第12話 真の女神①
翌朝、女性陣を迎えに宿屋に赴いた俺は、その足でマーダ神殿へと向かった。
この町に訪れた一番の理由はミーニャさん達との情報交換であったが、リーチュン曰く、この町に戻ってから一度も見ていないとのことなので、多分探しても会えないだろう。
それであれば、という訳ではないが、次のオーブを探しに行く前に女神様に報告をすることになった次第だ。
実際、女神様と直接話したことがある俺としては、あまり意味があるようにも思えなかったし、何なら女神様と会うには満月がどうとか言ってたから無駄かもしれないとも思うが、シロマが強く求めていたのでNOとは言えない。
ターニャという駄女神より、俺にとってはシロマ達の方が女神のように思える。
だからこそ敬虔な女神(シロマ達)信徒な私が、女神様の意思に逆らえるはずはないのだよ。
ってなわけで、副神官長のウザい絡みを華麗にスルーしつつ、俺は女神の間に到着する。
「さてと。とりあえず俺が先に行くね。」
俺はそう言うと、女神像の前で片膝をつけてしゃがむと、祈りのポーズをとった。
(もしもーし、ターニャさんいます? サクセスです。今戻りました。)
心の中で軽い感じで呼びかける俺。
しかし中々応答がない。
やっぱり満月の日でなければあえないのかな?
と思い、早々に立ち去ろうとしたのだが……
「よくぞ戻られました。勇者サクセスよ」
運が悪い? ことにギリギリで返事が返ってきてしまう。
しかも、前と同じ女神プレイ付きだ。
なんか凄く他人行儀な感じが嫌な予感を感じさせるのだが、とりあえずいつもの感じで話を続けてみた。
「えっと、いつ俺が勇者に? てか、満月がどうとか言ってたじゃん。何で話せるの?」
「…………。」
俺が質問すると、しばしの沈黙が訪れる。
ーーそして
「それには女神の深い事情がありまして……それと勇者と呼んだのはノリでございます」
やっと答えたと思ったら、言葉遣いこそ丁寧な感じだが……ノリとか言っている段階でやはりターニャだなと思ってしまう。
とはいえ、今日のターニャは変だ。
なんというか、色々と中途半端な感じがする。
まぁ面白そうだから、もう少しツッコんでみるか。
「ちなみに深い事情を簡潔に言うと?」
「…………。」
再び沈黙する女神様。
なんかここまでくると、本当に凄い秘密でもあるのではと疑ってしまう。
「いや、悩む程!? そんなに重要な事なの?」
黙ってしまう女神に思わず俺はツッコミを入れると、女神は蚊が鳴くような声で何かを話す。
「……よ。」
「いや、聞こえなかったっす」
「だから、見栄よ! そうよ! 見栄を張りたかったの! だって私、女神よ? みんなが崇拝する世界一美しい女神様よ? それなのにあなただけ簡単に話せるなんて、あまりにもありがたみがないじゃない! なんでそんな事もわからないの? だから男ってのは、デリカシーがないって言われるのよ!」
突如、逆切れするターニャ。
なぜ俺は罵倒されているのだろうか……。
なんとなく察するに、全然会いに来なかったことに拗ねていたんだろう。
だからこう、素っ気なく演じてみたけど、素を隠し切れなかったみたいな。
いずれにしても、あまりの駄女神っぷりに、いっそ安心感すら感じてしまう俺がいる。
「わ、わかったから! 落ち着いて。な、色々俺から話す事もあるし。聞きたいこともあるし」
「フ―――! フーーー!!」
俺が必死に宥め(なだめ)に入るも、獣のように威嚇をし始めるターニャ。
嘘みたいだろ?
女神なんだぜ、それで。
「よし、とんずら。チェンジ!」
どうにもいかなくなりそうなので、とりあえず俺はバトンをとんずらに渡すことにした。
「ちょ! そりゃねぇっぺさ! 必死に存在感消してたっぺよ!」
焦るとんずら。
しかし、時既に遅し。
白羽の矢はとんずらに向いてしまった。
「ちょっと! 何がそんなに嫌なのよ! どういうこと? まさか浮気してたんじゃないでしょうね?」
ターニャはまくし立ててるように、とんずらを問い詰める。
ご愁傷様だ、とんずら。
「なわけあるっぺか! おいら、これでも装備だべさ! この体でどうやって浮気すんでけろ!」
だが、そのとんずらの反論は的を射ており、ターニャのヒートアップが少しだけ収まるも……根は深い。
「……確かにそうね。わかったわ。で、なんだっけ? 私にずっと会いに来なかった事を謝罪に来たんでしょ?」
「いや、おらもずっとターニャに会いたいって言い続けたんだけんろ、サクセスのやつが……」
おい、こいつ!
いきなり俺を売りやがった!
「ふざけんなよ、とんずら。大体な、お前俺と一緒に旅してきて、ターニャの話なんか一度も出なかったじゃないか。嘘つくなよ。あと、もういい加減話進めないか? これ以上こんなくだらない話をするなら俺は戻るわ。」
もう俺もめんどくさくなってきた。
第一、この女神に報告することに何か意味があるのだろうか?
特にないならば、さっさと本当の女神の下へ戻りたい。
「ちょっと! わ、わかったわ。話を聞くわよ。それと、とんずら! 覚えておきなさい」
俺が少しだけキレ気味でそう言うと、ターニャは焦ったのか、やっと話を聞く気になってくれたらしい。
そして俺はシルバーオーブを手に入れた経緯から昨日のことまで話すと、意外なことにターニャは黙って聞いていてくれた。
※ ※ ※
「わかりました。それは大変でしたね。それと、この町を守っていただきありがとうございます」
話を最後まで聞いたターニャは、優しい言葉で俺をねぎらう。
ようやくまともな女神に見えてきた。
「いや、礼を言われる筋合いはないさ。俺は守りたいから守っただけだし。むしろ、こんなことになっているならもっと早くこの町に来ていればと後悔しているくらいだよ」
「優しいのですね。では私からいくつか報告があります。一つは、勇者ビビアンについてです」
そう言って、今度はターニャの方から俺に報告を始める。
「ビビアンは無事なんですか!?」
ビビアンの名前を出された瞬間、俺の中で焦る気持ちが前に出てしまった。
俺が今一番気にしているのは魔王を倒すことでも、世界を救うことでもない。
大事な幼馴染であるビビアンを救うことが一番だ。
といっても当然世界を救う気持ちも強い……だが、それでも俺にとっては大切な者を守りたいと思う気持ちの方が上である。
しかし、続くターニャの話に俺は絶望するのだった。
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