第49話 世界の歴史
魔界ーーそれは、人が住んでいる世界の裏側の世界
今でこそ、その世界は、結界によって二つに分かれているが、元々は一つの世界であった。
当時人には、特別な力はなかった。
その為、人の何倍……いや何十倍もの力を持つ魔物に怯える日々を送っていた。
魔物と人では強さの桁が違う。
次第に、人族は魔物達に蹂躙されていき、滅びの運命を辿ることとなった。
だが、それを止めたのは、この世界を創成した
神
である。
世界の均衡を保とうとした神は、人に
職業
と呼ばれる力を与えた。
職業とは、生まれながら有している、才能の事であり、それは大きく分けて
ケガを回復させるーー僧侶
四大属性を操ることができるーー魔法使い
強靭な肉体を持つーー戦士
素早い身のこなしと卓越した格闘センスを持つーー武闘家
の4つに分けられた。
それにより、人は魔物に立ち向かえるようになり、以前と比べて大きく繁栄していく。
だが、同時に、魔物側にも
魔王
と呼ばれる魔を統べる、強大な力を持った魔物が現れ始める。
その力は、他の魔物とは全く別次元であり、普通の職業を持った者達では、全く歯が立たない。
魔王の出現により、またしても人は、魔物達に蹂躙され始めた。
困った神は、更に人に力を与えることを決める。
それは神の力の一部を内包した
精霊
と呼ばれる存在。
そして精霊の力を多く秘めた
勇者と聖女の魂
を地上に送ったのだ。
まず精霊は、その力を使って、武器や防具に
レアリティ
を付与した。
レアリティの数字が小さければ小さい程、精霊の力が多く内包されている。
一桁ともなれば、その力は他の装備とは比べ物にならない程の力を有していた。
次に精霊が行ったのは、
職業の強化
である。
今まで神から、4つの職業しか与えられていなかったが、その職業を極める事で、魂を昇華し、職業をランクアップできるようにしたのだ。
魂を昇華することにより、人の魂は精霊の魂と同化ーーいや、正確に言うと、精霊の魂に近づける。
精霊の魂に自分の魂が近づくことにより、神の力の一部が自分のものとなるのだ。
それが現在の上級職と呼ばれるものである。
同時に、最初にあった4つの職業も、その種類が増えていき、盗賊や商人等のベース職を持った者も現れだした。
そこまでして、やっと魔物と人は五分の力となる。
しかし、それでも魔王に立ち向かえる程の力はなかった。
そこに、初めて魔王と立ち向かえる力をもった勇者と聖女が現れる。
その二人は、小さな農村で暮らす少年と少女であったが、ある日突然、神の啓示を受け、力を授かった。
これが
勇者 とんずら
聖女 ターニャ
の誕生である。
二人は16歳の成人を迎えると同時に、旅立った。
そう、神によって告げられた
【魔王を滅ぼす】
という使命を果たすために。
旅の道中、出会った仲間達と共に、勇者たちはメキメキと力をつけていく。
次々と倒される大魔王の手下たち。
焦った大魔王は、遂に全勢力をもって人を滅ぼすことを決意した。
これこそが、この世界の歴史上、一番最初の大戦
人魔大戦
である。
その戦いは、激しく、両者の犠牲も壮絶なものとなった。
人が滅びるか?
魔物が滅びるか?
人も魔物も、力をもった全ての者が、その戦場に集結した。
どちらかが全滅するまで、その戦いは終わらない。
その規模は、ビビアン達が戦った大戦の、凡そ100倍の規模を想像するとわかりやすいだろう。
その戦いの影響は計り知れなく、世界の自然は、崩壊の危機に瀕し、人以外の動物や虫にも大きな影響を与えた。
しかし、長く続いたその戦いにも、やがて決着がつく。
人族の勝利
として。
しかし、その犠牲は大きかった。
人類の希望である、
勇者と聖女
が共に死んでしまったからだ。
逆に、大魔王は封印されるものの、滅んではいない。
結果として、大魔王は封印され、魔界は地上から隔離されたため、人族の勝利には変わりないものであったが、それは一時的な勝利に過ぎなかったのである。
束の間の勝利ではあるが、勇者と聖女の犠牲により、世界に光はもたらされた。
そして、多くの精霊の力を取り込んだターニャは、石となり、この世界にとどまり続ける。
名実共に、聖女から女神となった彼女は、それ以降、この世界を守るために、魂をその身に宿したまま、長い年月を石として過ごす事となった。
彼女は女神になる時、神と、ある約束をする。
神は、ターニャを時の地獄に閉じ込めてしまう見返りとして、この世界に本当の平和が訪れた時、普通の人間に戻すことを約束した。
だが、ターニャはそれを断る。
自分だけが人間に戻っても意味がない。
それならば、女神とはならず、このまま滅ぶ事を選択した。
とんずらのいない世界に等、未練はない。
神は考えた。
そしてターニャに告げる。
とんずらの魂と勇者の資格を保存し、他の者に、それを送る事ができる力を与えると。
そして、とんずらもターニャと同じように、世界に平和が戻った時、人に戻す事を約束をしたのだ。
これを聞いたターニャは、喜んで女神になる事を決意した。
この先、動くこともできず、何千年……いや何万年も過ごすかもしれないにもかかわらず……。
それがどれだけ、苦しい事か、ターニャも気づいていた。
しかし、それでもその先に、愛するとんずらとの未来があるならば、自分は耐えられると信じたのである。
だから女神になる事を承諾した。
そして、この世界を守る事を決意した。
いつか、本当に大魔王を倒す者が現れた時、とんずらと、小さな村で幸せに暮らす事を夢見て……。
だが、それから長い年月が過ぎるも、人族に強い力をもった者が現れることはなかった。
それどころか、世界に、またしても魔の力が強まっていくのを感じ始める。
不思議に思ったターニャは、ある時、気付いた。
平和になるにつれて、人の欲が膨らみ、人の心に魔が蔓延りだしたことに。
その欲が大きくなっていくと、ターニャは、自分の力が弱まっていくのを感じた。
すると最悪な事に、命を懸けて張った、魔界と地上を隔離する結界に、隙間が生まれてしまったのだ。
その隙間は、最初は小さなものであったが、その穴はどんどんと大きくなっていき、今では力をもった魔界の魔物
ですら、地上の世界にこれるようになってしまった。
流石に直接封印を施した大魔王までは、地上に出る事は叶わないが、それでも危機的な状況には変わらない。
だが、そこで再度、神からの声を授かる。
〇年後、大きな光の力をもった者がこの世に現れる、その者こそが、神が新たにこの世界に送る希望である。
そして、それと同時に大魔王の封印が破られるであろう。
と。
ターニャは大魔王の復活に恐怖するものの、それよりも、遂にとんずらの魂を送る相手が現れる事に歓喜した。
そして、その時が来るのを、今か今かと待ち続ける。
遂にその子供が生まれると分かった時、直ぐにとんずらの魂をその者に送った。
生まれてくる子は女の子であったが、そんな事はどうでもいい。
大魔王さえ倒せば、どの道、二人は元の普通の人間に戻れるのだ。
男であろうと、女であろうと、この際どっちでもいい。
むしろ、男に魂が宿って、違う女といちゃつくところを見せられないだけ、幸運とさえ思っていた。
「とんずら……お願い。もう一度世界と……私を救いにきて……。」
ターニャは自分の願いと共に、その魂を、新たなる世界の希望へと送る。
その時、あまりに強い願い故に、自分の魂の欠片まで混ざっていた事には、彼女自身も気づかなかった。
そして
ーー今に至る。
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