第6話 リーチュン④
二人が去って少し経ってから、リーダーは改めてリーチュンにお礼の言葉を述べる。
「重ね重ね申し訳ない。紹介が遅れましたが、私は第8冒険小隊のリーダーをしているザンダーと申します。今回ギルドからルーキーを一人預かってレベリングをしていたのですが、まさかここまで強い魔物が出るとは知らず、このざまです。」
丁寧に自己紹介をしてもらうも、冒険者小隊という言葉をリーチュンは知らない。
「うーん、ちょっとよくわからないけど、アタイはリーチュン。今は一人だけど、仲間が街にいると思うわ。あ! そうだ! マーダ神殿ってこの付近にある?」
それよりも確認すべき事を思い出したリーチュン。
すると、ザンダーは自信あり気に頷いて返答した。
それもそのはず。
ザンダーはマーダ神殿のギルド所属の冒険者であり、そもそもここはマーダ神殿の街から一番近い森だ。
「はい。私達もマーダ神殿の街からここまできましたので、そこまで遠くはありません。」
ザンダーの返答を聞いたリーチュンは満面の笑みをこぼす。
「やったぁ! やっぱり近くに飛ばしてくれたのね。まぁお蔭で助けられたし、逆に良かったかも!」
今のは元の世界に送ってくれたマークに対するものであるが、今度は逆にザンダーの方がその言葉の意味を理解できない。
そもそもであるが、あの魔物を単独で倒せるような冒険者をザンダーは知らないし、もしマーダ神殿にいる冒険者であったならば間違いなく噂になっているはずだ。
素性について細かく詮索するつもりはないが、ザンダーは一応確認する。
「飛ばされた? 失礼ですが、リーチュン殿の所属はどちらで?」
そう聞かれて、首を傾げるリーチュン。
所属と言われてもリーチュンにはわからない。
そう言うめんどい事は全てシロマに丸投げしていたし、興味もなかった。
「所属? 難しい事を聞かれてもわからないわ! でもサクセスと一緒に冒険しているの。あと、シロマとイーゼとゲロゲ……」
そこまでいって、忘れていた悲しい事を思い出してしまった。
ゲロゲロだ。
あの日、ビビアンと相対した時、ゲロゲロはイーゼを庇って殺されてしまった。
あっちの世界で過ごした時間が長く、その悲しみも薄れてはいたが、フラッシュバックをするように思い出してしまい、悲しみから涙が零れ落ちそうになる。
「どうかされましたか?」
リーチュンの様子を心配してザンダーは声をかけるも、スッと涙を拭ったリーチュンは何事もなかったように言葉を続けた。
「ううん、何でもないわ。それよりサクセスはマーダ神殿にいるかしら?」
今はまず、サクセス達と合流することが先決である。
心を切り替えられる程、今のリーチュンは成長していた。
「はて? 聞いた事はない名前ですな。ですがギルドに行けばわかるかもしれません。もしリーチュン殿さえよろしければ一緒にマーダ神殿の街まで付いてきていただけますか?」
サクセスはマーダ神殿の町にある冒険者ギルドにほとんど関与していない。
故に、ザンダーが知らないのも当然である。
「もっちろん。任せて! 途中で魔物が現れても全部アタイが倒してあげるわ!」
「それは心強い。しかし私は見ていなかったのですが、あの凶悪な魔物二匹を単独で倒せるとは凄いですな。これでも私も23レベルのバトルマスターなのですが、何もできませんでした。」
「へぇー、バトルマスター! 凄いね!」
リーチュンは天空職になる前は、基本職の武闘家であった。
その為、以前は上級職に憧れを抱いていたので、バトルマスターと聞くだけでも尊敬してしまう。
実際には、今のリーチュンの職業の方が圧倒的に凄くはあるが……
こういう素直なところは、相変わらずリーチュンの長所。
その嘘偽りを感じさせないその言葉にザンダーは気持ちを良くしながらも謙遜の言葉を述べる。
それと同時に、リーチュンの職業に疑問を抱いた。
「いえいえ、全然修行不足ですよ。それでリーチュンさんは何の職業に?」
「えっとねー、アタイは聖龍闘士!」
ザンダーの疑問に対して、リーチュンは隠す事なくあけすけに答える。
「セイリュウトウシ? 初めて聞く職業ですが……まさか伝説にある上級職の更に上の!?」
聞いたことのない職業であるが、嘘を言っているようには思えない。
そして何よりもあの強敵を倒しえる職業であるのは事実なため、自分の知らない職業だろうと答えを導き出す。
「うん、多分そんな感じ! アタイもよくわからない!」
「そ、そうですが。とりあえず二人も帰ってきたようですので、まずは街に戻りましょう。戻ったら相応のお礼をさせて下さい。」
リーチュンの答えに少しだけ腑に落ちないザンダーであるが、恩人に対してこれ以上の詮索は失礼にあたると思い、話を打ち切ろうと考えた矢先、タイミング良くジローたちが戻ってくるのが見えた。
「いいってそんなの! アタイが勝手にやったことだし! でもお礼というなら、アタイの仲間を探すのを手伝って欲しいかな。別れてから結構経ってると思うから、どこにいるかわからないんだよね。」
「そんな事でしたらお安いごようです。」
ザンダーがリーチュンの頼み事を快諾していると、ジローが話に入ってくる。
「ただいま戻りました。リーダー、何を話していたんです?」
「いや、リーチュンさんの仲間を探す手伝いをするという話と、これから一緒に街に戻ってもらえるようお願いしていたところだ。」
その言葉を聞き、ジローは少し申し訳なさそうな顔で尋ねた。
「よ、よろしいのですか? リーチュン様。何か用があってこちらに来られていたのでは?」
「ちょっと、よしてよ様なんて。リーチュンでいいわ。それとアタイもマーダ神殿に用があるから、連れて行ってもらえると助かるわ。今思えば、どっちの方角にマーダ神殿があったのかすらわからなかったわ!」
ジローにとってリーチュンはまさしく救いの女神。
とてもではないが、リーチュン等と呼び捨てにはできない。
そしてリーチュンの返答が自分達を気遣ってのものと勘違いをする。
自分達が負い目を感じないように、そう言っているものと……
故にそこまで言ってもらって、こちらからこれ以上何かいうのは逆に失礼にあたると判断した。
「あはは、お優しいですねリーチュン様……いえ、リーチュンさんは。それではよろしくお願いします。それとリーチュンさんの仲間については全力で協力させていただきます。」
当然返したいお礼をそれだけで済ますつもりはないが、少なくとも何か力になれる事があるのであれば、全力で手伝いたいとジローは本心からそう思った。
「助かるわ! ありがとう!」
「いえいえ、お礼を言うのは此方の方です。本当にありがとうございました。」
そこで一通り今後の話が終わると、ザンダーは確認する。
「それでジロー、ルーキー……いや、ノーリスの遺体は?」
どうやら亡くなったルーキーの名前はノーリスというらしい。
多分だが下の名前はバッカーだろう。
「すみませんリーダー。あまりに損傷が酷く、その場で簡易的に埋葬してきました。一応記章だけは遺品として……」
実際ジローがみたノーリスの遺体は食い散らかされた肉片でしかなかった。
その近くにノーリスのギルド記章が落ちていた為、その肉片をノーリスと判断したのである。
「そうか、すまなかったな。本来なら俺がやるべき事なのに」
ザンダーは辛い役目を押し付けてしまったことに、リーダーとして顔向けできない。
「いえ、俺達は仲間です。気にしないで下さい。」
「本当にすまない……だが贖罪は後だ。まずは街に戻ろう。」
「はい、アイラ。お前もこれ以上気にするなよ。俺達は生き残った。だからこそ、この生を大切にしよう。それと帰ったら……いや、なんでもない。」
「うん。待ってる。」
「え?」
今回、死が目前に迫った事で、今まで言えなかった気持ちを伝えようとジローは決心していたのだが、それに対する返答にジローは戸惑うのであった。
そんな二人をリーチュンは羨ましそうに見ている。
「いいなぁ~。なんかいいなぁ~! あー、アタイも早くサクセスに会いたい!」
二人に触発されたリーチュンは、無性にサクセスが恋しくなるのであった。
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