第49話 天下無双 後編

「そうか。そうであったな。しかし、残念だ。せっかく二人目の天下無双にも関わらず、またこの世からいなくなってしまうとはな……。」



 その能力をもってしても、スサノオはウロボロスには勝てないと思ったらしい。

 

 それと同時に、せっかく2人目の天下無双への到達者があっけなくウロボロスに殺されるとも……。


 だが、それを聞いてもなお、イモコの目は変わらない。


 あるのは、絶対に倒すという強い意志だ。



「そうならないように善処するでござるよ。それに、その力を持っても某は師匠の足元にも及ばぬでござる。」


「何!? それは本気で言っておるのか? それは本当に人間であるか?」



 スサノオは今の言葉を聞き少し考え込んだ。


 スサノオが知る限り、それほどまでに強い人間がいるとは思えない。


 過去にいたダイワタケルという、神の子でもない限り。



「人間でござる。某は嘘はつかないでござる。しかし、師匠に任せる気も無いでござる故、できるならば某がウロボロスを討ち取りたいと思っているでござる。」


「なるほど。あいわかった。であれば、もしかしたら奴を……であれば、猶更、そなたは新しき力をうまく使えるようになる必要がある。」



 スサノオはイモコの言葉を信じる。


 現世がどうなっているか確認できないスサノオであるが、目の前の男が嘘を言っているかどうかはわかる。


 そしてそれが事実であれば、もしかしたらと期待した。


 故に大事な事を伝えると、イモコが即座に反応する。



「新しい力とはなんでござるか?」


「ふむ。百聞は一見にしかず。まずは神刀マガツカミを手に取るがよい。」



 そう言われて、イモコは神刀を鞘から抜いて確認した。



【神刀マガツカミ】 レアリティ3(呪い)


攻撃力125 防御力―30

スキル 神気 力+50 素早さ+25



「取ったでござる。」


「ならそこのスキルに神気というのがあるのはわかるな?」


「あるでござる。これは何でござるか?」



 当然の疑問だ。


 イモコはこの刀を最初に確認した時から疑問に思っていたスキル。


 それがどんな力化はわからないが、神の気であるなら相当凄いスキルに違いない。



「ふむ。それは我の力を込めたスキルでな。その力を解放すれば呪いを斬る事が可能となる。故に、呪いの塊であるウロボロスを倒すには、それが必要となろう。」



 ここにきて初めてしった事実。


 ウロボロスが呪いの塊であるという事は、当然イモコは知らない。


 だがそれ以上に、この刀がそれに対抗し得る力がある事に喜びを隠せない。



「なんと!! それは素晴らしいでござる。」


「うむ。では試しに使うがよい。まずは、その神刀に込められし呪いを断ち切ってみせよ。」


「御意! しかし、どうやればその力を使えるでござるか?」



 なんとなく流れで、わかりました的に答えたイモコであるが、使えと言われて使えるものではない。

 

 それなので、やり方位は説明してもらおうとする。



「ふむ。お主は百人組手の時、目を瞑り全神経を集中しておったであろう。あれは心眼と呼ぶ技術でな、その状態なら見えるはずだ。」



 そう言われて、イモコは直ぐにピンときた。


 その感覚なら忘れるはずもない。


 自分の命を何度も救ってきた技だ。


 故に、イモコは目を閉じて集中すると心眼状態に入った。



「っ!? 見えたでござる!」



 イモコの心の眼に映るは、黒く禍々しい鎖。


 それこそが、神刀に宿った呪いだとわかる。



「では、斬って見せよ!」


「御意!」



 スサノオにそれを斬るよう言われ、イモコは神刀を空に振る。


 すると、目に見えない何かを斬った感触がした。



「見事なり。では、改めて神刀を確認せよ。」



 イモコは目を開き、再び手にしている刀を確認する。



【神刀マガツカミ(真)】 レアリティ3


 攻撃力155 

 スキル 神気 力+50 素早さ+25



 神刀の能力が変わり、呪いが消えている。

 

 そればかりか、黒いオーラを放っていた神刀が、今では後光がさしたように光り輝いていた。



「呪いが消えたでござる。それに、攻撃力も上がっているでござるよ!」


「ふむ、それがその刀の真の姿よ。だが、その刀はそなたが死ねばまた呪いの刀に戻る。そして、次の者へと渡り継がれていくであろう。」



 なるほど、っとイモコは思う。


 この刀はそうやって幾度も人の手に渡り続け、そして数多の侍達が散った事で現世に戻された。


 だが、今回ばかりは誰の手にも渡らない。


 イモコが生きている限りは……。



「はっ!」



 イモコはその責任の重さを感じ、気合の入った返事をすると、スサノオは深く頷いた。



「願わくば……そなたが長くその刀を振るう事を期待する。他に質問はないな?」



 スサノオが話を打ち切ろうとするも、イモコは一つだけ気がかりな事を確認する。


 それは……時間だ。



「はっ! 一つだけよろしいでござるか?」


「何だ? 申してみよ?」


「某がここにきて、どれ程の時が経ったか知りたいでござる。」


「そんな事か。そうよのう、そなたの魂が回復するまで大分時を必要とした故……三日というところであるな。」



 三日と聞いて安心したイモコ。


 まだ外でサクセス達が待っているかはわからないが、それでも3日位なら追いつく事が可能だ。



「そうでござるか。わかったでござる!」


「ではもうよいな? 元の場所へ戻すぞ?」


「はっ! お願いするでござる。」


「では行け! 無事、そなたがウロボロスを滅ぼす事を期待しておる。さらばじゃ!」



 その言葉と同時にイモコの視界が変わった。


 目の前に映るは、ここに来た時に見た大きな赤い鳥居。


 どうやら、無事に元の場所へ戻れたようだ。



「イモコ!!」



 すると、後ろから自分を呼ぶ声が聞こえる。


 振り向くと、そこにはサクセスが立っていた。


 サクセスは突然現れたイモコに驚いたようである。



「師匠!? 待っていてくれたでござるか!?」


「あぁ。よかった! 本当に良かった! 無事だったんだな!」



 イモコの帰還に安心し、喜んだサクセスはその肩を抱いた。


 その様子を見て、イモコは思い出す。


 自分が勝手に進んで試練の間に飛んでしまった事を。


 考えて見れば、サクセス達からすればあれは相当焦ったはずだ。


 それを思うと、申し訳ない気持ちで一杯になった。



「心配させてしまい、申し訳ないでござる。」


「いや、お前が無事ならそれでいい。それで、試練はどうだったんだ?」



 イモコは頭を下げて謝罪するも、サクセスは嬉しそうに笑っている。


 それを見て、なぜか心が温まるイモコ。


 自分を信じて待っていてくれたこと。


 そして、自分の無事を知って喜んでくれる師匠を見て、感極まる思いだ。



「はっ! 無事、転職できたでござるよ!」


「そうか……やったなイモコ! 流石俺の一番弟子だ! よく頑張ったな、イモコ!」



 転職できたと聞いて、更に喜ぶサクセス。


 それを見て、イモコも嬉しくなる。



「師匠達のおかげでござる。某一人では無理だったでござるよ。これからもよろしくお願いしたいでござる!」


「あぁ、もちろんだ。じゃあ、みんなのところに行こう! あっちに野営地があって、そこにみんないる。」


「御意」



 少しだけ目に涙を浮かべるイモコ。


 時間こそ短かったが、イモコにとって試練の間では壮絶な時を過ごした。


 そして無事乗り越えた事、そして戻って来れた事、更には仲間が温かく待ってくれた事。


 そういった思いが、一滴の涙となってその頬をつたう。


 だが、直ぐにイモコはそれを拭いとった。


 イモコの戦いは終わっていない。

 

 むしろこれからが始まり……。



 こうしてイモコの壮絶な試練は幕を閉じたのであった。



 

 おつかれさん、イモコ。

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