第66話 決死の覚悟

「何を謝るつもりかはわからないけど、そんな顔すんなよ。大丈夫だ、話してくれ。重要な事なんだろ?」


「感謝するでござる。師匠は某達がサムスピジャポンに戻る事について、何も疑問に思わなかったでござるか?」



 疑問?

 あぁ、言われてみれば……。

 派遣されているのに勝手に帰国していいのかということかな?

 全く考えてなかったわ。

 確かにこれだけ凄い船と人員を派遣されて、全員が急遽帰国とかおかしいっちゃおかしいな。



「突然帰国することについてか? 何か誓約があったりするのか?」


「その通りでござる。師匠は知らなくて当然でござるが、剣闘士の派遣というのは10年契約でござる。そして、今がたまたま10年目等ということはあり得ないでござる。」



 まぁ、そこまで偶然が重なったら凄いわな。



「んで、それを破るとどうなるんだ?」


「多分、処刑でござるな。」



 イモコはさも当然のように言う。

 


 処刑!?

 俺のせいでみんなが処刑に!?

 ダメじゃん、それはダメだろ。



「ど、どうするんだイモコ。今から戻るか? 俺も流石に全員を犠牲にしてまで行くつもりはないぞ。他に別の方法を考えるよ。」


「心配痛み入るでござるが、問題無用でござる。某達は処刑されないでござる。役目は果たしたでござるよ。」



 え? 意味が分からない。

 


「ごめん、何言ってるかわからん!」


「それこそが某が謝罪する理由でござる。もしも、某を許せなければこの場で師匠に斬り伏せて欲しいでござる。」



 おいおい。

 こいつはどんだけ、自分の命を軽く見ているんだ。

 何があっても、俺がイモコを殺せるわけないだろ。

 とはいえ、あの目はマジだ。

 まずは話を聞くだけ聞いてみるか。



「……とりあえず話してくれ。全部だ。」


「わかったでござる。まず某達が剣闘士として派遣されたのは、力や技術を身につける事と異文化と交流することでござる……が、それは表向きの目的でござる。」


「表向き?」


「そうでござる。本来の目的は、サムスピジャポンに戦力を連れてくる事でござる。戦力は数でもよければ質でもいいでござる。そういう意味では、某は最高に幸運でござった。正直、この世界で最強……それも圧倒的に最強と言える師匠達を招くのでござるから、当然でござる。つまり、目的は果たしたという事でござる。」


「……なるほどな。それで、俺達を連れて行ってどうするつもりだ?」


「戦ってもらうでござる……。サムスピジャポンに眠る最悪の災厄と……。とはいえ、それを無理強いするつもりはないでござるよ。もし嫌であれば、船を降りた後は自由にするでござる。」



 ここで初めてイモコは笑顔を見せた。

 だが、緊張が顔に張り付いている。

 へったくそな作り笑いだな。


 故にその意味に俺は気づいた。

 イモコの内に秘めた決意に。



「俺達がもしも船から降りて、イモコと別れたら……お前、死ぬ気だろ?」



「死ぬ気はないでござる。しかし、目的を果たさずに帰還をすれば処刑される可能性は高いでござるな。故に、災厄の最前線で戦わせてもらう事を条件に卑弥呼様に嘆願し、他の部下を逃がすつもりでござる。しかし、これは師匠には関係のない事。故に、気にしないでほしいでござる。」



 バシッ!



 その瞬間、俺はへたくそな作り笑いを浮かべたイモコの顔を平手打ちした。



「ふっざけんな! 何が気にするなだ! 馬鹿かお前は! いいか、よく聞け。俺は戦力としてお前の母国に行くつもりはない! でもな、お前の師匠としては行くつもりだ。つまり、弟子の願いがあれば聞くのが当然だろ? 勘違いしてんじゃねぇよ。誰がお前を勝手に死なせてなんかやるもんかよ!」


「し、師匠……ですが、某は……某は……。」


「イモコは優秀なくせに意外に馬鹿なんだな。大体な、そう言う事は最後まで黙っていれば、俺達は何も知らずにその最悪の災厄とかいうとの戦わせられたわけだろ? それを正直に俺に喋っちまってよ。本当に馬鹿だぜ。だけどな、そんな馬鹿は俺は大好きだぜ。オーブを回収するついでに、そいつを倒してやるよ。だから、もう泣くな。男だろ?」


「師匠……ししょおおぉぉぉ!! 一生ついて行くでござる! 某の命に代えて、師匠について行くでござるよ!」


「ちょっ! やめろよ! 抱き着くな! 気持ち悪い! わかったわかった。ついて来なくてもいいけど、お前は俺の初めての弟子だからな。簡単には弟子をやめさせないぜ。」


「申し訳ないでござる。つい、某……感激のあまり……。」


「んで、その災厄について教えてもらっていいか?」



 倒してやるとは言ってみたもんだが、そう安易に答えてしまったのは間違いかもしれない。

 また簡単に考えたら、リヴァイアサンの時の二の舞だ。

 ここは、しっかりと事前に情報を集めておこう。



「少し長くなるけど、よろしいでござるか?」


「あぁ、いいよ。後この話は後で他の面子にも伝える。それは問題ないな?」


「……はい。当然でござるよ。」


「馬鹿、辛気臭い顔すんなよ。大丈夫だ、みんなわかってくれる。それよりも、そんな大事な事を話してくれた事に感謝するに違いない。」


「某……斬られても……。」


「だからさ、そのさ、なんでも自分が死んでどうにかしてもらおうとするのやめてくれないか? まずは自分の命を大事にしろ。サクセス流のモットーは「いのちだいじに」だ。お前も俺の弟子ならそれを忘れないでくれ。」


「いのちだいじに……でござるか。わかったでござる。心に深く刻むでござるよ。」



 こうして俺は、



    サムスピジャポンの秘密


    最悪の厄災


についてイモコから聞くことになるのであった。

 

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