第138話 吃驚仰天
「……サクセスさん。」
「あぁ……戻ろう。仲間のところに。」
少しだけ名残惜しくもあるが、俺はシロマをそっと離すとそう告げた。
俺にはまだやらなければならないことがある。
みんなに……ロゼにカリーが死んだ事を伝える事だ。
カリーの最期。
カリーはその身を破滅の光に包まれ、跡形もなくその存在を消されてしまった。
生きているかもしれない、なんて可能性は考えるまでもないだろう。
あれは即死だ。生存の可能性は絶望に等しい。
だかそれでも俺はカリーが死んだなんて思いたくもないし、考えたくもない……さっきまでなら。
でも今は違う。
向き合うって決めたから。
一人じゃないってわかったから。
……だから、ちゃんとみんなに伝えよう。
「シロマ、みんなを送った場所までゲートを開けるか? そこからどれだけ遠く離れたかはわからないが、そこまで行けばゲロゲロが匂いで探せるはずだ。」
「げろぉ(任せて)」
「わかりました。では関所の付近までゲートを繋ぎます。それまで私は何も聞きません。そして何をサクセスさんが口にしても受け入れるつもりですから。だから……無理はしないで下さい。」
シロマは不安そうな顔で俺を見上げた。
どうやら顔に出ていたらしい。
シロマは多分わかっている。
だからこそ、あえてそんな言い回しをしたのだろう。
俺がカリーの事を口にする前に戻ると言った時、シロマは少しだけ驚いた顔を見せた。
勘の鋭いシロマは、あれだけでわかったんだろうな。
「ありがとうシロマ。わかった。でも無理な事なんて何もないんだ。これは俺が伝えなければならない事。でも、そう言ってもらえて少しだけ心が軽くなったよ。」
そう感謝を言葉にすると、俺はシロマが出したゲートを潜っていく。
ゲートから出ると、そこは見覚えのある火山への関所……なのだが、門の前に人はいなかった。
多分ウロボロスの復活を知って一斉に逃げたのだろう。
運よく誰かいれば、仲間がどこに行ったか聞けるかとも思ったが、どうやらそうはいかないみたいだな。
まぁゲロゲロがいればなんとかなるはず。
「ゲロゲロ、セイメイ達の匂い……わかるか?」
「げろ、げろおん。(ちょっと待ってね。うん! わかった!)」
ゲロゲロは地面に鼻を近づけてクンクンすると、今度は顔を上げて匂いを嗅ぎ始めた。
ほんのわずかな時間だが、もうわかったらしい。
流石ゲロゲロだ。本当に頼りになる。
「よし、ゲロゲロ。じゃあ案内してくれ。」
そう口にした瞬間、突然関所の門がギギっという重い音をたてながら開かれた。
外に人がいなかったので当然中にも人はいないと思っていたが、どうやらまだ中に人が残っていたようである。
そしてしばらくして関所の門が開き終わると、そこから誰かが出てきた。
ーーセイメイだ!
「サクセス様! よくぞご無事で! そして……そして……ウロボロスを倒して頂き……感謝の言葉もありません!!」
セイメイは目に涙を浮かべながら、感極まった様子で頭を下げる。
するとそれに続いて他の仲間達も門から……
……え?
ーー一時が止まった。
門から出てくる仲間達。
その中に、いるはずのない人間がいた。
あまりに信じられない光景に、口が開いたまま塞がらない。
そう。門から出てきたのは、
サスケ、イモコ、ロゼ……
そして
……カリーだった。
カリーは門から出ると、そのままゆっくりと俺のところまで歩いてくるが、未だに信じられない俺はその場で固まっている。
すると、俺の前まできて頭を下げた。
「すまねぇ、サクセス! ドジっちまった! またお前だけに負担をかけちまって本当にすまない!」
目の前のカリーに似た男は、カリーと同じ声でそう俺に謝罪する。
一方謝罪を受けているであろう俺は、頭が完全に混乱していて何も反応できなかった。
「おい、サクセス? サクセス? ちゃんと聞いてるのか、俺の謝罪?」
今度はカリーが俺のホッペをペチペチと叩きながら確認する。
その手には確かな温もりがあった。
つまり……つまり、今目の前にいる男は
……間違いなくカリー本人だ!!
その事実に胸の底から喜びが沸き上がると、俺は勢いよくカリーに飛びついた。
「カリー!! カリー!! 本当にカリーなんだな? 嘘じゃないよな? 幻とか幻影とかじゃないよな? カリー! カリー! カリー!」
少し前に卑弥呼の幻影を見せられた俺は、少しだけ疑い深くなっていたのかもしれない。
何度も何度もカリーの名前を呼び、そして抱き着く事でそこに確かな存在を確認する。
「お、おい! いきなりなに……ってそうか、お前には見られてたんだったな。そうだ、俺は生きている。本物だ、安心しろよ。だから……おいっ! ちょ、痛いから! ちょっと離せって!」
俺に抱き着かれて少し照れくさそうにするカリー。
「カリー! カリーが生きてた! なんで生きてんだよ! 俺の悲しみを返せよ馬鹿!」
そんな風に文句を言いながらも、俺の顔は喜びに満ち溢れていた。
「あぁ、それな。実は……」
カリーがそう俺に話をしようとした時、今度はセイメイが割って間に入ってくる。
というか、俺の腕に自分の腕を絡ませてきた。
「カリー殿。サクセス様はお疲れでございます。このようなところではなく、中で寛ぎながらお話の続きをしましょう。それでよろしいでしょうか? サクセス様。」
……むにゅ
セイメイの話し方が少しだけ色っぽく感じるのは気のせいだろうか?
というか、あれ? あれあれ? この感触は……
俺の腕はセイメイの体……いや胸辺りにくっついているが、なぜか本来そこにはあるはずのない柔らかさを俺は感じ取る。
そういえば卑弥呼が何か意味深な事を言っていたような……
「お、おう。わかった。じゃあ少しゆっくりできるところに行こうか……痛ぇ!」
その感触に気付かないふりをしたまま、セイメイに連れられて進もうとしたところで、お尻に鈍い痛みが走る。
振り返るとシロマが不機嫌な顔で俺を見つめており、その右手が俺のお尻に伸びているのが見えた。
どうやら、お尻をつねった犯人はシロマのようだ。
「サクセスさん。今回だけですよ! 行きましょ、ロゼちゃん。」
シロマはそういうと、プンプンした顔をして俺を追い越すと、ロゼを連れて関所の中に入っていった。
そこでふと、思い出す。
(あれ? そういえばシルクに会ってないな?)
そういえば火山を脱出してから、まだ一度もシルクに会っていない。
別任務と言う事で先に火山から撤退していたらしいが、それが何なのか俺は聞いていなかった。
なんにせよ、無事でいてくれるならそれでいい。
しばらくしたら、またあの変な話し言葉で「がははっ」と豪快に笑いながら現れるだろう。
あぁ……早くあいつの無事な姿もみたいな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます