第77話 強襲

 卑弥呼から話を聞いた俺は、一度拠点に戻ってみんなにそれを説明する。そしてそれを聞いたイモコが再度ハンゾウと接触して状況を伝える事になった。


 その為俺達は、とりあえずイモコがハンゾウと接触するまではこれまで通り適当に観光を続ける事になったのだが、その翌日の夜……まさかの事態が起こる。



「みんなもう作戦部屋に戻ってきているかな?」


「ふむ。某達は少し早く戻ってでござるから、まだかと思うでござるよ。」



 そんな話をしながら今日の観光を終えた俺達は作戦部屋の扉を開けた。



ーーすると、作戦部屋の奥に既に一人座っているのが見える。



「誰だ!? なぜここにいる?」



 俺はそこに座る者を見た瞬間、少し後方に下がりながら詰問した。この場所を知るのは、俺達の仲間以外ありえない。しかし、そこに座っているのは艶のある黒い長髪に、透明感溢れる白い素肌の美女。いや、美女なんて言う言葉は生ぬるい。切れ長のまつ毛に、整った顔立ち。まるで作られたかのように完成された美の集大成。


 もしも街中でこんな絶世の美女に出会ったならば、間違いなく俺は全てを投げ出してストーキングしてしまうだろう。


 しかし、今は違う。どう考えてもおかしいのだ。その美しさもそうだが、この場所にいる事があまりに不自然過ぎたのである。故に、俺は警戒した。



 するとその絶世の美女は、扇子を口元にあてながら小さく笑う。



「ふふふ。妾(わらわ)の事を知らぬと申すか? それも当然であるか。そなたはこの国……いえ、この大陸の者ではないのであるから。」



 さもこの国の者は自分を知っていて当然という言い草。まぁ、これだけの美女ならば大陸中にその名を轟かせていてもおかしくない。だが問題はそこではない。この美女は俺が外から来た者だと知っている。


 そこで俺にも目の前のこの美女が誰か直ぐに気付いた。いや、最初見た瞬間から予想はついている。これだけの絶世の美女だ、見た事はないけど思い当たるのは一人しかいない。



「お前……妲己か? なぜここがわかった!?」



 俺はそう言いながらも、後ろにいるイモコとシルクに下がるように手で合図を送る。正直これは想定外過ぎる。まだ妲己の能力がわからない内に向こうから仕掛けてきた。妲己は人を操る力を持っている。その対抗策がわからない内に近づくのは危険だ。


 だからこそ、俺は妲己に問いただしつつも直ぐに離れられるように足に力を入れていた。


 しかし妲己は俺の質問に答えず、薄ら笑みを浮かべながら俺の目を見ている。なんとなくその目を見続けたらヤバイと感じ目をそらすと、そのまま扉を閉めて逃げる事に決めた。



ーーすると



「サクセスさん? どうしたんですか?」



 何とシロマ達が戻ってきてしまった。



 そして俺の只ならぬ表情を見て、直ぐに近づいて扉の中を見る。



「ダメだ、中を見るな!」



 俺は直ぐに静止しようと声をあげるが時既に遅し。シロマは扉の中を見ると俺をジト目で睨みつけた。



「サクセスさん! 私達に秘密であんなに綺麗な人を……何を考えているんですか!」



 俺が女を連れ込んだと勘違いしたシロマが俺に詰め寄る。しかし今はそんな言い争いをしている場合ではない。もしもこのまま全員が操られてしまったら全てが終わりだ。だからこそ、俺は言い訳せずにシロマの腕を強引に掴んで逃げようとするが……今度はセイメイが扉の中を見て口を開いた。



「ハンゾウ殿。少しおふざけが過ぎるのではないでしょうか? サクセス様に失礼でございます!」



 怒りを露わにしたセイメイは、中にいる妲己と思われる美女に向かって文句を言う。



(ハンゾウ? 妲己ではないのか?)



 するとその美女の前に煙が舞い上がり、その姿が見えなくなった。



「セイメイ。どういう事だ? あいつは妲己じゃないのか?」


「はい。状況を見ればすぐにわかります。私も妲己を見た事はありませんが、あれは間違いなく妲己の姿でしょう。しかし、妲己がいるはずがないのです。……であれば、あれはハンゾウ殿の変化の術による姿に違いありません。」



 そういえば卑弥呼も言っていた。ハンゾウならサイトウに成り代わる事ができると。そして今聞いた変化の術というワード。それらを考慮すればセイメイが気付いた理由がわかる。



 そして煙が晴れた後、そこにさっきまでの美女はいなくなっており、代わりに蛙の顔をした子供が座っていた。



「驚かせてすまないでごじゃる。でも妲己の姿を知って欲しかったでごじゃるよ。」



 子供の声でそう話す謎の蛙人。セイメイの言葉を否定していない事から、こいつがハンゾウと言う事で間違いないのだろう。しかしまぁ、なんつうか……まさかハッタリハンゾウの顔が蛙だったとはな。



「なぁ、それがお前の本当の姿という事でいいのか?」


「否でごじゃる。僕ちんの本当の姿は誰も知らないでごじゃるよ。でも、皆さんと会う時はこの姿と決めたでごじゃる。」



 どうやらこの姿も変化した姿のようで本当の姿ではないようだ……普通の顔でよくね?



「サクセス様。申し訳ございません。まさかハンゾウ殿がこのような事をするとは思いませんでした。これは私の失態でございます。」



 そう言って頭を下げるセイメイだが、彼女……いや彼は全く悪くない。



「いや、セイメイのせいではないよ。それよりも、とりあえずみんな中に入ろうか。」



 そう言って俺は部屋に入ろうとするが、その時シロマの腕を掴んでいる事を忘れていた。



「サクセスさん。腕が痛いです。あと、ごめんなさい。」



 シロマは申し訳なさそうに小さな声で謝る。


 そういえば勘違いされていたんだっけか。


 まぁ状況からすれば勘違いするのは当然なので別に気にはしていないけど、とりあえずお尻をペロンと撫でるように触っておいた。



「ひゃっ!」


「これでチャラでいいよ。」


「もう! まぁいいです。今回は私が悪いですから。」



 俺が少しゲスイ顔を浮かべていると、シロマは納得したのか文句は言わなかった。しかし、シロマのお尻は以前触った時よりも肉がついている気がする。まぁ、それを口にしたらやばそうなので言わないが……。



 そして改めて俺達はハンゾウと話し合いを始めるのであった。


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