの戦いに、もし俺とゲロゲロが加われば一瞬でケリがつくのだ。


 しかし今回あの大軍を相手にするのはカリ―を含めた前衛の3人。


 カリーはともかくとして、イモコやシルクには範囲攻撃の手段はないだろう。一対一にはめっぽう強いカリーとイモコだが、今回は複数が相手だ。だからこそ二人の訓練にはちょうどいい。それにシルクの力を見るのにいい機会だ。シルクは守り偏重の強さとカリーは言っていたので、今回その力をどうやって使うのか見物である。



「おっ、どうやら敵さんも動き始めたぞ。ん? あれは!?」



 敵の部隊がゆっくり前に歩きだしたかと思うと、横列が更に横に広がり隙間ができる。そしてその隙間から馬のような魔獣に乗った騎兵部隊が駆け出してきた。乗っている馬も魔獣であるためか、その速度は普通の馬とは比べ物にならない程速い。



 それを見たシルクは、なんとカリーとイモコをその場で待機させて一人でその敵軍に突っ込む。



(正気か!? いや、カリーが動かないって事は信用しているのか。)



 接近する約百騎の魔獣に対してシルクは単独で歩みを進めると、その体位ある大きな盾を地面に突き刺して止まった。


 するとシルクを中心にドーム状に光が広がり、その中に入った騎兵は進路を一斉にシルクの方に変える。綺麗な横列で前進していた騎兵たちは、今度は縦列となってシルクに向かっていく。


 そして槍を抱えたまま突撃してきた魔獣達はシルクに突撃すると……大きな衝撃音と同時に次々と吹き飛ばされていった。



「おぉ! なんかわかんねぇけど、すげぇ!」



 その状況を見て思わず声が出る。あれがパラディンの力なのだろうか? 敵の攻撃を受け止める耐久力もさることながら、それらを弾き飛ばしたのも凄い。敵が騎兵型であるのもあり、その効果は絶大だ。馬型の魔獣に乗っていた敵は今の技で全員落馬している。



 そうなれば当然……



 見るとカリーとイモコは既に動き出しており、落馬した敵と馬本体を次々と屠っていた。


 それは即席パーティとは思えない連携の練度である。流石は元同じパーティ、そして大将軍といったところだろうか。



「この分なら俺達の出る幕はなさそうだな、ゲロゲロ」


「ゲロォ~(僕も遊びたかった!)」



 若干不服そうなゲロゲロの体を撫でた俺は、そのまま戦いの行方を見守る事にするのであった。





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