第28話 勇者パーティ集結

 フェイルがいる戦場。


 そこには当初聳え立っていた山も無ければ、周囲一帯に広がっていた木も無く、一言で言うならば、【荒野】と化していた。


 二人の激闘は永きに渡り続いており、その余波は想像を絶する。

 既にフェイルが持っていた回復薬は底をついていた。

 つまり、後一撃でも攻撃をくらったならばフェイルは死ぬだろう。


 一方エンシェントドラゴンゾンビの方もまた、フェイルの攻撃を受け続ける事でいくつかの骨が砕け散っていた。

 その結果、元のサイズから比べると若干小さくも見えなくもないが、未だ動きに衰えは見えない。



 状況的に言えばフェイルが圧倒的に不利なのは変わっていなかった。

 そして、ここまで極限の状況で戦い続けてきたのだ。

 体力的な消耗もかなりのものであるが、それ以上に精神的消耗が大きい。

 これは幾度となく死線を乗り越えてきたフェイルにとっても、過去最大に危険な戦いであった。



「はぁはぁはぁ……そろそろカリー達が城に戻ってくれると助かるんだが……。」



 そんな事をぼやいている間にも、目の前に巨大な爪迫ってくる。



「……おっと、アブねぇ!! くそっ! 少しくらいは休ませろっての!」



 距離をとって数秒だけ休憩しようとしたフェイルだが、相手はその隙を与えてはくれない。

 フェイルが全力で逃げたとしても、サイズが違い過ぎる為にすぐに追いつかれてしまうのだ。


 再びそれをギリギリのところで回避したフェイルは、ふと、空から見えた何かに気付いた。



ーーそれは……



「無様だな、勇者! もう既にお前の仲間はいないぞ。諦めて死ね!!」



 なんと現れたのは、ローズを抱えたダークマドウだった。

 それに驚いたフェイルは、一瞬隙ができてしまい、エンシェントドラゴンゾンビの薙ぎ払いをくらってしまう。



「ぐぁっ!!」



 なんとか直撃を避けたものの、後方に吹き飛ばされるフェイル。

 その様子を見て、ダークマドウは高らかに笑った。



「ふははははははは!! いいぞ! いいぞ我が僕よ! もっとだ、もっと苦しめて殺せ!」



 吹き飛ばされたフェイルは、痛みを堪えながら激しく動揺する。



(カリーとバーラが死んだ? いや、そんなはずはない!)



 一瞬ダークマドウの言葉を信じて、絶望に陥りそうになった。

 直ぐにそんな事はありえないと思い直す。


 カリーとバンバーラが死ぬはずがない。

 状況がどうあれ、二人は絶対生きているはずだ!


 そう自分に言い聞かせたフェイルは、ダークマドウを睨みながら叫んだ。



「嘘だっ!! あいつらはお前なんかにやられるはずがない!」



「くくく……いぃ……いいぞ! いいぞ、その表情! 私を散々苦しめた勇者が私の手によって殺される。大魔王様もきっとお悦びになるでしょう!! ……死ね!!」



 ダークマドウから放たれる黒き炎。

 さっきの攻撃でダメージを負っていたフェイルには避ける事ができなかった。

 


ーーだが……



「しっかりしてフェイル!!」



 その声と共にフェイルの前に魔法のバリアが展開されると、黒き炎をはじき返した。



「バーラ!! 生きていたのか!?」


「当たり前でしょ! 私はね……あなたより先には絶対死なないわ! 【エクスヒーリング】」



 フェイルの窮地を救ったバンバーラは、直ぐに駆け寄ってくると回復魔法でフェイルの傷を癒す。



「く、小癪な!! まぁ良い。【サモンアンデッド】」



 それを見たダークマドウは悔しそうにするも、直ぐにスケルトン軍団を召喚した。


 目の前に現れた大量のアンデッド達。

 これによりたった二人だけで、エンシェントドラゴンゾンビ、ダークマドウ、スケルトン軍団、それらすべてを相手にする事になる。



 如何にフェイルが最強の勇者であっても、流石にこれを一度に相手をする事は不可能だった。

 


「まずいな、バーラ。逃げてくれ。俺より長く生きてくれるんだろ?」


「却下ね。確かに私が死ぬのはあなたが死んだ後よ。でもね、あなたの死を見届ける前に死ぬわけにはいかないわ。」



 現れたアンデッドの大群を前に、死を確信するフェイルとバンバーラ。

 なんとかバンバーラだけは生きて欲しいと願うフェイルだが、それをバンバーラは許さない。



ーーだが、その時予想外の事が起こった。



「グギャオォォォォォォォ!!!」



 エンシェントドラゴンゾンビが、突然怒り狂ったように叫び声をあげた。

 その声には激しい怒りの意思を感じる。

 

 すると、なんとエンシェントドラゴンゾンビは周りに沸いて来たスケルトン達に攻撃を始めたのだった。

 


 知性があり、記憶が蘇っているエンシェントドラゴンゾンビ。

 生前は人に恐れられていた存在であったが、それには理由があった。


 元々ドラゴンというのは高貴な存在であり、その頂点に君臨するエンシェントドラゴンはドラゴンの王と呼ばれる存在。


 その昔、ドラゴン達は人と離れた場所でひっそり生きていた。

 しかし人族は自分の強さを証明するためにドラゴンを狩り始め、一方的な虐殺を繰り広げ続けたのである。

 それも一対一で戦って負けたならいざしらず、人は集団で一匹のドラゴンに襲い掛かると姑息な罠を駆使してドラゴンを仕留めてきた。



 これに怒り狂ったエンシェントドラゴンは、遂に動き出すと人の世界を破壊して回る。



 卑怯な奴は絶対に許せない。

 戦いとは常に正々堂々とあるべき!



 その感情は死してなお、消えることはなかった。



「ねぇ……よくわからないけど、これってチャンスじゃない?」


「あぁ、今ならダークマドウを倒せるかもしれないな。だが、姫様が……。」



 次々とアンデッドを破壊し続けるエンシェントドラゴンゾンビ。

 その状況にフェイル達は一筋の光を見た。

 しかし、そうはいってもダークマドウがローズを抱えている以上、下手に手出しができないのも事実。


 どうするべきか悩んでいると、そこにまた二人の援軍が現れた。


「すまない、フェイル。しくじっちまった。だが、この状況はなんだ?」

「申し訳ございません、勇者様。ローズを奪われたのは私です。」



 そこに現れたのはカリーとシルクの二人だった。

 そして同時にフェイルに謝罪する。



「いや、無事で何よりだ。理由はわからないが、あの化け物が突然怒り出して他のアンデッド共に攻撃している。今がダークマドウを倒す絶好のチャンスなんだが、姫が向こうにいる以上手が出せない。」


「そうなのよね。うちの愚弟がミスしたせいで……。」


「いえ、それは私のミスでして……。」


「あはは。冗談よ、王子。まぁとにかくどうしようかしらね。逃げたところでローズちゃんがいないんじゃ意味がないしねぇ。」



 その時だった。



「なぁ、フェイル。俺とシルクでダークマドウを挑発する。そうすれば奴は俺に攻撃してくるはずだ。その隙にローズを助けられないか?」



 カリーが提案したのは、自分とシルクを使った囮作戦。

 そんな事を始めて聞いたシルクだったが、カリーに並んで頭を下げる。



「僭越ながら勇者様、私からもその作戦をお願いしたく思います。」



 その二人を見て、頷くフェイル。



「なるほどな。悪い作戦ではない……か。いいだろう、それでいくか。バーラもそれでいいな?」


「えぇ、異論はないわ。でも本当にあいつが釣られてくれるかしら?」



 今までのダークマドウを見てきたバーラは、少しだけ不安が胸をよぎった。

 そんな単純な作戦に引っかかるほど、ダークマドウは甘くないと思う。

 だが現状他に策が無い今、それに賭けるしかない。


 カリーも当然そんな事はわかっているが、さっき自分に対する激しい怒りを表していたのだから可能性はゼロではないと判断した。



「わかんねぇ。けど、俺に頭に来ているのは間違いないはずだ。やりようはある。」


「それならいいわ。どの道ここで指を咥えて見ている訳にもいかないしね。ちゃんとやりなよ、カリー。」


「わかってる。今度こそ成功させるさ。そうだろ? シルク。」


「あぁ、やってやろうじゃないか。カリー。」


「いつの間に仲良くなったのよ……まぁいいわ。援護は任せて。」



 なんとなくカリーとシルクの雰囲気が変わったと感じるバンバーラ。

 だが、今はそんな事を気にしている状況ではない。

 まだ戦いは続く……



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