第30話 本日の予定

「おはようございます。サクセス様。昨日はよく眠れ……いかがされましたか? 具合がよろしくなさそうですが?」


「いや、大丈夫だ。ただちょっと世の中の世知辛さを色々痛感していてな。」


「そうでございましたか。知らない大陸の知らない国でございます故、色々とギャップはあるでしょう。何かあればこのセイメイに申し付け下さい。」


「あぁ。その時は……頼むわ。」



 セイメイの言葉に元気なく答える俺。


 あれから俺は部屋で絶望を味わいながらも、朝食をとる時間になった事から重たい腰を上げて食堂に向かった。

 そして、階段を下りるところでセイメイと出くわしたのだが、どうやらセイメイの目にもはっきりわかるほど、俺は消沈していたらしい。


 まぁそんな事もありつつセイメイと共に食堂に向かったのだが、食堂の席には既にイモコ達が座って待っていた。

 


「あれ? 待たせちゃったかな? いや……ゲロゲロはもう始めてるか。」



 いつの間にかゲロゲロが見当たらないと思っていたら、こんなところにいたのか。

 いつから食べていたのかわからないが、ゲロゲロはその小さなお腹をぽっこり膨らませて毛づくろいをしている。



「申し訳ないでござる。ゲロゲロ殿はお腹を空かせすぎて先に食べていたでござるよ。」


「いやいや、問題ないさ。お腹がすいたなら好きな時に食べればいい。それよりもセイメイ、今日の予定はどうなってる?」


「はい。食事が終わったら皆さまにお話したい事がございます。それですので、先ずは腹ごしらえをしましょう。」



 セイメイがそう話すと、とりあえず俺達は食事を始めた。


 食堂にはシロマも座っていたが、もう既に会っているからか挨拶はない。

 色々と有耶無耶にしてしまってて俺的にはバツが悪いのだが、どうやらシロマはあまり気にしていなさそうだ。

 黙ってはいるが、機嫌はすこぶる良さそうで終始ニコニコしている。


 よく見ればシロマの横にはピンクの袋が置かれていた。

 袋の膨らんでいる形から見て、中には本が入っているのだろう。

 食事をするのに必要とは思えないが、肌身離さず持っているという事は相当気に入っている証拠だ。


 なにはともあれ、それだけ気に入ってもらえると俺としても嬉しいな。


 とまぁ、そんな感じでつつがなく全員の朝食が終わったところで、セイメイが話し始める。



「それでは食事も終わった事ですので、さっそく本題に入らせていただきます。」


「あぁ、よろしく頼む。」


「まず初めに、ここ最近の魔獣の発生状況についてです。書物庫のデータから確認したのですが、魔獣が活性化し始めたのは半年前からだとわかりました。」


「半年前? 結構最近なんだな。何か原因とかあるのか?」


「いえ、それについてはまだわかりかねています。一応その原因の元となるのを探すのが優先度が一番高い事項だと判断しております。」



 どうやら流石にデータだけでは、セイメイをもってしても細かいところまではわからないらしい。

 どの程度細かく情報が纏められていたのかはわからないが、そもそも原因がわかっていれば既に動いているはずだ。ということは、思ったよりもこれは面倒な案件かもしれないな。



 俺が今後この件でかかる日数に不安を覚えていると、セイメイは話を続けた。



「それと下尾を襲った大型魔獣についてですが、これは前回が初めての出現だとわかりました。」



 大型の魔獣か。

 基本的にサムスピジャポンの魔獣はどれもかなり巨大だが、それと比べ物にならない程大きいらしい。

 

 でもそんなに大きいならば目立つはずだし……どういうことだ?



「初めて? どこかで目撃されたとか、そういった話はないの?」


「はい、そのようでございます。ハロワの情報は全国で共有されているため、他で目撃情報等があればわかるはずです。」


「なるほどな。つまり、今サムスピジャポンで異変が起きているのはここ周辺のみという事か。」


「断定はできませんが、その可能性が高いと思われます。」



 ふむふむ。

 なんつうか、どうしてこう俺が行くところってトラブルとか多いんだろうな。

 普通こんなに色々と巻き込まれるものだろうか?

 まさか、これもトンズラの……



 俺が脳内に現れるトンズラに冷たい視線を送っていると、シロマがセイメイに質問した。



「それでセイメイさん。その大型の魔獣が逃げた場所や潜んでいる場所の予想はたてられたのでしょうか?」


「残念ながら情報が錯綜しており、難しい状況でございます。嘘か真かわかりませんが、大型の魔獣は突然消えたとの情報もありますので。本来ならそれほど大きい魔獣であれば、どこかで目撃情報があるはずなのですが……。」



 セイメイは不甲斐ない自分を責めるように声のトーンが落ちていく。

 一日を費やして調べた結果がこれだけなのが、悔しいのだろうか?

 具体的に分かった事は少ないかもしれないが、それでもわからないような状況だという事がわかっただけで充分だと俺は思うけどね。



「気を落とさないでくれ、セイメイ。今ある情報が纏められたのは大きいぞ。」


「ですが……あれだけ時間を頂いておきながら……。」


「既に分かっている事は知り尽くしたんだ。次は直接調べればいい。そうだな、それだけ巨大な魔獣なら隠れられるのは森か水の中だろ? とりま、ゲロゲロと一緒に空から調べるか?」


「寛大なお言葉ありがとうございます。そうでございますね、それが一番かと。それでは、私もご一緒させてください。サクセス様と私で空から調べればわかる事も多いと思います。」


「オッケー。じゃあ決まりだな。それで他のメンバーはどうする?」


「それであれば某は一度城に赴き、カリー殿と合流しようかと思うでござる。カリー殿も城で色々と話を聞かれているやもしれない故。」


「そうですね、それでは私もそれについて行きます。お昼には合流という事でどうでしょう?」


「わかった。じゃあそうしよ……う?」



 シロマが最後にまとめたので俺がそれに頷くと、突然食堂の扉が勢いよく開いた。



「サクセス! いるか!?」



 そこに現れたのは、かなり焦っている様子のカリーであった。

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