第84話 Re:ベンジ

「よし、サクセス。今日は水上歩行の練習をするぞ。」



 あの勝負の日以降、俺はまた以前のように、午前午後とカリーに訓練をつけてもらっている。

 そして、今日の午後の練習は、甲板上でできる模擬演習のはずだったのだが、突然、カリーが言い出した。



「水上歩行って……。まさか、船を停船する約束でもしたのか?」


「いや、違う。そもそもあの時、本当ならやろうとしていた事だ。サクセスは諦めちまったが、俺には考えがあったんだ。」


「あ……いや……あの時はちょっと……。」


「ば~か、責めてねぇよ。ただ、ちょっと考えれば見つかる答えだったとは言えるがな。今なら何か思いつくか?」


「う~ん、単純な事なら、甲板の上に囲いを作ってその中に水を入れるとか?」


「正解だ。単純だが、その方法で歩行だけならできる。」



 え? 嘘、そんな簡単な答えだったの?



「でも囲いもそうだが、水を溜めるのだって難しいだろ?」


「水の心配ならありませんよ、サクセス様。」



 するとそこにセイメイと他二人の船員が訪れる。



「俺が頼んで、水を出してもらう事をお願いした。それと、囲いについては、俺が作れる。」



 そういうとカリーは、一本の剣を取り出した。



「これは【ユグドラシルの剣】と言ってな、木を創造することができるんだ。これを使えば囲いは簡単にできるっつうわけ。」


「ちょ! 反則じゃん! 先に教えてくれよ!」


「だから言ったろ? ちゃんと周りの奴に聞けって。自分ができないと思っても、案外それを簡単にできる奴ってのはいるもんなんだぜ。」


「あぁ~。なるほどな。そう言う事だったのか、なんか今更ながら、なぞなぞの答えを聞いた気分だよ。確かにそうだな、勉強になった。」


「素直でよろしい。んじゃ、ちゃっちゃとやるか。」


 

 カリーは、その場で剣を振る。

 振ると言っても、なんか剣で絵を描くような感じだ。

 すると、甲板の上に結構広い木の囲いが出来上がった。

 深さも1メートルはありそうである。



「はやっ! そんな便利な剣があるのかよ。」


「それでは、次は私達の出番ですね。」



 セイメイはそう言うと、他の二人の船員と共に呪術を唱える。

 すると、木の囲いの中に凄い勢いで水が溜まっていった。



「うは、まじでこんな簡単に……。確かにこれなら、練習できそうだ。」



「あぁ、そうだ。それと今回はイモコも一緒に練習する。」


「はぁはぁ……間に合ったでござるか? 遅れて申し訳ないでござる。」



 そこに、息を切らしながら走ってくるイモコ。



「あれ? イモコ!? お前、午後は忙しいんじゃなかったのか?」


「その通りでござる。故に、某の代わりになる人物を育成していたでござるよ。この船に乗った時から……でござるが。」



 まじかよ。

 みんなちゃんと考えてやってるんだな。

 その点俺は、言われたことしかしてねぇ。

 劣等感が半端ないんですけど。


 といっても、まぁそれも含めて、今の俺の実力だ。

 この機会に、みんなの良いところを吸収して成長すればいいか。



「よし、じゃあサクセス。階段作ってあるから、そこを上ってくれ。登り切ったら、靴に氷属性を付与するぞ。」


「わかった。よし、イモコも行くぞ。」


「御意! 行くでござる。」



 こうして俺とイモコの水上歩行訓練が始まる。

 海と違って、波が無いため難易度はかなり低い。

 だがそれでも、体でその感覚を覚えられるのは大きい。

 何よりも、船を停めなくていいから、時間を気にする事なく練習できる。



 これで、俺達は上達できるな。



 それから三日後、俺は既に囲いの中なら、飛んだり跳ねたりできるくらい、自由に動けるようになった。

 正直、全力で走っても問題ない。

 だが、波がある海の上だとそれでもまだ、厳しいかもしれないな。

 まぁやってみない事にはわからないが……あまり天狗になってはいけない。



「お~し、サクセス。今日は海に降りてみるぞ。ダメそうだったら、海の感覚だけ掴んでおけ。5分間だけは船の速度を落としてもらってる。それなら、多分平気だろう。それとイモコはまだ囲いで訓練な。」



「わかった! やってみる。」


「某は、もうしばらく水上歩行をまともにできるように頑張るでござる。」



 イモコは少し残念そうにしていた。

 それもそのはず。

 イモコは俺と違って、3日間でやっとまともに歩けるようになっただけである。

 それでもカリーが言うには、かなり上達が早い方らしいが。



「気を落とすなイモコ。サクセスが異常なだけだ。」


「やはり師匠は凄いでござるよ。某も頑張るでござる。」



 そして俺は、再度海上歩行にチャレンジ。

 

 よし! 今度こそやってやる!

 ダメでも、波がある時と無い時の違いを体に覚えさせるぞ。

 俺が今できる事を全部やる!



 俺はそう意気込むと、海に飛び降りた。



 バリッ!



 足元が凍る。

 一瞬、波に足を取られそうになり、バランスを崩したが、何とか持ち直す。



「うん、なるほど。イケる! これならいけるぞ!」


「いいぞ、サクセス。その調子だ。少しづつ速度を上げてみろ。」


「わかった! うん、問題なさそうだ。」



 俺は、最初はゆっくりと歩き、問題が無いと感じると、速度を上げて走り始める。

 練習をした成果もあり、直ぐに木の囲いの中と同じレベルで動けるようになっていた。



「よぉし、サクセス上がってくれ。もう練習は十分だ。明日から俺と一緒に、海上で実践演習するぞ。」


「わかった!! でも後少しだけ待ってくれ!」


「お? どうした? なんかあったか?」


「ちょっとだけ試したいスキルがあるんだ。離れないとヤバそうだから、ちょっと遠くに行ってくる。だけど、直ぐに戻る。」



「え? お、おい! あんま遠くに行きすぎるなよ!」


「大丈夫! ちゃんと無理ないレベルでやるから!」



 そういうと、俺は船から3キロ程離れた場所まで走る。

 ここまで離れればいいだろう。


 さて、あの時は使えなかったが……これだけ離れてればいけるかな?



 俺が使おうと試したのは、【シャイニング】



 かなり強力な範囲攻撃だと感じ、使えずにいたスキルである。



「うし、んじゃやってみるか。【シャイニング】」



 俺がそう唱えると、全身に力が溢れてくる。

 溢れるというよりも、溢れ出して暴発する感覚だ。

 前回はこの段階でキャンセルした。


 この先は未知の体験。

 


「ぐぐぐ……。結構きついな、これ。もしかして溜めれば溜めるほど強くなるのか?」



 なんとなくスキルの性質を肌で感じる。

 故に、今回はこのくらいでいいだろう。



「いけ!!」




 ピカッ!!


 ドゥゥゥゥゥーーーン!




 俺の体から光の大爆発が起きる。

 大爆発といっても、俺は無傷なんだが。

 光がおさまって、周りを見てみると……俺は大地の上に立っていた。



「う、嘘だろ? マジかよ。」



 なんと、俺周りの海が半径1キロ程消えている。

 どうやら蒸発したっぽい。

 海が蒸発するほどの威力って……。

 しかも範囲攻撃。



 これ、仲間が近くにいたら使えなくね?

 ってやば!! 海が襲い掛かってくる!!



 開いたスペースに海がなだれ込んできた。

 俺は、すぐさまジャンプで空中に逃げる。



「ふぅ~、危機一髪……って、船は大丈夫か!?」



 うん、どうやら大丈夫そうだな。

 んじゃ戻るか。



「おま……サクセス! あれなんだよ!? お前あんなスキル絶対使うんじゃねぇぞ。流石に俺も死ぬぞ。」


「あはは……。良かったよ、試せて。当然使う事はないさ、ただの選択肢の一つだ。」


「あ、あぁ……俺との演習ではマジで使うなよ?」


「大丈夫だって! 心配性だな。 よっしゃ、カリー。訓練も終わったしビリヤード行こうぜ。」


「お? やるか? 今日も返り討ちにしてやるぜ。」



 こうして、海上演習を終えた俺は、今度は仲良く娯楽室でビリヤードをしに向かうのであった。

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