第52話 ちびうさ

「ん、ん? え!?」



 ガバッ!!



「起きましたね、安心して下さい。いくら泥棒でも取って食べたりしませんから。」


 

シロマは、目が覚めて飛び起きた泥棒幼女に優しく話しかける。



「誰? あたちをどうするき!?」



 幼女は、フードを外すとその素顔が露わになる。


 ボサボサの金髪に、気の強そうな……というか生意気そうな目。



 ん~、誰かに似てるな。

 誰だろ?



「あぁ、うん。とりあえず泥棒が悪い事ってわかってるよな? お前は泥棒した後、俺たちに捕まったんだわ。ここまではわかるか?」


「知らない! あたちじゃないもん!」



 う~ん、幼女ってどうやって接すればいいんだ……。



「ふむ、じゃあ君が持っていたこの財布は、何かな? これはそこにいるお姉さんが盗まれた物なんだが。」



 俺は幼女にリーチュンの財布を見せる。

 すると、その幼女はソワソワして慌て始めた。



「それは……拾ったの! 返そうと思ったの!」



 どうする?

 脅すか?

 いや、相手は幼女だぞ?


 うわぁ……もう、俺には無理!

 誰か、誰かバトンタッチを!



 俺が困っていると、盗まれた当事者であるリーチュンがその子に近寄った。



「そっか、拾ってくれたならありがとうね。じゃあお礼がしたいから名前を教えて欲しいな。アタイはリーチュンよ。」


「あたちは、ちびうさ!」


「そっかぁ、ちびうさちゃんって言うんだ。ちびうさちゃんは何歳なのかなぁ?」


「わかんない!」


「どうしてぇ?」


「あたちのママは、ずっと昔にいなくなったし、パパはあたちの事嫌いだから。だからわかんない!」


「それじゃあパパと住んでるのかな?」



 ちびうさは何も言わず横に首を振る。



「パパはどこにいるのかな?」


「お城の下!」



 ちびうさの言葉に、全員が顔を見合わす。

 子供とは言え、誰一人として、言ってる事がわからなかった。



「お城の下?」


「じゃあ今誰と暮らしてるのかな?」


「一人!」



 ……。



 リーチュンは、黙り込むと涙を流しながらちびうさを抱きしめた。



 ギュッ!!



「やめるでち! はなすでち!」


「やだ! 離さない! だって、こんな小さいのに、こんな細くなって……可哀想よ!」



 リーチュンは、そのまま話を聞くのをやめてしまい、ひたすら泣きながらちびうさを抱きしめていた。



 リーチュンが思いの外上手く聞き出してくれたはいいけど、重要な事がサッパリ分からんな。



 お城の下……お城の下ねぇ……。

 そういや、俺もお城の下で公務員……!?

 お城の下って牢屋か!


 つまり母親は理由がわからないけど消えた。

 父親は牢屋……。


 何かが繋がった気がする。

 でも重要な事が足りない。

 なんだ?

 わからないなら聞くしかないか。



 ちびうさは未だにリーチュンの強い力に縛られながら、もがいている。



「リーチュン、ちょっと離してくれ。その子に聞きたい事がある。」


「……。」


「リーチュン、頼む離してくれ。」


「嫌……。この子は悪くないの! 怒らないで。」


「わかってる、怒らない。約束する。だから離してくれ。」


「……わかったわ。」



 やっとちびうさは、リーチュンから解放された。



「ちびうさちゃん、一つ教えてくれないか? お父さんがお城の下に行ったのと、最後にあった日は同じかい?」



 ちびうさは顔を横に振る。



「じゃあ最近、お父さんに会ったかい?」



 今度は縦に振った。

 なるほど、でも、ならどこで?

 牢屋じゃ会えないはずだ。

 ますます意味がわからないぞ。


 仕方ない。

 根気よく聞くしかないか。



「お父さんと会ったところはわかる?」


「闘技場!」


「闘技場……ね。なんでお父さんに嫌われてると思ったの?」


「だってね、パパはね、もう来るなって言うの。でもパパに会いたいから、お金が必要で……。」


「……そうか。」



 なんとなくわかった気がする。


 ここからは想像だが、まずこの子は生きるために常習的に泥棒を繰り返している。

 そしてその理由は、父親に会うため。


 一体どれくらいこんなことを続けて来たのだろうか。

 それを考えるだけで悲しくなってくる。

 自分の年齢がわからないってのはそういう事だ。


 そして、父親が牢にいる理由も、闘技場に行かされている理由もわからない。


 だが、これは後で調べればわかるかもな。



 とりあえずこの子は保護する。

 そして原因の調査だ。


 マネア、俺は助けることに決めたぞ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る