第19話 再会の祝宴
二人きりになり、静まり返った城主の間。
かつての仲間と再会した二人は、黙ってお互いを見つめていた。
カリーにとっては、離れてからそれほど経ってはいないが、ソレイユは違う。既にソレイユは、己の半生以上をこの世界で生きてきた。
しかし不思議なもので、それだけ月日が経っているにも関わらず、会ってみると最後に話したのが数日前の事のように記憶が蘇る。
それを思い返しながら、ソレイユは懐かしさと嬉しさに感極まっていた。
その為、中々口が開かない。
何から話せばいいのか、何を話したらいいのかさえも分からない程、ソレイユの感情は高ぶっていた。
しかしやがて空白の時間は過ぎ、カリーの口が開く。
「……さてっと、久しぶり過ぎて何から話せばいいかわからないな。でも……また会えて嬉しいぜ、ソレイユ。」
「俺っちも嬉しいでがす。またこうして会える日を……どれ程待ち望んでいたか……。」
カリーの言葉にソレイユの目に涙が浮かぶ。
そんな姿を見て、カリーが小さく呟いた。
「年……とったな……。」
「そうでがすな……お蔭で涙腺が脆くて困るでがんすよ。」
「でも生きている。」
「そうでがんす。俺っちもカリーもまだ生きているでがんす。つまり……。」
「夢は終わってないって事だな。」
「夢は続いているでがんす。」
二人は同時に同じ意味の言葉を発する。
あの時から二人の夢……いや、三人の夢は変わらない。
前の世界では、後少しというところで夢は途中で途切れてしまった。しかしこうして二人が生きている以上、何も終わってはいない。
二人の夢は走り続けている。
「はははっ、やっぱりソレイユは変わってないな。」
「カリーの方こそ、覚えていてくれて嬉しいでがんすよ。」
「当たり前だろ? 忘れるわけもねぇ。つか、俺にとってはそこまで月日が経ってないしな。」
「そうでがんすな。俺っちはボケてもおかしくない程に月日が流れたでがすが。」
「あはは、ちげぇねぇや。」
「まちがいねぇでがんす、あっはっは。」
二人は昔の様に、無邪気な笑みを浮かべて笑い合う。
心を通じ合わせていた二人は、もはや親友という言葉さえ生ぬるい。
もはや、お互いが己の半身のような存在だ。
「色々話す事は多いけど、そうだな……俺よりも長くここで生きていたお前の話の方が長いだろ? だから先に今の俺の現状を話してもいいか?」
「かまわないでがんすよ。俺っちもカリーに話したい事は多いでがす。それと会わせたい人もいるでがんす。」
予想外のセリフにカリーは目を見開き、一驚すると同時に激しい期待を胸にする。
「会わせたい人? 俺達の他にまだ……まさか姉さんかっ!?」
しかし、ソレイユは首を横に振った。
「残念ながら違うでがんす。バンバーラさんはまだ見つかってないでがんすよ……。しかし、カリーが驚くような人物であるのは間違いないでがんす。楽しみにしていて欲しいでがす。」
「……そっか。まぁいいわ。俺達が生きているって事は、姉さんも間違いなく無事だろう。それになんとなくだけど、もうすぐ会えるような気はしてるんだ。」
「それは、先ほどのサクセス殿と関係が?」
これだけの会話でカリーの思考を読み取るソレイユ。やはり彼はシルクの頃から変わらず、頭の回転が速い。
「ご名答。何となくだが、俺はあいつと出会って何かが変わった。俺個人のじゃねぇ、俺の運命そのものが……だ。まぁ、それが何かまではわからねぇけどな。」
「ふむふむ、不思議な方でガスな。フェイル殿にそっくりでがすし……。」
「そうなんだよな。でもまぁ、その内色々分かってくるだろ。それよりも、じゃあ話すぜ。俺がこの世界に来てからの事をな。」
こうしてカリーは、サクセスと出会ってからの事を終時楽しそうに語り明かした。
すると気付けば、あっという間に楽しい時は流れ、いつの間にか夜の闇が月を照らし始めている。
「おっと、随分と話し込んじまったな。すまねぇ、俺ばかり話していて。」
「そんなことないでがす。とても興味深い話であったでがんすよ。それに時間などいくらでもあるでがす。気にすることないでがんす。」
カリーの話を相槌を打ちつつも、話の腰を折ることなくじっくり聞き続けたソレイユ。
聞き上手なソレイユであったが為に、カリーは饒舌となって時間を気にせず話してしまった。
それに気づいたカリーは申し訳なく思いつつも、何故かこの感じが懐かしくも感じる。
一緒に旅をしていた時も、ソレイユはカリーの話をよく聞いてくれていた……そう、こんな風に。
「いやいや、だってソレイユは城主だろ? 忙しい時間をこんな話に付き合わせてしまってすまねぇ。」
申し訳なさそうに顔を伏せるカリー。
しかし、ソレイユはカリーの両肩に手を置くと、昔と変わらない笑顔で言った。
「カリーと会う時間以上に大切な時間はないでがんすよ。まだ話したりないのは事実でがすが、とりあえず一旦風呂にでも入るでがす。それが終わったら夕食の席で続きを話すでがんすよ。」
その甘い誘いに、カリーは逆に冷静になった。
流石にこれ以上、ソレイユもそうだがサクセス達に迷惑をかけるわけにはいかない。
自分が居ない間にも、サクセス達は世界の為に動き続けている。
それなのに、自分だけがこんなに楽しい思いをしていてはいけない。
「えっ? いや、悪いだろ? つうか、サクセス達も戻ってきてるだろうし。俺もそろそろ一度戻らないと。」
「それなら平気でがんす。セイメイより、本日はカリーがこの城に泊まる事の了承を得ているでがんすよ。当然サクセス殿もわかってるでがす。相変わらず心配性なのは変わらないでがんすが、今のところ何も報告がないという事は問題ないって事でがす。」
セイメイは当然こうなる事は予想していた。
そして問題があれば、必ず報告を寄越すつもりであった。
(そうか……気ぃつかわせちまったな。だけど……ありがとうな、みんな。)
カリーは、言い知れぬ罪悪感を感じると同時に、気を遣ってくれたセイメイや仲間に感謝する。
「なるほどな。俺はこの世界でもいい仲間に出会えたようだわ。」
「そうみたいでがんすな。羨ましい限りでがす。」
「んじゃ、今日はいっちょソレイユの迷惑になるとするかな。」
「ははは、迷惑なんかないでがすよ。それに今までカリーに掛けられた迷惑に比べたら可愛いもんでがす。」
「ちげぇねぇわ、それ。あはははっ……。」
こうして本日、城に泊まる事となったカリーは、その後、ソレイユと風呂場で久しぶりの裸の付き合いをする事となった。
そして風呂から上がってさっぱりしたところで、畳敷きの大広間に案内される。
「さて、今日は宴でがんす! 存分に飲んで食べるでがすよ!!」
「うおぉぉ! すっげぇな! 流石城主様。つか、流石に二人でこの量はやばくね?」
畳の上には沢山の風情あるテーブルが並べられ、その上には、
これでもかっ!
という位、豪華な料理が並んでいる。
数々の趣向が凝らされた料理を前に、テンションアゲアゲと言いたいところだが、流石にここまで物量で押し込まれると、ちょっとだけ食欲が下がってしまう。
それに、これだけ広い部屋に二人だけというのも少しだけ寂しい。
ここにサクセス達がいたならば、少しは違っただろうが。
「安心するでがす。二人だけとは言ってないでがんすよ。さっきも話した通り、カリーに会わせたい者がいるでがんんす。」
「え? 今日? つか、もういるのか?」
「当然でがんす。この城に住んでいるでがす。さぁ、もう出てきてよいぞ。」
何故か最後だけ威厳ある言葉に戻るソレイユ。
その言葉と同時に、奥の襖がゆっくりと開けられた。
そして襖が開くと、奥から一人の少女が部屋に入ってくる。
ーーその姿を見た瞬間、カリーの時は止まった。
カリーは体を硬直させながらも、その瞳からは涙が止めどなく零れ落ちていく……。
そう、その目に映ったのは……死して尚、カリーが愛し続けていた
ローズの姿だった……。
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