第70話 和風美人

 翌朝、俺は起きてから顔を洗うと、出かける準備をして食堂に向かう。


 すると、食堂に向かう前に一人の女性とすれ違った。



(うはっ! あんな美女も泊ってたのかよ。できればお近づきになりたい。)



 その女性はサラッとした黒髪に、切れ長のまつげが印象の和風美人。


 肌も透き通るように白く、信じられない程綺麗な女性である。


 丁度対面をすれ違うように歩いたのだが、横を過ぎる直前にその女性は俺に軽く会釈をしてきた。



「あっ……お、おはようだっぺ。」



 俺は緊張からかすこちぎこちない感じで挨拶を返す。


 するとその女性は手を口元に当てて小さく微笑むとそのまま歩き去ってしまった。


 その可憐な仕草を見た俺は、しばらくその場で固まっている。



(めっちゃ可愛いんですけど。名前だけでも聞いておけばよかった……。)



 俺は一瞬で目を奪われ、固まってしまった事を後悔した。



「まぁ、当分ここには留まるだろうし、また会えるか。」



 そう口にすると、俺は頭を切り替えてイモコ達が待つ食堂に向かった。



 ※  ※  ※



「でさぁ、めっちゃ美人がいたわけよ。この宿って俺達以外に何人位泊っているのかな?」



 食堂でイモコ達と合流した俺は、早速朝食を食べながら、さっき俺がすれ違った女性の話をする。



「そうでござるな。入れ替わり立ち代わり人が変わるでござるが、大体二十人程は泊っていると思うでござるよ。ただ某達とは違い、この宿に長く滞在する事はないと思うでござる。」


「そっかぁ。だよなぁ……そうすると、あの美女とはもう会えないかもなぁ。」



 イモコの言葉を聞いた俺は肩を落とした。


 確かに言われてみれば、理由もなく同じ宿に泊まり続けることはない。


 旅行等で訪れているならば、精々2,3日が限度だろう。



「サクセスは本当に女子(おなご)が好きでがんすなぁ。シロマさんという素敵な女性がいるではないっちか。」


「そ、それはそれ。これはこれ。シロマには黙っててくれよ。」



 そういって二人の口留めをしていると、何故か宿の入り口の方から刺すような視線を感じた。


 そしてその視線の方に振り返ると、そこには俺達と別々に行動をするカリー達がいる。


 どうやら、そっちのメンバーは俺達と時間をズラしていて、これから出発するようだ。



 ちなみに俺が感じた視線は、やはりシロマだった。


 俺の方を少し厳しめの目でジーっと見つめている。


 聞こえているはずはないのだが……女の勘なのだろうか。おそろしや。



ーーとその時、


 

 俺はカリー達のメンバーの中に見た事がない……いや、正確には一回だけ会った女性がいるのに気付く。



「え? なんであの中に……。」


「おぉ、あれがセイメイでござるか。凄く美人でござるな。」



 イモコの呟きを聞いた俺は、やっと理解する。


 俺が朝に出会った超絶和風美人がセイメイであると。



「う、嘘だろ……。あれがセイメイだったなんて……。」



 せっかく出会えた美人が男だと知った俺は、大きなショックを受けた。


 だが、それでも尚、その姿を目にすると胸がドキドキしてしまう自分もいる。



(あれ? 俺ってもしかして、どっちもありだったり……いやいやない! 俺が好きなのは女だけだ!)



 俺は頭をブンブンと横に振って、その新しい性癖を自分で否定すると、再び朝食を腹の中にかっこんだ。



「ふぅ。食った食った。んでイモコ。今日はどこから観光するんだ?」


「西側を担当しているでござるから、とりあえず北西からどんどん南に下がっていくつもりでござるよ。」


「なるほどね。すると、トビタティンティンには何日後に行く予定なんだ?」


「そうでござるなぁ……。5日後でござるな。」



(5日……そんなに我慢しないといけないのか!)



 俺はイモコの予定を聞いて絶望を感じたその時、シルクが口を開いた。



「イモコ殿。俺っちは先にトビタに行っても良いと思うでがんす。」



 シルクからの思わぬ一言。

 

 だが、その声には何故か熱を感じる。


 ふとシルクの顔を見ると、鼻の穴が大きく開いていていた。



 どうやらシルクは、まだ男として枯れてないようだ。


 普通ならエロジジィっと言うところだが、今は違う。


 むしろ大賛成だ。



「シ、シルク! そうだよな。俺もそう思う!」



 当然、俺はシルクの案に乗っかると、イモコもまたニヤっと笑った。



「ふむ。まぁ師匠とシルク殿が先に行きたいというなら……仕方ないでござるな。」



 イモコはそう言いながらも嬉しそうだ。


 それなら最初からそう言えばいいものの……このムッツリスケベめ。


 まぁなんにせよ、今俺達の心は一つになった。



「ふふふ。せっかく男三人なんだし、まずはスッキリしないとダメだっぺ。行くべ、行くべ。観光なんだから好きにやろうぜ!」



 俺がそう言うと、野郎どもは拳を高くかかげるのだった。

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