第31話 呪い
「悪ぃな、急がしちまって。だけど、できるだけ早く苦しみから解放してやりたいんだ。」
「大丈夫、そういう事なら仕方ないさ。ここはシロマの力に期待しようぜ。」
「はい。できる限りやってみたいと思います。見てみない事にはわかりませんが。」
あの後俺達は、カリーと共に急いで皮肥城に向かっていた。
道中にカリーはこれまでの経緯と、急いでいる理由を話してくれたわけだが……。
正直喜んでいいのかどうか、なんとも言えない。
以前、カリーは自分のせいで大切な人を亡くしたと言っていた。
その時の悲しそうな顔は今でも忘れられない。
しかし今、その女性とうり二つの人が現れたものの、再び危険な状態になっている。
カリーの心情を思えば、焦るのも当然だろう。
その女性はカリーの想い人ではないみたいだが、できるなら無事であってほしい。
そんな事を考えていると、いつの間にか俺達は皮肥城に到着しており、そこから直ぐにその女性のいる部屋に向かった。
「ソレイユ、待たせたな。連れて来たぜ!」
カリーが勢いよく扉を開くと、その部屋の中では一人の綺麗な女性が布団の上で横になっており、その隣には昨日見た城主がいる。
城主は入ってきた俺達に一瞥すると、シロマの方を見て尋ねた。
「おぉ! カリーか、随分早かったな。ロゼは今眠っておる。して、そちらの女性が……?」
「シロマと申します。そちらで寝ている女性がロゼさんでよろしいですか?」
「そうじゃ。頼む! どうか……どうか孫を救ってくれ!」
「わかりました。最善を尽くさせていただきます。【セルサーチ】」
シロマの手から優しい光が放たれた。
するとその光はロゼの体を覆い、シロマは目を閉じて集中する。
俺達はその様子を黙って見守っていた。
城主は何か聞きたそうな顔をしているが、声はかけてこない。
多分シロマの集中を乱したくないと判断したのだろう。
賢明で冷静な城主様だ。
しばらくすると、ロゼの体を覆っていた光が消えてシロマの目が開く。
「ど、どうであったか? 孫は……孫は助かるのか!?」
城主は魔法が終わるや否や即座にシロマへ質問をするが、シロマは静かに首を横に振った。
それを見て、絶望の表情を表す城主。
「そ、そんな……やはり……やはりあれしか……。」
俺はそんな城主に代わってシロマに尋ねた。
「シロマ! どういうことだ? お前に治せない病気があるのか?」
「全て……とは言えませんが、ほとんどの病気は治せるとは思います。」
「じゃあなんで?」
「この方の状態は、細菌やウィルスによる病気ではなかったからです。体内の損傷は確認できましたが、その原因となるものがないのです。」
「どういう事なんだ、それは?」
シロマの説明に、今度はカリーが尋ねる。
「正確な事は言えませんが……多分なんらかの強い呪いが原因だと思われます。微かですが、ロゼさんの体から呪いの残滓のようなものを感じました。」
「呪い……難しい事はわからないが、解呪する事はできないのかシロマ?」
再び俺はシロマに尋ねるも、シロマは首を横に振った。
「残念ながら解呪の魔法は覚えておりません。それに解呪の魔法があったとしても、解呪できるのは一部のようですので、必ずしも呪いが解けるわけではないのです。」
その言葉を聞き、カリーは拳を畳に打ち付ける。
「くそっ!! 何か……何か方法はないのかよ!」
普段冷静なカリーにしては珍しい程の取り乱し方だ。
「ですが安心して下さい。確かに今、ロゼさんの呪いを解呪する事はできません。しかし、体内の損傷自体は治す事ができます。」
その救いの言葉を聞き、カリーは目を大きく開いて喜ぶ。
「ほ、ほんとうか!?」
「はい、本当です。しかし、呪いが続く以上はイタチごっこです。治してもまた損傷が続くでしょう。ですが、時は稼げます。少なくとも、毎日私が回復させる限り死ぬような事はないはずです。」
「ありがとう! ありがとうシロマちゃん! おい、ソレイユ! 聞いてたか今の? おい?」
シロマの話に大喜びをするカリーだが、ソレイユはカリーに声を掛けられてもそれに気づかず、何やらブツブツと一人事を呟いていた。
そしてカリーがその肩を揺らす事で、やっと自分が声を掛けられていた事に気付く。
「あぁ、カリー。すまなかった。しかし、お前が気にすることはない。あとはワシが何とかする。」
「馬鹿か? 聞いてなかったのか、今の話を?」
「すまぬ、少し考え事をしていてな。して、何故カリーは喜んでいるのだ?」
「ったくよ、まぁいい。シロマちゃん、さっそくロゼさんを回復してもらえるか?」
「はい、わかりました。【リバースヒール】」
何がなんだかわからない顔をしているソレイユをよそに、シロマは再びロゼに回復魔法を放った。
すると、みるみる内にロゼの顔色が良くなり、そして……
「おじい様? カリー様? それに……?」
ロゼが目を覚ました。
「おぉぉぉ! どういうことじゃこれは? 先ほどは無理だと……いや、それよりロゼ、体の具合はどうなんじゃ? どこか苦しくないか?」
その光景を目の当たりにした城主は、ロゼの額に手を当てて具合を確認する。
「えっと……あ、苦しくないです! もしかして、こちらの方が私の病気を?」
「シロマと申します。残念ながらロゼさんの病気……いえ、呪いは消えておりません。今は呪いにより損傷していたところを回復させたに過ぎないです。」
「それでもありがとうございます! これで少しはおじい様の心配も軽くなったはずです。」
ロゼはシロマの手を取って感謝をすると、ソレイユもまたシロマに対して頭を下げた。
「孫を助けていただき、言葉もありませぬ。ありがとう、本当にありがとう!」
「おい、ソレイユ? 聞いてなかったのか? 呪いが消えた訳じゃないぞ。これは一時的なものだ。」
「はっ! そうであった。して、孫は病気ではなく呪いという事であるか? やはり……。」
城主は何か思い当たる事があるのか、そこで言葉を打ち切る……が、カリーはソレイユの肩を掴んで引っ張った。
「詳しく話してもらうぞ、お前が隠している事について。まぁこの場で話すのもあれだ、場所を変える。サクセス、お前も来てくれ。」
「あ、あぁ……。じゃあシロマ、それと他のみんなはここで待っててくれ。」
「はい、わかりました。それでは私は他に異常がないか、更に詳しくロゼさんの体を調べてみます。」
「助かる。頼んだぞ、シロマ。」
「はい。」
シロマの返事を聞いた俺は、城主を引っ張って連れて行くカリーの後を追った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます