第13話 真の女神②
「無事……とは言い難いです。私の残滓が抵抗していましたが、それもむなしく、勇者の光は大魔王によって吸い続けられています。このまま勇者の光を吸われ続ければ、私の残滓も消滅して……」
!?
「消滅してどうなるんだよ!」
嫌な予感がする。
本能がその先を聞きたくないと言っている。
だが、それでもターニャは言葉を続けた。
「ビビアンは完全に魔人……いえ、魔神となるでしょう」
魔神? どういうことだ?
既にビビアンは魔神になっているんじゃないのか?
それをオーブでなんとかするって……
「完全に魔神ってどういうことなんだよ?」
焦りからなのか、俺はイラつくような声で確認するも、ターニャは落ち着いた声で答えを返す。
「私にもわかりません。ですが、そうなってからではビビアンを元の人に戻すことはできないかもしれません」
その言葉は、俺の心の奥まで抉っていった(えぐっていった)
ビビアンを元に戻すため、俺はオーブを集めていたんじゃないのか?
嘘だったのか?
「オ、オーブがあればどうにかなるんだよな? なぁ、そうだろ? だから俺は必死に……」
「すみません。完全なる魔神となった者をオーブの力でどうにかできるかは確証が持てません。あの時はまだ完全に魔に飲み込まれていない状況でしたが……今は、いえ、まもなく……」
俺の質問に対して、ターニャは歯切れ悪く答える。
それは、はっきりと無理とは言ってはいないが、十中八九無理と言っているのと同じだ。
大魔王の侵食がターニャの考えよりも早かったということだろうが、そんな事で納得できるはずもない。
それならば、俺がやる事は一つだけだ。
「……わかった。それならば俺はもう行く。今すぐ魔界に行って大魔王をぶち殺して、ビビアンを救ってみせる!」
オーブが揃うまで後一つだった。
だけどそれを待っていてビビアンを救えないなら、オーブなんて必要ない!
ーーしかし、そんな俺をターニャは必死に引き留める。
「待ちなさい! まだ無理です。貴方が強いのはわかっています。ですが、それでも大魔王の闇のオーラをどうにかできないうちには倒すことはできません!」
前にとんずらが言っていた無敵のバリアか。
しかし、今の俺は間違いなくとんずらより強い。
それに聖なるスキルを使えば、もしかしたらその闇のオーラすら打ち破れるかもしれないだろう。
確実ではないが、それでもこのままだとビビアンを救うことができないというならば、当たって砕けるまで!
「知るか! やってダメなら潔く死ぬだけだ!」
なりふり構わなくなってしまった俺は、そんな言葉を感情的に吐きだす。
しかし、それに対してターニャは悲しそうな声で聞いてきた。
「あなたは……あなたの大切な者達が死んでも良いと?」
その言葉に熱くなってしまった俺の頭が急激に冷えていく。
そうだ。
俺には大事な仲間達がいる。
ダメだ、一度落ち着け俺。
「……なら、俺が一人で行く。それなら問題ないだろ?」
少しだけ冷静になったつもりの俺は、それでも魔界に向かおうとしている。
ーーだが
「それをあなたの仲間が許すと本気で思っていますか? あなたが思う以上にあなたの大切な者達はあなたを大切に想っています。それこそ、自分の命よりも……。あなたもそうなんじゃないのですか?」
その言葉は俺の胸に深く突き刺さる。
反論の余地もない。
俺の仲間が俺と同じことをしようとしたならば、多分俺は命を捨てるとわかっていても付いていくだろう。
「そ、それは……でも、ビビアンが……くそ!! 俺はまた何もできないのかよ!!」
既に嘆くことしか俺にはできなかった。
なぜこうなった?
俺が時間をかけ過ぎたせいか?
俺が……俺が……
どうしようもない無力感に、俺はただ自分を責めることしかできなかった。
「落ち着きなさい、サクセス。あなたは一人じゃないわ。」
はん。気休めはよしてくれ!
「そんなのわかってるさ! 俺一人の力が如何にちっぽけだってこともな!」
冷静になろうとすればするほど、頭の中がこんがらがってくる。
助けたいのに助けられない。
これで何度目なんだよ……
すると突然、俺の胸から温かいものを感じ始めた。
それは俺を柔らかく包みこみ、少しづつこの気持ちを和らげていく。
「それはまさか、龍神様? え? 嘘!! 時空神様、武神様、それに精霊神様まで!!」
なぜか今度はターニャが困惑し始めた。
ふと俺は自分の胸に目を向けると、龍神のおまもりが光っているのに気付く
そして俺の後ろの方にも同じような光が三つ見えた。
「そうですか。そう言うことですか。サクセスさん。まだ間に合います。いえ、間に合わせてみせます!!」
突然覚悟を決めたかのように言い放つターニャ。
それが何を意味しているのか俺にはわからない。
「どういうことなんだ?」
「あなたに説明しても難しいとは思いますが、他の神々が私に力を分け与えてくれるそうなのです。つまりは、私の神としての格が上がるということです。」
神の格があがる?
それとビビアンと何の関係が……
「説明はいい。簡単に教えてくれ。」
「わかりました。神の格が上がるという事は私の力が上がるということ。それは私のみならず、残滓にも影響します。つまり……ビビアンの完全なる魔神化をもうしばらく伸ばせるという事です。」
なんだって!!
「ほ、本当か!! ならっ!」
「待つっぺ、ターニャ。それはつまり……」
俺が喜びに声を上げるも、とんずらの声は心配さを含んでいた。
「いいの。とんずら。お願い、黙って」
「黙っていられるっぺか!! そんな事したら大魔王を倒しても人間に戻れないべよ!」
え? どういうこと?
「お願いだからそれ以上は言わないで。いいの。とんずら。私はあなたが守ろうとしたこの世界を救いたい。何より、私達のような思いは誰にもさせたくないの」
「おらは……おらはそんなの納得できないっぺ! 俺が一番愛しているのはお前だけだっぺよ!」
その言葉は痛いほど俺にもわかった。
世界を救うために、愛する者が犠牲になろうとしている。
それを許容することなど不可能だろう。
俺ならば、無理矢理にでもやめさせる。
しかし、それでもターニャの意思は固かった。
「とんずら……私も……私もよ。私もあなたと一緒になれるなら、永久とも思える孤独にも耐えられたわ! でも、もうこれしかないの……最後のお願いよ。私のことは、もう忘れて……」
ターニャの声は涙ぐんでいる。
その深い悲しみは、俺の胸の奥底まで伝わってきた。
もし今の二人の話が事実ならば……ターニャは自分のこれまでも含めて全てを犠牲にするつもりだろう。
話には聞いていたが、ターニャはとんずらと一緒に幸せになる為に、途方もない時間を女神象となって過ごしてきた。
それがどれほど辛いことなのか想像もできない。
それを全て投げ打つ覚悟で、俺達を……世界を救おうとしているのだ。
同じことが俺にできるか?
……できるはずもない。
ターニャは駄女神なんかではなく、真の女神だと今ならわかる。
だからこそ、この場で俺が言えることなど……何もなかった。
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