第45話 vs 献身&震源

 小次郎を抜かして、残り3人。


 先ほどとは違い、今度は次の戦闘まで間はなさそうである。


 なぜならば……既にイモコの傍に二人の男が立っていたからだ。



「次の相手は私ですよ、震源。あなたは下がって見ててください。」


「否! 次は俺だ! さっきから俺のマグマがたぎって仕方ねぇ! 塩をよこせ、献身!」



 そう言っていがみ合う二人。


 そこにスサノオが割って入る。



「震源、お前は献身の後だ。おとなしく待っているがよい。」


「あぁ? 俺は今やりたいんだ! やらせろや!」



 震源はスサノオ相手でも噛みついていた。

 

 それを横で見ていた献身は、ヤレヤレといった風に首を振っている。


 そこに今度は小次郎が現れると、凄まじい殺気を放った。



「おい、てめぇ。気持ちはわかるが、おやっさんにその態度は気に食わねぇな。てめぇ……斬るぞ?」



 小次郎から放たれる殺気は、離れた場所にいるイモコにすら届く。


 そして離れているにも関わらず、その殺気を感じたイモコの体は震えていた。



(これは……本気で殺すつもりでござる。)



 既に小次郎の刀は抜かれている。


 今、正に、次の瞬間にはその刀が振り抜かれてもおかしくはない。



ーーだが、それを傍観するスサノオではなかった。



「やめろ、二人とも。震源、お前が守れないならお前を天界に返す。それでいいなら、ここで小次郎に斬られろ。」



 その言葉を聞くと、震源はその場にしゃがむと胡坐をかく。



「わぁった、わぁったよ! 俺が悪かった。だが、もしもあいつが献身に負けたら、お前が俺の相手をしろよ。小次郎。」


「ふん、いくらでもやってやらぁ。お前ごとき何度でも刀の錆にしてやんよ。」



 そう言って、今度は小次郎が剣を納める。


 一連の騒動が終わると、献身がゆっくり歩いてイモコに近づいてきた。



「私の名前は献身。此度の試練、誠に見事であった。だが私も負ける訳にはいかない。良き勝負をしよう。」



 そういって献身は手を差し伸べる。


 当然、イモコはその手をとって握った。



「某の名は、大野 芋狐。だが今はイモコと名乗っているでござる。御高名高き献身殿と刀を交えられる事を光栄に思うでござる……が、某も負ける気はないでござるよ。」



 その言葉に献身はフッと笑う。



「いいでしょう。お互い本気でぶつかるとしましょう。」



 その言葉を残し、献身が開始線につくとスサノオが合図をした。



「97戦目、開始ぃぃ!」



 献身の手には短い槍が握られている。

 

 その先端を見て、驚きの表情を表すイモコ。



(あれは……人参でござるか!?)



 なんと献身の持つ槍の先端についていたのは橙色の……人参だった。


 それを見たイモコは、少しだけ頭にくる。



「なめるなでござる!」



 イモコは刀を抜刀すると同時に居合斬りを放った……が、献身にその刃は届かない。



「何っ!? なぜでござるか!?」



 イモコが間合いを間違えるはずがない。

 間違いなく今の一撃は献身を斬っていた。

 しかし実際にはあたっておらず、献身は無傷である。



 それどころか、献身は動いてさえいなかった。



「なめて等いませんよ。むしろなめているのは貴方の方です……人参を舐めるな!」



 動揺するイモコに槍を突き刺す献身。


 だが、イモコはこれを何とか回避する。


 しかしよく見ると、イモコの右腕がえぐられていた。

 


「ぐっ……。そう言う事でござるか。」



 そこでイモコは気づく。


 なぜ初撃の時に、間合いがずれていたのかを。


 イモコは献身の槍を見た時に、その人参に目がいってしまった。


 その人参は高速で回り続けており、それを無意識に見つめたイモコは、遠近感覚をずらされていたのである。


 更に献身の攻撃をイモコは簡単に躱したつもりだったが、回転する人参は若干凸凹していて、ミリ単位で避けるイモコの感覚を狂わせ、そして掠ってしまった。



 そして掠っただけでこの威力。



 まともに当たれば、イモコの体は木っ端みじんだ。



「どうやら私の実力がわかったようですね。貴方は野菜の力を舐めている。野菜は素晴らしいのです! この戦いを……。」



 戦闘中にもかかわらず、献身はどこから取り出したのかわからないナスを手に持ち、恍惚の表情を浮かべて頬ずりする。


 色々と語りたかったのかもしれないが……その隙をイモコが逃すはずはない。



「ぐはっ!!」



 その話の際中に、イモコの刀が献身の胸を貫く。


 そう、イモコは話を聞いている振りをしながら力をため、高速で突きを放ったのだ。


 献身は胸に開いた穴に手を触れると、そのまま何も言わず……悲しそうな表情を残して消えていった。



「勝者! イモコ!」



 そのスサノオの宣言と同時に、震源が立ち上がる。



「やるな、イモコ。まさか献身を倒しちまうとはなぁ。だが、俺はそう簡単にはいかねぇぜ。」



 震源はイモコに向けて言い放つと、その場で四股を踏んだ。



 突如大きく揺れる道場。



 震源の名前は伊達ではない。


 突然起きた大地震に、イモコも体勢を崩しそうになる。


 そしてそのまま震源が開始線につくと、スサノオの合図で戦闘が始まった。



 震源は無手であるが、一体どのような戦い方をするのだろうか?


 流石にイモコも相手の情報がないまま戦うのは極めて不利だ。



 同じ刀での斬り合いならば、ある程度対策もとれるが、無手という未知の武術相手だと迂闊に動くのも危険である。


 それにさっきの地震も厄介極まりない。


 どうするべきかイモコが様子を見ていると、震源はイモコに向かって塩を振りまいた。



「おぉ! 滾る! 滾るぜぇぇ!」



 叫ぶ震源。


 どういう原理かわからないが、震源の体が一回り大きくなったように見える。



――そしてそれと同時に震源は突進してきた。



「どす……こーーーい!!」



 下半身を落としての突進は極めて力強く、そして速い。


 しかしイモコはこれを迎え撃つことはせず、体を捻らせて回避した!



……だが



「はぁっはぁっはぁっ!!」



 そのまま突撃するかに見えた震源は、イモコに近づくと一瞬で百発の張り手を放つ。



「ぐっ!!」



 不意を突かれたイモコは、これを直撃するとそのまま後方に吹き飛ばされた。



 道場の壁に衝突するイモコ。そのダメージは大きい。



 しかし、震源の攻撃は止まらない。



 その場で再び下半身を落として力を溜めると、なんとミサイルのように頭突きをしながら飛んできた。



 なんとか立ち上がったイモコであるが、体勢が整う前に震源が迫りくる。



 絶体絶命のイモコ。



 だがそこで、これまでの戦いで体得した技を反射的に放った。



  迫りくる震源。

 

  迎え撃つイモコ。



 そして、震源のスーパー頭突きが直撃する直前、イモコはそのまま自ら後方に倒れ込むと、震源がイモコの上を通過してしまう。


 そこに、倒れながら足を突きだす事で、上を通過した震源の局部にヒットすると、そのまま押し出した。



「ぎゃぁぁぁ!」



「秘技金的巴蹴りでござる!」



 スーパー頭突きの勢いと金的蹴りで押し込まれた震源は、局部の激痛と共に、そのまま道場の壁を突き破って飛んで行く。



「場外! 勝者イモコ!」



 すると、スサノオによる勝利の宣言が聞こえた。


 正直場外ルールというのが存在するかは疑問だったが、適用された事にイモコはほっと胸をなでおろす。


 

 震源がどうなったかはわからないが、勝利は勝利だ。


 これで残すところ後2戦。



 だが、イモコは知らない。



 この後控えている二人こそ、今回の百人斬りの最大の難所であることに……。

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