第70話 新たなる扉

「さてっと、お腹も落ち着いてきたし、そろそろひとっ風呂浴びてくるかな。」


 

 一度部屋に戻って食後の休憩を終えた俺は、本日のメインディッシュであるお風呂タイムに突入することに決めた。

 

 正直、楽しみで仕方がない

 昼間に見た風呂場での光景。

 あの幻想的な光景が今でも俺の脳裏に焼き付いている。


 当然、今は夜であり、海の中は真っ暗で何も見えないかもしれないが、俺にはとっておきの秘策があった。

 そう、俺の使える数少ない光魔法【レミオール】

 これさえあれば、海の中を照らし、まるで深海にライトを当てたような光景を楽しめるのではないかとワクワクしている。



 ということで、意気揚々と地下二階に向かう俺。



「んー、左三つが俺達の風呂だよな。お? まじか、もう二人とも入ってるのかよ。」



 奥三つの浴室の内、二つが既に【使用中】となっている。

 つまり、カリーとシロマがそれぞれ入浴中という事だ。



 むっふふふ



「シロマが入ってるのはどっちかなぁ~? おいらがシロマの成長を確かめてやるべさぁ。」



 使用中の文字を見て、さっきまであれ程楽しみにしていた深海パラダイスが、直ぐに頭の隅に追いやられてしまう俺。



 そりゃそうだべ、こんなチャンスはないべさ。


 

 だがしかし、問題が三つある。


 一つ目は、どちらかが外れ(カリー)であるという事。

 二つ目は、内側から鍵が掛けられている可能性が高い事。

 そして最後は、バレずにどう覗くかという事。



 う~む、覗きの壁は高いな。

 だがしかし、そんな事で諦める俺ではない!

 覗きマイスターとして、ここで覗かずにいつ覗くというのだ!



 考えろ俺! 決断しろ俺! 

 そして……覚悟を決めるんだ!!



 あれ?

 そういう話だったっけ?

 もっとシリアスな事で悩んでいたような……。

 


 まぁいい、そんな事は今はどうでもいい。

 まずはこの状況をどう打破するかだ。



 ………………。



「うん、無理。いくら覚悟決めてもこりゃ無理だな。」



 そして俺は直ぐに諦める。

 なぜならば、どう考えても問題1,2が解決する方法が見つからない。

 だがしかし、俺は少ない可能性にかけることにした。


 

 現在三つある内の左と右の扉が【使用中】になっている。

 つまり、そもそも俺が入れるのは真ん中だけだ。


 浴室の扉を開けると、入ってすぐに1畳ほどの脱衣所があり、そしてその奥が浴場となっている。

 ならば、今俺にできる事は、脱衣所に穴がないかの確認と、穴を作れるかどうかの確認だ。

 穴を作るとしても、右と左どっちを俺は選択する?

 

 当然左だ。


 なぜならば、右側の浴室は更に右側に浴室がある。

 逆に左側が一番奥になっていて、右側にしか浴室がない。

 つまり、色んなリスクを考えた時、左側が一番安全という事。

 

 それに気づかないシロマではない。

 という事で、俺は真ん中の浴室に入ったら、左側の壁の攻略を決意し、戦場(真ん中の浴室)に攻め込んだ。



 カチャ……



 できるだけ音をたてずに入る俺。

 もし壁が薄ければ、音によってシロマに警戒される恐れがある。

 故に、例え隣であっても俺は慎重に扉を開けて中に入った。



「……うん。無理だわ。壁に穴開けるとか絶対音でるし……。」



 脱衣所を見渡した俺は、計画が無慈悲にもそっこう破綻していた事に気付く。

 壁に穴なんかある訳もないし、そもそも開けられそうな程やわな素材でできていない。



 当然だわな。

 しかたない、深海パラダイスで我慢するか。



 俺は消える事のない欲望を抑え込みつつ、浴場に入る事を決めるが、脱衣所で服は脱がない。


 理由は簡単だ。


 もしも、今この時、魔物に船が襲われた時に直ぐに対応するためである。

 装備が濡れるのは嫌だから、一応、浴場の端に置くことにした。



「さてと、体をお湯で流してっと、んじゃ入るか。」



 ザバーン



「くぅ~~! ぎもぢぃぃ! やっぱ風呂は最高だな。お、やっぱり外は真っ暗でなんも見えねぇな。レミオールを試してみたいところだが、一先ずは体を温めるかな。」



 お風呂の気持ちよさに、さっきまでの性的衝動はグッとおさまっていく。

 思春期真っ盛りの俺は、ちょっとした事で欲情してしまうが、冷めるのも早かった。

 今は完全に性戦士から賢者にジョブチェンジしている。



「さてと……、んじゃ、使ってみるかな。」



ーーその時だった。



 がちゃ……



 誰かが俺の浴室に入ってきた。



「やっば! 覗きに頭一杯で札も変えてなければ、鍵を閉めるのも忘れていた!」



 くそ、泥棒か?

 あんま疑いたくはないけど、イモコの部下とは言え、ほとんど話した事のない奴らだからな。


 でもよかったぜ。

 装備はここにあるし、盗まれる物はない。



 そいつはなにやら、脱衣所でもぞもぞしている。

 やっぱり俺の装備を探しているのか?

 だが残念、いくら探してもそこにはないぜ。



 備えあれば憂いなしとはこの事だな。

 ざまぁみやがれ、泥棒め。


 どれどれぇ、それではその顔でも拝んでやるか。

 音をたてずに……そっと……



 バン!!



「何してるんだ! 泥棒め!!」



 俺は湯舟から出る音を最小限にしつつ、脱衣所に繋がる扉を勢いよく開けた。


 すると、そこにいたのは……



「サ、サクセスさん……。なんで? え? 確かにドアは空き室の札で……えっと鍵も開いていましたし……。」



 なんと、そこにいたのは泥棒ではなくシロマだった。



 な、なぜシロマがここにいる!?

 左の浴場にいるんじゃなかったのか?

 だって二ヶ所使用中だったはずじゃ……。



※ 実は一ヶ所は前に使用した者が、出る時にうっかりして、使用中の札を反していないだけだった。




 わぁ~お。


 服を脱ぎかけ……は、は、半裸だと!?



 シロマは丁度ローブを脱いだ状態であり、トップレスに下のみ履いている状況。

 相変わらず小さく膨らんだパパイヤに美しいピンクのつぼみが……。

 下は裸ではないが、逆にそれが何とも……そそる。



 そして、突然俺が現れた事でどうやら混乱してフリーズしているようだ。

 そのあらわになったチッパイを隠す事も忘れている。



 ラッキー!



「シ、シロマ? なんで? いや、その、あれ? すまない! 札かけるの忘れてた。」


「そ、そ、そ、そ、そうなんですね。あ、あの、サクセスさん……服が……。」



 !?



 おっと、忘れてた。

 シロマの半裸よりも、俺の方がヤバイ!

 完全に象さんをぶら下げている状態だ!

 しかもシロマの半裸に反応して、長い鼻がパオーンしちゃっているぞ!



「ちょ! ごめ! 俺、浴場戻るわ!」



 ザブーン!



 焦った俺は、直ぐに浴場に逆戻りし、風呂に入る。



 くそ、覗くつもりが覗かれるとは!!

 いや、あれ?

 でも悪くないかも?

 俺のパオーンを見たシロマの顔……意外とよかったな。

 


 まずい、このままだと、また俺の新たな性癖の扉が開かれる……。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る