第26話 龍車

「それではみなさん、俺達は行きます。できる限り早く最後のオーブを手に入れてきますので、それまでマーダ神殿をお願いします。」



 そう別れの言葉を口にしながら、俺達は空へと昇っていく。


 現在俺達が乗っているのは、今まで使っていた馬車ではない。


 と言っても、外装が若干異なるだけで、以前から使っていた馬車を元に改造しただけであるが。



 ※  ※  ※



 時は少しだけ遡り、バンバーラが実の母親であったという衝撃の事実を知った日の翌日、俺達は再びマネアさんと会合を開き、そこで今後の予定や次の目的地について話し合った。


 本来であればオーブの場所は女神の導べが指す光に従って進むものであるが、今回に限っては、その光を見ることなく次の目的地がわかる。


 なぜならば、ゴールドオーブの在処についてはイーゼが知っていたからだ。


 彼女が言うには、自分が生まれる前からそれはエルフの女王が保管しているものとのこと。


 イーゼが嘘つく理由もないため特に疑う必要もなかったのだが、一応俺はその場で女神の導べを使って確認するも、やはりイーゼが示した方角と同じであった。


 目的地がはっきりしたのであれば、後はそこに向かうだけである。


 ただイーゼの故郷であるエルフの国


  【ユートピア】


はこの場所からかなり離れた場所であり、船や馬車を使って移動するならば軽く三ヵ月は掛かるそうだ。


 その上、ユートピアがある大陸はそのほとんどが樹海になっており、そこは通称【迷いの樹海】とも呼ばれ、そこに住んでいたエルフですら木々に隠された道しるべなしには町に辿り着くもできない。


 となると帰りはキマイラの翼で直ぐ戻れるにしても、向こうでゴールドオーブを手に入れるまでの時間等を考えれば、下手したら半年は必要となる可能性があった。


 正直、完全に詰んだーーと絶望しそうになった俺に対し、イーゼは「問題ありませんわ」と口にする。


 なんとイーゼの話では、エルフの国がある大陸まで1日で辿りつくことができるそうだ。


 もしかしてキマイラの翼を登録している、若しくは、登録している知人でもいるのかと期待したが、そうではないらしい。


 イーゼの考えでは、馬車を改造して空を飛んでそこに向かうのが一番早いとのこと。


 なるほど! っと思いつつも、そこで疑問が浮かぶ。


 俺がイーゼの話を聞いてすぐに思い浮かんだのは、俺達四人がゲロゲロに乗って向かうことだった。


 ゲロゲロに負担が掛かるのは少し辛いが、今のゲロゲロのステータスならば俺達四人を乗せても、休憩を挟めば問題なく目的地にたどり着けると思う。


 当然俺はその事を口にしたのであるが、その時、横からカリーが



「おい、俺はどうすんだよ!」



と凄い剣幕で文句を言ってきたので、素直にごめんなさいと言うしかない。


 その上バンバーラさんまで有無を言わさず俺についてくると言っている状況から、流石にゲロゲロに六人も乗っていくのは難しい為、俺の案は却下された。


 まぁそれらを見越した上でイーゼは馬車を改造して空を飛ぶと言っていたみたいだが、具体的な方法については、口で言うよりも見せた方が早いと言い、俺達は全員で馬車の所へと向かう。


 すると馬車の横にはいつのまにか木材や鉱石が用意されており、まさかここでみんなでDIYでもするのかと思うも、その疑問が浮かんだ次の瞬間には、イーゼが謎の魔法を使って馬車を改造させていった。


 出来上がった馬車は、居住スペースである荷台部分が拡張され、更に外壁部分は謎の鉱石でコーティングされているようで、全体的に蒼みを帯びている。



「サクセス様と言えば、青ですわ!」



 と嬉々として口にするイーゼだが、俺は色がどうこうよりも、その重さや耐久性が気になった。


 というのも、どう見てもこの作りではゲロゲロが引っ張っていくようにしか見えないからだ。


 ゲロゲロの力であれば問題ないのかもしれないが、それでもあまり大きな負担が掛かるのは望むところではない。


 だが……



「サクセス様の不安はわかります。それでは一度、この【龍車】に試乗してみればよろしいかと」



 出来上がった馬車について、イーゼは龍車と言った。


 であれば、間違いなくゲロゲロの力に期待しているのだろう。


 何はともあれ、俺は言われた通りイーゼと二人で龍車に乗り込むと、ゲロゲロが古龍狼に姿を変えて飛び立つ。


 すると地上から百メートル程上がったところで、



「ではゲロちゃん。このままどこか遠くまで飛んでくれるかしら?」


「ゲロ? ゲロー!(遠く? オッケー―!)」



 イーゼがそう言うと、ゲロゲロは何の問題もなさそうにそう答える。


 だが俺には不安しかない。



「え? ちょ、ちょっとまて! つか、ゲロゲロは重くないのか?」


「ゲロ!(全然! 全く重くない!)」



 ゲロゲロはそう返事すると、そのままドピューンっと凄まじい勢いで飛翔していった。



「なんだこれ。速過ぎだろ!? こんな速度でいつまでも飛べるはずが……」



 俺があまりの速さに不安を覚えていると、イーゼがすすすっと俺に寄り添い……



「うふふ。問題ありませんわ。なぜなら、空を飛んでいる間はこの龍車に重さはありませんですわよ。それどころか、ゲロちゃんが疲れることもありませんわ。」



 などと口にする。


 

「どういうこと? なんでゲロゲロが疲れないとわかるんだ?」


「それはわたくしの魔法で補助しているからですわ。ですので、ゲロちゃんは飛び立つ時だけ力を貸して頂ければいいのですわよ。」


 

 それについて詳しく説明を聞くと、この龍車には風の魔法によって浮力が与えられ、更には空気抵抗すらも失くしているらしい。


 実際それが本当かどうかは俺にはわからないが、一応ゲロゲロに確認すると……



「ゲロゲロ、どうだ? 疲れないか?」


「ゲロゲロ!(全然疲れない! 楽ちん!)」



と返ってくる。



 どうやらイーゼが言っていたことに偽りはないようだ。


 イーゼの力については本人やリーチュンから聞いてある程度理解してはいたが、俺の想像を遥かに超えている。


 シロマも反則級な魔法を使えるようになったが、イーゼの力の万能性はそれをも超えるかもしれない。



 そんな事を考えてぼーっとしていると、いつの間にか俺の手はイーゼに掴まれており、掴まされている。


 何をって?


 そりゃ、こんなに柔らかいのは一つしかないだろう。


 パイオツ先輩だ。



「ねぇ、サクセス様。ここなら誰も来ませんわ。このまま二人で……」


「ちょっ! ちょっと待つっぺよ! ほら、俺まだ体洗ってないし……いやそうじゃないっぺさ」



 突然の色仕掛けに動揺する俺。


 そして気付いてしまった。


 ここまでがイーゼのプランであったということを。


 馬車の改造から空を飛ぶまで、あまりに手際が良すぎるから気付かなかったが、最初からイーゼはこれが狙いであったのだ。


 それでも普段ならリーチュンやシロマが邪魔……こほん。止めてくれるのだが、今回は余りにスムーズな流れ過ぎて、完全に二人きりになってしまった。


 だがしかしゲロゲロは近くにいる訳で、流石に子供(ゲロゲロ)の前でいたすのは気が引ける。



「安心してくださいませ。音は魔法で遮断していますわ」



 !?



 そう耳元でささやくイーゼ。


 こうなったら完全に流れはイーゼに持っていかれるのは当然だった。


 ゲロゲロに気付かれないとわかれば、俺だってこの滾るマグマを抑える必要はない。


 そして以前は魔王を倒すまで仲間に手は出さないと決めていたが、今はこうも思う。



 バレなければよくね?


 ガマン……カラダニ……ヨクナイ



 そう考えたら俺はもう抑えが効かなくなってしまった。


 俺はそのまま荷台の後方にあるベッドにイーゼを押し倒す。


 なぜ荷台が拡張され、その部分にベッドが置いてあるのか……それはイーゼが最初からこういう風になる事を見越して準備していたからだ。


 俺を慕う女性がここまでしてくれたのだ、男なら覚悟を決めるべきだろう。



「あぁん……サクセスさまぁ」



 そんな思いに拍車をかけるように、艶めかしい声が俺の耳をくすぐる。



 もう無理。こんなん……無理だっぺ!



 我慢が効かなくなった俺は、そのまま柔らかいものを揉みしだいていた手を股の方へと滑らせると、ヌルっとした布の感触に理性が弾け飛んだ。



 お、お、お、大人になるっぺよぉぉぉ!!



 そして完全に暴走した俺は、そのままもう片方の手でズボンを下ろそうとするが……



「うわぁっ!!」



 急に体が傾き、後方にゴロゴロ転がってしまう。



「ゲロ! ゲロローン!(たのっしいーー! いくよーーー!)」



 なんとゲロゲロは風の抵抗力を感じないのが面白かったのか、俺達を乗せている事を忘れ、空中で一回転してみたり、激しく旋回したりし始めてしまったのだ。


 縦横無尽に空を駆けるゲロゲロ。


 荷台の中であちらこちらへと転がり続ける俺とイーゼ。



「げ、ゲロゲロ! ストップ!」


「ゲロちゃんやめるのですわ!」



 俺達が必死にそう叫ぶも、音が遮断されている荷台からは声が届かない。


 冷静になればテレパシーを使えばいいだけの話だが、卒業モードから一転の絶叫モードである現在、完全に冷静さを欠いていたため、そこに気付くまで数分掛かってしまった。



 ※  ※  ※



「はぁはぁ……。なぁ、イーゼ。今日のことは無かったことにしないか?」


「残念ですが……仕方ありませんわ」



 暗にみんなには内緒にしてくれという思いを込めて伝えると、イーゼは悔しそうにしながらもそう呟く。


 結局あの後もゲロゲロが暴走する可能性に不安を覚えた俺達は、いたすことはできなかった。


 そしてみんなも心配している頃だと思い、元の場所へと戻る。


 思いもよらないハプニングがあり非常に残念だったが、いずれにしても龍車の弱点もわかり、これならばエルフの国へ行けると確信する俺。


 

ーーというような経緯を経て、現在俺達はマネアさんやイモコ達に見送られながら、エルフの国へと旅立つのであった。





次回 


 [エルフの国と裏カジノ]


に続く。



 

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