第54話 サクセス vs ゲロゲロ ②

 くそ、やっぱり手札がないと、辛いな。



 改めて自分の能力が如何にステータス頼りだったのかがわかる。

 俺は、カリーやイモコのように攻撃パターンが多くない。

 つまり戦術の幅がないのだ。

 それがわかっただけでも、この死闘に意味はあった。



 何かないか?

 何でもいい。

 ゲロゲロを地上に落とす方法は……。



 装備に意識を集中し、自分の持っているスキルを確認する。

 そこであるものに気付いた。



 【疾風】



 これはまだ一度も使ったことがないスキル。

 名前の通り、加速スキルだ。



 しかし、今更速度を上げても上空にいるんじゃ……。

 いや、待てよ!

 これは使えるかもしれない!



 俺の中で一つ戦術が浮かんだ時だった。

 ふと、上空を見上げるとゲロゲロが空中で止まっている。

 


 なんだ?

 何をするつもりだ!?

 


 するとゲロゲロの両方の爪から何かがバチバチと音をたて始め、そして上空に大きな球体が現れた。



 【ホーリークラッシャー】



 なんだあれ?

 なんちゅうやばい技を放とうとしてるんだよ。



 ゲロゲロは、その如何にもヤバそうな球体を俺に向かって放つ。



 嘘だろ!!

 あれ絶対避けれないだろ!!



 その球体は想像よりも大きい。

 技の形状から、多分爆発するやつだ。

 避けたところで、多分俺はくらう。

 しかも破壊力はブレスの比ではないだろう。



 だが……これはチャンスだ!

 ちょっと予定と違うが、やるか!!



 【疾風】



 そのスキルを使った瞬間、俺は、襲い掛かってくる巨大な鉄球のような玉に突っ込んで行った。

 【疾風】のスキルは、瞬間的に加速するスキルであり、俺の元の素早さからすれば瞬間移動に近い程の速度で移動できる。



 一瞬で玉に近づいた俺だが、使ったスキルは【疾風】だけではない。

 ディバインチャージを剣に覆ったのだ。

 覆っただけで、放ってはいない。

 ようは、溜めた状態である。



 剣先にディバインチャージを集めると、そこが玉にぶつかり、そして貫く。




 ドーーーン!




 中心をディバインチャージによって貫かれたホーリークラッシャーは、その場で大爆発をするが、俺は【疾風】を使ったことで、その余波が来る前に急上昇し、爆発からは免れた。



 ズバッ!!



 そして、ゲロゲロの翼を貫く。



 ゲロロオォォォォォ!



 あまりの激痛にゲロゲロが叫んだ。

 翼を貫かれたゲロゲロは、飛ぶことができずに地面に落下していく。



 だが、まだ終わりじゃない!



 俺は空中で盾を捨てると、その盾を蹴り飛ばし、落下していくゲロゲロに向かって突っ込んだ。



 【疾風】



 盾を足場にしたことで、もう一度【疾風】を使う。

 それにより、空中から高速度でゲロゲロに突撃をした。


 ゲロゲロは気づいていない。

 いや、俺が速過ぎて知覚できないのだ。



 そして俺は、穴が開いていないもう一つの翼に剣を突き刺し、



 【ライトブレイク】



 を放つ。



 その瞬間、ゲロゲロの翼は木端微塵に吹き飛び、本体の方にもかなりダメージが入ったようだ。



 両翼が無くなり、大ダメージを食らったゲロゲロはそのまま地面に落下し、俺も同じ場所に落ちる。



 ドン!!



 ゲロゲロが砂浜に衝突した瞬間、俺は剣をゲロゲロの首にあてた。




「終わりだ、ゲロゲロ。」



 ゲロ(参りました。)



 やっと二人の死闘が終わる。

 なんとか勝つことができた。

 だが、学ぶべきものが多い。


 やはりこのままじゃだめだな。

 この際、カリーとイモコに攻撃スキルを教えてもらうのもありかもしれないな。



「サクセスさん!! ゲロちゃん! 大丈夫ですか!!」



 遠くからシロマが走り寄ってくる。



 あ!!

 しまった! 

 ゲロゲロ大丈夫か!!



 やばい……ゲロゲロがやばい……。

 死んでしまう!!



 気付いた時、ゲロゲロは俺が思っていた以上に全身ボロボロだった。

 体の至る所から出血しており、今にも命が尽きそうな勢いである。



【リバースヒール】



 俺が焦っていると、駆け付けたシロマが俺の知らない魔法を唱えた。

 

 すると、ゲロゲロの体がさっき見たリングの穴の様に、一気に回復していく。

 そして全身の傷が消えていくと……元の小さなゲロゲロに戻った。


 体に傷はない。



--が、目は閉じている。



「シロマ! ゲロゲロは大丈夫か? 治ったのか!?」



 俺がかなり焦った様子でシロマに詰め寄ると、シロマは額の汗を手で拭いて答える。



「はい、危なかったですが間に合いました。二人とも本気でやり過ぎです!!」



 シロマが怒っている。

 まぁ、それも当然か。

 今回は、まじでやるかやられるかの戦い。


 見てる方はかなり冷や冷や……どころではないか。



 ゲロォ(もう食べれないよ……)



 その時、ゲロゲロが突然寝言を呟いた。

 どうやら本当に回復したようである。

 疲れて眠ってしまったのかな?

 それとも、寝ていた時間軸に戻ったのか?



 まぁでも、そんな事はどうでもいい。

 本気でぶつかってくれたゲロゲロとシロマに感謝だ。



「ごめん、シロマ。そしてありがとう。シロマは本当に強くなったね。」


「ごまかさないでください! もうこんな事は絶対やめてください。お互いもう少し……。」



 誤魔化したつもりはないのだが、俺とゲロゲロの為を思って怒るシロマがとても愛おしい。

 故に、その言葉の続きを、俺の唇で塞いで言わせなかった。

 そしてシロマを抱きしめる。



「心配かけてごめん。もうしない、約束する。愛してるよ、シロマ。」



 シロマの唇から俺の唇を離すと、今の気持ちを正直に伝えた。

 すると、シロマは下を俯きながら……



「わかって……くれるなら、いいです……。私も愛してます。」



 とだけ言い、自分の唇に指を当てるのであった。

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