第126話 正体

【仲間視点】



「朱雀様、某と一緒にいざ……参らん!!」



 イモコがそう言葉を発した瞬間、朱雀は全身に聖なる炎を纏い、ウロボロスの眉間に向かって突撃した。


 その刹那、四方八方から無数の龍頭が朱雀がいた場所に突撃するも、そこに朱雀の姿はない。


 だがしかし、朱雀移動した際に発生した聖なる炎の残滓は、集まってきた龍頭を燃やし尽くす。


 一方イモコは、朱雀の突撃と同時に全神経を集中させた突きの一撃を放っていた。



 剣先に神気を纏った神刀マガツカミ



 その突きから放たれた神気は、ウロボロスの眉間を貫いた。



「ギャァァァァァァァァ!!」



 ウロボロスと一体化しか卑弥呼が、その激痛に叫び苦しむ。


 やはりイモコが放った神気は、間違いなくウロボロスにダメージを与えていたようだ。


 そしてその悲鳴が聞こえたカリーとセイメイは複雑な表情を浮かべる。



 それはウロボロスを倒せるかもしれないという喜び。

 そして、卑弥呼が苦しんでいる事に対する苦しみ。


 相反する二つの感情が、二人の心を深く抉る。


 だがしかし、それでも二人がこの結果に後悔をすることはない。

 そうなる事は覚悟の上でここまできた。

 だからこそ、後の事は全て自分で背負うつもりだ。


 セイメイは国を

 カリーは残された仲間達を……



 一方、イモコは朱雀と共にウロボロスの眉間を貫き、肉の壁を突き進んでいる。 



 ウロボロスの眉間を抉り続けるは、神気を纏いし神刀マガツカミ。

 そして抉った周囲の肉を溶かすは、朱雀が纏いし聖なる炎。


 この二つが合わさることで、イモコ達はその肉の壁をどんどんと進んでいくことができた。



 ウロボロスの大きさは、巨大な山一つ分。



 どこまで進めばその核があるかはわからない。

 だがそこに到達するまでイモコ達は止まらない。


 しばらくイモコ達はそのまま肉の壁を掘り進めていくと、突然イモコの手に突き破る抵抗が消える。


 なんと肉を貫き続けていたところ肉の壁がなくなり、ぽっかり空いた空洞のような場所に出てしまった。


 そしてその空洞の真ん中には、薄く黒い球体に捕らわれた卑弥呼の姿が見える。


 遂にイモコはウロボロスの核……卑弥呼の場所へと到達したのだ。



 もしもここに来たのがサクセスであったならば、間違いなく卑弥呼を殺す等という選択はしないだろう。

 どうにかその球体をこじ開けて、卑弥呼を救おうとするはずだ。



ーーしかし、イモコは違う。



 あれこそが、正にウロボロスを滅ぼす事ができる唯一の弱点。

 卑弥呼に恩義はあれど、国を……大陸を救う事と天秤にかければ、当然卑弥呼を殺す事を選択する。



「卑弥呼様……御覚悟!!」


「やめるのじゃ!! お主には無理じゃ! 早くここから逃げるのじゃ!」



 イモコに気付いた卑弥呼は、必死になってイモコに向かって叫んだ。


 しかし、イモコは止まらない。


 その警告がまやかしではないと言い切れないのもあるが、それ以上にここまできたらやるしかなかった。



 そしてイモコはためらう事なくそのまま朱雀から飛び降りると、球体ごと卑弥呼を斬る。



……だが



 神気を纏ったイモコの神刀は、カキンっという甲高い音を立てて薄黒い膜に弾かれた。



「馬鹿な……神気はウロボロスさえも斬れるはず……。」



 まさかの事態にイモコが驚愕し、痺れる手に目を向ける。



……次の瞬間、卑弥呼は鬼気迫る勢いで叫んだ。



「逃げるのじゃ! お主まで取り込まれてしまうのじゃ!」



 卑弥呼が叫んだ瞬間、空洞だった場所が一気に収縮し始める。


 まさに卑弥呼が言うように、イモコはウロボロスに取り込まれようとした。




 だが次の瞬間……



ーーイモコが開けた穴から、青竜、玄武、白虎が飛び込んでくる。



 更に全ての四聖獣がそこに揃うと、四匹全てが金色の粒子へと変わっていった。


 何が起きているか理解できないまま、イモコはその粒子に包まれると、金色の球体となって収縮する肉の壁を破って外に飛び出していった。



 肉の壁が全てを潰そうとするその場。


 残された卑弥呼は最後の力を振り絞って、イモコに大切な事を伝えようと叫ぶ。



「竜神様じゃ! 竜神様を連れてくるのじゃ!」



 その言葉を残し、そこは肉の壁により塞がってしまった。


 そして最後の卑弥呼の声は、危機一髪でその場から脱出したイモコの耳に届く……。



 なぜ卑弥呼は、あれだけイモコ達が自分に向かう事を拒んでいたのか。

 当然、それは自身が消滅する事を拒むためではない。

 ただ単純に、イモコ達では核である自分を滅ぼす事が出来ないと知ったからだ


 当初卑弥呼は自分が核となることにより、神気で自分ごとウロボロスを消滅させる事ができると考えていた。


 しかし、ウロボロスと一つとなる事でウロボロスの真の正体を知った卑弥呼は、神気だけではウロボロスを滅ぼせない事に気付く。


 確かに伝承には、ウロボロスを滅ぼす事ができるのは【竜神】だけだと記されていた。


 しかしながら、それは単に竜神という規格外な強さでなければ倒せないという風に解釈していたのである。



 だが違った。



 ウロボロスと一つになる事で、ウロボロスの秘密を知った。


 ウロボロスとはかつて竜神であったものの成れの果て……いや、その残滓であると。


 邪神は死した竜神を媒介に、ウロボロスを作ったのだ。


 そして竜神たる力を滅するには、神気の他に、竜の力が必要だった。


 それを知った卑弥呼は、必死にサクセス達に伝えようとするも思うようにコントロールをできない。

 

 いや、できないというよりも、既にその意識が完全に飲み込まれようとしていた。


 だがこの事をサクセスに伝えなければ、この世界そのものがウロボロスに飲み込まれてしまう。


 今の自分……ウロボロスを殺す事をできるのは竜神たる力を持つサクセスしかないからだ。


 だからこそ、世界の命運をサクセスに託すしかない……。



「お願いですじゃ……竜神……いやサクセス殿。ワシを殺してくれ……。」



 卑弥呼は薄れゆく意識の中で、最後に自分の言葉がイモコに届く事を祈るのであった。

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