第41話 進化
そいつは突然現れた。
禍々しいオーラに包まれたそいつは、どう見ても普通の魔物とは違う。
明らかにもっと上位の何かだ。
「どうやら失敗したみたいだなぁ、しかも相手は勇者じゃない。これは本当に面白いぞ。」
知性のある魔物……。
初めて見たが、なぜかコイツを見ていると背筋が冷たくなる。
どうやら、本能が危険を感じているようだ。
「お前はなんだ? 魔物か? お前がガンダッダを操っていたのか?」
「魔物だと? そんな下等な生物と一緒にされては困るよ。私は魔王の影だ。」
「魔王の影? イーゼ、こいつを知っているか?」
そいつは、魔王の影と言った。
だが俺に分かるはずもないので、イーゼに確認する。
もしかしたら有名な奴かもしれない。
「申し訳ございません。聞いたことがありませんわ。ですが、仮にも魔王の名がつく魔物であるならば……直ぐに撤退しましょう! 危険すぎます!」
イーゼの判断は早い。
見ると額から汗が流れている。
どうやら、イーゼも俺と同じで、こいつから得体の知れない何かを感じているようだ。
「おいおい、せっかく出てきたのに寂しいじゃないか。 ほれ、フゥゥゥ~。」
すると、魔王の影は口から赤い煙を吐き出して、イーゼとシロマに吹きかけた。
「ぅぅうう……。」
イーゼとシロマが突然喉を抑えて苦しみ始める。
くそ! 油断した!
「何をした!?」
俺は、そいつに向かって叫んだ。
「何をした? ただ息を吹きかけただけだ、喉がやけつく息をな。逃げるなんてつまらない事をいった罰だ。 ふはははははっ!」
楽しそうに笑う魔王の影。
俺達は遊ばれている。
「くそ! 俺の判断が遅かった! リーチュン! みんなを連れて逃げろ!」
「……わかったわ! サクセスも早く逃げて!」
普段、こんな事を言えばリーチュンは、絶対従わない。
だが、シロマとイーゼが一瞬で戦闘不能にさせられたのを見て、自分では無理だと判断したのだろう。
ギリッ!
リーチュンの歯ぎしりの音がここまで聞こえる。
悔しいのだ、不甲斐ない自分が。
それを必死に抑えているのがわかる。
だが、ゲロゲロがここで予想外の行動にでた。
「ゲルゥゥゥゥ!」
魔王の影を威嚇している。
否、怯えているのか!?
ゲロゲロは毛を逆立てて、怯えながらも、今にも魔王の影に向かって行きそうだった。
「ゲロゲロ! お前もだ! みんなを守ってくれ!」
「ゲロォォ!(嫌だ!)」
普段従順なゲロゲロが、俺の命令を拒否した。
魔物だからこそわかるのかもしれない。
目の前にいる奴がどれだけ危険な存在か。
それ故に、本当は怖いはずなのに逃げない。
俺を置いて逃げたくないのだ。
仕方なく俺は、ゲロゲロを無理矢理抱きかかえると、外に向かってぶん投げた。
「すまない、ゲロゲロ! リーチュンは直ぐにドアを閉めてくれ!」
「それは……わかったわ! でもサクセスも絶対逃げて!」
「わかってる! 俺だって死ぬ気はない!」
魔王の影は、俺達の必死な姿を見て、何もせずにニタニタ笑っている。
「別れの挨拶は終わったか?」
「あぁ、どうせ逃がす気はないんだろ?」
「そうですねぇ、私の計画を潰した罪は償ってもらわないといけませんからねぇ……。」
「そうか、そいつは……残念だったなぁ!」
その言葉と同時に、俺は一気に接近した。
そして、全力でどうのつるぎを薙ぎ払う。
ズバッ!!
すると意外にも、魔王の影は、俺の一撃で真っ二つに割れた。
「ぎゃぁぁぁぁ!」
そいつは痛そうに叫ぶ。
「やったか!?」
あっけない結末に逆に俺は驚いた。
だが違う、そうではない。
どうやら全くダメージを与えられていなかったようだ。
二つに割れた影は直ぐに元の形に戻っていく。
「なんてね。どうですか? 今の面白かったですか? 人間のセンスに合わせてやりましたよ?」
残念な事に、俺の攻撃はノーダメージだ。
どうやら俺に、影は斬れないらしい。
「しかし、ちょっとここは熱いですね、少し冷ましましょうか。ふぅぅぅぅ~。」
お返しとばかりに、今度は魔王の影が口から凍える吹雪を吐き出す。
「つっ! つめてぇぇぇ! だけど! まだまだぁぁ!」
急激に体温を奪われ、体の節々が凍えてしまった俺。
しかし、そこまでのダメージはない。
ステータスの高さに救われた。
その状況を見て、影はまた嬉しそうに笑う。
「あら、やりますね。それではこれならどうですか?」
「やらせるかよ!」
影がそう言った瞬間……俺はもう一度そいつに攻撃した。
今度は、一撃ではない。
二撃、三撃と連続でそいつを斬り刻んだ。
「オラオラオラオラオラオラァァァッ!!」
ズバッ! ズバッ! ズバッ!
俺の攻撃に、影は細かく分断された。
だがしかし、やはり無駄だった。
バラバラになった影は、直ぐに元の形に戻ってしまう。
こんなのどうやって倒せばいいんだよ……。
そして連撃が終わった後、俺は一瞬油断する。
なんと影は、体の半分を再生をせずに俺の背後で再生していた。
突然背後を取られた俺。
逃げる隙はない。
やばい!
俺の全身から汗が噴き出した。
本能が、全力で危険信号を送っている。
そして影は、その赤い爪を振りかぶった!
間に合わない!
そう思った瞬間、何かが俺と影の間に入り込んだ。
ズバッ!
影はそれを斬り裂く。
俺に痛みはない。
見ると、そこにいたのは
……イーゼだった!
イーゼの背中が、魔王の影の一撃で深く斬り裂かれている。
なぜ? なんでイーゼがここに!?
ふと見ると扉が開いていた。
どうやらイーゼは、全員が扉の外に出たところで、もう一度入ってきたらしい。
俺をここに残さない為に。
そして、油断している俺を見て、俺の背後を守ったのだ。
「サク……セスさま……無事で……」
「あっはっは! お前は本当に運がいい! 面白い、面白いぞ!」
影が笑う傍らで、俺は倒れかけたイーゼを抱きとめた。
「イーゼ!!」
俺の手にイーゼの血がべっとり付着する。
かなりヤバイ状態だ。
「サクセス様……だから私は……例え火の中でも……サクセス様がいれば……。」
「もうしゃべるなイーゼ! シロマ! リーチュン! イーゼを……。」
「そんなつまらないことさせるはずがないでしょう? ふぅぅぅぅ~。」
俺が扉に向かって叫ぶと、影は扉に凍える息吹を吹き付けた。
すると、扉が凍ってしまい、仲間が入ってこれなくなる。
ガンガンガンガンっ!
俺の叫びを聞いたリーチュンは、必死に扉を叩くが、凍り付いた扉は簡単に壊れなかった。
「きっさまぁあぁぁ! ゆるさねぇぇぇ!」
俺が叫んだ瞬間、影はやけつく息を俺に吹きかける。
そして俺は、それを真正面から受けてしまった。
俺の喉が熱くなると、焼けただれていくような感覚を覚える。
その間にもイーゼの体温と血はどんどん失われていった。
助けたい!
イーゼを助けなきゃ!
頼む! 誰でもいい!
俺は死んでもいい!
だからイーゼを助けてくれ!
俺の……俺の大切な人なんだ!
イーゼぇぇぇぇぇ!
俺が出ない声で必死に叫ぶと、俺のポケットから何かが光り出す。
それは、冒険者カードだった。
ふと取り出して見てみると、そこに何かが書かれている。
【熟練度が溜まりました。進化させますか? はい いいえ】
なんだこれは?
こんなの見たことがないぞ!
進化でもなんでもかまわない!
イーゼを助けられるならば、俺はどうなったっていい!
俺は迷わず、指を【はい】の上に乗せた。
すると、俺の体が……いや違う。
俺の装備が輝きだした。
焼きただれていた喉が回復していく。
何が起こったかわからない。
そして、俺の脳内に装備のステータスが送り込まれる。
【破邪のつるぎ 】(進化1) 攻撃力40 スキル 邪悪を切り裂く力 レアリティ77
【破邪の盾】(進化1) 防御力20 スキル オートヒール レアリティ77
【破邪の鎧】(進化1) 防御力35 スキル 光の加護 レアリティ77
【破邪のかんむり】(進化1)防御力25 スキル 光の波動 レアリティ77
【破邪のくつ】 (進化1)防御力20 スキル なし レアリティ77
セットスキル効果(レアリティ77)
獲得経験値10倍 必要経験値10倍 獲得熟練度10倍 必要熟練度10倍 能力向上10倍 職業 聖戦士解放
「なんだ! なんだその装備は! 眩しい! まぶしいぞぉぉ!」
魔王の影は俺からあふれ出る光に後退る。
よくわからないが、どうやら俺の装備は進化したようだ。
喉の痛みが消えたのは、このオートヒールのおかげだろう。
とにかく今がチャンスだ!
その時、ふと以前にイーゼに教わった魔法を思い出した。
【ディバインチャージ】
光の魔法だ。
しかし、ここは魔封じの石で作られたフロアであり、魔法は使えない。
だがこの時、なぜか俺は確信した。
この
【光の波動】
というスキルが、それを、いや全ての効果を打ち消すと。
そして俺は手をかざして叫ぶ。
「光の波動!!」
すると、俺の手から発せられる激しい光に、辺り一面が包まれた。
「きさま! なにを、なにをしたぁぁぁぁぁ」
魔王の影が苦しんでいる。
そのつもりはなかったが、どうやらこのスキルはあいつに何らかの影響を与えたようだ。
しかし、今はそうじゃない!
今やるべきことは!
イーゼを助ける事だ!
「ライトヒール!!」
俺が魔法を唱えると、魔法が発動する。
そしてイーゼのケガがみるみるうちに回復していった。
しかし血を失い過ぎているため、意識はまだ戻らない。
だが生きている!
生きているんだ!
イーゼは生きている!
すると、丁度シロマとリーチュン達も中に入ってきた。
「シロマ! すまない! 応急処置はした! イーゼを頼む!!」
「わかりました! エクスヒーリング!」
シロマは、一瞬で状況を判断し、イーゼに上級回復魔法を唱える。
エクスヒーリングは俺の魔法と違い、生命力そのものを回復させた。
シロマに任せればイーゼは助かる。
なら……俺がするべき事は……。
あいつを倒すだけだ!!
「うわぁぁぁ、目が……めがぁぁぁぁぁぁぁ」
さっきまで、余裕の姿でニタニタ笑っていた魔王の影は、既にその様子は消え、未だに光の波動に苦しんでいる。
そしてこのチャンスを逃す俺じゃない!
「よくも……俺の大切な仲間を……やってくれたなぁぁぁぁ!【ディバインチャージ】」
あの時は使えなかった。
だが、今なら使える気がした。
俺がその魔法を唱えると、俺の剣は激しく光り輝く。
――そして
「くらええええええ!!」
俺は、その剣撃の魔法を魔王の影に放った。
剣から青い激しい光の斬撃が放たれる。
そういえば、この魔法は力と知力の相乗効果だったはず。
つまり450もの能力から放たれる光の刃。
その威力は魔王の影と言えども一撃で塵に変えるだけの力を有していた。
更に破邪のつるぎのスキル
【邪悪を切り裂く力】
は無機物すら葬り去る能力。
このコンボは、例え名前に魔王がつく高位のモンスターであろうと、耐えられるものではなかった。
「ぎゃあぁぁ! ま、まおうさまぁぁぁぁ!」
最後に断末魔をあげた魔王の影は、跡形もなく消えていく。
勝った……遂に勝った!
正直全滅する寸前であった。
イーゼも、少し遅ければ死んでいた……。
よかった……本当によかった……。
俺は膝から崩れ落ちる。
その時、ふと握りしめたままであった、冒険者カードを見た。
そこには、俺の職業が聖戦士(魔物つかい)に変わって記載されている。
聖戦士なんて聞いたことがない職業だったが、今はどうでもいい。
イーゼが……仲間達が助かった。
それだけで十分だ。
こうして俺達は、全滅の危機を逃れて、なんとか魔王の影を倒すことができたのだった。
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【★あとがき★】
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