第44話 vs 義経


 四天王戦初戦、イモコの対戦相手は……



 光る源氏 義経



 四天王戦の前、どういう訳か少しだけ間が開いてくれたことから、イモコの息は取り合えず戻っている。

 

 流石に疲労や傷が回復するまでにはいかないが、それでもこれはイモコにとって大きかった。


 連戦に次ぐ連戦。


 身体的疲労もさることながら、精神的にもかなりすり減っている。


 だが、そんな己の状態等、今のイモコには考える余裕はない。


 残り5戦。


 これらすべてを勝ち抜けば、試練を果たすことができる。


 散っていった仲間達の為にも、今現在自分を信じて待っているであろう師匠達の為にも……



 負ける訳にはいかない!



 そんな決意を新たにするイモコの前に、対戦者である義経が登場する。


 伝承によれば、ローラーブレイドという不思議な剣を使うとの事だが、その詳細は不明だ。


 だが、どんな相手でも必ず弱点や隙はある。


 全神経を戦いに集中させ、それを見抜く事でしかイモコに勝てる要因はない。



 そして現れた義経は……なぜかイモコの周りを滑るようにグルグルと走り回り始めた。


 その動きはあまりに速く……そして滑るように走る様はとても人間業とは思えない。


 どうやら義経の装着する具足に仕掛けがあるようで、車輪のようなものが見える。



「大人には……見えないさ!」



 そう言いながら、義経は突然イモコの後方から接近する。



「速い!?」



 背後からの強襲とは言え、その動きは速く、イモコは反応できなかった。


 だが、おかしい。


 まだスサノオから試合開始の合図はないはず。


 これは反則では? と思った瞬間、義経はイモコの横をすり抜けるように通り過ぎた。



「君が僕のコロンブスかい? お互い楽しむとしよう。」



 そう言いながら、開始線につく義経。


 その一連の動きを目にしたイモコは焦っていた。



(見えなかったでござる……。あれが光速剣……。)



 言ってる事は意味不明だが、義経は今までの相手とは格が違う。

 

 その義経の動きは、それを痛感するのに十分な演出だった。


 しかし、先に動きを見せてくれた事はイモコにとって僥倖である。


 もしも、開始の合図と共にさっきの動きで攻められていれば、為す術なく負けていた。



ーーだが……今は違う。


 

 イモコは目を閉じ、全神経を柄を掴む手に集中した。



 そして次の瞬間、スサノオの声により開始の合図がされる。



「96戦目、始めぇぇ!」



 その声と同時に、先ほどと同じ様にイモコの周囲を回り始める義経。


 しかし、イモコは微動だにしない。


 その様子を見て、義経も気づいた。


 イモコが何を狙っているのかを。



「君の居合と僕の光速剣……果たしてどちらが先に夢の島に辿り着けるかな?」



 義経の言う通り、イモコの狙いは居合による一撃必殺。

 

 まともに斬り合うには、義経は速すぎたのだ。


 それであれば、目で見る必要はない。


 これまでの戦いで習得した技、円の領域を展開し、そこに踏み込んだ瞬間に高速で居合を放つ。


 まさしくこの戦いは、光速 対 最高速


 といっても、当然義経は光の速さで動ける訳でもないし、物理法則を考えれば、そんな事が可能なら動いた瞬間その衝撃波でこの場は爆散するだろう。


 つまり実際には、単純にどちらがより速く相手を斬れるかに過ぎない。



 それを理解した義経は……動き出す!



 これまで以上の速さで、急速に接近する義経。


 しかし、イモコの感覚はそれを見事にとらえる。


 義経が進路を変えた瞬間には、イモコの剣は抜刀されていた。



ーーそして



 刹那ほどの時間で、イモコの横を通り過ぎる義経。



 だが、その手に持つ刀は……折れていた。



 正に目では追えぬ、一瞬の攻防。


 イモコに接近した義経は刀を振るうが、それよりも早くイモコの居合斬りが義経に届く。


 そしてその刀は、義経の剣と同時にその胸を斬り裂くと、そのまま義経はイモコを通り過ぎた先で倒れた。



「胸のリンゴ……剥かれちゃった……。」



 そう言葉を残し、消える義経。



「勝者! イモコ! あっぱれである!」



 戦いの終了を告げると同時に、イモコを称えるスサノオ。


 そこでようやくイモコは目を開いて呟く。



「凄まじい速さだったでござる……。言っている事は何一つわからなかったでござるが……。」



 見事義経に勝利したイモコ。


 残すところ、小次郎を抜かせば後3人。


 イモコの戦いはまだ続く。



 

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