第33話 王都エルバトルへようこそ!

「王都エルバトルへようこそ! 同胞と人族の皆様!」


 

 エルフの門番達は俺達を見て、盛大に歓迎の声を上げた。


 そう。俺達は先ほどようやく王都エルバトルに到着したのだが、ここエルバトルは以前立ち寄ったエルフの村と同じく大樹の上に存在する。


 前回より一際大きな大樹の下でイーゼが呪文を唱えると、大樹に大きな扉が現れ、その扉が開いた先には複数の門番が立ち並んでいた。


 イーゼの話を聞く限り、エルフは人間という種族に対して嫌悪の情を持っていると思っていた俺は、正直、門番を見た瞬間に肝を冷やす。


 もしかしたら通行証等を求められたり、または、ここに来た理由の有無を問わずに拘束しようとしてくるのではと身構えたが、俺達を目にした門番達の第一声がさっきのあれだ。


 

 まさかの歓迎に驚くと同時に肩の力が抜けた。



「こ、こんにちは。あの……この先の階段を上がってもいいでしょうか?」



 少しだけ困惑の表情を浮かべながらも俺は確認する。



「もちろんだとも! さぁ、王都エルバトルを存分に楽しむといい!」



 どうやら問題ないようだ。


 イーゼが特に何も言わなかったのはこういう事だったのか。


 あの伝承はやはり王族のみに伝わるもののようで一般市民には関係ないらしい。


 むしろエルフは、他種族に対しても寛容かつ友好的だとすら感じる。


 だがそれはともかくとして、自分で言うのあれだが突然来訪した不審者の集団をこんな簡単にエルフの王都に入れていいのだろうか?


 何の為の門番なのかと少しだけ王都の警備体制に不安を覚えるも、入れてくれるというなら余計な事を口にすべきじゃない。


 そんなわけで俺達は巨大な螺旋階段を上がっていき、巨大な扉の前に立った。



「この扉の先が王都か」


「はい。ここは人族の王都に負けないほど華やかな街でございます」


「それは楽しみだな」



 前回立ち寄ったのは村らしい村であったが、ここは一体どんなところなのだろうか? 


 そんな好奇心を胸にイーゼが呪文を唱え終わると、木製ではあるが巨大で重厚な扉が鈍い音を立てながらゆっくりと開いていく。


 俺は少しづつ開く扉を前にドキドキしながらその見えてくる王都の景色に目を凝らすと……



「すっげぇ……」



 王都を目にした俺の第一声はそんなしょうもない一言だった。


 でも人が本当に感心した時に出る言葉なんてそんなもんだとも思う。


 それはともかくとして、先ず門を開けて最初に目がいったのは、遠くに聳え立つ巨大な塔だ。


 遠目からなのでよくわからないが、あれほど巨大な建造物であれば多分あれが王城なのだろう。


 確かにあれは空からではわからないな。


 なんせ超巨大な大樹そのものが城となっているのだから。


  続けて肝心の街並みについてだが、これはなんというか……うん、街だな。


 扉の先には綺麗な木目調の道が伸びており、その道を挟んで無数の家屋が建ち並んでいる。


 どの家屋も間違いなく全て木製と思われる作りなんだが、そのどれもが同じ作りではなく個性を際立たせていた。


 一言で言うならば、華やか、という言葉に尽きる。


 そして何よりも俺が驚いたのは、行き交う多くの人だ。


 扉を出たばかりだというのに、そこは冒険者の集まったマーダ神殿の街並みに多くのエルフ等が歩いている。


 だが俺が驚いたのは人口の多さだけではない。


 そこらかしこを歩いているのがエルフだけではないということだ。


 エルフ等と表現したのは正に言葉の通りであり、歩く人並みの中には二足歩行の大きな猫や、うさ耳をつけた人間っぽい者もいる。


 あんなのは見た事がない。


 あれはもしかしたら昔おじさんが昔話してくれた、コスプレというやつだろうか?



「ねぇねぇ、サクセス! あれ見てよ! めっちゃ可愛い!!」


「ちょっ! リーチュン! 指差すなって!」



 案の定、モフモフ好きのリーチュンは猫型の人を指差して興奮している。


 気持ちはわかるがここでは俺達の方が外様であり、そういう不躾な行動は控えて欲しい。


 と思いながらも、俺も気になってしまい目で追っていると、イーゼがそっと俺の疑問に答える。



「あれはキャッピーという種族ですわ。」



 どうやらあの人達はキャッピーという種族らしい。


 人間の街では見たことも聞いたこともない種族だが、ここでは普通なのだろうか?



「キャッピー? あの二足歩行の猫さんの事だよな?」


「はい。このエルフの森では独自に進化した種族も多く、ここではそういった者達も差別なく一緒に暮らしているのですわ」



 まじか。エルフの国に来て一番驚いたかもしれん。


 この世界に存在するのは、人と魔族とエルフだけかと思っていたのだがそうではないことを初めて知った。


 もしかしたら文献とかを調べれば色んな種族が載っているのかもしれないが、そんなものを農家の三男だった俺が知る由もない。


 シロマだったら知っているのかな? と思い、振り返ってシロマの方を見てみると、だらしなく口を開いたまま固まっていた。



 どうやらシロマも知らなかったみたい。



「なぁ、イーゼ。エルフ以外の種族を人の街で見た事がないけど、もしかして……」


「はい。人という種族は偏見が強く、そして傲慢です。エルフはギリギリ許容されていますが、あのように獣の姿が強く残った者達は人族の街では迫害されるでしょう。もしくは見世物にでもされるのが落ちですわ。その為、あの方達はエルフの大陸を出ることはありませんわ」


「なるほど。確かにそうかもしれないな。でも、なら何でそんな人族である俺達を門番は歓迎してくれたんだ? 俺達が悪い奴ならば、ああいった別種族の者を拉致したりすることだってあるんじゃないか?」



 ここに来て、やはり最初に感じた違和感を思い出す。


 伝承はともかくして、人がこんなに簡単にエルフの王都に入れるのはおかしい。


 実際にはイーゼの呪文やユニコーンがあってこそではあるが……。



「その答えは簡単ですわ。なぜならば、王都に足を踏み入れた者は二度とここから出ることができないからですわ。だからこそ、門番は歓迎したのですわね」



 は? なんじゃそりゃ!?



 今更ながらそんな説明を聞き、驚くを通り越して呆気に取られてしまった。


 

ーーすると



「ちょっとちょっと! イーゼ! それどういうことよ! なんでそんな大事なこと教えないのよ!」



 話を聞いていたリーチュンがイーゼに詰め寄るが、俺も全くの同意見だ。


 どういう理由があってそんな大事な事を説明しなかったのか、最低でもそれは知りたい。



「落ち着いてください、リーチュン。イーゼさんの事ですから、多分問題ないということなのでしょう。」


「その通りですわ。今のは通常なら……という話ですわ。女王の許可が下りた場合は誰でも出国は可能ですし、昔のわたくしのように抜け道を使って出ることも可能ですわ。ちなみに今回は女王と謁見する予定ですので、出るときは許可を得てでるつもりでしてよ」



 良かった。


 まさかここに来てイーゼがやばい事でも考えているのでは、と少しだけ疑ってしまったが杞憂のようだ。


 まぁ実際ゴールドオーブさえ手に入れば、ここからゲロゲロが飛び立てばいいだけだし。


 とはいえそれをすれば、今後二度とこの街に来ることはできなくなりそうなので、許可をもらえるならそれにこしたことはないけどね。


 だがそこで、再び今の説明で疑問がわく。



「ん? じゃあ悪い人間がいた場合、どうにか抜け道を見つければ出られるということか?」


「そうですわ。しかしながらわたくしの場合は特別でしたので、通常抜け道から出るなんて不可能ですわ。仮に出られたとしても、ユニコーンなしで人間がエルフの森を出るのは自殺行為。」


「んじゃ、悪いエルフがいたら?」


「それは絶対不可能とは言えないですが、ありえないですわ。エルフは人間と違って金や贅沢に執着しない性質ですので、他種族を売り払って人間の国で暮らすなんてのは論外。あるとすれば、わたくしのように強き子種を求めて森を出る者くらいですわ。人の大陸にいるエルフの全てがそうであるように」



 なるほど。そう聞くと人間ってどうしようもない生き物に感じるのは俺だけだろうか。


 俺だって今でこそ世界を救うためという目的で旅をしているが、もしも何不自由なく贅沢に生きていたならば、欲望の赴くままに暮らしていたかもしれない。


 

「なぁサクセス。それよりもいつまでもこんなところで立ち話してないで、宿にでも行かないか? さっきから色んな視線を感じて嫌なんだが」



 カリーに言われて俺も周囲に目を配ると、確かに道行く人が俺達に対して好奇の眼差しを向けている。


 確かにこんなところでいつまでも立ち話してても仕方ないか。



「じゃあイーゼ、とりあえず付いていくから歩きながら話を聞かせてくれ」


「わかりましたわ。ではまずは厩舎付きの宿に向かいましょう」



 そう言ってイーゼは勝手知ったる足取りで街の中を歩んでいく。


 

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