第7話 リーチュン⑤

 リーチュンは街に引き返す道中に、今の町の情勢やサクセス達についての情報等を聞いていた。


 その話の中でリーチュンが求めるような話は殆どなかったが、それでもギルドに行けば何かわかるかもしれないとの事だったので、そこに望みをかける。


 そうこう話している内に町に到着すると、ザンダー達は早速冒険者ギルドに向かい、今回の報告と合わせて情報を探しに行った。


 その間リーチュンはギルド本部の入り口近くで待機している。


 別に入っても構わないのだけど、何となくサクセス達以外と入る事に抵抗があったのだ。


 それは、少しでも浮気を疑われるような事をしたくないという気持ちに近い感情であり、リーチュンの真っすぐすぎる性格ゆえともいえる。


 そんな訳で一時間ほど外で待ちぼうけしていると、ようやくザンダー達が出てきた。



「お待たせして申し訳ありません。色々聞かれる事が多くて手間取ってしまいました。」


「全然オッケーよ! それでサクセス達の情報はあった??」



 リーチュンは期待に満ちた瞳でザンダーを見つめる。



「それが……申し上げづらいのですが、サクセスという冒険者の情報は無かったです。ただ、それらしき人物が一人でドワーフの国の方へ向かったとの話はありましたが、それがその方かどうか不確実でして……。」



 ザンダーは本当に申し訳なさそうに報告すると、リーチュンは一瞬だけ残念そうな顔を見せるも、直ぐに明るい表情で言葉を返した。



「そっかぁー。でも大丈夫! 気にしないで!」 


「役に立たず申し訳ありません。しかし、これからも情報を集め続けますので、何かわかり次第連絡したいと思います」


「ありがとう! でも、うん、大丈夫! 多分だけどこの街で待っていれば会えると思うんだ。それに一緒に泊まっていた宿に行けば何かわかるかもだし。」



 前向きに振舞うリーチュンを見て、少し心を痛めながらもザンダーは具申する。



「しかし、それであれば猶更ギルドに行った方がよろしいのではないですか?」



 ザンダーはこの街に向かう間、リーチュンにギルドへの登録をずっと勧めていた。


 その理由は、もちろん自分のパーティに入ってくれたら凄く助かるという思いもあったが、そうでなくても、ここまで強い冒険者がギルドにいれば、多くの冒険者にとって助けとなる。


 そういった利己的な理由もあれど、一番の理由は、お金が全くないと言っていたので、魔石を換金する為にもギルド登録が必須だと思ったからだ。


 それに対し、リーチュンはドロップアイテムを売って稼ぐと言っていたが、いくら強いと言ってもそれは現実的ではない。


 魔石と違ってアイテムのドロップは、かなり稀だからである。


 リーチュンとて、そんな事は理解しているし、お金の不安があるから少しだけ悩んだけど、やっぱり一時的でも他のパーティの一員にはなりたくないという思いが強かったのだ。



「うーん……やっぱやめとく! アタイはサクセスのパーティの一員だからね! だから仲間が戻るまでは一人で修行するつもり。」


「わかりました。それでは我々もリーチュンさんについては、あまり口外しないようにします。それと不躾ではありますが、どうかこれだけは受け取って頂きたい。」



 そう言ってザンダーは、大量のゴールドが入った袋をリーチュンに渡そうとする。



「え? いいって! もらえないよ!」


「そういう訳にはいきません。これだけは決して譲れません。それにギルドを利用しないのであれば報酬を得る手段がないと思います。ですので、せめてお仲間と合流できるまでの間の生活資金として受け取ってもらいたい。」



 その優しさに、少しだけリーチュンの瞳がうるっとした。



「ううう……わかったわ! じゃあ受け取るわね! ありがとう!」


「いえ、こちらこそです。それと、もしも魔石が溜まったら我々に声を掛けて下さい。リーチュンさんの代わりに換金して現金をお渡ししますので。命の代価としては少ないでしょうが、今我々がお渡しできるものはその位で……」


「そのくらいなんかじゃないよ! 凄いありがたいわ! 本当にありがとうね!」



 リーチュンが心の底から感謝の気持ちを込めてそう言うと、ザンダーはもちろん、後ろに立っているジローとアイラもホッとした顔をしている。



「そう言っていただけると我々も心が軽くなります。大恩あるリーチュンさんに何も返せないのでは冒険者として面目も立ちませんし、人間としての仁義に反しますから。」


「大袈裟だなぁ。アタイはそんなの気にしてないのに。」


「いえ、我々の命を救ってくださったのは、大袈裟でもなんでもありません。それではまた何かありましたら、このメモに記載された宿に手紙を残して下さい。」



 あまり長く引き留めるのも悪いと思ったザンダーはメモを渡すと、三人で深く頭を下げた。


 そしてそれを受け取ったリーチュンは手を上げて



「わかったわ! 色々ありがとう! また会おうね!」



と言ってその場を立ち去って行った。



 こうしてザンダー達と別れたリーチュンは、ひとまず、サクセス達と一緒に泊まっていた宿へと向かうこととなる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る