第103話 真の姿

「ハンゾウ!? なぜ妾に触れられるでありんすぇ?」



 突然の事に驚く妲己であったが、驚いたのは妲己だけではない。

 カリーもまたその目を疑う。

 敵に操られていたはずのハンゾウが、妲己の背中に抱き着いている光景に。



(どういうことだ、これは? イモコは?)



 ふと視線を広間に向けると、イモコは無事のようで妲己の方を見上げていた。

 未だに状況は理解できないが、一つだけ重要な事がわかる。



ーーハンゾウは妲己に触れている



 つまりそれは、妲己に触れる方法があるという事だ。


 妲己の動揺を見ても、それが演技の類という訳ではなさそうである。

 それであれば、何か妲己を倒せる方法が見つかるかもしれない。

 そう思ったカリーは妲己とハンゾウの動きに注視した。



「お主のこの術を破る為、僕チンはやっと手に入れたでごじゃるよ。この封魔の札を。」



 ハンゾウの口からハッキリと告げられた妲己に対する敵意の言葉。

 それを聞いた事でカリーは、ハンゾウが既に操られてはいないとわかった。

 多分イモコがハンゾウを元に戻したのであろう。



「離れるでありんす! 虫けら風情が!」



 そこまでわかったところで、再び妲己が忌々しそうに体を振りながら叫んだ。


 必死にハンゾウを振り払おうとする妲己の顔は、さっきまで浮かべていた余裕が消えている。

 


ーーーそして



「さよなら……イモさん」



 その言葉と同時にハンゾウは爆発した。



「ハンゾウぅぅぅぅぅーー!」



 遠くからイモコの叫び声が聞こえる。


 しかしカリーはそれに振り返る事なく、妲己がいた場所から視線を外さない。

 そしてしばらくして爆風が消えていくと、そこには服をぼろぼろにされ、怒りに満ちた表情の妲己がいた。



「おのれ、おのれ、おのれ!! 虫けらの分際でよくも妾のお気に入りの服を……!」



 怒り狂った妲己を他所に、イモコから動く気配を感じた。


 イモコが何をしようとしているかはわからないが、それでもカリーにはやるべきことがわかっている。



「おいおい、さっきまでの余裕はどうしたよ、絶世の美女さん?」



 ニヤニヤと笑みを浮かべながら、からかうような口調で挑発するカリー。


 そしてその言葉を受け、妲己は怒りに満ちた表情を隠すことなくカリーを睨みつけた。



「妾に向かって舐めた口をきくなでありん……す?」



(どうやら上手くいったな)



 簡単に挑発に引っかかった妲己を見て、カリーは内心で喜ぶもそれを表には出さない。

 そして次の瞬間、妲己の体が真っ二つになった。


 イモコが妲己を斬ったのである。



「地獄で後悔するでござる。腐れ外道。」



 イモコはその言葉と同時に黙祷をした。


 それは倒した妲己に対してではない。

 自らの命と引き換えに、妲己の無敵の防御を破ったハンゾウに向けてだった。


 それと同時にカリーも安堵する。



 これで後は溢れ出てきた魔物を倒し、サクセス達と合流するだけ。

 それさえ終われば、今度こそ邪魔される事なく封印を施せる。



 そう油断した次の瞬間、突然真っ二つになった妲己の体が空中で静止すると、真っ黒な液体が二つになった身体を繋げ始めた。




 っ!?



「イモコ! まだだ! まだ何かある! 同時に行くぞ!」


「御意!」



 このパターンは見飽きている。

 間違いなく妲己を復活させるものだ。



 直ぐにカリーは、妲己が復活できないくらいに斬り刻もうと行動に移す。



ーーだが、その攻撃は黒い液体によって弾き返された。



「なんだこれは? イモコ、そっちは?」


「ダメでござる! 攻撃が通らないでござるよ!」



 それでも諦めずに二人は攻撃を続けるが、残念な事に妲己の体は繋がってしまった。



「これでは何のためにハンゾウが……」



 完全に体が繋がった妲己を見て、ギリッと悔しそうに歯を噛み締める。

 カリーはそんなイモコを叱咤すると同時に妲己を見ると、その目を疑ってしまった。



「そんな事言っている場合かイモコ! よく見ろ、あいつは弱ってい……る? 誰だあいつ?」



 そこにいたのは、さっきまでの絶世の美女ではない。


 いたのは、



ーーー道化姿の気持ち悪い男だった。

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