第104話 四聖獣
【シルク側の視点】
※時は少しだけ遡る
「これはちょっと厳しいでがんす。後退しようにも……あっちはイモコとハンゾウが……。」
シルクは悩んでいた。
目の前には、おびただしい程の数の魔獣達。
後方では駆け付けてくれるはずだったイモコとハンゾウの戦闘。
そして自分の後ろには、戦力的に厳しい面子。
早いところこの場を抜け出し、下に落ちたサクセス達と合流するべきなのはわかっているが、どう考えても自分一人だけでは迫りくる魔獣を倒す事は不可能だった。
別にシルクの攻撃力が弱いという訳ではない。
むしろこの世界の基準で見れば、攻撃力だけをとってみても最上位と言えよう。
実際シルクは、かつて戦場において一人で無双していたのだから、その強さは言わずもがなだ。
だがしかし、此処では違う。
サクセス達が強すぎる故に、この火山に入ってから現れた魔獣が雑魚に思えるが、実際にはそんな事はない。
ここに出現する魔獣達は例え一匹であっても、高レベルのパーティが相手にするほどに強い。
それでもシルクであれば4,5体相手なら余裕で倒せるだろう。
その位シルクの戦闘力は高い。
しかし、仲間を守りながら何十匹を相手にするというのは当然無理だった。
しかも魔獣は後ろからどんどん溢れ出てきている。
目に見える魔獣だけで終わりならば可能性はあるが、それを見ればそんな期待はできそうになかった。
そんな絶望的な状況に、セイメイがシルクに声を掛ける。
「シルク殿。少しだけお時間を稼いでいただけませんか?」
「何か作戦があるでがんすか?」
「はい。こんな事もあろうかと思いまして、秘策を準備しております。しかしそれには時間が必要。シルク殿に負担を掛けるの申し訳ないのですが、しばらくの間敵を近づけないで頂けると助かります。」
どうやら今回の火山進行に向けて、セイメイも色々と準備をしていたらしい。
そのセイメイが秘策というのだから、多分この状況を覆せるだけの可能性はあるのだろう。
故に、シルクの答えは決まっていた。
「負担も何もないでがんす。何か方法があるならそれにかけるでがんすよ。ロゼ、セイメイから卑弥呼様を」
シルクに言われたロゼは、直ぐにセイメイがおぶっていた卑弥呼を抱きかかえる。
「わかりました。卑弥呼様は私が守ります。」
「それではよろしくお願いします。」
「わかったでがんす。では、俺っちはあいつらを前線で引き付けるでがんす!」
【ヘイトアトラクション】
シルクは入り口に向かって駆けだすと、早速敵の視線を自分に釘付けにした。
それにより次々に襲い掛かる魔獣達。
ファイヤーガルムを筆頭に、前線にいた十匹程度の魔獣がシルクに噛みつこうと接近する。
【シールドバッシュ】
しかしシルクはそれらを盾で弾き飛ばすと、今度は横薙ぎに大鉾を振るった!
【疾風かまいたち】
振り払った鉾から発生する真空の刃が敵を斬り刻む。
これにより、数匹のファイヤーマンやファイヤーガルムを塵に変えるが……それだけに過ぎない。
「やはり数が多いでがんすな。少しづつ削って前線を維持するでがんすよ。」
一方セイメイは、懐から赤、青、緑、黄色の宝石を取り出すと、それを開いた巻物の上に乗せていた。
「臨、兵、闘、者、皆、陣、列、在、前……荒ぶる神々の使徒たる聖獣達よ。今こそ、我に力を貸したまえ……そしてその姿を顕現せよ! 四聖獣召喚!」
セイメイの呪文に反応した四色の宝石たちは、一斉に光り輝くと砕け散る。
しばらくすると、セイメイの周りに四色の光が現れた。
「……綺麗」
その光景に、ロゼはピンチにもかかわらず目を奪われた。
キラキラと輝く四つの光は場違いな程に幻想的であり、それは次第に大きくなって消える。
そして気が付けば、その光は実体を持ち始め、その姿を獣の姿へと変えていった。
それこそが、セイメイの秘策である邪魔大国に伝わる四聖獣の姿である。
赤き炎を纏いし、巨大な鳥……朱雀
凍るように白く輝く体の虎……白虎
蒼き鱗を輝かせる巨大な龍……青龍
巨大な甲羅を背負いし大亀……玄武
セイメイは顕現した四聖獣に対し、敬意を込めて一礼すると……命令した。
「敵はあちらです。どうか魔の軍勢を討ち滅ぼして下さい!」
その言葉と同時に、四聖獣たちは一気に入口に向かって移動を開始する。
その巨大な気配に気づいたシルクは、その状況に目を大きく開いて驚くと、セイメイ達の下へ後退する。
「あれは……まさか噂に聞く四聖獣でがんすか?」
セイメイのところまで戻ったシルクは尋ねた。
「はい。長くは持ちませんが、これである程度対抗できるはずです。しかし、如何に四聖獣様達でも溢れ出てくる全ての魔獣を蹴散らすことは無理でしょう。数が減ったら、その隙に離脱してください。」
「わかったでがんす。それにしても凄まじいでがんすな……全部倒してしまうかもしれないでがんすよ?」
シルクは自分達の代わりに戦う四聖獣を見て呟いた。
上空では朱雀と青龍が入り口から飛び立つ飛翔系の魔獣を一匹残らず屠っていく。
通路の上では、白虎が敵に猛突撃を繰り返しながら魔獣を噛み殺し、白虎から抜けてきた魔獣は、通路に塞がる巨大な玄武に踏みつぶされる。
刻一刻と魔獣は四聖獣によって駆逐されていく。
だが、それでも溢れ出るように現れる魔獣の数は中々減らなかった。
するとセイメイは顔を歪めながら苦しそうに口を開く。
「私の魔力では五分が限界でございます。時間さえあれば可能でしょうが……」
四聖獣の力は絶大である。
故にそれを召喚するセイメイへの負担も半端ない。
セイメイは五分といったが、それはセイメイの命全てを投げ出して召喚できる時間。
実際には三分……いや四分が限界であった。
「セイメイさん、私の魔力も使って下さい。」
ロゼはその手をセイメイが触れている巻物に伸ばす。
「やめなさい!」
それを見てセイメイは強く叫んだ。
しかし、ロゼはその手を巻物から離さない。
「いいえ、やめません! 私も戦います!」
巻物に触れた瞬間、強烈な痛みがロゼを襲う。
しかし、ロゼはその言葉を拒んだ。
その目には絶対に巻物から手を離さないという強い意思が宿っている。
「あなたまで犠牲になる事はありません。あなたは卑弥呼様を守るのです。」
「わかってます。卑弥呼様も守りますし……セイメイさんも死なせはしません!」
ロゼは巻物に触れた瞬間に気付いていた。
セイメイが言った五分というのは、自分の命を犠牲にした時間であると。
そして自分の魔力程度では、そこまで力にはなれない事にも。
それでも自分が巻物に触れてさえいれば、セイメイの事だから自分が死ぬ前にセイメイが召喚を解く事を期待したのである。
「セイメイ、ロゼ……。大丈夫だ、俺っちがお前たちを絶対に守るでがんす。だから三分。三分したら、召喚を解除してこっちに走ってきてくれでがんす。その間に四聖獣と共に道を作るでがすよ!」
二人の覚悟を受け取ったシルクは、再び入口に向けて駆け出すのであった。
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