第69話 ビュッフェ

 俺達が食堂に着くと、既に多くの船員達がそれぞれ皿に飯をよそって、テーブルで食べている。

 どうやら、この食堂はビュッフェ形式のようだ。


 それだと、誰かが食べ過ぎたりしてなくなったりしないのかな? 

 っと一瞬思ったのだが、どうやら普段は、一人当たりの分量が決められているらしい。

 

 今日はカリーが釣りまくったお蔭で食材が多いから、こういう風にしたのだと、後になってイモコから聞いた。



「あ、サクセスさん! スイカです!」



 そして、本日シロマが育てたスイカも並んでいる。

 だが、誰もそれに手を付けようとしない。



「なんで誰も食べないんだろ?」


「確かに変ですね。」



 俺とシロマが疑問に思っていると、見覚えのあるイケメンが近づいて来た。



「あれは、サクセス様達が食べる為に置いてあるのですよ。残ったらみんなで分け合う予定でございます。」



 急に出てくんなよ。

 びっくりしたわ。



「え? いいのに。っつか、俺達だけで食べきれないし。」


「そうかもしれませんが、まずはサクセス様達が食べてからです。それが、この船のルールですから。」



 セイメイは表情を変えずに丁寧な言葉で告げる。

 ルールね。

 イモコと同じようなこと言うんだな。



 でも、やっぱ俺はこいつが苦手だ。



「おぉーい! サクセス。遅いぞ! 早く来いよ! 俺のとっておきのマグロ食わせてやっからよ!」



 すると、先に着ていたカリーが俺を呼んだ。

 みると、そこにはイモコもいるし、なんならゲロゲロもいる。

 というか、ゲロゲロは既に食事に夢中だ。



 早すぎだろ。



「わりぃわりぃ、寝坊しちまった。へぇ~これがマグロね。って、生じゃん!?」


「あぁ? サクセスは食った事ねぇのか? 刺身っていうんだぜ、うめぇぞ。特にこの油がのりまくった大トロは肉よりもうめぇ。試しに食ってみろよ。」



 俺とシロマが席につくと、カリーは霜降りが凄い赤身の肉のような刺身を渡してくる。



「これ……本当に生で大丈夫か? 腹壊したりしない?」



「なんだよ、心配性な奴だな。平気だって。ほら、この醤油ってやつにその緑色の奴を混ぜて、それにつけて食うんだよ。」



 醤油?

 この黒っぽいタレか。

 それに緑色のこれは何?


 色合いがめっちゃ毒々しいんだけど……

 しかも、遠くからでもつーんとした匂いがするぞ。



「醤油ってのはいいけど、この緑色のは何なの?」



「それはワサビでござる。辛いから少量を付けるといいでござるよ。殺菌作用があるから、刺身を食べるときはそれをつけて食べるでござる。」



 なるほど!

 この緑色したワサビって奴をつけると、腹を壊さないってことか。

 まぁ四の五の言わず、とりあえず食ってみるか。



 俺は大トロを一切れ取ると、ワサビを入れた醤油につけて、口に運ぶ。


 

ーーすると……



「う、う、う、うまい! うますぎる!! なんだこれ!? 口の中でとろけて消えた! なのに、旨味がいつまでも口から消えない! なんじゃこりゃぁぁぁぁ!」



「だろぉ? だから言ったじゃねぇか。これは滅茶苦茶うまいんだぜ。っといっても、俺もさっき初めて食ったんだけどな。」



 カリーはしたり顔で俺に言った。

 偉そうに言っていたが、カリーも初めてだったらしい。



「んんん! 後から、つーんと頭にくるな。これがワサビか!? これも病みつきになるな。もしかして、これってサムスピジャポンの料理だったりする?」


「そうでござる。我が国の伝統料理でござるよ。気に入っていただけて何よりでござる。しかし、某もこれほど立派なマグロの刺身は初めてでござるよ。」


「確かにこれは美味すぎるな。これならいくらでも食えるぜ。こんなうまい物あるなら、サムスピジャポンはまじで良さそうなところだな!」



 俺はその後も興奮した様子で、次々に料理を口に運ぶ。



 ちなみにシロマはワサビが苦手なようで、少ししかつけないで食べていたが、味自体はやはりとても美味しかったらしく、その小さな体で結構な量を食べていた。



「ふぅ~、満腹満腹。あっ! やば! スイカあるんだっけ?」


「お、そうだった! シロマちゃんがせっかく作ったんだ。食べようぜ。」


「それでは某が切って持ってくるでござるよ。」



 やべえ、まずいな。

 食べ過ぎてもう腹に入りそうにない。

 見てくれ、この腹を!

 ポンポンできるくらいに膨らんでるぜ!



「それでは師匠。好きなのを取って下さい。」



 俺が子供でも入っているのではないか? 

 というくらい膨らんだお腹を摩っていると、早速イモコが切り分けたスイカを持ってきた。



「いや、まずはシロマからだ。生産者が先に口にするべきだ。」



 俺は直ぐに食べれそうもないので、すかさずシロマに振る。



「それではお言葉に甘えて頂きます。それを下さい。」


「畏まりでござる。さぁどうぞでござるよ。」



 シャリッ!



 イモコがシロマにスイカを渡すと、シロマはそれをスプーンですくって上品に食べた。

 その可愛い口にスイカを入れた時、シロマは目をギュッと力強く瞑って、美味しそうにしている。



「とても甘いです。さっきまでお腹が苦しかったのですが、これなら、まだまだ食べれそうです。」



 ふむ、女子にとってデザートは別腹と聞いていたが本当のようだな。

 俺も美味しそうにシロマが食べているのを見て、なんだか食欲が復活してきたぞ。

 どうやら、別腹は女子に限ったものではないらしい。



「じゃあイモコ、俺はそれをくれ。」


 

 俺がそういうと、イモコは俺の皿にもスイカを乗せる。

 俺はシロマと違ってスプーンを使わずに丸かじりだ。



 ガブガブガブガブ!!



「あっま! なにこれあっま! うちで作ってたスイカよりうめぇ!!」



 俺が食べたスイカは、今まで食べた中で一番甘かった。

 もしかしたら、シロマは一番美味しくなる状態まで大きくさせたのかもしれない。

 完熟スイカっていうのもおかしな話だが、多分そういうことだ。



 天才か!? シロマ!



「あ、でもさ。俺達は一切れ食べれば十分だよ。残りは他の人で分けてほしい。みんなもそれでいいかな? 食べたかったら、もっと食べてもいいけど。」


「俺はお腹いっぱいだから、これで十分だ。」


 ゲロ!(スイカより肉!)


「私も、もうお腹いっぱいです。」



 うん。みんなもう十分のようだ。

 そこの一匹を除いては……。



「わかったでござる。では残りは抽選にするでござるよ。」


「なんか色々悪いなイモコ。サンキュ!」


「そんなお礼を言われることはないでござる。当然でござるよ。それで、師匠。お風呂はいつ入るでござるか?」


「ん? そうだなぁ、1時間後くらいかな。食休みしたら入りたい。」


「わかったでござる。それでは左から3列は師匠達以外は使わないように伝達するでござるから、ゆっくり入るでござるよ。」


「いいのか? まぁ、そしたら一時間だけ貸し切りにしてもらうか。」


「了解でござる。」


「あ、そうだ。ここの片づけも手伝わせてもらっていいかな? 食後の運動にいいんだよ。」


「そうでござるな……それでは少しだけ手伝ってもらうでござる。でも全部はやらなくていいでござるよ。」


「あぁ、わかった。んじゃみんな、サクっと片付けよう。」



 そして今夜もまた、全員で後片付けをしていたのだが、流石に食堂の人数が多いのと、まだ食べていない者も多いため、ある程度したらもう十分だと追い返されてしまった。



 とりあえず、やれる事はやったし、これでいいか。

 それに俺達が片づけをしていると、みんな緊張しているしな。

 今日はこのくらいにしておこう。



 それにしても……うまかった!

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